まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。
『鶴陽高校野球部は、「一年間の部活動停止」の処分とする』
「嘘、だろ・・・・ッ!」
学園の掲示板に大きく掲示された紙は、俺たちの 夢 を一瞬で奪った。
-----この日から、俺、鷹野 迅輝《たかの はやき》の人生は大きく変わった。これまで経験したことのない日常が始まるんだ。
この時の俺は、考えても、考え付かないような・・・・・・日常が。
「・・・・・・はぁ」
ソファーに横になったまま、大きなため息を吐く。さっきから、ずっとこの繰り返しだ。
今日、学校でどんな風に過ごしたか、何があったのか・・・・まったく、覚えていない。けど、俺がこうなった理由はわかっている。あの、貼り紙だ。
『鶴陽高校野球部は、「一年間の部活動停止」の処分とする』
あんな紙切れ一つに、俺たちの夢は一瞬で奪われたんだ。
「なんでだよ・・・・ッ!」
このセリフも何度目だろうか。しかし、そう思うのも無理はない。
なぜなら、「一年間の部活動停止」を受ける『理由』がない。
こういった処分は普通、何か事件でも起こしたような部活が受けるものだ。野球部は、別に何もやってない。
強いて言うなら、春の選抜大会で『優勝した』くらいだろうか。毎年、県予選では一回戦敗退の弱小校だったはずなのに・・・・・・。夏の予選でも、一回戦で姿を消した。
しかし、そんな無名の弱小校が、同じ年の秋に行われた秋季大会で『優勝』。春の選抜大会での県代表になった。その時点で、かなりの注目を浴びた。
そして、誰も予想していなかったはずだ。まさか、その春の選抜大会でも『優勝する』なんて・・・・。
『事件』は起こしたが、「一年間の部活動停止」を受けるような『事件』じゃない。
貼り紙には、「一年間の部活動停止」の理由は書かれていなかった。それでも、部活動は『停止』させられた。
俺たちの、『春夏連覇』の夢は奪われた。後に残ったのは、『高校生活最後の夏』。もう、それしか残されていないのだ。それでも、それに向けて練習することもできないんだけどな。
「どうすりゃいいんだよ・・・・」
「ホント、野球奪われたら何も残らないんだな」
「そんな訳ないだろ。野球以外だってやってるし・・・・って、ハヤ姉!」
思わず普通に会話をつなげていたが、急いで振り返る。
そこには、一人の女性が立っていた。
鷹野 迅美《たかの はやみ》、俺の姉だ。歳は俺より七つ上の二十三歳。職業は学校の教師をやっている。独り暮らしをしているから普段、家にはいないはずだ。
「なんでいるんだよ?」
「別に、たまには里帰りもいいだろ。・・・・・・それより、野球部が部活動停止だって?」
「・・・・よく知ってるな」
「情報通だからねぇ~。じゃ、その分『時間が空く』訳だ」
「?」
「実は、頼み事があってね」
「頼みごと?」
ハヤ姉は、「そうそう」といいながら頷いている。いったい何なんだ?
「迅輝《はやき》にしかできない事なんだ」
「俺にしかできない?」
ますます、分からなくなってきた。俺にしかできない事って・・・・?
「実は、『野球部の監督』をやってほしいんだ」
「『野球部の監督』?」
「そう。ウチの学校にも最近、『女子野球部』ができてね・・・・、その顧問にあたしが選ばれたの。でも、あたしは野球なんて全然わからないから迅輝に頼んだほうがいいかなって、だから・・・・」
「断る」
迅美がつらつらと述べていく言葉を中断させる。いきなり、何を言い出すかと思えば『野球部の監督』だ。・・・・冗談じゃない。
「俺は忙しいんだよ。これからは、『プロ』の方に専念するからな・・・・」
「高校生活中は参加しないんじゃなかったの?」
「もう、参加しない『理由』もないしな」
もともと、高校での野球生活のために特別に許して貰っていた事だ。その『野球生活』が当分できないんだから、参加しない訳にもいかない。
「・・・・じゃあ、『臨時コーチ』は?」
「『臨時コーチ』?」
「明日からの『二週間』だけ、『臨時コーチ』になってよ。それから先は迅輝が決めていいから。このまま『臨時コーチ』を続けるか、やめちゃうか。もちろん、『監督』になりたくなったら大歓迎」
迅美は、まるで「いい考えでしょ」とでも言いたげに話を進める。
「それ、俺にメリットあんの?」
「『お気に入りの選手』が見つかるかもよ」
「・・・・・・」
それって、メリットなのか?
「それで、どうする?」
「・・・・・・わかった」
「引き受けてくれるの?」
「いや」
迅美が嬉しそうにこちらを見てきたが、俺は首を横に振った。
「『一週間』だ。その間に『気に入った選手』が見つからなかったら、俺はやめる。こっちも、忙しいんだ」
「なるほど・・・・。わかった。それでいいよ」
「・・・・で、どんなチームなんだ? 経験者はいるのか?」
「いるよ。『一人だけ』」
「『一人だけ』!?」
「そう、『一人だけ』。他の子たちは、体育の授業でやったことあるくらい」
「大丈夫なのか、そのチーム?」
おいおい、いきなり前途多難じゃないだろうな。
「・・・・・・・・待てよ。ハヤ姉の学校って『女子野球部』あっただろ。この前、地区大会で優勝したって。なんで、最近できたんだ?」
「あぁ、それは中等部の話だろ。新しくできたのは、『初等部』の方」
「『初等部』!?」
ってことは、まさか・・・・
「そう、選手はみんな『小学生』。まぁ、がんばってね」
・・・・引き受けるんじゃなかった。
-----現在、2018年。
今、この世界では野球が『超大人気』。どのくらい人気かと云うと、『女子野球部』が存在するくらいだ。小学校から中学校、高校、大学と『女子野球部』は存在する。中でも高校では、『女子野球部の甲子園』があるほどだ。今じゃ、「俺が、甲子園に連れていってやるよ」のほかに「私が、甲子園に連れていってあげる」なんて言葉もある。今はまだ存在しないが、『女性選手のプロ野球団』ができるのも時間の問題だろう。
要するに、現代では男女問わず野球を楽しんでいる。
4月13日の土曜日、午前8時。俺、鷹野 迅輝《たかの はやき》は現在・・・・、とある学園の前にいた。
---私立慧舞学園。通称、「ケイブ」。初等部から中等部、高等部とエスカレーター式の学園だ。ここの『初等部』に、新しく『女子野球部』ができたので、その『臨時コーチ』としてやって来たのだが・・・・。
「君、ちょっと止まりなさい」
警備員さんに捕まりました。
「なるほど。じゃあ、君が鷹野先生が言ってた『臨時コーチ』?」
「はい。そうです」
なんとか、事情を話す事に成功したようだ。
「じゃあ、俺は行きますんで」
「わかった。・・・・・・ん? 君ちょっと待って!」
「?」
おいおい、まだなんかあるのか。こっちは、集合8時だから急がないといけないのに。
「君。もしかして鷹野先生の弟の、鷹野 迅輝君かい?」
「そうですけど・・・・?」
警備員さんが、驚いたような顔をして俺を見ている。
・・・・どうしたんだ?
「感激だよ! まさかあの、≪高校野球史上唯一の完全投手《パーフェクトピッチャー》≫に会えるなんて!」
「は、はぁ・・・・」
「春選抜で奪った三振、120個! すべての試合で失点0、四死球0、被安打0の完全試合達成! 予選敗退常連の弱小校での春選抜優勝など、さまざまな偉業を成し遂げた選手《プレイヤー》! 確か、ドラフト超特別推薦枠で巨人に入団したとか! ・・・・そんな超天才が、どうしてこんな所に?」
「いや! だから俺は、初等部の女子野球部、『臨時コーチ』なんですって!」
「サインとか貰えるかな?」
・・・・全然聞いてない!?
警備員さんが「紙とペンあったかな~」などと言いながらゴソゴソと動き回っている。
「・・・・すいません! 急いでるんで!」
このままだと、完全に遅刻する。『臨時コーチ』が初日で遅刻なんて面目丸潰れだ。
「あ、ちょっと!」
警備員さんの声を、今度は無視して走り出した。
「はぁ~。ここかな、第二グラウンドって・・・・」
走るのを止めて周りを見回す。第一グラウンドは、サッカー部が使っているから野球部は第二グラウンドで練習しているはずだ。
「男子と交代で使ってるって言ってたけど・・・・誰もいないな」
第二グラウンドには、人っ子一人いない。
「まだ準備してるのかな?」
ここで待ってても仕方がないので、とりあえず『女子野球部』の部室に向かった。
「さすが『私立学園』って感じだな・・・・」
目の前に広がる、大きな部室塔。このマンションみたいな部室塔が、すべて運動部のためだけに造られたそうだ。トイレはもちろん、シャワー室にトレーニングルームまで付いている。すぐ隣には浴場付きの宿舎もあるから、手軽に合宿までできるそうだ。
「これが、もう二つあるんだよな」
そう、俺の前に建っているのは『初等部』の部室塔。『中等部』、『高等部』のは、また別に建っている。
「・・・・まぁ、行きますか」
市立、県立に通っていた俺には、次元が違う・・・・
「エレベーターまであるって・・・・次元が違い過ぎるだろ!」
『女子野球部』の部室がある三階までエレベーターで来た俺は今、ある部室の前に立っている。
『女子野球部』と書かれた真新しいプレートがさがっている、部室の前に。
「やっぱり、最初は無難に自己紹介かな?」
どうやって入るべきか考える。何事も、最初が肝心だ。
「よし!」
気合を入れてからドアをノックする。
「どーぞー!」
中から、まだ幼い女の子の声が聞こえた。
「うッ・・・・」
ここに来て決心が鈍る。
だって、このドアを開けたら中には小学生がいるんだぞ。・・・・それも初対面の『女子』。
けど、ここまで来て帰る訳にもいかない。
「えぇい! ままよ!」
叫んだ割には、ゆっくりとドアを開ける。すると・・・・
『お帰りなさいませ ご主人様!!』
・・・・・・そこには、五人の『メイドさん』がいた。
感想など、書いてくれるとうれしいです。