「・・・・で、どうだった?」
「『気になった子』ならいたよ」
「迅輝。もしかしてだけど・・・・」
「?」
「まさか、『ロリ』で始まって『コン』で終わるあれ?」
「違げーーよッ! ってか、もうちょっと言葉濁せよッ!!」
時刻は、夜の八時を回っている。そんな時間にも関わらず、俺の全力ツッコミが虚しく響いた。
俺の前にいるのは、ソファーに座って食後のコーヒーを飲んでいる鷹野 迅美だ。相変わらず、俺をからかうのが好きらしい。
「でもまぁ、『気になった子』がいたんだから『臨時コーチ』は続けるんでしょう?」
「いや、それは『無理』だ」
「どうして?」
「今日の午後、『コーチ』に電話して練習に加えてもらったんだ。その時、「試合に出てみないか?」って言われて・・・・明日の試合に出ることになった。その試合で結果出したら、これから本格的に参加するつもりだ」
「・・・・・・そう」
迅美はそれだけ言うと、持っていたコーヒーの残りを飲み干す。そして、カップをテーブルに置いた。
「でも、あんたは『一週間』って言ったよね。だから、あと二回は練習見てあげるんでしょう」
「あぁ、あと『二回』だけな」
慧舞学園初等部女子野球部の練習日は火木土。今日が土曜日だったので、俺が練習を見るのは残りの火木だけ。
「本当にそれでいいの?」
迅美が、俺の顔をゆっくりと見つめる。まるで、俺の心の中まで覗き込んでいるように。
「俺は、『指導者』って柄じゃないしな」
「・・・・『気になった子』も見捨てるの?」
---湊 智花。
彼女は確かにうまい。守備も十分動けていたし、打撃は・・・・正直、かなり驚いた。
「あの子なら一人で飛べるさ」
野球ができるのは初等部だけじゃない。それに、中等部の女子野球部は強いみたいだし。何も心配することはない。
それに、あの子たちには『あの子たちの野球』がある。それを奪うのはエゴだろう。
「あの子たちが創った部活なんだろ? だったら、あの子たちがどうするか決めるべきだ」
「じゃあ、あの子たちが『臨時コーチ』を望んだら?」
「その時は、『断る』だけだ」
俺にだって、『俺の野球』があるんだから。
---『俺の野球』か・・・・。
野球を始めたのは、小学四年生の夏だ。もともと野球というスポーツに興味はあったが、自分からしようなんて気はなかった。
自分はただ、野球を見ていただけだった。・・・・・・あの時も。
あの時、声をかけられて初めて『野球』というスポーツを自分からやった。近所の子供たちと広場でやった初めての野球は、正直『野球』と呼べるようなものじゃなかった。
人数なんて全員合わせても十人くらいしかいなかったし、ベースの位置もバラバラだった。
---でも、『楽しかった』。
その時出会った、『親友』に誘われて少年野球チームに入った。その後も中学では野球部に入って野球を続けた。もちろん、『親友』と一緒に。
そして今、俺は『あの頃の目標だった場所』に立っている。
『親友』と約束した大舞台、『プロの世界』に・・・・。
東京ドームで行われているナイトゲーム。
セリーグ首位の巨人対二位の阪神戦。
今日の試合では、両チーム共に先発が新人投手だ。「勢いに乗る巨人を阪神の新人が止める」というキャッチフレーズにより、東京ドームは満席。今か今かと試合が始まるのを待っている。
巨人の先発は・・・・・・俺だ。
まだ、高校生だが『ドラフト超特別推薦枠』で入団しているため登板できる。
『ドラフト超特別推薦枠』というのは、年齢に関係なく『才能さえあればプロの世界で活躍できる』というものだ。最近できたものらしいが、実際に使われたのは俺が最初らしい。
『--------!』
・・・・おっと、観客が一際盛り上がってきたな。どうやら試合が始まったようだ。
「じゃあ、始めますか」
先行が阪神のため、守備についているのは巨人軍。
みんな俺より先輩だ。後輩として、かっこ悪いところは見せられない。
---そして俺は、投球モーションに入った。
『--------ッ!!』
観客の声がドーム全体を包む。試合が始まった時も凄かったが、今はドームが揺れそうなほどの大きさだ。
試合は、すでに終わっている。結果は・・・・
0―3 で、巨人の勝利。
一見、普通のスコアだが、『内容』が普通じゃない。なぜなら、
---『完全試合』だからだ。
巨人軍先発の俺は球数84。四死球0。被安打0で、無失点。九回を完投し奪三振は14。
つまり、勝利投手だ。プロ初登板の新人こと、俺、鷹野 迅輝が。・・・・普通じゃない?
あぁ、普通じゃないだろうな。だって、
『プロ初登板の新人が、いきなりの完全試合』。それもセリーグ二位の阪神打線を・・・・。
だから、こんな二つ名をプロ野球業界に付けられた。
ヒーローインタビュー中に記者から告げられた二つ名。『史上最強ルーキー』ともう一つ、
---『絶対の狩人《アブソリュート・ハンター》』。
・・・・・・もっとカッコいいのなかったのかよ。
-交換日記-
『とりあえずにんずうあつめだ! まほまほ』
『そうだね。野球は九人いないとできないし、それに迅輝さんからもっと本格的に教わったほうがいいよ。だって迅輝さんは・・・・ 湊 智花』
『けど、真帆の作戦のせいで鷹野さんドン引きだったじゃない。 紗季』
『う、うるせー! こんどはせいこうさせてやるよ! まほまほ』
『え! またやるの・・・・。もう、やめた方がいいと思うけど・・・・。 あいり』
『それより、にんずうあつめだ! あたしはきなっちをさそってみる! まほまほ』
『おー。ひなもー。 ひなた』
『じゃあ、私はノゾミを誘ってみるわ。 紗季』
『私は・・・・・・、友香《ゆうか》に声をかけてみる。 湊 智花』
『え? ユウはもう、野球辞めたんじゃなかったっけ? 紗季』
『・・・・うん。でも、友香は昔から迅輝さんの大ファンなんだ。・・・・だから、もしかしたら来てくれるかも。 湊 智花』
『もっかん。はっきーってすごいんだろ? きょうもてれびでてたし まほまほ』
『す、すごいよっ! プロの試合は今日が初めてなのに、完全試合しちゃったし。奪三振は14だったんだよっ! 湊 智花』
『素人の私たちにはイマイチよくわからないけど、すごいことなの? その完全試合って。 紗季』
『とってもすごいことだよっ! 簡単にできることじゃないし、すごく難しいんだよ。 湊 智花』
『おー。おにーちゃんはすごい。 ひなた』
『はっきーがりんじこーちなら、なんのしんぱいもないな! あたしたち、すぐつよくなるぞ! まほまほ』
『・・・・でも、まだ一人足りないよ。 あいり』
『・・・・・・とりあえずにんずうあつめだっ! まほまほ』
---プロ初試合があったはずの日曜日もあっという間に過ぎ、翌日となる月曜日の朝。
朝練(ストレッチやランニング等)を終え、自宅に帰ってみると・・・・
「お帰りなさい お兄ちゃん!」
・・・・玄関に『妹』が立ってました。
「---で、何でいるんだよ? 迅理《はやり》」
「あれ、聞いてなかった? 今日から一緒に暮らすんだよ。お兄ちゃん!」
すごく嬉しそうに話しているこの少女は、鷹野 迅理《たかの はやり》。俺の妹だ。
祖父母の実家で暮らしていた妹が、急に自宅の玄関に立っていたので驚いた。
「そんな話、俺は聞いてないぞ」
実際、まったく覚えがない。恐らく、両親が話し忘れていたのだろう。もしくは、ただ俺が聞いてなかっただけかもな・・・・。
「それがね、あたし『推薦』貰ったんだ!」
「・・・・どこの?」
「慧舞学園《けいぶがくえん》」
「---ぶっ!?」
け、慧舞学園だと・・・・ッ!
そこでもう一度、迅理の姿に視線を送る。
これでもかというほど、たっぷりと付いたフリルやレース。ドレスのようなその制服はまるで、『舞踏会』に参加できそうなほどだ。
た、確かに慧舞学園の制服だ。・・・・・・けど、
「お前、まだ『小学生』だろ。---『推薦』ってことは、慧舞学園中等部から貰ったんだろうし、前の学校はどうすんだよ?」
「うーーんとね。中等部から入ってもいいし、初等部からでもいいって言われたの。だから、前の学校から慧舞学園に『転校』したんだ。これからは慧舞学園初等部六年、鷹野 迅理でーーす!」
・・・・ま、マジっすか。
最近の私立って凄いんだな。市立、県立出身の俺なんか、驚いてばかりな気がするぜ・・・・。
「・・・・そういえば、お兄ちゃん。完全試合おめでとう!」
「え? あぁ、ありがとな」
「はい」
「?」
いきなり、迅理が両手を前に出してくる。何かを『欲しがっている』ように。
「な、何だよ?」
「もう! お兄ちゃんの『サインボール』がほしいの!」
「・・・・は?」
さ、『サインボール』ってあれか? 俺のサイン入りボールか?
「・・・・別に、そんなもん必要ないだろ」
「必要だよっ! お兄ちゃんの『サインボール』っ!!」
・・・・何に必要なんですか?
やけに迅理がしつこいので、ここ等で白状するか。あの約束について・・・・
「あー、迅理。俺の『初サイン』はもう、『予約済み』なんだ。すまんが、また今度な」
「え!?」
どうして! と聞かれる前に、俺は二階にある自室に駆け込んだ。
・・・・詳しく説明する気はないんでね。
そして、俺は学校に行く準備を始めた。
---実は、俺はすでに『仮卒扱い』になっているため学校に行かなくてもいい。
『ドラフト超特別推薦枠』でプロ入りを果たした俺は、学校に行く必要がなくなったのだ。
しかし、まだ本格的にはプロに参加していないため学校に通っている。
俺は今日も、ゆっくりと学校に向かう。
そして学校での一日はその逆に、驚くほど早く過ぎていった。
---翌日の火曜日は、学校帰りの午後四時頃に慧舞学園《けいぶがくえん》に向かった。
俺、鷹野 迅輝《たかの はやき》は、慧舞学園初等部女子野球部の『臨時コーチ』なのだから。
警備員さんにあいさつ(いろいろ叫ばれたが無視)し、初等部女子野球部の部室前にたどり着く。
今回は、前回に比べると緊張もなく落ち着いている。
ドアを軽くノックしてから、ゆっくりと開ける。
・・・・・・誰が、予想できただろうか?
『お帰りなさいませ あなた!!』
メイド服を着た、『九人の少女』がそこに立っていたことを・・・・・・。
感想など書いてくれると嬉しいです。
次回、新キャラがちゃんと登場します。