ヤウきゅーぶ!   作:茅倉 遊

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 ・・・・遂に、つ、い、に・・・・・・

 -----期末考査が終わったぜぇぇぇぇぇっ!!

 あの 束縛の日々 からやっと解放されます。
 どうも、茅倉 遊です。次話投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。
 お待たせしました! それでは、どうぞっ!


運命というもの

「鷹野《たかの》。すまないが一緒に、ブルペンで投球練習しないか?」

「は、はい! ご一緒します!」

 

 今日、東京ドームで行われているナイトゲームは巨人対広島。

 首位の巨人と三位の広島の対戦カードでも、東京ドームは満席に近い。

 自分で言うのも何だが・・・・恐らく、観客の目的は俺、『鷹野迅輝《たかのはやき》』だろう。

 観客は今日の試合で、俺が登板する可能性があるため見に来たのだ。

「・・・・『プロ初試合で完全試合』とは、まさに『史上最強ルーキー』だな。ホント凄いよ」

「ありがとうございます!」

「そんなに固くなるなって。緊張しなくていいぞ」

「は、はい・・・・」

 いやいや、緊張するだろ。何たって今、俺の隣にいるのはあの『巨人のエース』。緊張しない訳がない。

「・・・・あの『柳田先輩』とご一緒できるなんて光栄です」

「ははは! こっちだって、あの『絶対の狩人《アブソリュート・ハンター》』の投球を見てみたいのさ」

「・・・・すいません。その『二つ名』は止めてください。は、恥ずかしいので・・・・」

「そうか、カッコいいと思うけどな」

 ・・・・結構、恥ずいですよ。

 

 ---『柳田 守《やなぎだ まもる》』。

 二十五歳にして、巨人軍投手の中で『最強』と謳われる投手。

 プロに入団してから五年連続の『最多勝』、『最多奪三振』、『最優秀防御率』投手であり、巨人軍内に留まらず『プロ野球業界最強投手』。そんな野球ファンにとってはまさに スーパースターの選手 が今、俺の隣を歩いている。

「柳田先輩は、俺の 目標 です。いずれあなたのような投手になれるよう、日々精進しています」

「鷹野は十分凄いよ。後はその才能を どれだけ伸ばせるか これが重要だね」

「あ、アドバイスありがとうございます!」

 ・・・・そんな会話をしている間に、ブルペンに到着した。

 

 

 

「---やっぱ、凄いな! これじゃあ、六年連続の『三冠王』も阻まれそうだ」

「い、いえ! 自分はまだまだですよ」

「自信持てよ、鷹野! お前は俺の好敵手《ライバル》になりそうだ!」

「そんな・・・・」

 幾らなんでも褒め過ぎじゃないですか、柳田先輩。

 しかし、『プロ野球業界最強投手』にここまで言わせたのだ。これからも頑張らないとな。

 俺が心の中で呟いていると、柳田先輩が口を開いた。

「・・・・にしても、今日は『沢原《さわはら》』のヤツ。やけに調子が良いな」

「そうですね。でも、それがどうかしたんですか?」

 ブルペンの隅にあるテレビ画面を見ると、 2-0 で巨人がリード。

 二回が終わり、今は攻守交代中だ。

「沢原先輩がこのまま続けば、俺は・・・・」

 投げずに終わりますね。と、俺が言葉を続けようとした時、

「いや。まだ分からないぞ・・・・。『野球』ってヤツはな・・・・」

「・・・・え?」

 柳田先輩の言葉を聞いて、もう一度画面を見る。

 巨人先発の沢原投手が、ここまで相手の安打《ヒット》を許さず無失点。この 三回 も無事抑えるだろう。

 ・・・・・・そう思っていた。

「・・・・・・え?」

 ---刹那。沢原投手が、相手の安打を許した。

 それも、『二塁打《ツーベース・ヒット》』。

 ノーアウト、ランナー二塁。一発あれば、ランナーは ホーム に帰って来ることができるだろう。

 だが、ここで迎えた広島打者は九番。落ち着いて投げていけば、長打は打たれ・・・・、

 しかし、沢村投手が投げたボールは、そのまま左中間を貫いた。九番バッターが打ったのだ。

 二塁にいたランナーが、ホームを踏み一点。さらにバッターは二塁まで進む。二者連続の二塁打だ。

「・・・・おいおい。大丈夫か?」

 隣にいる柳田《やなぎだ》先輩も、顔を曇らせている。

 今、俺と柳田先輩は投球練習を一時中断し、テレビ画面の前にいる。俺の右隣に柳田先輩。左隣りには、顔に焦りを見せるピッチングコーチ。

 三人で画面を見ていると・・・・

 今度は、打席が回った一番が『一塁打《シングル・ヒット》』を打つ。ランナーは一、三塁。

 そして続く二番も・・・・一塁打を放つ。これで、広島がさらに一点追加。

 ・・・・つまり、『同点(追いつかれた)』。

 ランナーが一、二塁の状態で沢原投手は・・・・四球《ファーボール》を出した。

 ---ノーアウト、満塁。迎えたバッターは、広島打線の四番。

 

『--------!』

 

 誰もが予想していたが、ここでブルペンの電話が鳴った。

「は、はい!」

 ピッチングコーチが急いで電話に出る。その間・・・・

「頑張ってください。柳田《やなぎだ》先輩」

「いや。ここは鷹野《たかの》に譲るよ」

「いやいや。このシチュ(シチュエーション)は、新人には厳し過ぎるでしょ!」

「俺だって、嫌だよ。こんな場面で交代なんて・・・・」

「柳田先輩の出番ですよ」

「痛てて。そういえば、肩の調子が・・・・」

「嘘ですよねっ!」

「鷹野。・・・・お前ならできる!」

「---絶対嫌です」

 二人の投手の間で、醜い『押し付け合い』が起きていた。

 投球練習をしていたのが二人だけなので、恐らく二人の内誰かが犠牲に・・・・。

「鷹野。お前が 中継ぎ だ!」

「---マジっすかッ!?」

 どうやら、犠牲は俺のようだった。

「頑張れよ、鷹野。応援してるぜ!」

「絶対おかしいでしょ・・・・。この選択」

 そんなことを言いながらも、俺は東京ドームのマウンドに向かった。

(・・・・半強制的に、だけどな・・・・)

 

 

 

 

 

「・・・・さて、どうしたもんかな・・・・」

 バッターボックスには、広島の四番が立っている。

「四番ってのは、気にしてないが・・・・」

 そう。一番の問題は ノーアウト満塁 ということだ。

 一発でも打たれたら、逆転を許すこの展開で 中継ぎ を任されるとはな・・・・。

「プロに入って、俺まだ『二試合目』だぞ・・・・」

 だが、マウンドに立ったからには、この状況を打破するしかないだろうな。

「・・・・・・行きますか!」

 どうせ満塁。俺は大きく腕を振りかぶった。そして両手を胸の前に持っていきながら、身体を大きく『ねじる』これが俺の 回転投法 だ。普通の投げ方に比べ、球速が『極端に上がる』投法。

その状態を少しだけ保ってから・・・・

「・・・・ッ!」

 一気に、大きく腕を振った。

 ---バンッ!!

 ボールは大きな音と共に、キャッチャーミットに吸い込まれた。球速は『 150㌔ 』。プロなら打てないこともない速度だ。しかし、バッターは見送った。恐らく、少し様子見したのだろう。

「・・・・けど、 ワンストライク は取った」

 あと、二つ。

 正直、簡単だ。空振り二つ取ってもいいし、ファール一つ、空振り一つでもいい。

 

 ---もしくは、『見逃し二つ』。

 

 ・・・・バン! ・・・・・・バン!!

「---ッ!?」

 バッターの表情には、驚愕しかない。

 『見逃し三振』。それが、広島四番打者の成績。

 俺には、奪三振1 が付いた。

「・・・・まだまだ!」

 そこからの打者は、連続の三振。つまり三者連続三振で、広島のこの回は終了。

 

「・・・・流石だな。あの状況で無失点・・・・。しかもバッター全員に対して、バットに ボールを当てさせない とは・・・・まさに『絶対の狩人』」

「だから、その二つ名は止めてください!」

 ベンチに戻ると、柳田先輩が声を掛けてきた。

「それにしても、鷹野の武器はその『絶対的な------』だな」

 急に真面目な顔つきで、柳田先輩が呟いた。

「・・・・まぁ、そうですね」

 俺の投手としての武器は、いくつかあるが最大の武器『一つ』だけ。

 (・・・・もっと、頑張らないとな)

 そのためには、まずこの試合で結果を出すか・・・・。

 

 

 

 そこから先は、あっという間だった。

 2-2のまま試合は流れて行き、最後の九回で巨人が 一点 を入れてサヨナラ勝ち。

 俺の成績は、球数67 失点0 被安打0 四死球0 奪三振10 ってとこだ。

 テレビ局からのインタビューは、「ファンのみなさん、応援ありがとうございます!」と王道な感じで答えたが・・・・まぁ、いいだろう。

「ふぁあ~。帰ったら、風呂入って寝よ」

 先輩方の誘いを丁重に断ってから、俺は自宅に帰るため 自転車 に乗った。

 ・・・・まだ、 高校生 だからな。

(十八歳になったら、免許取りに行くか・・・・)

 自転車に乗っていると、夜道の風が心地いい。

「・・・・えくしゅっ!」

 ---ちょっと、寒かったな・・・・。

 

 

 

 

 

「絶対に嫌だ」

「えぇ~。お母さんのお願いを、迅輝くんは聞いてくれないの?」

「実の息子に、くん付け止めろ! あぁーもう! わかったよ、行ってくるよ・・・・」

「ありがとね。迅輝くん」

「だから、止めろって!」

 プロでの試合があった翌日、何故俺が朝から叫んでいるのかというと・・・・。

「ったく。ハヤ姉のヤツ、『弁当』忘れて行くなんて・・・・。お前は JK(女子高生) かよ」

 そう。俺・・・・鷹野迅輝《たかのはやき》の姉である、鷹野迅美《たかのはやみ》が今日、家にやって来たことが全ての原因だ。

 俺に会うなり「あんた、何やってんのよ。今こそ出番でしょ」なんて意味不明な発言をし。その後、朝飯食って行ったら弁当忘れるし。ホント、あんたこそ何やってんだよ。

 おかげで俺は、わざわざハヤ姉の職場に弁当を届ける羽目に・・・・。

 ---慧舞学園《けいぶがくえん》。

 そこが、ハヤ姉の仕事場。学校の先生なんて全然似合ってねぇーよ。本人の前じゃあ、言えないがな。

 ハヤ姉は、その学園の初等部で教師をやっている。

「もう・・・・ここに来ることは二度とないと思ってたぜ・・・・」

 少し前まで、俺もここに来ていた。初等部の女子野球部『臨時コーチ』として。

 今はその役目を終えたが、正直いい気分ではない。

 何故なら俺は、彼女たちを・・・・

 

 --- 見捨てた のだから・・・・。

 

 

 

「もう忘れるんじゃねぇーぞ」

「いやー、悪いな迅輝。助かったよ」

「じゃあ、俺は帰るから・・・・」

 そう言って俺は、ハヤ姉に背を向けて歩き出そうとした。

「---あんたも、何か 忘れ物 があるんじゃない?」

 慌ただしい職員室でハヤ姉のその言葉は、俺の頭に直接響いてきたように感じられた。

 ・・・・だが、

「---そんなもん、ある訳ねぇーだろ」

 それだけ言って、俺は職員室を出て行った。

 

 -----それは、本当に ただの偶然 だったのだろうか?

 いや、違うだろうな。

(・・・・これが、『運命』ってことか)

 

「・・・・・・え?」

 その少女は、片方だけ結んだ髪を小さく揺らした。

「やぁ。おはよう、・・・・智花」

 こんな所で、湊 智花《みなと ともか》に会うなんてことはな・・・・。

 

 

 

「へぇ~。じゃあ、みんな頑張ってるんだね。・・・・男子との試合に向けて」

「は、はい! 私も自主練しようと思ったので・・・・」

「一人で?」

「・・・・はい」

 俺の言葉に、智花が頭を下げる。その表情は、誰が見ても分かるくらい 寂しげ だった。

 だから思わず、口走ってしまった。

「だったら、俺が付き合うよ。智花の自主練」

「ふぇっ!?」

 智花が、驚いたように顔を上げた。

「い、いいんですか!?」

「もちろん!」

 ・・・・いや、だってもう引き返せないし。ここで「やっぱごめん」とか言える訳ないじゃないですか。

 それに・・・・。

(こんなに、喜んでるんだしな)

 俺は、智花の方に視線を向けた。

 そこには、本当に嬉しそうな智花の笑顔があった。

 その笑顔は、今日の朝日に負けないくらい美しく・・・・いや、可愛らしく輝いていた。

 

 

 

 

 

「わぁーーー。す、凄いですね!」

「まぁ、『県最大』は伊達じゃないな」

 今、俺と智花がいるのは『鶴陽総合公園《かくようそうごうこうえん》』。

 サッカー場やテニスコート、ストリートバスケのコートから一般使用可能な体育館まで。さらには、大きめの広場が五つもある。県下最大の大きさを誇る総合公園だ。

 そして、何よりも凄いのが・・・・・・『鶴陽スタジアム』。

 本格的な『野球場』が、この総合公園には存在する。一般使用はできないが、許可を取れば一般でも使用可能。なぜ許可が必要かというと、この球場は プロも使用する から。

 この鶴陽スタジアムは、学生間の 大きな大会 で使用したり、プロの試合でも使用される。もちろん、高校野球の 甲子園出場校予選大会 も行われている。

 

 そんな場所に今、俺と智花は立っていた。

「ほ、本当にいいんですか! こんな凄い場所で練習できるなんて・・・・」

「大丈夫。大丈夫。許可取ってるから」

(・・・・ホントは 顔パス だけどな)

 昔から、よくここで練習しているから管理者の方々とは知り合いなのだ。だから俺は、事前に許可を取らなくても使用できる。

「それより、智花は大丈夫かい? 結構、遠出になっちゃったけど・・・・」

「し、心配しないでください! そこまで離れてませんから!」

「そうなのか? なら良かった。・・・・・・じゃあ、練習しようか」

「はい!」

 

 この『鶴陽スタジアム』は、俺の住んでる鶴陽市《かくようし》に位置している。なので、慧舞学園からは少し離れた場所にあるのだ。

(そういえば・・・・智花の家も慧舞学園からは、けっこう離れてるって言ってたな)

 バスの中での、智花との会話を思い出す。確か、智花って『転校生』だったよな。だから学園と家が離れてても、まったく不思議じゃない。

(・・・・智花の家からは、学園より鶴陽市の方が近いって言ってたし・・・・)

 ちょうど鶴陽市と隣の市の市境・・・・いや、そういえばもう 別の県 になるんだったな。あの境は。

 ちょうど 県境 にあるんだよな慧舞学園。

 そして智花の家が、鶴陽市の近くで・・・・・・・・って、

「何考えてんだ。俺は・・・・」

 こんな可愛い女の子が住んでる、家の場所探しなんて。変態か俺は・・・・。

「じゃあ、まずはキャッチボールでも・・・・」

 と、俺が今までの思考を忘れ去るため智花に話しかけた。

「あ、あの・・・・は、迅輝《はやき》さん!」

「?」

 いきなり、智花から大声で名前を呼ばれた。

「あ、ごめんな! まだ準備ができてなかっ・・・・」

 俺が言葉を続けようとしていた、---刹那。

 

「わ、私と・・・・その。・・・・い、一対一で 『勝負』 してくださいっ!」

 

 智花が俺の顔を真剣に見つめながら、大きな声で叫んだ。

「・・・・え?」

 もちろん、最初はその言葉の意味すら、俺には理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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