ようやく、中間考査が終わりました。
「チーッス! 慧舞学園初等部六年、望月 黄名子《もちづき きなこ》! よろしくやんねっ!」
「・・・・同じく、松川 希《まつかわ のぞみ》」
この前の五人以外の少女たちが、順に自己紹介していく。
・・・・まあ、みんなメイド服なんだけどな。
「で、あたしの名前は・・・・」
「いや! お前何やってんだよ、迅理ッ!」
そう、続いて自己紹介したのは迅輝の妹の・・・・鷹野 迅理《たかの はやり》だった。
「まさか、お兄ちゃんが『臨時コーチ』やってるなんてね。教えてくれればよかったのに」
「・・・・うっ、それは・・・・」
「初等部に『女子野球部』があるなら、もちろん入っちゃうよ! それに、お兄ちゃんが『臨時コーチ』やってるなら尚更だねっ!」
迅理は嬉しそうに語り続ける。
「どういうことだ?」
とりあえず、事情を知ってそうな『五人』に聞いてみるか。
「はっきー。ちゃんと九人集めたぞっ!」
胸を張って答える真帆。
「これで活動できますね」
メガネを指で押さえている紗季。
「おー。活動開始ー!」
両手を上げて喜ぶひなた。
「・・・・・・っ!」
俺に視線を送られて慌てだす愛莉。
---誰か『説明』お願いします!
そして、最後に『頼みの綱』の智花に視線を送る。
「えっと、迅輝さん! これからよろしくお願いします!」
・・・・うん。予想通りの反応だね!
「そういえば、『もう一人』いたな・・・・」
この場に居たのは、『メイド服を着た九人の少女』。もう一人は、部屋の端に立っていた。
「み、深苗 友香《みなえ ゆうか》です。・・・・よ、よろしくお願いします!」
「・・・・へ?」
その子は、智花に『そっくり』だった。
双子とまではいかないが、よく似た姉妹程度には似ている・・・・。
パッと見で違うとすれば、智花が髪を『左に束ねている』のに対し、髪を『右に束ねている』ことだろう。
あと、友香には『泣きボクロ』がない。
それでも、髪を降ろしたら判断が難しそうだ。
「よ、よろしく」
おいおい。どうなってんだ!
確かに人数は集まったが、タダじゃ済まない気がするぞ! この面子ッ!
---この時、俺の勘は間違っていなかった。
これから始まる『日常』は、俺を容赦なく『振り回す』のだから。
「・・・・じゃあ、練習始めようか」
『はいっ!』
軽いランニングとストレッチを終え、まずはキャッチボールから始める。
「お兄ちゃんは、あたしとやろ!」
「・・・・まぁ、そうなるよな・・・・」
迅理は前の学校でも『野球部』だった。
それはつまり、迅理は『経験者』ってことだが・・・・・・他の選手とは『レベル』が違う。
県大会で準優勝した慧舞学園中等部の女子野球部から『推薦』が来るほどだ。
・・・・実力は十分ある。
「お兄ちゃんとキャッチボールするのって、久しぶりだな~」
「そうだったかな?」
確かに、迅理とキャッチボールするのは久しぶりだ。
兄妹仲良くもいいが、俺は『臨時コーチ』。
チーム全員を見るのが役目だ。
とりあえず、視線を横に向けると、
「・・・・・・え?」
---全員、こっちを見ていた。
「あれ、みんな、キャッチボールは?」
「す、すごい・・・・」
「?」
智花が目をキラキラさせながら呟いた。
「どうやったらそんなに上手くできるんだ!?」
真帆まで目を輝かせている。
「・・・・えっと、何の事?」
ここは、正直に聞こう。考えても分からないんだし。
「二人とも、上手いですね。『キャッチボール』」
紗季がアイガードに触れながら答えてくれた。
あぁ、そのことか・・・・
「迅理は『経験者』・・・・ちょっと違うな。正しくは『現役』かな。前の学校でも野球部だったんだよ。まぁ、迅理はその中でも『上手い方』だけどね」
正確には『かなり』上手い方だが、みんなの手前オブラートに包む。
「はやりん、野球部だったのか!?」
真帆が驚いたように尋ねる。
もう、呼び名考えたんだな。俺はそこに驚いたよ。
「そうだよ~。えへへ」
迅理のヤツ、やけに嬉しそうだな。なんか良いコトでもあったか?
「・・・・そういえば、友香も『経験者』だったよな」
「え! あ、は、はい!」
「守備位置は?」
ちなみに、迅理は『オールラウンド』。どこでも守れる選手だ。主なのは『ショート』だが。
あと、智花も『ショート』。さっきランニング中に聞いた話だと、智花は慧舞学園に『転校』する前『リトル』に入っていたらしい。友香はその時のチームメイトで、その上、一緒の学園に転校してきたそうだ。
「ぴ、ピッチャーです!」
「・・・・別に緊張しなくていいんだけど・・・・」
「!? す、すいません! わ、私、迅輝さんに会えて嬉しくて・・・・つい」
「嬉しい?」
「迅輝さんは、私に『希望』をくれたから・・・・」
「?」
友香は小さく、ほんの小さく微笑んでいた。
何かを『思い出している』かのように・・・・。
「だったら・・・・ちょっと『投げて貰おう』かな・・・・」
『え?』
俺の発言に、みんなは首を傾げている。
「これから『バッティング練習』をするから、友香にはその『ピッチャー』をしてほしいんだ」
「え!?」
友香は驚いているが、俺としてもチームのピッチャー陣の実力は見て置きたい。迅理は知っているから問題ない。
「・・・・駄目かな?」
それでも、本人にはちゃんと確認して置く。無理にさせる気はないのだから。
「い、いえ、大丈夫です」
「よかった。ありがとな、友香」
ホントは俺が投げるべきなんだが、『軟式ボール』はあまり投げられない。
「じゃあ、始めようか」
『はい!』
「まずは、あたしからだ!」
一番にバッターボックスに入ったのは、真帆。
さて、どれほどの実力があるのか・・・・いや、『才能』かな・・・・。
「いくよ、真帆」
そう言いながら、友香が腕を振り上げる。フォームは悪くないな。
「迅輝さん」
「ん?」
隣にいた智花が声を掛けてきた。
どうしたんだ?
「友香は、迅輝さんの『大ファン』なんです」
「・・・・?」
そういえばさっき、それっぽい事を言ってたな。・・・・『希望』をくれたって。
けど、それがどうかしたのか?
しかし、その答えはすぐに解った。
「---え?」
それは、友香の『投球フォーム』。
大きく振りかぶった両腕を、胸の前に持ってくる。そのまま、身体の正面を『センター方向に向ける』。つまり、大きく『ねじる』。そして、
---バンッ!
友香が投げたボールは、ど真ん中のストレート。だが、その球速は『110㌔前後』。
かなり、『速かった』のだ。
しかし、驚いたのはそれだけじゃない。なぜなら、今の友香の『投球フォーム』は・・・・
「・・・・・・俺のフォームじゃねーか・・・・ッ」
そう、俺が投げる時、マウンドに鏡を置けば何度だって見ることのできるフォーム。
実際の所、世間では『トルネード投法』と呼ばれている投げ方だ。他の投げ方に比べ、その独特のホームで投げられるボールは球速が かなり 速くなる。
俺の投法はトルネード投法より、もっと『ねじる』。そのため、球速がもっと上がる訳だ。俺が打者から三振を取れる武器の一つ。それが俺の『回転《レボリューション》投法』から投げられる、『160㌔越え』のストレートだ。春センバツでは、最速は『162㌔』だった。
だが、この投げ方は誰でもできる訳じゃない。それは『並外れたバランス感覚』が必要不可欠だからだ。身体のバランスを崩す、というより『ほぼ不可能』なくらい『ねじる』ため、普通に考えればできるはずがない投げ方。俺以外にできる選手は、今まで出会った事がなかった。
・・・・・・そして今日、初めて出会った。
「友香は、迅輝さんのフォームを唯一『マネできた選手』なんですよ」
智花が一人、小さな声で呟く。
しかし、あれはもう『マネなんてモノ』じゃない。
---友香のフォームは、すでに『コピー』。完全な模写、それほどに俺のフォーム『そっくり』だった。
友香はまさに、『天才』だ・・・・。
俺は、素直に驚愕した。
だが、このチームにはもう一人、『天才』がいた。
『経験者』は、友香・智花・迅理の三人だけだったはずだ。
友香はマウンドにいるし、智花は俺の隣にいる。迅理もベンチに座っていた。友香の『速球』は、確かにすごかった。『キャッチャーミットに入った』音もかなりの大きさだった。
---そう、『キャッチャーミットに入った』・・・・・・。
『・・・・・・ッ!』
その時、この場にいる全員が『気づいた』。
誰がキャッチャーをするか迷っている時、「キャッチャーは、ウチがやるやんね!」と元気よく立候補した『野球経験なし』の少女が・・・・
あの友香の『速球』を取ったことに。
「・・・・・・き、『黄名子』ちゃん?」
投げた本人である、友香まで驚いている。
「・・・・みんな。なんで驚いてるやんね?」
キャッチャーミットにボールを持ったまま『望月 黄名子《もちづき きなこ》』は、首を傾げていた。
-----これが、『才能』なのか?
・・・・凄すぎだろッ!
たくさんの『驚き』があった火曜日の練習は、とても長く感じられた。
『ありがとうございました!』
そして練習も終わり、片付けも終了した。
チーム全員が帰宅するのを眺めながら、俺は『期待』していた。
---このチームは、絶対『強くなる』。例えどんな事が起きようとも、このチームなら乗り越えられるだろう。俺は、そう思った。
だから、『応援』してやる。
しかし俺、鷹野迅輝《たかのはやき》が『臨時コーチ』をするのは・・・・・・
---『あと一日』。
どうでしたか?
感想など書いてくれると嬉しいです。