何故か毒怪竜になった件について   作:キョロ

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実は題名がもう一方のものとかぶっていたり。
どうも! お久しぶりです。お待たせして申し訳ありません。

今回は本編をお休みしてハロウィン企画をやります。
今までお待たせしてしまった……。そんな後悔をしながら時間を削って少しずつ書いていたら文字数が九千ちょい。わお。
と、言うわけでいつもの大体二倍ボリュームになっていますので用がある方は先にそちらを済ませた後の方が良いかと思われます。

ちなみに今回、忘れ去られかけていたハンター三人組が出ます。
先輩二人は名前自体がネタバレに値するので「女先輩」と「男先輩」と記載しています。
予めご注意ください。

では、スタートです。


季節行事企画番外編 「ハッピーハロウィン!」

『どうしようもなくハロウィンがやりたい』

 

『いきなりどうした』

 

 独り言のつもりで呟いた言葉にジョーおじさんが反応しました。態々ありがとうございます。

 どうも、サヤです。なんとなくだけど、急にハロウィンがやりたくなった所存だよ。

 小さい時はよくハロウィンやりたいって周りに愚痴ってたなー。だって、近所の家を回るだけでおかしもらえるなんて素敵だと思わない? 私はあんまりご近所に興味なかったけど。本末転倒だね!

 興味ないだろうけど私が一番好きなお菓子はクッキーです。でもそれ以上に好きなのは煎餅。海老煎餅とか大好きだよー。

 

『……とりあえず、ハロウィンって知ってます?』

 

『ハ、ハロ?』

 

『ああ、もういいです』

 

『待て、ちょっと気になるじゃないか』

 

 珍しくジョーおじさんが私の考えに興味を持っているようです。本当に珍しいことに。

 どうやら私が言った“ハロウィン”が知らない単語だったから興味を持ったみたい。なんでも知っていないと満足できない感じなのかな? まあ私はどうでもいいけど。

 どこから説明したらいいんだろうな。お菓子貰うところだけでいいのかな。

 

『子供が仮装して近所の人からお菓子を貰いに行くんです』

 

『ほう?』

 

『その時に言うんです。トリック、オア、トリートって』

 

 私は英語が得意な方じゃなかったからあんまり発音はよくないよ! そういうところに期待しちゃいけない。期待するなら外国人にしてください。私日本人ー。

 一回言ってみたかったんだけどなー。……うん、お菓子が欲しいだけだよ。でもポテチあたりのほうがありがたいかも。あと煎餅。

 ジョーおじさんは説明の間、私の顔をずっと見ていたけどしばらく考え込むように正面へと顔を戻してまた私の方を見てきた。

 

『お菓子、は残念ながらない』

 

『まあ、そうですよね』

 

 この世界に生まれ変わってからそれらしいものを食べた試しがないよ。というか私、血以外の食事したことあったっけ? どうしよう、それしか飲んでないかも。

 やっぱり固形物は成体になってからじゃないと駄目なのかも。もしかしたら胃とかがちゃんと出来てないとか。ありえる……、いや、ありえるのか?

 

『だが、血なら分けられる』

 

『じゃあそっちをありがたく貰います』

 

 前は渋っていたのにこの態度の急変は何なんだろうね。まさか何か裏があったり。……はっ、分かった! お菓子狙いなんですね、ジョーおじさん! 残念ですけど持ってないよ! 持ってたら私が既に食べてるし。

 うーん、今までで一番ギィギに生まれたことに後悔している気がするよ。お菓子が食べれないなんてありえない!

 とりあえずちょうどお腹も減っていたのでジョーおじさんの足に齧り付いて血を貰うことにしました。血も十分に美味しいんだけど、お菓子……。もう完全に取り憑かれちゃってます。

 いいなあ。この世界にハロウィンがあるのかどうかは分からないけど、人間はお菓子を食べたりしているんだよね……。羨ましい。羨ましすぎて呪いたくなる。

 

『ご馳走様でした』

 

『やっぱり食事量が増えてきているな』

 

『早くお菓子が食べれるなら何リットルだって飲んでやりますよ』

 

『そ、そうか』

 

 なんだかジョーおじさんに少し引かれている気がするけどこの際どうでもいいです。とにかくお菓子が欲しい……。そろそろしつこいって? ごめんなさい。

 こうなったら今日は暴飲暴食してやる。私の場合は暴飲しかないんだけども。手当たり次第に知り合いから血液を没収していってやるんだ。私の不機嫌時に訪ねてきたのが運の尽きって事で。

 

『よお、元気k』

 

『はむっ!!』

 

『いってええええ!? なんで!? なんでいきなり!?』

 

 というわけで早速現れたティーおじさんに齧り付きました。最近不憫な立場に回りつつあるよね、ティーおじさん。ご愁傷様です。

 こうなったらティーおじさんが貧血になるまで吸ってやろうかな。いや、さすがにそこまで私の胃は大きくないけどね。それくらいの勢いで吸うんだ。

 今日くらい出血大サービスでよろしく! あ、私上手いこと言った。ウザいね、ごめん。

 

『サヤー、母さんどこ行ったか知らn』

 

『はむっ!!』

 

『うわああああ!? 何すんだよ、離れろっ!』

 

 はい、二体目の犠牲者はリオー。大人しく私の糧になれ。

 サヤなら貧血にする勢いで吸ったら本当に貧血に出来そうだね。貧血にしてやろうかな。かなり鬱憤が溜まってるから当たっても私は悪くないはず。ははっ、変な正論。

 心の中で「ごめんね」とか謝りつつも「ざまあ!」とか思ってる私ってなんなんだろうね。自分の思考ながらよく分からないよ。実は二重人格だったとかいうオチは……、ないね。うん、ない。

 

『……ぁ』

 

 リオがダウーン。あ、さすがにちょっと吸いすぎたかもしれないな。ごめんねー、あはっ。

 また心の中で「ざまあ!」と思いながら口をリオの身体から離して合掌。私を恨まないようにさっさと成仏しちゃってください。幽霊は大嫌いだから根本から信じないタイプだよ。

 ところで私の胃がまだ限界を迎えていないんだけど。やたらと飲み過ぎたら後で痛い目を見るのは私なんだけど、それでもまだ私のお腹は限界を迎える様子がない。私のお腹もお菓子が食べれないことが不満らしい。

 

『たっだいまー! あれ、リオだ』

 

『はむっ!!』

 

『あ、サヤだー。ただいまー』

 

 三体目の犠牲者はお母さん。いつも通りご飯ください。

 なんだかこうやって当たり前みたいな反応をされちゃうとこっちがつまらないよね。ティーおじさんとリオはいつも決まっているように反応してくれるから楽しい。噛み甲斐があるってもんだよ。

 まあ噛まれて血を採られてるっていうことが日常になるのは少し困るよね。私の中では既に日常なのが泣きたいところなんだけど。……泣いてもいいよね?

 

 そういえば血を吸うと言えば吸血鬼だよね。……何か布を被ったらお菓子を貰うことが出来るかな。でも被るなら黒だよね。そもそも布がないんだけどさ。

 よくアレな感じのものだと血を吸ったら発情効果とかあったりするけど。……あ、勿論私にはないよ。獲物が向こうから来てくれればありがたいけど自分の利益がマイナスになりそうだから勘弁。

 それにこんなぽよぽよお腹、誰も襲わないでしょ。言ってて悲しくなったからこの話題はここで切り上げるよ。

 

『ご馳走様でした、と』

 

『お粗末様でしたー。もっと飲んでもいいよー?』

 

『いや、つまらないからもういいや』

 

『つまらないから……?』

 

『あ、こっちの事情です』

 

 単純につまらないから。うん、人生って楽しむものだと思うんだよ。食事も楽しまないと損だよね。私は食事の種類が替えられないから方法で楽しむよ。楽しませてー。

 さすがに四体目の犠牲者、とはいかなかったようでしばらく経っても誰も来ませんでした。まあちょうどいい腹ごなしにはなったんだけど。でもまだイライラは溜まってるよ。

 

『やっほー。元気ぃ?』

 

 どうしようかと考えていたらウルさんがやってきました。

 ……ウルさん……。そういえばウルさんのって飲んだことあったっけ? 体毛が邪魔そうだなって思ったことはあったけど飲んだことは無かったような……。覚えてないや。

 でもゲームの中でもギィギは普通に鎧の上からくっついてたりしたから問題ないはず。あれってどうなってるんだろうね? ゲームだからいいのかね。

 ウルさんは止めておこう。うん。毛が口の中に入って誤って喉までいったら死ぬもんね。まだ死にたくないよ。私は七十くらいまで生きてやるんだ。……人間と同等までモンスターは生きられるんだろうか。

 

『こんにちは、ウルさん』

 

『やーん、相変わらずサヤは可愛いわねぇー!』

 

『それはどうも』

 

『ねえねえ、食べてm』

 

『お断りします』

 

『あらヤダあ! 照・れ・ちゃ・っ・て! 可愛いわね、本当ぉ』

 

 このモンスターのポジティブはどこから出てくるんだろうかね。私には理解できない。

 ウルさんの登場により隅で震えているジョーおじさんは置いておく。なんか毎回過ぎて飽きてきた。なんかこう……、新しい展開が欲しい。ジョーおじさんが勇気を出すとか、彼女できるとか。……無理だね!

 まあ珍しくウルさんが衝動を抑えてくれているので上手い具合に物事が凄くスムーズに進んでるよ。最近我慢を覚えてきてくれて私は嬉しいです。

 約一方、全く抑えてくれないモンスターがいるんだけどね。……おや、噂をすれば翼が空を切る音が。そして大きな着地音が。

 修羅場になるぞ! 全員撤退いいいいいい!!

 

『愛しのジョウ様! 私を奥まで食べ、イヤだ、これ以上先は言わせないで!』

 

『母さんツッコミどころ多すぎるから止めて!』

 

『初回の時と比べたら大分ちげえな』

 

『ティーおじさんメタ発言は控えてください』

 

 はい、ベリィさん登場です。お久しぶり。

 そういえばベリィさんがちゃんと喋ったのは初めてな気がするね! 私もメタは控えたほうが良いな。

 それにしてもウルさんよりかは真面な人だと思ってたのに、なんだか残念。このモンスターもぶっ飛んでるよ。ジョーおじさんって酷いモンスターだね!

 なんで真面なモンスターが私の周りには集まらないんだろう。生まれた場所が悪かったのか。そうに違いないな。……はあ。

 

『何? 抜け駆けぇ? 後から来たくせに何ほざいてんのよぉ』

 

『はあ? なんであんたに許可が必要なの? 本当、つくづくウザいわね』

 

『あたしが先なのよぉ。抜け駆けなんて絶対に許さないわぁ!』

 

『はんっ! 私はあんたみたいな馬鹿には負けないわ!』

 

『ティーおじさん、血をください』

 

『おう……。って通常運転すぎるだろお前!?』

 

 場の空気を和まそうとしたらティーおじさんに怒られた。うん、嘘。お腹減っただけ。

 それにしても雌の戦いは怖いね。前はすごい勢いで去って行ったからあんまり見てなかったし。予想以上の寒気を感じる攻防だなあ。もう見なくていいや。

 

『あーたーしぃー!』

 

『わーたーしー!』

 

『なら公平に二人同時で』

 

『『ナイスアイデア』』

 

『またお前は要らない事言うな!!』

 

 涙声のジョーおじさんが大声を上げてきました。あはは、涙声だと随分可愛いですね。なんか猫みたい。メラルーさんたちのところ行ってきたらどうですか? ついでにお菓子もお願いします。

 まあ大声を上げたらどう考えたって危ないんだけどね。

 

『早い者勝ちよぉ。勿論ー、異論はないわねぇ?』

 

『良いわ、今回はそれで条件を飲むわよ、飲んでやるわよ!』

 

 ほら、即座に目をつけられてる。すっかりビビッてるね、ジョーおじさん。小型化したらペットに出来そう。

 飛ぶようにジョーおじさんは洞窟から出て行った。それを追って他二体も退場。お元気でー。……さて、修羅場を次に見るのはいつだろうね。もう見たくないんだけど。

 暇になったから久々にメラルーさんたちのところ行ってみようかな? もしかしたらお菓子がもらえるかもしれないし。

 私はそんなことを考えて重たいお腹を引きずりながら洞窟の外へ向かっていきました。

 ……あれっ、ハロウィンほとんど関係ない?

 

 

――――――――――

 

 

 上手くできた。

 嬉しい想いと、早く見せたいという想いで俺の心はいっぱいになっていた。

 よう! 久しぶり。スウだ。忘れてたなんてことは無い、と信じるぞ。信じてもいいよな?

 今、俺の手の中にはカラフルな赤、青、黄の三色の包み紙に包まれた飴があった。ちなみに俺の手作りだ。意外と言ったやつ、差別はよくないぞ。

 

「先輩先輩ー! ニュースです! 上手くできたんですよー!」

 

「なんだ? 子供か?」

 

「ちょっ、いきなり下ネタとか止めてください!」

 

「ぐほっ!?」

 

 いきなり男先輩がネタとしては酷過ぎる発言をしてきた。なんで?

 そして俺は反射神経で先輩の鳩尾に拳を叩き込んでいた。なんで!?

 

「ああああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

「ぐふ……、今のは効いたぜ……。ティガレックスのバインドボイスより効いたぜ……」

 

「あはは、死にかけてるー」

 

「ごほお!?」

 

 崩れ落ちてこの世の終わりのような顔をしている男先輩の顔を見て、急いで謝る。体勢も立っている状態から一秒も経たずに土下座に変更。俺は何て事を……!

 ふと声が聞こえたな、と思って顔を上げた瞬間容赦なく踏まれた男先輩。あ、もう一人の先輩が帰ってきた。なんかかなり鬼畜なことをした気が……。

 リアクションが良かったのが気に入ったのか、嬉しそうに微笑む女先輩。可愛らしいんですけど、微笑む内容が俺には理解できない。そんな俺は正常だよな?

 

「あ……、川が見える……」

 

「先輩! 戻ってきてください!」

 

「……婆ちゃん……。大丈夫、すぐ逝くよ……」

 

「何も大丈夫じゃないですって先輩いいいいい!!」

 

 これはマズイ。ガチで男先輩があの世へ逝ってしまう。

 まさかの非常事態に焦る中、ふと俺が飴を作った時にできてしまった暗黒物体、基失敗作を思い出す。何故か真っ黒な塊に変わったんだ。

 ズボンのポケットに入れていたのを思い出し、すぐにそれを取り出して男先輩の口に放り込む。

 

「っ、ぐ!?」

 

「ぎゃあああああ! 先輩飲み込んじゃ駄目!!」

 

 俺が放り込んだ飴を別の食べ物と間違えたのか、あろうことか男先輩は飴を飲み込もうとした。で、案の定のどに詰まった。死期が早まったあああああ!

 急いで男先輩の背中を叩いて飴を出そうとする。けらけら笑う女先輩と息が出来ずに顔を青くする男先輩。なんて真逆。というか女先輩手伝って!

 十五回ほど叩いたところで男先輩の口から黒い飴が転がり出た。すぐにひゅーひゅーと呼吸音が強くなってちょっと怖かった。

 

「ごほ……。死ぬかと思っ、うええええ……」

 

「今更!? 今更味ですか!?」

 

 どうやら吐きそうになるくらいの味を暗黒物体は持っているようだ。出来ればそれでこっちの世界に帰ってきてもらった方が労力がいらなかったんだけど。

 ため息をついてから俺は最初の用事を思い出す。この先輩たちといるといつも大事なことを忘れそうで怖い。というか忘れる。

 とにかく、手短に飴を作った理由を話す。ただ単に俺が食べたくなっただけなんだけど。

 

「へえ、美味しいそう。私も食べていい?」

 

「ええ、そのつもりで三個作りました」

 

 俺がさっきの三色の雨を取り出すとぱあっと顔を輝かせて全部掻っ攫おうとする女先輩。ちょっと待ってくれませんかね。

 女先輩の横取りを阻止したら不機嫌な顔をされたけど防ぐべきだ。まだ説明は終わっていない。“飴の説明”については。

 

「ただの飴じゃ、つまらないと思いませんか?」

 

「……どういうことだ?」

 

「ロシアンルーレットです。三個中一個が当たりです」

 

「二個は外れってこと? 運の良さが試されるねー」

 

「逆にここで全て使い切るという解釈も出来そうだ」

 

「そんなこと言わないでくださいよ、先輩……」

 

 ロシアンルーレットのこの楽しさは男先輩には伝わらないようだ。残念。

 今回の飴の種類は三種類。一つは普通の味。一つは蜂蜜たっぷりの吐きそうになるくらい甘い味。一つは先輩がさっき食べた暗黒物体に色を付けただけのもの。かなり差があるが、これが醍醐味だと思う。

 俺はどれが当たりだか知っているので机に並べて先に選んでもらう。女先輩が俺の反応を見て選ぼうとしてきたので俺は背を向けて二人が選ぶのを待った。

 

「終わったぞー」

 

「分かりました。……俺は黄色ですか」

 

「私、血が好きだから赤ー」

 

「怖えよ。俺は青、だな」

 

「じゃあ、合図で一斉にいきましょう」

 

 先輩たちに了承を取り、「せーのっ」で一斉に飴を口の中に含んだ。

 俺は当たりだ。つまり普通の味。面白くないとか言うんじゃない。一応普通の味が当たりなんだからな。俺は笑いは求めない。

 さてどっちがどっちの飴だろうかと、二人の先輩の反応を見るために俺は伏せていた顔を上げて視線を先輩たちに向ける。

 俺的にはもう一回暗黒物体を男先輩に食べてほしい。さっきの反応をもう一度。

 

「俺は当たりですね。お二人は?」

 

「「……」」

 

「うわ、微妙な顔してる」

 

 なんとも判断しづらい無表情で先輩たちは立っていた。リアクション、俺が求めたリアクションがない。なんだか少し興冷めだ。

 もしかしたらどっちも暗黒物体だっただろうかと考え直す。あー、よく考えたら包装間違えたかも。ってさすがにそれは無い。俺はそこまでボケちゃいない。

 

「美味しい……」

 

「なんだ、美味いじゃないか」

 

 失敗してしまったかなと考え込んで視線を外していた俺の耳に、ありえないはずの言葉が飛び込んできた。

 そうか、美味しかったか。良かった。……いやいやいや!? 違うよね、おかしいよね、どういうことなの!? あれ? 俺の常識が通用しない人が目の前にいるよ?

 疑問符が頭を飛び交い、軽くショートしかけている俺に、ご丁寧なことに二人が説明してくれた。

 

「言ってなかったか? 俺は甘党だ」

 

「私苦いの好きなんだよ?」

 

「限度! 限度!!」

 

 ちょっと待て。それは味音痴じゃないだろうな。

 ……いや、でもさっき男先輩はあの苦さに反応していたしな。じゃあ女先輩のほうはどうなんだ?

 試しに蜂蜜たっぷり飴も渡してみた。「美味しい」この人、人間辞めてないよな?

 

「ズルイ。俺にももう一個くれよ」

 

「どうぞ」

 

「サンキュー。……ぐふぅ」

 

「あんたって馬鹿だよねー」

 

「多分先輩には言われたくないと思います」

 

 着色済みの暗黒物体を渡したら即座に倒れ伏せる男先輩。素直と言うか人がいいと言うか……。

 「どういうことー?」と頬を膨らませる女先輩を無視して倒れた男先輩の口に蜂蜜たっぷり飴を入れる。さっきのお詫びだ。かなりの甘党だからお詫びになるはず。

 

「先輩、すみませんでした」

 

「……」

 

「先輩?」

 

 あれ、おかしいな。男先輩が反応してくれない。

 異常な事態に首を傾げるが、すぐに嫌な考えが浮かんでまさかと思いながら男先輩の口元に手を寄せ、耳を寄せる。

 しっかりと聞いて、心臓のほうの音も聞いて。

 

「……息、してない」

 

「え? うーん。……仕方ないかな」

 

「うわあああああ!! 帰ってきてください先輩!」

 

「頑張って!」

 

「だから何か手伝ってくださいよ!」

 

「じゃあちょっと買い出し行ってくるねー」

 

「待ってっ、待ってえええええ!」

 

 虚しく響き渡る俺の声を無視して、女先輩はさっさと家の外へと出て行ってしまった。酷い! 少しは手伝ってくれてもいいのに!

 ……それにしても、どうやったらいいんだろう。人口呼吸、できればしたくないなあ。うん、なんだか男先輩だけには絶対したくない。知り合いは嫌だ、他人は助ける。俺の変な考えだ。無視してくれ。

 とりあえず心臓マッサージから始めるか。俺は両手を男先輩の胸の上に添えた。ただのロシアンルーレットから、どうしてこんなことに……。

 お菓子作りを後悔するなんて日が来るとは思っていなかった。俺はこれからしなければいけない作業を頭で順々に思い浮かべながら小さく息を吐くのだった。




これからもよろしくお願いいたします。
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