何故か毒怪竜になった件について   作:キョロ

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お久しぶりです。まったく更新できなくて申し訳ありません。
今回はツイッターのほうでリクエストがありましたのでバトロワを書きました。が、普通のバトロワと期待したら負けです。
とにもかくにも少しでも笑っていただけたら幸いです。

では、スタートです。


季節行事企画番外編 「バトルロワイヤ……ル?」

『ここに、第一回ハロウィン運動大会の開始を宣言する』

 

『これはツッコミ待ちですか?』

 

 知り合いのモンスターを全て集めて高らかにそう宣言したジョーおじさんに、私は冷ややかな声でそう返した。いきなり何を言い出すんだこのモンスター。

 正直、私としては今すぐ帰りたいですよ……。内容もくだらなさそうだし、あんまり日光に長い間当たっていたくないんです。……日光に当たっていたくない? あれ、私何言ってんの!? うおおお、確実に嫌な方向に適応し始めてしまってるよ……。

 

『ルールは簡単だ。最後まで戦闘意識を保てたモンスターの勝ち』

 

『それ運動会じゃないです。バトルロワイヤルです』

 

『なんだよ、それじゃあ俺とサヤは参加できないじゃん』

 

『忘れニャいでください、私もですニャ』

 

『子供は仲良く見学してろ』

 

『私の知ってる運動会じゃない』

 

 種目一つしかなかった、バトロワだけか。

 だけど私たち以外のモンスターにはちょうどよかったみたい。そうか、バトロワか、ストレス発散できる! そんな感じの雰囲気が辺りに漂う。なんでこういう時だけ積極的なの。

 というか運動会って言うのはそもそも子供たちの行事だからね。大人組みが楽しんで子供組みは見ているだけっておかしいと思います先生! ……先生なんていないね、なんだかテンションがおかしいみたい。

 

『観客席だが……ミラ』

 

『ほいほい。擬人化しておるが、そんじょそこらの攻撃なら相殺できるぞ』

 

『何このモンスター怖い』

 

『じゃあミラちゃんに毒液ビーム放っていいー?』

 

『なんでそうなるのお母さん』

 

 態とほど酷いものってないと思います! しかもお母さんは素で言ってるから恐ろしい。

 そういうわけで私たちはミラさんの後ろで隠れての観戦になった。なんでかミラさんがすごく頼もしく見える。これが古龍の存在感……今は擬人化してたんだった。

 話し合いの結果、合図はリオが担当することになった。どうやらジョーおじさんも参加する気だったらしく『俺が合図をしたら不平等だろう』とのこと。周りは気にしないと思いますよ。

 そういうわけで楽しい運動会だったはずが一気に殺気立った雰囲気になってしまった。みなさん、本気になるのはいいですけど地形壊さないでくださいね。

 私の願いは伝わっているのやら伝わってないのやら。ピリピリした空気は変わらない。あ、伝わってないわこれ。

 

『レディー……ゴー!』

 

『先手必勝! 毒液ビーム!』

 

『薙ぎ払いブレス……!』

 

『『バインドボイス!!』』

 

『ちょっとやめなさいよそこのバカップルぅ!!』

 

『ええいっ、黙りなさいな!』

 

 早々から結構悲惨なことになりました。先手を打とうとしたお母さんとジョーおじさんの吐きだし系攻撃を防ぐように、ティーおじさんとミキさんが仲良く揃ってバインドボイス。さすがの二体も攻撃を中断して苦しそうに呻いている。

 そんな中、果敢にウルさんとベリィさんが突撃して二体のブレスを止めさせる。こういう時に限って動きのタイミングが揃っているのは、喧嘩するほど仲がいいってやつなんだろうか。

 

『へへっ、まだこんなんじゃやられねえ……ぜ……』

 

『ちょっ、ティガー!?』

 

 しかしそんなウルさんとベリィさんの攻撃はティーおじさんが一手に引き受け、ミキさんはノーダメージで終わる。ティーおじさんは当たり所が悪かったのかそのまま眠りの世界へ落ちて行った。結構なスピードで激突していったからねえ……どこかの骨が折れてないといいんだけど。

 開始数分で早くもティーおじさんがダウン。その代わりに沈めた二体の代償は大きい。ポ〇モンの技で言う捨て身タックルに近い攻撃は反動で自分にもダメージを負うこととなる。周りにとっては正しい判断でも自分にとっては実に痛い。

 

『ジョウ様! あたしを倒してぇ!』

 

 ……ただし、それは“優勝する意志があるならば”という前提の話。ウルさんみたいに献身的なタイプはどうやら最初から優勝など見えていないらしい。つまりはジョーおじさんさえ一位なら自分は問題ない、そのためなら礎になろう……そんな魂胆のようだ。

 私から言わせてもらうとすれば、それは一番最後にやるべきだと思うのだけれど。

 

『はっ!? ……お前、今回の催しを理解していないのか?』

 

『理解してるわぁ! 理解してる上で言ってるのぉ!』

 

『ま、待て。こっちに来るな。頼むから、来るなっ』

 

『なんで逃げるのジョウ様ぁ!』

 

 結果、ジョーおじさん及びウルさん、敵前逃亡。いや、ジョーおじさんには確かに当てはまる言葉なんだけど、ウルさんの場合は……。まあどちらにせよ試合会場(フィールド)から出たら失格ってことには変わりはないんだけど。あ、言い忘れてたけど、地図で言う二番エリアでやってます。

 ジョーおじさんは優勝候補と思っていただけに少し拍子抜けだなあ。どうしてこんな戦闘物でいつも通りのことをやってのけるんだろう。というかジョーおじさんに至っては今回の発案者なのに絶対忘れてた。いつもの怯えた感じだったし。

 

『馬鹿毛玉……。こういう時くらい真面目にやりなさいよね』

 

『はいドーーーン!!』

 

『いった!? 誰よ雪玉思い切りぶつけてきたやつ!』

 

『俺でーす』

 

『この引き籠り! なんでこんな時だけ出てくるのよ!』

 

『酷い!? 俺ってそんな印象なの!?』

 

 戦いの輪からそれなりの距離を取っていたボルアさんが雪玉を正確にベリィさんにぶつける。さすが人間の時に遠距離職をやっていただけのことはある……のかな? それともこれくらいのことはこの世界にいるモンスターなら割と当たり前のことだったりするのかな。あれ? だとしたらハンターさんたちって相当過酷な職業じゃないの。

 というか、気付いたらもう三体しかいないし。……なんて速い展開なんだ。もうこれバトロワとかそういう類じゃない、いつもと一緒だ、グダグダになってるよ。

 

『引き籠りの何が悪いの?』

 

『あっ……』

 

『何が悪いのかな? かな?』

 

『『……』』

 

 お母さんが、キレただと……!? 口調はとってもやわらかい、いつもと変わらないはずなのにとても場の空が重い。最初以上のピリピリした空気に思わず冷や汗が垂れる。ミラさんも乾いた笑いを漏らしながら背を向けた。

 お母さんの禁句は“引き籠り”と……。案外気にしていたんだ、ちょっと意外。お母さんってあんまり怒るイメージがないから、すっかり忘れていた。温厚で寛容な人ほどキレたときに一番怖いんだったね。

 

『毒液ビーム!!』

 

『きゃあああ!? ちょ、痛い痛い痛い!』

 

『うっ……、これ結構くるね……』

 

 もろにお母さんの毒液ビームを食らって地面に倒れ伏せる二体。意識が残っているだけにじわじわと削れていくってかなり恐ろしいし苦しいことだと思う。いっそのこと気絶させてほしいレベルじゃないだろうか。今のお母さんの毒はG級レベルに匹敵する気がする。

 これ、もうお母さんの勝ちでいいんじゃないかな。時間としては、始まってから三十分も経ってないんだけど。これでいいのかバトロワ。絶対これバトロワって言わない。私が知ってるバトロワはもっと緊迫としてて、シリアスな空気が流れてて、決してこんなギャグじゃないはず。

 そもそもこのモンスターたちでバトロワをやろうとしたこと自体が間違いだったのかもしれない。そういうことにしよう、それが一番幸せだ。

 

『優勝、お母さーん』

 

『わーい、やったー!』

 

『では妾も参加するかの』

 

『……はい?』

 

『チャンピオンとは“しーどけん”とやらがあるのじゃろ? ボルアに前聞いたぞ!』

 

『ボルアさああああん!!』

 

『い、いつ言ったっけ……オレココロアタリナイヨー』

 

『嘘つけない人だ』

 

 反論するならもうちょっと棒読みするの止めてください。正直者っていう点においては良いことなんだろうけど、嘘をつくときにはちょっと不利だよね。今みたいな状況とか。

 ところで、私はさっきから何かを忘れているような気がしてならないんだ。何を忘れているのかも分からなくて……なんだったかな。周りのみんなも忘れている何か、それが分からない。

 しばらく首を捻っていて、ふとした瞬間に見上げた空に熱を感じてようやく思い出した。

 

『ちょっと、僕を忘れてもらっちゃ困るよ?』

 

『あ、』

 

『食らえ、飛びかかり!』

 

 いつの間にか上空で待機していたミキさんが地面との差も利用して、思い切りお母さんの上に圧し掛かった。元々ギギネブラ種は装甲が硬いわけじゃない、むしろ柔らかい。同じ竜種でもティガレックス種なんかと比べてしまえば、それこそペラペラもいいところだ。

 そのためにお母さんは呆気なく――ぷちっと擬音がなりそうな感じで、しかもお母さん自身『むぎゅっ!?』と声が漏れていた――潰されてしまう。一気に形勢逆転、それも一瞬で。

 

『勝者、僕!!』

 

『じゃあ妾と戦うか』

 

『えっ? ……これ何の話?』

 

『ミラさんがシード権を行使しようとしています』

 

『シードなんてあったんだ。……帰っちゃ駄目?』

 

『駄目じゃ。妾がつまらんからの』

 

『それよりも私たちの解毒をしてくれないかしら』

 

『俺、そろそろ辛いんだけどー……』

 

 そういえば忘れてた。でも解毒薬とか持ってないし、どうしよう。そもそも人間が作った解毒薬はモンスターにも有効なのか、という問題もあるけど。解毒草も凍土には生えてないしね……。あれ、詰んでる?

 するとミラさんが懐から何やら葉っぱのような物を取り出し……それ解毒草!! なんで最初に出さなかったんだろう、まさかミラさんも鬼畜の類ですか。まあそのまま素直にあげているところを見ればそこまで鬼畜ではないのかもしれない。

 

『さあ、ミキよ! 戦おうではないか!』

 

『でもミラちゃん、人間のままでいいの?』

 

『ここで戻っても迷惑じゃろうし、一種のハンデという意味もあるぞ』

 

『随分余裕だねえ』

 

『目を瞑ってやってもいいぞ!』

 

『じゃあ目を瞑ってくれる?』

 

『やっぱり開けさせてくれ』

 

 なんて不毛な会話なんだろう……。ミラさんはいったい何をしたかったのか、ちょっと私の思考能力じゃ理解できない。

 ギャグなのか漫才なのかよく分からない会話をぼんやりと聞き流す。なんでぼんやりしてるのか分かった。やっぱりこれもグダグダだからだ。いつものことだけど、これはいつも以上のグダグダだなあ。

 

『それじゃ、早く始めようよ』

 

『うむ、そうじゃな。では参るぞ』

 

 朗らかな様子でそう告げたミラさんは、右手で銃のような形を作ってそれをミキさんにまっすぐ向けた。……え? いやいや、まさかね。そんなことはないよね? ちょっとした可能性を思いついて、心の中で全力で否定しにかかる。

 

『ばっきゅーん、なんてな』

 

 視界の一部、ミラさんの姿が真っ白に染まって視認できなくなると同時に、ミキさんに向かって一直線に白が放たれる。あまりの速さにミキさんは反応することができずにそのまま当たって倒れた。

 今のはいったいなんだったの……。訳が分からず立ち尽くしていると『わー、ミラちゃん酷いなあ』としみじみといった感じでボルアさんが呟いた。む、ボルアさんは状況が分かっているんですか。

 

『ミラちゃんの人間形態での雷攻撃だよ。放電みたい感じかな』

 

『妾は古龍じゃからな! これくらい造作もないぞ』

 

『最強ですね……』

 

『そうでもない。妾も筋肉痛には勝てんからな』

 

『そういえばそうだった』

 

 ということはこの後洞窟に帰ったらまたボルアさんにサロ〇パスを貼ってもらうんだろうか。なんだかボルアさんがすごく苦労性に見えてくる。とくせい:くろうしょう、とでもつけておけばいいんじゃないかな。

 確認のためにミキさんに近寄ってみるとただ気絶しているだけらしく、『きゅう……』と目を回していた。台詞だけ見れば可愛いんだけど、これを言っているのはティガレックス亜種って考えると微妙な気分になるな。

 今回のバトロワの勝者は……ミラさんでいいのかな。なんだかミラさんの参加自体が反則のように見えてくる不思議。次回がもしあるときはミラさんにはおとなしく観客席にいてもらおう。私としては次回があるなんて聞いただけで頭が痛くなってくるからやめてほしいけどね。

 

 まあたまにならいいかな? 今回の戦闘を見て分かったけど、ここにいるモンスターは知恵を有しているせいで通常のゲームで出てくるモンスターよりも強い。技の強さなんかはもしかしたら同じかもしれないけど、知恵の有無で更に強くなることは十分に可能だ。

 そしてこの凍土にはありえないほどの団結力も存在する。この状態での力をハンターさんたちなんかに全力で振るったら、死んでしまうかもしれない。私が今まで留守番をしていた限り、お母さんたちがハンターさんたちを殺したという話は聞かない。だからこそ気づかなかったんだけど、今なら分かる。お母さんたちはわざと手加減をしている。

 自らを殺しにきているハンターさんたちを、どうしてただ返り討ちに遭わせているだけなのかは分からない。大規模な討伐作戦に持ち込ませないためだとか、いろいろな可能性はもちろん考えることができるんだけど、結局今はまだ関係私には理解できないのだ。

 だからきっとみんなはストレスが溜まっている。きっとそれに気づいているモンスターは少ないはずだ。それならこういう場を設けて発散したほうがいい。これは、少し周りが迷惑になるかもしれないけれどいい機会であることには変わりないんだ。

 

『それじゃ……。ある程度身体も休まったし、脱落者を運ばないと』

 

『今のままだと格好の餌だもんな。……そういえば母さんたち、どこまで行ったんだろ』

 

『そのうち帰ってくるだろうから心配しなくていいわよ、リオ』

 

『妾も手伝おうか?』

 

『ミラちゃんは先に帰ってて。後でサロ〇パス貼ってあげるから』

 

『む、すまんな』

 

 それぞれがそれぞれの行動を移し始め、自然とバトルロワイヤルはお開きという形になった。

 私もリオとかと同じくやることがないし、洞窟に帰ろうかな。お母さんはベリィさんが運んでくれるみたいだしね。本当にありがとうございます。

 

『あ、サヤさん。これ、後でギギィさんに渡してくださいニャ』

 

『ん? ……お酒ですか?』

 

『そうですニャ。前に頼まれていたんだけど、渡す機会がなかったもんでニャ……』

 

『そうだったんですか。ありがとうございます』

 

 メラルーAさんから血のお酒が入ったビンを貰う。も、貰ったもののどうやって持って帰ればいいかな……。仕方がない、口の中に突っ込んで帰ろう。洞窟に辿り着くまでに私が窒息死しないことを祈ろうか。

 ビンを咥えたことで少しバランスが取りづらくなったけど、これくらいなら大丈夫、だと思う!

 時間としては始まってからそれほど経っていないはずなのになんだかとても疲れた。きっと明日は午後になるまでみんな寝ているに違いない。少し想像してみて、すやすやと眠るジョーおじさんを考えて思わず吹き出しそうになる。危ない危ない、今の私だと大砲みたいにビンを発射しちゃうよ。

 次のどんちゃん騒ぎはいつになるんだろう、そんなことを思いながら私は帰路についた。

 

 

――――――――――

 

 

 ハロウィンとは、「トリックオアトリート」を合言葉にしてお菓子をせしめる日である。

 ハロウィンについて何も知らないらしいミキが俺たちに概要を尋ねたとき、まずそう発言したのはサヤ先輩だった。今はどこから取り出したのかリオ先輩にハリセンで顔面を叩かれて蹲っている。

 まあサヤ先輩の言っていることは半分正解だ。子供が「トリックオアトリート」と近所の家の扉を叩いて周り、お菓子を貰う日。サヤ先輩のは言い方が悪いだけであって、何も間違いじゃないんだけど、やっぱり言い方って結構大事なんだなと思った瞬間だった。

 

「馬鹿、変な知識を押し付けるな、馬鹿」

 

「二回も言った! お父さんにも言われたこと……あるけど!!」

 

「あるのかよ」

 

「それで、結局のところ何をするんですか? 去年は飴がどうのこうの聞きましたけど……」

 

 ミキに言われて、そういえば去年は三種の飴を使ってロシアンルーレットをやったんだと思い出す。確か二人とも外れだったのにたいした反応が見れなかったんだったっけ。あれはすごく期待はずれだった。だから村の人たちにもあとで余った飴をおすそ分けしに行ったんだけど。

 今年は料理が作れる人(つまり、ミキ)が増えたから、バリエーションも増えるかなって思ってたんだけど、この様子だとミキは何も用意をしてなさそうだし、やっぱり俺のしかないのね、今年も。

 一旦部屋に戻り、今日の朝に仕上げたお菓子を持って広間に下りてくる。サヤ先輩とプーギーが目敏く甘い匂いをキャッチしたらしく瞳を輝かせていた。プーギー、お前の分は作ってないからな。

 

「今年はドーナツです」

 

「おおおお!! これは熱帯イチゴの匂い……!」

 

「無難なチョコレートもあるな」

 

「よく作ったね……。スウくん、将来いい主夫になれるよ」

 

 みんなの反応がなかなかによくて思わず表情が綻ぶ。料理を作る人にとって料理を褒められるって言うのはうれしいことだ。だからこそ作り甲斐がある。

 他にもハチミツ味だったりプレーン味だったりと去年よりもバリエーションは多くしてみた。その代わり今年はロシアンルーレットではないので暗黒物体は消滅している。

 去年は悪ふざけ的意味合いもあったけど、今年は純粋に楽しむことが目的だからな。

 

「はーい、プーギーも食べようねー」

 

「ちょっ、サヤ先輩! 与えないでくださいよ、調子付きますからこいつ!」

 

「駄目だよ、スウくん。プーギーが可哀想だよ?」

 

「ぐっ……。おいプーギー、チャンスだと思って上目遣いしてんじゃない!」

 

 なんだ? このプーギーは人間の言葉が分かるのか? これ見よがしに女子陣に媚びてきやがった。誰かこいつ引き取ってください、俺の心はもう限界です。

 ショックを受けているとポンとリオ先輩の手が俺の肩に乗せられた。何事かと思い振り向いてみると、嘲笑の混じった普段見ることがないほどのすばらしい笑顔でサムズアップされた。俺の心を傷つけて楽しいですか……。

 

「ドーナツが美味しいなー……」

 

「緊急事態が発生した」

 

「状況は把握したよー」

 

「ツッコミ役不在の危機ですね!」

 

「ねえなんなの、俺にはツッコミしか求められてないの?」

 

「あとはご飯かな」

 

「ハンターとしてのことが何一つ触れられてない!!」

 

 これは俺に料理人にでも転職しろということですか。それでも俺はハンターとしてやっていきたいんだけど、それも駄目なのか? いや、ネタで言ってるってのは分かるんだけどネタでも言っちゃいけないことはあると思うぞ。

 涙目になりながらドーナツを食べていると少し戸惑った様子のミキが俺の頭を撫でた。ミキのほうが背が低いからキュンときてしまう。それ以上はやめてくれ、なんか危ない気がするから。

 ミキに宥めてもらったおかげで少し元気が出てきた。そもそも冗談はいつも言われてるから、あんまり気にしすぎちゃいけないんだけどな……。

 

「ところでさ、去年の飴はないの? ほら、苦いやつ」

 

「去年……。ああ、例の暗黒物体ですか」

 

「それそれ、今年はないの?」

 

「あれは失敗作ですからね。というかそんな滅多にできるような代物じゃないですから」

 

「頑張ってもう一回作ってくれない?」

 

「失敗作作れって初めて言われた」

 

 そんなにいい物だったのか、あの飴は。だってリオ先輩は一撃でノックダウンだったし、俺自身一舐めだけでもういらないってなったし。いくら苦いものが好きだって言われても、あれは信じられないレベルだよ。それを好き好んで食べるサヤ先輩って味覚が壊滅してるんじゃないだろうか。

 作ってと言われても、俺としてはもう二度と作りたくないし作れそうにないんだよな。その旨をサヤ先輩に伝えると残念そうに眉を八の字に下げた。そこまで残念そうにされても困る……。

 

「あれくらいならサヤ先輩でもできるはずですけど」

 

「本当っ? じゃあ材料教えてよ」

 

「……材料も何も、なんでもいい気が……」

 

「ハチノコとか不死虫とか?」

 

「なんで虫を入れようって思ったんですか」

 

 ハチノコはまだ許せるとしても、何故不死虫が出てきたのか小一時間は問いただしたいところだけど、なんだか不毛な会話になりそうだからやめておくことにする。でも……いや何も言うまい。

 思考がずれているのはいつものことであるのに代わりがないので、今日も平和ダナーと心の中で呟いておくに留めておくことにした。こういうのにもいちいちツッコミしてたら俺の精神持たないって。ほら、今日はせっかくのハロウィンなんだからさ、俺もさっき精神ダメージ負ったし休ませてください。

 

「よし、決めたぞ」

 

「突然どうしたんです?」

 

「これからトリックオアトリートしてくる」

 

「……もしかしなくてもリオさん、他のお宅に行くつもりですか?」

 

「それ以外に何があるというんだ? ほら、行くぞ、サヤ」

 

「りょーかーい」

 

 とてもウキウキとした表情でリオ先輩がサヤ先輩を引き連れて出て行った。あんなに子供っぽい表情のリオ先輩を見たのは初めてかもしれない。そういえば甘党って言ってたし、ひょっとして去年も今年もハロウィンをすごく楽しみにしてたんじゃないだろうか。

 普段あまり表情が動かない人のはずなんだけど、今の表情は初対面の人でも分かるくらいウキウキしてたし。貴重な瞬間を見れてなんだか満足だ。

 

「なんかサヤ先輩辺りがやらかしそうで怖いから、俺たちも行こうか」

 

「そうだね。……仮装してないけど、大丈夫かな?」

 

「たぶん平気、と信じるよ俺は。……って、なんで仮装は知ってんの?」

 

「サヤさんにそれだけは聞いてて、魔法使いのコスプレ作ってたんだ」

 

 照れくさそうに笑うミキは今日も愛らしい。とと、話が逸れそうになった。いや、既に逸れてる。戻せ。

 時間がありそうだったら俺たちの分も作ってくれる予定だったらしいんだけど、生憎自分の分も作り終わってないし俺たちのサイズも分からなかったため断念したらしい。ちょっと期待していただけに残念だ。

 それにしてもミキは裁縫も得意なのか。また新しい一面が知れた。ハロウィンに感謝するしかないな、今日はサヤ先輩以外の情報を新しく知れた。……サヤ先輩? あの人は最初からオープンだからこれ以上知らない情報はないと思うんだ。

 

「あっ、そーいえば、二人は行くの? それともお留守番?」

 

 今思い出しました、と言うようにサヤ先輩がひょっこりと外から顔だけを出してきた。続いてリオ先輩も顔を覗かせる。早く行きたいのか珍しくそわそわと落ち着きがない。

 やっぱりこの人たちは一緒にいると楽しい。今更なことだし、危険な職業であるからいつまでも続く保障はない生活だけど、それでもできることならずっと傍にあってほしい。それだけここは居心地がよくて暖かいから。

 俺はミキと顔を合わせてから、少し皮肉気に笑ってみせる。

 

「行くに決まってますって。可愛い後輩たちを置いてく気ですか?」

 

「ミキならともかく、お前は可愛いって顔じゃないだろう」

 

「僕可愛いですか……?」

 

「リオに賛成ー。ほらほら、早く行くよ!」

 

「ちょちょっ、そんな強引に引っ張らないでくださいよ――」

 

 あっという間に過ぎ去っていく季節。暑かったはずの夏空はとうに過ぎ、肌寒い風が俺たちを優しく撫でて追い越していった。

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