ハッピーホワイトデー? うーん、なんなんだろう。
というわけで迷った結果がこの題名です。
というか遅くなってすみません……。もう夜ですね、終わっちゃいますね。
『えーっと、リオのホワイトデー教室……?』
どうも、リオだ。
なんか久しぶりにサヤにお呼ばれしたと思って洞窟に行ったら俺宛の手紙が置いてありました。
……うん、まったく状況が分からないのは俺だけじゃないはず。
手紙によると『いっつも説明するの面倒だからたまにはよろしく』だそうだ。ご丁寧にカンペも入っていた。そこまで用意するなら自分でやれよ、と言ってやりたい。
あ、ちなみに手紙に使われた文字は“ひらがな”って言うらしい。この前サヤから暗号を作ったー、って言って無理やり教わった文字だ。おかげで覚えたけども。
『何故サヤじゃないんだ?』
『サヤは面倒くさいからと言って逃げました』
『どーでもいいぜ、さっさと始めてくれ!』
なんなの、ティガさん。俺だってまだ混乱気味なのにそんなに投げやりにされても困るんだけど。これ以上俺を悩ませる原因を作らないでくれ。
頭が痛いと片手で押さえていると、ジョウさんから『頑張れ』とジェスチャーが送られてきた。そう思うならジェスチャーを送ってないで手伝ってほしい。
『ホワイトデーとは、“にほん”が発祥のバレンタインデーのお返しの日である』
『……それだけか』
『それだけしか書いてなかった』
あれ、これだけなら面倒くさいなんて思う要素ひとつもないんじゃないの。と首を傾げた俺の考えは絶対あってると思う。これのどこが面倒くさいのか、サヤに子一時間くらい問いただしたい。
少し拍子抜けしているティガさんとジョウさんの視線が痛い。俺は悪くないんだからなっ。
『そういえば、ティガ。お前、バレンタインの日はどこに行っていた?』
場の空気を察してか、ジョウさんが助け舟を出してくれた。
確かにあの日はティガさんを凍土で見なかった。しいて言えば朝方に空を飛んでいるティガさんを一度見ただけの話で。
ちなみに俺はずっと家にいました。母さんを見送ってからすごく暇でした。
『俺? 俺は火山に出かけてたよ』
『ああ、ミキに呼ばれたのか』
『そうそう! まさか呼ばれるとは思わなかったぜ』
その日のことを思い出したのか、嬉しげな表情を見せるティガさん。それとは対照的にジョウさんは恨めしそうにティガさんを睨みつけていた。
『俺なんてあの日は一日中追い回されたぞ』
『いつも母さんがすいません……』
『いや、お前が謝ることではない』
『まあなんだ、要するにホワイトデーはお返しの日なんだな、リオ?』
『あ、うん。カンペにはそう書かれてるよ』
というかそれ、さっき俺が言った事をそのまま言っただけですよね。とは言わない。あまり踏み込んだ会話をすると引き伸ばしになっていろいろと面倒なんだ。
ティガさんは『準備しねえと!』と意気込んでさっさとどこかへ行き、ジョウさんは『明日は森にこもって寝るか』と住処へと帰宅していった。
さて、俺はバレンタインデーは特別何かがあったというわけじゃない。家でぼんやりとしていただけだから、何かお返しを渡さなきゃいけない相手もいない。
……明日は暇になりそうだな。そう思って技の特訓にいつも使っている開けた場所へ行くため、翼を広げた。
――――――――――
どうも、サヤです。正直、暇です。
……いやだって、特にお返しとか必要じゃないんだもん。女子の私にとっては暇な日です。あ、ホワイトデーは男子が頑張る日ってわけじゃないけどね。私はバレンタインデーに済ませちゃってるので暇なんだよ。
そういえばミキさんはこの前のバレンタインデーのときにティーおじさんを火山に招いてちょっとしたお食事会を開いたらしい。まさしく恋人、って感じがしちゃうね。結局あそこってうまくいってるのだろうか。
『サヤ、今日は何の日でしょうか!』
『ホワイトデーです』
『せいかーい。と言う訳で、はい』
『……』
腕を差し出してきたお母さんにちょっとしたデジャヴを覚えた。あれ、似たようなことがバレンタインデーのときにもあったような気がするんだけどこれは私の気のせいかな?
まあちょうどお腹が減っていたから食事も兼ねてありがたく貰うけどね。ちゅーちゅー、と吸えばいつも通りの鉄の味が口の中いっぱいに広がった。これが美味しいって思える私って心も人外に染まってきちゃってるよね。
多分、こっちに来てから半年ぐらいが経ったと思うけど、そんなに短い期間でここまで染まるものなんだろうか。……いや、いろんなことを中途半端にたくさんやる向こうと違って、同じようなことをずっとやってるからなー。その分慣れが早いのかも。
『そういえば、洞窟の外でティガとミキさんがなかなかいい展開なんだよー』
『お母さんにいい展開とか分かるんですか?』
『さりげなく失礼だね、サヤー。私だってそれくらいは分かるもん!』
『分かりました、分かりましたから怒らないでください』
お母さんが怒ってもまったく怖くないけどね。むしろ可愛いなーって思っちゃう。そこから先の関係にー、みたいなことは誓ってありませんがね。
お母さんの背中に乗せてもらって洞窟の入り口付近まで移動。そこからこっそりと外を窺うような形で二体揃って覗き見を開始する。罪悪感なんてないよー。というかリア充は爆発しちゃえばいいんだよ。
『ティガ、何か用かな?』
『
『どういたしまして。喜んでもらえてよかったよ』
話が通じてる! いや、普通通じないでしょ、あんな言葉じゃ。あと、ティーおじさん、ポポを口に咥えたまま喋らないでください。何を言っているのか分からないし、何よりグロいです。
……まさか、ついさっき採ってきたとかそういうのじゃないよね。僅かながらに温度が残ってるし、時々少し動いているような気がするんだけど……。わ、私は何も見てイナーイ。
『とりあえずお礼をしといたほうがいいかなー、って思ってな』
『わっ、本当? そういえば今日はホワイトデーだっけ?』
『おう。なんかそういう名前の日らしい』
ティーおじさんは果たしてきちんと分かっているんだろうか……。ティーおじさんにも分かりやすいように説明は一行にして置いたんだけど、まさかあれでも分からない?
なんだか心配になってきた、主にグダグダになりそうな意味で。
お母さんはわくわくしながら事の成り行きを見守っている。案外こういうの好きなんだろうか。
『このモンスターはなんて言うの?』
『こいつはポポだ、美味いんだぜ』
『へー……、火山のほうじゃ見かけないなあ』
ミキさんはモンスターハンターの世界観を知らないんだっけ? そういった会話をしたことがなかったけど、それは単純に知らないからだったのか、なるほど。
ティーおじさんは時々火山に出向いているし、もしかしたら他のモンスターの名前も教えてあげているのかもしれない。どうしてミキさんがモンスターの名前を知らないのかは聞いてなさそうだけどね。
もぐもぐとポポを頬張るミキさんと、それを(多分)嬉しそうに見守っているティーおじさん。なかなかいい雰囲気だね。ぶち壊したくなる。……いや、ミキさんに迷惑かけたくないからしないけども。
『ごちそうさま! 態々僕なんかのためにありがとうね』
『いや、いいさ。俺だって前にやってもらったろ?』
『んー、そういうことでいいのかな?』
『いいんだよ』
……今更ながら気付いたんだけど、今日のティーおじさんっていつもと少し違う? その、雰囲気とか話し方みたいな意味で。これはあれかな、好きな子の前だとっていう心理かな。私はもちろん経験したことないけど。
でもやっぱり別人のティーおじさん怖い。誰ですかあなた。恋煩いしていたときのティーおじさんと同じくらい怖い。どうしよう、今のティーおじさんに話しかけられたら全力で拒否できる気がする。
『え、えっとだな、その、話があるんだ』
いつもと違うティーおじさんに慄いていると、話はまた私を置いて進んでいたようだ。おっと、いけない。ちゃんと聞いておかないと。それで後でからかいの種にしないと。
しどろもどろになって若干挙動不審に見えるティーおじさんを見て、ミキさんはきょとりとその首を傾げた。皆さん、すごくいい雰囲気漂う光景に見えますが、この二体はティガレックスです。忘れちゃいけません。
『そ、その、実は……』
きゃー、感動の告白ってやつだね。どっか森の奥でやってください。なんか見ていて心が痛いです。
緊張しているのか『その、あの、えーっと』と言葉になっていない言葉を呟き続けるティーおじさんに、『何を言ってるの?』とミキさんは訝しげに尋ねている。空回りしてない?
これからどうなるんだろうかと他人事のように思っていたら、地面が少し揺れていることに気付いた。……そうだね、この凍土じゃ自信なんて日常茶飯事だよ。
『『ジョウ様、是非ともお返しを!』』
『俺は何も貰った覚えがないぞ!』
あはは、そうだよね、やっぱりあなたたちだよね。しかしなんてタイミング。グッジョブです。
いきなりの三体の登場にポカーンとその場に突っ立つティーおじさんとミキさん。特にティーおじさんは温度の上昇が激しい。あれ、怒ってます?
と、その三体の後を珍しく誰かが追いかけているのが見えた。
『すいませんすいません! 母さんが迷惑かけてすいません!』
『え、ぁ、リオくん……?』
『あとでお肉をお詫びとして持っていくので今は許して下さい!』
珍しく丁寧に早口でそう言い切った後、リオは三体の後を追いかけて見えなくなった。親がああだと苦労するんだね……。それにしてもリオがあの三体を追いかけるなんて珍しい。今日がホワイトデーだって知っていたからかな?
さっと登場してさっと去って行ったあの四体のことを神出鬼没って言うんだろうな。そんなことを思っているとプルプルとティーおじさんが震えていることに気付いた。ティーおじさん、震えていいのは可愛らしい小動物だけだと思うんです。ゴツいティガレックスがプルプル震えてるとか誰得ですか。
『……あいつら……』
『どうしたの、ティガ』
『……いや、なんでもない。なんでもないさ……』
『な、なんだか今日は哀愁が漂ってるね』
何を思ったのか、ミキさんがよしよしとティーおじさんの頭を撫でていた。
そういえば私が勝手に“おじさん”って付けてるけど、ジョーおじさんとティーおじさんはいったい幾つなんだろうね? あと、おじさんって何歳から使うものなんだろう。
『……これ以上は見るのを止めようかー』
『そうですね……』
お母さんのナイスな判断に従って、私たちは洞窟の奥まで戻って行った。
なんだか見ていて面白い一日でした。
――――――――――
どうも、スウである。え、似たような挨拶を既に二度見た? 気にすんなよ、そんなの。俺にとっては一回目なんだからな。そういうのは気にしたら負けだと思う。
さて、今日はホワイトデーである。毎年毎年サヤ先輩が「お返し頂戴!」と煩いホワイトデーである。俺たちを死の恐怖に晒しているくせにちゃっかり貰ってるサヤ先輩の神経って図太いと思う。
と言うわけでまたしても俺の部屋だ。俺の部屋以外行くところないのかよって感じだ。ミキの部屋も「男子は禁制!」とかなんとかで入れてくれないんだ……サヤ先輩が。なんであの人余計なことするんだろう。関係ないのに。
「ホッワイトデー! ホッワイトデー!」
「な、なんだか今日はいつも以上に機嫌がいいんですね?」
「私はこの日が一番楽しみなんだよー!」
「そうなんですか……」
わくわくと楽しみに顔を緩めているサヤ先輩は可愛いけど、バレンタインデーのことを忘れているから許さない。なんであの日のこと忘れてるんだろう。というかあの日の華麗なまでのスルーってなんなんだろう。そんな無駄なスルースキルは今すぐかなぐり捨ててください。
とりあえず、今回は男子が女子に対して贈る日である。
まずは俺から……、と俺は一度二人から離れて机まで向かう。机の上には上に布がかかったバスケットが置かれている。中身は、
「ほい」
クッキーである。
うん、定番だよね。なんだかホワイトデーと言えばクッキーというイメージがあるのは俺だけなんだろうか? とりあえず毎年この日はクッキーを作っているような気がする。もちろん毎年バリエーションを変えてはいるが。
今年のクッキーはプレーンだ。普通のクッキー。今までは工夫を凝らしまくってたから、たまには普通のもいいかな、と思ったのだ。その代わりしっとりとなるように焼き上げてある。これはこれでまた苦労したんだけどな……。
「わあ、美味しそう……!」
「た、食べてもいいかな?」
「どうぞ。そのために作ったんだから」
俺の言葉を聞いてサヤ先輩はがっつき、ミキは「いただきます」と一言言ってからゆっくり食べ始めた。何なのこの差。サヤ先輩はもう少し落ち着きましょうよ。
サヤ先輩って本当に女子力ないよなあ。料理もできないし。……あれ、なんかサヤ先輩に睨まれた。
「美味しいー! さすがスウだよ、よくできてる!」
「僕の作るクッキーより美味しい……」
「ほ、褒め過ぎだよ」
「ううん、本当にすごく美味しいよ!」
「今度、僕にも教えてくれないかな?」
「わ、分かった」
二人とも過剰な反応しすぎだよ。そんなに言わなくたっていいのに。お世辞だって分かっていても思わずニヤけ顔になっちゃうじゃないか。俺って絶対詐欺に遭いそう。
ああ、どうしよう、頬が緩みっぱなしだ。と思っていると奥の方から「待たせたな」とリオ先輩が登場した。リオ先輩は右手に鍋を、左手に果物が入った器を持っているようだ。
「……ねえ、リオ」
「えっと、先輩……?」
「あのー、これって……」
「お察しの通り、チョコフォンデュだ」
ちょ、先輩、それって別に料理じゃありませんから。誰でもできますから。ただチョコを溶かしただけですから。あとそれをやるのはバレンタインデーだと思います!
まさかの先輩の行動に俺たち三人は唖然。道理でリオ先輩が「自信がある」と公言していたわけだ。これすらできなかったら人として危うい。……サヤ先輩も、さすがにできる、よな?
「うん、まあ……。美味しいからいっか」
「そうですね……。これもまた新しくていいと思います」
「明確な定義はないし、うん、大丈夫ですよ!」
「なんだこの微妙な反応は」
ちょっとリオ先輩が傷付いたような表情をしていた。そんな顔しないでください。というかこうなったのは全部あなたのせいですからね。
微妙な雰囲気の中、女子二人は俺たちに煽られてもくもくと食べ続ける。俺たちは食べていない。だって今日の主役は女子だから。
「……」
「サヤ先輩、今、チョコに何か入れましたよね」
「サア、ナンデショウ」
「ちゃんと否定してくださいよ!」
この人否定する気がないぞ!
でも確かに今俺は見たんだ、サヤ先輩が怪しいものをチョコフォンデュの鍋に入れたのを。
って、そうこう言ってたら鍋の中のチョコがどす黒い色に変わってきたああああ。本当に何を入れたんですか、サヤ先輩。何を入れたらミルクチョコレートがこんな恐ろしい色に変色するんですか!!
「……」
「あれ、サヤ先輩はもう食べないんですか?」
「うん、私はお腹いっぱいだよー」
「じゃあ僕が貰いますね」
「えっ、あ、ミキ!?」
「ん?」
何を思ったのか、ミキが俺のクッキーに変色したチョコをつけて口に放り込んだ。あのー、ミキさん。あなたはたった今行われていたサヤ先輩の犯行と俺の会話を見ていなかったんですか?
そして何故かリオ先輩もミキと全く同じことをやっていた。あなたたちは何を示し合わせたんですか。あとなんでリオ先輩は食べてるんですか。最初に食べないって約束したのに。
見る間に二人の顔色が悪くなり、最終的に倒れた。何で毎回毎回こうなるの!?
「じゃ、スウはリオの方よろしく。私はミキちゃんの看病するから」
「なんで倒れたことを当たり前にみたいに見てるんですか!? あと勝手に決めないでください!」
「いいでしょ。スウに任せたらミキちゃんが危ないし」
「まったく信用されてないですね、俺……」
落ち込む俺を他所に、サヤ先輩はさっさとミキを担いで俺の部屋から出て行ってしまった。なんでこういう時だけ行動が早いんだろう。狩場でもそれくらい早く行動を起こしてほしい。
というか、これってもしかしなくても俺の部屋でリオ先輩を看病しなきゃいけないんだろうか。部屋には勝手に入るなって言われてるし……。あれ、俺の寝る場所が床になる感じ?
……イベントの度にこういうトラブルに巻き込まれてる俺って一体……。
「あー、もう、起きてください先輩ー」
「……」
「返事がない、ただの屍の……」
「死んで、たまるか……」
「そこは言わせて下さいよ」
その一言を境にリオ先輩は意識を手放した。いや、それを言うよりも自室に帰ってほしかったです。
仕方なく、俺はベッドまで運ぶためにリオ先輩を担ぐのだった。お、重い……。