ヤウきゅーぶ!   作:茅倉 遊

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 投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ありませんッ!
遅れた分を取り戻せるよう、全力で頑張っていきます。
 ---それでは、どうぞッ!


 


練習開始

「・・・・はい、智花」

「あ、ありがとうございますっ!」

 リビングにある椅子に座っていた智花に、持っていた飲み物を渡す。

 そして智花と向かい合うような位置に、俺・・・・鷹野迅輝《たかのはやき》は腰掛けた。

 鶴陽《かくよう》総合公園で 一対一の勝負 を終えた俺と智花は、『ある場所』にやって来ていた。

 ここは鶴陽総合公園から徒歩五分も掛からない場所にある、『鷹野家』。

 ---簡単に言うと、『マイハウス』である。

 

「でもいいんですか? 勝手にお邪魔して・・・・」

「いいよいいよ。それに、全然邪魔なんて思ってないし」

 智花は緊張しているのか、身体を小さくしている。

 俺の家はどこにでもあるような普通の一軒家だし、緊張なんてしなくてもいいのにな・・・・。

「やっぱり、迅輝さんは凄いんですね」

「え?」

 最初は智花が何を言ったのか解らなかったが、智花が視線をあちこちにやっているのを見てようやく気づいた。鷹野家一階のリビングには、俺が今まで貰った 賞状やメダル などが飾られているのだ。

 少年野球時代の物から、今年の春センバツの物まで、数多く飾っているので驚くのも無理はない。

「普通なら自分の部屋に飾るんだが、ちょっと数が多くてな」

「こ、これで ちょっと なんですか・・・・!」

 智花が驚いた表情で、俺を見てくる。

 ---まぁ、まだ増やす予定だからな---

 

 

 

「・・・・今日は本当にありがとうございました!」

「こちらこそ、智花と練習できて良かったよ」

 あの後、もう一度『鶴陽《かくよう》総合公園』に行って、二人で練習をしてきたのだ。

「あ、あの、迅輝さん・・・・ッ!」

「ん?」

 深くお辞儀していた智花が、勢いよく頭を上げてこっちを見つめる。

 

「---明日からも、よろしくお願いします!」

 

 智花との一対一の勝負で決めた 約束 だった。俺が負ければ、もう一度『臨時コーチ』になるという約束を智花はもう一度俺に確認しているのだ。

 もちろん、約束は守るつもりだった。

「あぁ、また明日。・・・・今度は 慧舞学園 で みんな と練習しよう」

 俺が、ゆっくりとその言葉を口にすると・・・・

 

「---はい!」

 

 智花が本当に嬉しそうにしながら、大きな声で肯いた。

 

 

 

    -交換日記-

 

『迅輝さんがもう一度、私たちの 臨時コーチ してくれるって!   湊 智花』

 

『ったく、さいしょからそういえよな。はっきーのやつ   まほまほ』

 

『そんな事言って、ホントは嬉しいんでしょ   紗季』

 

『なっ!? そ、そんなことないもん!   まほまほ』

 

『でも良かったね。またコーチして貰えるなんて   あいり』

 

『おー。またおにーちゃんと野球できる   ひなた』

 

『また迅輝さんと野球できるなんて、ゆ、夢じゃないかな?   深苗 友香』

 

『夢じゃない。現実   希』

 

『お兄ちゃんがコーチしてくれるなら、男子なんて余裕だよ!   迅理』

 

『練習頑張って、絶対男子に勝つやんね!   黄名子』

 

『きなっちのいうとおりだ! みんなのちからで、ぜったいかつぞ!!   まほまほ』

 

『『『 おーーっ!!   全員 』』』

 

 

 

 

 

 

 ---また、ここに戻って来たか・・・・。

 今俺が立っているのは、『慧舞学園初等部女子野球部』の部室前だ。すでにドアノブに手を掛けているのだが、なかなか回せないでいた。

 理由は簡単。一度止めたくせに、またノコノコと戻って来たのだ。みんなに何て言えばいいか、今の俺には全然分からない。昔からコミュニケーション能力に乏しい人間なので、つい緊張してしまっていた。

「・・・・・・えぇい! 侭よッ!」

 そう言って俺、鷹野 迅輝はドアノブを回してドアを開いた。

 

『お帰りなさいませ、ご主人様っ!』

 

 しかしそこには、メイド服を着た 9人 のメイドさんが立っていた。

 もちろん、全員 小学生 だ。

「・・・・・・何だろうね、この既視感」

 その後みんなには、早急に着替えて貰った。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。このグラウンド」

 ほんの数日前まで通っていたはずのグラウンドが、何故か懐かしく感じる。・・・・たった数回しか通ってないけど。

「それで男子との試合は、ホントにやるの?」

 実はもう平和的解決が終わっている事を望んだが、

「何言ってんだよ、はっきー! んな訳ないじゃんっ! もちろんやるよ!」

「ははは。・・・・・・やっぱり?」

 まぁ、真帆に限って 平和的 なんてないか。

「俺がいない間、どんな練習をしてたんだ? その、男子との試合に向けて」

「えっと、それが・・・・」

「ごめん、お兄ちゃん」

「?」

 智花と迅理が何かを言い掛けて止める。しかし、その後に真帆が元気よく続いた。

「聞いて驚くなよ、はっきー! あたしたち、キャッチボールが上手く出来るようになったんだぞっ!」

「---マジ?」

 おいおいおい、冗談だろ。それって・・・・

「要するに、まだ私たちは、真面に試合ができる状態じゃないんです」

 紗季がアイガードに触れながら、冷静に答える。

「絶対絶命」

「けど、まだ時間はあるやんね!」

 希と黄名子も口を開くが、この展開は正直マズイ・・・・・・・・と 云う訳でも無い 。

「まぁ、いざとなったら 何とかする よ」

 何故なら、このチームには 何とか出来る力 があるから。俺はその力を引き出すだけでいい。

「さすがはっきー! 頼りにしてるぞっ!」

「さ、さすが迅輝さん・・・・っ!」

 真帆と友香が歓声を上げる。しかし、今は それ に取り合っている場合ではない。今は練習するのが一番大事だ。時間も限られてるしな。

「よし、練習始めるか!」

『---はいっ!』

 俺の声に、9人の少女たちが続いた。

 

 

 

「そういえば、打順やポジションはもう決まったのか?」

「は、はい! 一応、みんなで考えて決めました。・・・・こ、これです!」

 ランニングとストレッチ、キャッチボールと守備練習が終わり、今は休憩時間になっている。みんなが休憩している間に俺は、智花から このチームのオーダー表 を見せて貰う。

「・・・・どれどれ?」

 そこには、

 

『--- 一番、センター 真帆

     二番、ファースト 紗季

     三番、サード 迅理

     四番、ショート 智花

     五番、ピッチャー 友香

     六番、レフト ひなた

     七番、ライト 愛莉

     八番、キャッチャー 黄名子

     九番、セカンド 希  ---』

 

 と書かれていた。

「・・・・・・凄いな」

 まさか---、ここまで 出来てる なんてな。

「良く出来てるよ、このオーダー。全員の 特徴 が良く活かせてる」

「そ、そうですか?」

「あぁ」

 誰よりも動け、体力のある真帆は、守備範囲の広い外野向きだ。同じく、フライに強いひなたも。それにまだ、ボールに慣れていない愛莉を外野に持ってきたのも正解だ。

 ピッチャーはもちろん友香、それを受けるキャッチャーも黄名子で決定している。そして守備が上手い智花をショートに、送球が遠くなるサードは経験者の迅理。司令塔として行動できる紗季を内野に持ってきたのが良い判断だ。あまり動けなさそうな希をセカンドにチョイスしたのも良く考えている。

 ---完璧だな。

 個人の技量や打順などは置いておくとして、このオーダーは 個人の特徴を活かせる モノだった。

 

 

 

「さて、バッティング練習に入ろうか」

『はいっ!』

 オーダーの確認も終わったし、今度は 個人の技量 を向上させようか。・・・・しかし、残された時間は少ない。というより、ほとんど無い。これじゃ 付け焼刃 も出来やしないぞ。

 どうしようも無くなれば、今の 個人技 で何とかするしかないが、出来るだけ使いたくない手だ。野球はチームスポーツ。テニスや卓球のような 個人技勝負 にはしたくない。

 ---個人技勝負をすることも 可能 だが・・・・。それは最後の手段だ。

「折角だし、この打順で回そうか」

 俺は智花から貰ったオーダーを手に、みんなに指示を出していく。・・・・まるで 監督 みたいだな。

「よーし! まずは、あたしからだなっ!」

 そう言いながら、まず最初に真帆が打席に入る。守備が一人減ってしまうので、俺が ピッチャー として入った。今年度から始まった 初等部も硬式ボール使用 によって、俺はボールを投げても大丈夫になったのだ。

 

 ---さて、どうしよう?

 小学生を相手にするのは、前に智花との経験があるので初めてではない。しかし、智花に対しては『120㌔』前後のストレートを投げていたのだ。この バッティング練習 で『120㌔投球』は、さすがにマズイだろう。

 ・・・・・・だったら、どんな投球をすればいい?

 そもそも小学生、それも女の子に対して、どのくらいの球速で投げればいいんだ? 一応、今から投球に使うのは 左 である。つまり、利き腕ではない方だ。それでも俺は『140㌔』程度なら投げれる。だが、そんな球速で彼女たちの練習になる訳がない。それも、まだ野球を始めて間もない子たちに。

 恐らく、投げていいのは『70~90㌔』程度だろう。・・・・たぶん。違ったら知らん。一応、練習にはなる。

 ---あと、『変化球』。

 野球、それも投手には欠かせない 軌道が変化する球 だ。昨夜ネットで調べたが、4年前から小学生の少年少女野球でも 変化球 が使用可能になったらしい。もちろん、投げることが出来ればだが・・・・。

 

「はっきー! まだぁー?」

 オッと、真帆を待たせ過ぎたか。じゃあ、そろそろ決めるか。俺が投げるボールは---

 俺はゆっくりと、投球モーションに入った。普段よりも球速を落とすため、いつもの『回転投法』ではなく普通の『オーバースロー』で投げる。

 俺が投げたボールは、真帆の手元で『斜めに落ちた』。

「・・・・え?」

 真帆が思いっきり振り抜いたバットは、呆気なく空を切る。

 この球種は『カーブ』だ。他の変化球と比べ速度は劣るが、軌道の変化が大きいのが特徴である。

 ---しかし、俺がさっき投げた球は『パワーカーブ』。

 球種としてはカーブに類するが、球速が速く変化が大きい・・・・別名、『高速カーブ』。だが、相手は小学生だ。球速は 80㌔ 前後に抑えている。それでも 初心者 にはキツ過ぎたかな。

「・・・・えっと、その・・・・ゴメン」

 こういう時に正直、何て言えばいいか全然分からない。ホント、コミュニケーション能力ねぇーな俺。

 恐る恐る真帆の方を見ると・・・・

「---さっすが、はっきー! ボールがクイーッと斜めに落ちたよっ! 今のが『カーブ』だっ!」

「・・・・え?」

 ――何だ? 思ってた反応と全然違うぞ?

 

「す、凄いですね・・・・っ!」

「おー? ボールが落ちた。何で?」

「い、今のは『パワーカーブ』だよ!」

 愛莉とひなたが声を漏らすと、智花が急いで説明する。

「『パワーカーブ』は普通の カーブ と違って、スピードも速いし変化が大きいのが特徴なの」

「鷹野さんが持ってる 変化球 の一つって事ね」

「まだ他にもあるやんね?」

 友香と紗季と黄名子も、会話に参加する。

「はっきーって、何個持ってんの? その曲がるヤツ」

「変化球な・・・・。えっと、確か・・・・」

「お兄ちゃんが持ってる変化球は、合計 10個 だよ」

『---10個っ!?』

 迅理の発言に、この場にいる俺を除いた全員が息を呑んだ。・・・・俺ってそんなに持ってたんだな。

 最近使ってないから、すっかり忘れてたぜ。プロでもあんま要求されないしな、俺の変化球。

「はっきー? まだあたし終わってないよー?」

「あ、ゴメン!」

 ・・・・ピッチャーやってた事も忘れてたぜ・・・・。

 

 

 

 ---その後、オーダーの打順通りバッティング練習を行った。直球《ストレート》が主だったが、適度に変化球も混ぜながら投げていく。

 結果的には、

       一番の『真帆』、ショートゴロ。

       二番の『紗季』、セカンドゴロ。

       三番の『迅理』、左中間を破り二塁打。

       四番の『智花』、センターオーバーの二塁打。

       五番の『友香』、センター前ヒット。

       六番の『ひなた』、三振。

       七番の『愛莉』、三振。

       八番の『黄名子』、サードゴロ。

 

 そして現在、打順は九番。打席には 松川 希《まつかわ のぞみ》 が立っていた。

「・・・・・・」

 さっきからずっと無言だが、集中しているのか?

「さて、何を投げようかな?」

 普通なら キャッチャー が考えるような事を、俺はのんびりと考えていた。

 正直この子だけ、まだ実力が『完全に未知数』なのだ。他のみんなは大体把握したが、まだ全然実力は伸びていくだろう。しかし、希だけはまったく判っていない。守備能力は普通だったが、攻撃能力は高いのだろうか?

「じゃあ、いくよ!」

「・・・・はい」

 俺が選んだのは、ストレート。まずは様子見だ。

 

 ---スッ

 

「・・・・ッ!」

 俺がボールを投げた直後、希がバットを 両手で持ち 前に出した。

 あれは『セーフティーバント』。『自分が 塁に出るため のバント』だ。

 ボールは希が構えていたバットに当たり、ゆっくりとピッチャー前に転がって止まる。その間に希は、一塁ベースに向かって駆け出していた。

「---っと」

 俺は目の前に転がったボール掴んだ。

 一応、俺も守備はしないとな。まだ 初心者 ってだけあって前に転がすのが精一杯なのだろう。俺の真正面にボールが転がって来た。これじゃあ、アウトに---

「え?」

 ・・・・あれ? 確かに、俺は虚を突かれて反応が遅れた。しかし、その後の処理は何の問題もなかったはずだ。では何故、希は・・・・『あと 数歩 で ファーストベース に辿り着く』んだよッ!?

 しかし俺は高校生で、プロ野球選手でもある。それに比べて、相手は小学生だ。落ち着いて送球すれば、まだ余裕で間に合う。

「・・・・ッ!?」

 だが俺は、その瞬間目撃する。希の、---小学生(それも女の子)とは思えない『俊足の走り』を。

 俺はボールを投げれなかった。

 

 

 

 

 

「希って、足速いな!」

「・・・・はい。走ることが好きだったので、毎日走ってたら速くなりました」

 すべての練習が終わり、道具の片付けとグランド整備も終わった。時刻は、正午を少し過ぎたくらいだ。まだ空は明るく、太陽も高い。そんな時、俺は希と話していた。

「希は 50m走 で、タイムが 7秒8.0 なんです」

 俺の隣を歩く智花が、俺に具体的な情報をくれた。小学生で 7秒台 ってかなり速い方だ。それも女子だぞ、速過ぎるぜ。

「では、私はここで」

「あぁ。気を付けて帰れよ」

「バイバイ、希」

「失礼します。バイバイ、智花」

 希は俺と智花に別れを告げると、背を向けて歩き出す。

 すでに他のみんなとは別れ、最後まで残ったのは俺と智花と・・・・もう一人。

「じゃあ、トモちゃんも一緒に頑張ろうね」

 練習が終わった今でも元気な俺の妹、鷹野 迅理《たかの はやり》だ。

「もう! お兄ちゃん易し過ぎだよ、あの練習! これじゃ、男子に負けちゃうよ」

「あのなぁ、初心者だっているんだぞ。バランス取れた練習が必要だろ」

「わ、私も、迅輝さんの言う通りだと思うよ」

「ぶー。イイもん、イイもんっ! この後は、お兄ちゃんと一緒に練習だから」

 そう、今俺たち三人が向かっているのは『鶴陽《かくよう》総合公園』。その中の『広場』の一つだ。この後、そこで自主練習するのだ。

 男子との 試合 も近い。チーム全体の能力も必要だが、個人の能力も必要不可欠だ。

「智花。本当にいいのか?」

「はい! それでチームの役に立てるなら、全力で頑張りますっ!」

「ありがとな。智花には、どうしても やって貰いたい ことがあるんだ」

 さて、それじゃ 個人の能力向上 と行きますか。ここに居る 二人 は恐らく、今度の試合の 勝敗 を左右する『チームのエース』になる。頑張って貰わないと。

 ・・・・・・練習は本気で行く、覚悟はいいな? これから始まるのは、『エースの時間』だ。

 それから練習は 日が沈む まで続いた。

 

 

 

    ---男子との『試合』は近い・・・・・・。

 

 

 

       

     




どうでしたか?
感想等、書いてくれると嬉しいです。
次回もお楽しみに。 ・・・・必ず投稿しますッ!
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