更新が遅れてしまい申し訳ありません。
そろそろ『期末テスト』が始まります。
・・・・マジきついです。
---今日が『最後の日』だ。
俺・・・・鷹野 迅輝《たかの はやき》が、慧舞学園初等部・女子野球部の『臨時コーチ』をするのは。
もちろんその日、初等部の女子と男子が『言い争っていた』なんて知りもしなかったが・・・・・・。
遠くから聞こえる大きな声。幼さの残るよく響く声が、第二グラウンドから聞こえていた。
一方は、真帆の声だ。もう一方は・・・・・・聞いたことのない声だ。
俺、鷹野迅輝《たかのはやき》がここに来た理由は、最後の『臨時コーチ』をするため。
しかし、どうやら最初の目的とは違う事をしなければならない。
「・・・・まずは止めないとな」
そう呟いてから、俺は急いで駆け出した。
「---だから、いい加減止めちまえ!」
「うるさい、バカナツヒ!」
第二グラウンドに着くと、そこには『二十人』近くの小学生が立っていた。
半分以上が男子だが、全員に共通している事があった。
それは、恐らくここにいる全員が『野球部』ということ。
それらしい練習着を着て、男子と女子が向かい合うように立っている。
男子は初めて見たが、女子は智花たちだった。
・・・・そして、まるで両チームの『代表』のように一歩前に出て、向かい合っている二人。
一人が真帆で、もう一人は・・・・恐らく、ナツヒ。
(・・・・さっき、真帆がそう呼んでたからな・・・・)
さて、ここは年上として一つ。この場を収めますか。
「おいおい。何やってるんだ?」
俺は、なるべく優しく声をかけた。
「あ、はっきー!」
「はっきー?」
真帆が嬉しそうにこっちを見てくる。ナツヒの方は首を傾げていた。
「真帆。いったい、何があったんだ?」
「それがさ、ナツヒのヤツがいきなり『女子は出てけ!』とか言ってきたんだ!」
「・・・・は?」
「男子野球部が急にやって来て、『グラウンドを渡せ』と言ってきたんです」
真帆の言葉を、俺の近くに来てくれた紗季が説明してくれる。
「・・・・どうしてそんな事を?」
「うるせー! 『部外者』は黙ってろっ!」
「一応・・・・『臨時コーチ』なんだよ」
「臨時コーチ?」
「そうだ」
すると、男子たちが急に騒ぎ出す。さっきまで黙っていたのに、ほぼ全員が・・・・。
---まるで、『動揺』しているかのように。
「まさか、あんた・・・・鷹野迅輝《たかのはやき》か?」
「ん? そうだけど」
それがどうしたんだ?
「・・・・・・嘘じゃなかったのかよ・・・・」
「・・・・嘘?」
「そうだ! はっきーは、あたしたちの『臨時コーチ』なんだぞ!」
真帆が大きな声で割り込んできた。
そのまま俺の理解が追いつく間もなく、話がどんどん進んでいく。
「あり得ねぇーだろ。・・・・『プロ』が臨時コーチだなんて!」
「ホントだって言ってるだろ!」
「ええ。真帆の言う通りよ。鷹野さんは、私たちの『臨時コーチ』」
「・・・・マジかよ」
「おおマジだ!」
途中から、紗季も一緒になって言い争いが始まる。
このままだと、さすがにまずい。
「真帆も紗季も、落ちつい・・・・」
俺が間に入って止めようとした瞬間。
「おい! 本物だってよ!」
「マジかよ!? 俺、大ファンだぜ!」
「こんな所で会えるなんて!」
「巨人軍だ!」
「プロ野球選手がいるぞ!」
いきなり、男子の集団が俺を取り囲んできた。
「え、え?」
『---サインください!!』
・・・・とりあえず、助けてください。
「・・・・それで、言い争いになった原因は?」
「こ、『これ』です」
俺が尋ねると、智花が何かを持ってきた。それは・・・・『野球ボール』だった。
「あれ? どうして『これ』がここにあるんだ?」
しかし、ただの『野球ボール』じゃない。
---智花が持っていたのは『硬式ボール』。
---最初に言っとくが、智花の持っている『硬式ボール』は 十年前 から使われ始めたボールだ。
それまでの硬式ボールは、その硬さや滑りやすさに重さ、バッターに与える衝撃の強さなど多くの危険性を持っていた。実際に多くの 事故 が発生していたのも事実だった。
そこで、十年前の WBC から正式に採用された、この新しい『硬式ボール』が開発された。
従来の硬式ボールと違い、ソフト感や握りやすさ、軽量化やバッターの安全も考慮したボールで、その安全性はかなり優れていた。そのため、『中学野球からプロ野球』まで、すべての野球で使われるようになったのだ。
しかし、まだ『小学生』では『軟式ボール』が使われていたはずである。もちろん、『リトル』は別だが。
「・・・・実は、『今年度』から 小学野球 でもこの『硬式ボール』を使うそうです」
「そうだったのか・・・・」
まったく知らなかったな。まさか小学校でも使われ始めるとは・・・・。
(・・・・それだけ『安全』ってことか・・・・)
確かに、軟式ボールに近いソフト感を持っている。小学生でも安全に野球ができる筈だ。
「でも、どうしてそれで言い争いに?」
「・・・・俺たち、男子野球部は『大会』があるんだよ」
俺の質問に、今度はナツヒが答える。
「大会?」
「今度の大会から、正式にその『硬式ボール』が使われるんだ。俺たちは、少しでもこの『硬式ボール』に慣れる必要がある。だから、この第二グラウンドが必要なんだ」
「・・・・なるほど。確かに正論だな」
「そうだろ! だったら早く俺たちにグラウンドを譲ってくれよ!」
ナツヒが必死に声を上げた。
俺が口を開こうとすると、
「勝手にそっちの都合押し付けんな! あたしたちだって練習したいんだ!」
真帆が大声で叫んだ。
「・・・・っ! 別にいいだろ! つい最近できたばっかりのくせにっ! 俺たちの何が分かる!」
「わかんないね!」
真帆が当然のように声をあげる。
「・・・・は?」
「何にもわかんないから、ここを渡すつもりもない!」
「な!?」
真帆の言い分に、ナツヒが面食らう。
そしてしばらくの間、場に沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは、
「・・・・・・・・だったら、教えてやるよ」
ナツヒの小さな呟きだった。
「?」
真帆は、その言葉に首を傾げていた。
「---俺たち、男子野球部の『実力』。・・・・最近できた素人ばっかの女子野球部に教えてやるよ」
ナツヒが、真帆を睨みながら呟く。
「いいじゃんそれ! だったら、真剣勝負だ!」
真帆もかなり乗り気のようだ。
そして、二人の言葉が重なる。
「「男子と女子で、野球試合だ!!」」
そして俺が、口を挿む間もなく『男子対女子』の試合が決定された。
「女子が負けたら、これからここ(第二グラウンド)は男子専用な!」
「だったら、そっちが負けたらどうするんだ?」
「・・・・ふん! 負ける訳ねぇーだろ! ・・・・まぁ~、もし負けたら、もう口出したりしねーよ」
「は!? それだけかよっ!」
「・・・・っ! だったら『何でも一つ言うこと聞いてやるよ』」
「言ったな、ナツヒ! その言葉忘れんなよ!」
「そっちもな!」
さんざん言い争った後、男子たちは去って行った。
「・・・・ま、真帆ちゃん!? 大丈夫なの!?」
愛莉が慌てて、真帆に声をかけた。
「ふん! ナツヒのヤツ、絶対負かしてやる!」
「で、でも・・・・『男子野球部』に・・・・その・・・・勝てるのかな?」
「大丈夫だってアイリーン! なんたって、こっちには『はっきー』がいるんだぞ! 負ける訳ないね!」
「・・・・・・あんた。それ本気で言ってるの?」
すると、紗季が真帆に近づきながら呟く。
「当たり前だろ! はっきーは、メッチャスゴイ選手なんだから・・・・。な、もっかん!」
「・・・・た、確かに・・・・迅輝さんは、凄い選手だけど・・・・」
「どうしたんだよ、もっかん? ・・・・・・え?」
そこで、真帆も気づいたようだ。
・・・・この場を包んでいた、重い空気に・・・・。
「・・・・バカ真帆」
そして、紗季が小さく呟く。
真帆が紗季の方を向くと、紗季は口を開いた。
「鷹野さんが『臨時コーチ』をしてくれるのは、・・・・・・『今日まで』よ」
「・・・・・・・・え?」
「迅輝さんは、『プロ』の方が忙しいのに、無理して来てくれてたの」
紗季の言葉に智花も続く。
真帆は未だに、理解が追いついていないようだ。
---そう、俺・・・・鷹野迅輝が『臨時コーチ』するのは今日が最後なのだ。
だから、
「じゃあ、はっきーはもう、あたしたちの『臨時コーチ』辞めちゃうのか?」
「・・・・そうなるな」
「---何でだよッ!!」
真帆が絶叫した。
「はっきーが『臨時コーチ』辞めたら、誰が野球教えてくれるんだよ!?」
「・・・・すまん」
「そんな! 辞めるなんて許さ・・・・」
「---いい加減にしなさいッ!」
刹那、紗季が声を上げる。
「お兄ちゃんは今、メディアが最も『注目』してる選手。だから、これ以上は無理なんだよ」
すると、迅理が一歩前に出た。
「お兄ちゃんには、『お兄ちゃんの野球』があるの」
「けど・・・・っ!」
「おー。なら、仕方ない」
その時、ひなたちゃんが声をあげた。
「おにーちゃんが、辞めちゃうのは嫌だけど、迷惑かけちゃダメ」
「い、いや。別に迷惑なんて思ってないぞ!」
慌てて誤解を正す。
「ただ、・・・・その・・・・」
・・・・くそ! 言葉が全然出てこない、このままじゃ余計に悲しませるだけだ・・・・っ!
「・・・・はっきーのバカっ! 信じてたのに!」
真帆はそう叫ぶと、一気に駆け出した。
「待ちなさい! 真帆!」
その後を紗季が追いかけて行く。
「真帆!」
しかし、俺の足は『まったく』動かなかった。
---その後、
まともな練習も出来ないまま、『最後の練習』は終わりを告げた。
「・・・・情けねぇーな、ホント。あんな終わり方なんて・・・・」
あの後、結局真帆は帰って来なかった。
・・・・『全部』、俺が招いたことだ。
俺の存在が、チームを駄目にしてしまった。
(・・・・『あの時』と同じだ・・・・)
中学二年の夏、その時に感じた気持ちに似ている。
「最初から、『臨時コーチ』なんてするんじゃなかったな」
そう言って、俺はベッドに横になる。
・・・・もちろん、全然眠れなかったが・・・・。
その翌日、金曜日の夜。
俺は、『東京ドーム』にいた。
---『俺の野球』をするために・・・・。
どうでしたか?
感想など、書いてくれると嬉しいです。
次回は、智花が迅輝に『勝負』を挑みます。