須賀京太郎の麻雀日記   作:ACS

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魔物狩りパート2。

精神的にダメージを与える方針に切り替え初めます、やっぱり雀鬼(白目


三十八頁目

三十八日目 牌に愛された少女

 

 

二本場が開始され、配牌を開く。

 

形自体は悪いけれど、そのムダヅモを組み合わせて行けば聴牌まで行けずとも鳴きを入れる事は出来る、そして一度鳴けば流れが揺れる。

 

鼻歌交じりで牌を切り出す天江を見つつ、役牌をタトゥーに鳴かせてツモをズラしお嬢のツモを俺が食い、天江の牌をお嬢に送れる様に調整、明らかにムッとしているが鳴ける牌は切り出さない。

 

数巡後、天江が聴牌するが元の流れから外れた形の為か形は悪そうだ、それに比べてお嬢様は黙聴で十分な手なのだろう、静かに周りを見ている。

 

別に差し込んで天江の親を流しても良いんだけど、折角なのでその役は天江自身でして貰いたい、なので持ち持ちになっていた東を切り出して天江に鳴かせ、吐き出された不要牌をお嬢に打ち取らせた。

 

断么平和一盃口赤1ドラ2の跳満、自摸ならばともかく放銃は予想外だったのだろう、僅かに腰を浮かせた後に冷や汗を流しながら俺の顔を見た。

 

サングラス越しで分かり辛い俺の表情に薄ら寒い物を感じたのだろう、威風堂々としていた彼女は一転して困惑しながら席に座り直し、首を振った。

 

東2局、親はタトゥーちゃん。

 

今回も天江の流れは良さそうだ、ムダヅモも無いし吐き出される不要牌は鳴く事すら出来ないもの、当然一人聴牌になるだろう。

 

しかし再び俺は鳴きを入れツモ番をヅラして今度はタトゥーちゃんの手に天江のツモを入れさせ、鳴きを入れられたら鳴き返し、再び天江の溢れ牌を狙い撃ちさせた。

 

七対子混老頭混一色、二度目の黙っ跳ねに今度こそ天江は腰を浮かせた。

 

 

『貴様……何をした?』

 

 

二度の放銃が予想外だった、と言うより全力の状態では無放銃だったのだろう、彼女は思わずそう聞いて来た。

 

その問いに無言で答えてやると、ジッと俺の目を睨んで続行しようとしないので『……唯、哭きを入れただけですよ』と返して一本場に入った。

 

二度の放銃、しかも脇二人から刺される形の物だったからか、配牌を開いた瞬間完全に流れを曲げたと確信、だがまだ動かない。

 

今の天江は自身のオカルトが絶対だと信じていた所に亀裂が入った状態だ、流れが変わったにも関わらずそれに逆らおうとすれば失墜する。

 

だから俺は天江が落とした二筒を鳴いて手配の中の三色同順のみで聴牌、嵌二筒待ちで狙うのは天江が切り出した海底牌直前のリーチ宣言牌、その為に再び他二人に鳴かせて天江に海底を回す。

 

彼女は何もせずに自分の海底が回ってきた事に安堵し、そのまま東1局と同じく堂々とした動作でリーチ宣言、切り出したのは二筒、予定通りなので2000点の手で討ちとる。

 

天江は流れを誤認したままだ、流れがまだ自分にあると思い込んだ状態で対局している、その証拠に今の彼女は『仮テンに振るとはな』と言って点棒を支払っている。

 

しかし、この振り込みは安く済んだ訳じゃ無い、流れを完全に断ち、彼女の天運を崩した振り込みだ。

 

 

俺の親、配牌は悪くない手としては対子系の手だが、流れの向きは俺を向いている、ギリギリまで引っ張ればより高い形になる筈だ。

 

その俺の予感はドンピシャで当たり、清老頭四暗刻一筒単騎聴牌、ダマのまま巡目を進め、天江が先ほどの二の舞にならない様に海底の少し前に立直、その際に吐き出された和了牌を見逃してツモった九筒を暗槓、嶺上牌九索を連槓、この時点で天江は目を見開き自分が偽りの流れを見ていた事に気が付いた。

 

三枚目の嶺上牌、九萬を暗槓、続く四枚目の嶺上牌一萬を暗槓、ツモった嶺上牌一索を残し、単騎牌だった一筒を切り出してオープン立直。

 

お嬢様は呆気に取られながら安牌ツモ切り、そして天江の手が海底牌に触った時点でロン。

 

『御無礼、ロンになります』

 

『…………まだ、衣は牌を開いてすらないないぞ? 何故分かる、いやそもそもこの牌は衣の物だ、お前の和了牌では無い!!』

 

『………貴女、背中が煤けていますよ?』

 

『背中が煤けているだと? 火の手が直ぐそこまで来ているとでも言う気か?』

 

『…………親の第一ツモと海底牌は他人には触れられず鳴くことも叶わない天命の牌、即ちその牌の結果こそが貴女の天命です』

 

 

そう言い残し俺は席を立って部屋を退室した、後ろで見ていた桃太郎達やメガネさんが俺を止めようとしたが、天江が零した『そんな……バカな……』と言う声と捲った牌が気になったのか、俺の事は結局止めなかった。

 

 

屋敷を出るまで誰も俺を追わなかったと言う事はつまりはそう言う事だろうな。

 





必ず和了出来る牌だった、自分の支配は確かに効いていた筈だった。

だが、それだったのなら、この結果はなんなのだろうか?

捲られた海底牌は一索、そして衣の待ち牌は全て暗槓によって捲られた新ドラ表示牌に溶けて消えた。


清老頭四暗刻単騎四槓子の四倍役満直撃、しかも自分の物だと思っていた海底牌を使われて、だ。

天命牌、先ほどの言葉が衣の耳に残ってループする、これが貴女の天命だと、敗北こそが貴女に与えられた物だと。


気が付けば噛み締めた衣の唇から血が滴り落ち、涙が頬を伝っていた、自分が井の中の蛙でしかなかった事を思い知らされた故の屈辱。

天江衣はこの日初めて『負けて悔しい』と言う感情を覚えた。

麻雀を打たされていた少女はこの後自ら進んで麻雀を打つようになり、雪辱を誓うのだった。

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