やれる、私ならやれる。
明日に羽ばたけ! バーイ某野球部の顧問!!
『やあっ!!』
懸命に最近は大分強度が増した羽と言う名の膜に風が当たるように腕を動かす。集中するのってこんなに難しいことでしたっけ!?
『うりゃああああ』
『頑張れサヤー!』
お母さんの声が聞こえるけどどこから聞こえてるのか分からないよ! 集中させるために熱視覚を切っているのです、電源オフなのです。人間状態で言うところの目を瞑る、ですよ!
『おわっ、』
『うーん、駄目かあ』
バランスを崩して落下した私を人間状態のボルアさんが難なくキャッチしてくれました。私、結構肥えてるはずなんですけどよく受け止めきれますよね。さすが元ハンターさん、筋力は十分の様です。
ボルアさんに優しく地面に下ろしてもらい、私は自分の情けなさにため息を吐きました。
『やっぱりまだ無理だよサヤー。私はもっとかかったもん』
『でも! リオはできてるんですよ!』
『リオくんはギギネブラ種と違うからなあ』
どうも、サヤです。 現在私は飛行訓練中なのです、えっへん。
羽も身体もまだまだお母さんと比べれば全然小さな私ですけれど一応それっぽくなってきたんですよ。だからちょっと挑戦したいと思いまして。
もう一つ理由があるとすればもうリオが飛べてるんですよ、ムカつく。
『それにサヤちゃん、飛べてるよ?』
『低空飛行ですね!! 地面スレスレで移動不可能なやつですね!!』
ボルアさんはもしかして喧嘩売ってるんじゃないでしょうか。
確かに私は空を飛ぶことができます。『え? 横になってるんでしょ?』くらいの高さくらいは。……つまりそんな勘違いされるほどスレスレの高さしか飛べてないんですよ、うわーん!
あれで空を飛んだと言えるなら小さい子供がパタパタと手を翼のように上下に振るのも飛んだと同義ですよ、まったく……。まだ縄跳びの二重跳びのほうが空を飛んでるってもんです。実際上手い人はそれなりの滞空時間ですからね。
『リオにできて私にできないはずがないです!』
『だから種族の問題が……』
『種族がなんだー! 私できる子!』
『俺帰りたいなー』
私が頑張ってるんだから泣き言は許しませんよボルアさん!
というわけで私は洞窟の外にいます。ちょっとした段差の上から飛び降りてそのまま大空に羽ばたこうぜ大作戦なのです。 こういった初歩的なものから始めないとね!
『さあ我が子よレッツトラーイ!』
『やああ!! …………うわあああ!!』
『もう見てるだけ危ないから帰らせてよ!!』
また失敗です、ぬぐぐ。やはり私のようなギギィにはまだ早いというのでしょうか。
ボルアさんに受け止めてもらっているものの衝撃は残ります。じんじんと痛みが響いて涙が出そうです。そもそも涙を流す涙腺がないので汗腺から水を出そうと思います。え、汚い? 風呂と言う文化が無いモンスターは元々汚いんですよ。……ハンターさんはモンスターの他に異臭と言う脅威とも戦っていることになるんですかね?
『サヤちゃん、お願いだからもうやめよう? 俺、怖くて怖くて』
『居候してるんですから少しくらい協力してくださいよ』
『そーだそーだ!』
『うっ……。なんでミラちゃん帰ってこないかなあ』
がっくりと項垂れるボルアさん。ミラさんは未だに旅から帰って来ません。
旅、と言えば新婚旅行中のティガレックス二体も全く帰ってくる気配がありません。もう出発してから結構な時間が経つはずなんですがあの二体は本当にどこに行っているのか謎です。全国を回っているとするならいろんなところでハンターギルドに指名手配されるんじゃないでしょうか。
永遠に帰ってこないとかは洒落にならないのでやめてもらいたいものです。
『もう一回! もう一回!』
『お母さんに言われなくても!』
『はあ……』
『…………何やってんの?』
私がもう一度トライしようと段差の上で翼を開いたその時、呆れたようなリオの声。突然のことに私は驚いてそのままジャンプ、翼を使うのも忘れて間抜けにもそのまま落ちてしまいました。それでも冷静に受け止めてくれるボルアさんはかっこいいと思います。グッジョブです!
『リ、リオ!? どうしているの!?』
『いや暇だったから……。で、なんで落ちてるの? 痛みが快感なのか?』
『何それ!? 私はドMじゃないんだからねっ』
『じゃあ何が楽しくてさっきから落ちまくってるんだよ……』
あれ? “さっきから”ということはリオは少し、あるいは大分前からこれを見ていたことになるの? 何それ恥ずかしい! 特訓現場を見られるなんて……。あ、いや、お母さんやボルアさんがいる時点で今更か。特訓現場に保護者同伴なんてめったにないですよ。
『飛行訓練! リオはもう飛べるって聞いたから』
『え? ああ、確かに飛べるけど、まだまだだぞ?』
『私は更にその下だから! 絶対に追いつくんだもん!』
『何がそこまでお前を燃やすんだ……』
『幼馴染には負けたくないの法則!』
『どんな法則だそれ』
今私が勝手に考えました。
幼馴染って年が近い、または同い年なだけにどうしても比べやすい対象だと思うんですよね。「幼馴染のあの子は頑張ってるんだからあんたも頑張りなさい」みたいな。
まあここにはそんなことを言うモンスターはいないんですけどね。だから私は勝手に燃えてるだけなんですけど……でもいいじゃないですか! 切磋琢磨をすることにより何事も成長するんですから!
『というか、俺はお前よりも四年は早く生まれてるからな?』
『……えっ?』
『あれー? 言ってなかったっけ?』
『サヤちゃんくらいの年だったら、まだあー、とかうー、とかくらいしか発音できないよ?』
『何でそこらへんは人間みたいな感じなんですか……』
やっぱり生まれてから直ぐにお母さんに挨拶をした私はおかしいんですかね。……おかしいんだろうなあ。
ブツブツ自分が異端であることを悔やんでいたって仕方ないね。人間の魂を持って転生っぽいことしてるところで既に異端なのは確定なわけだし。結局私やミキさん、ボルアさんのは転生なんでしょうか。
前世にあった二次小説にありがちな転生特典が非常に羨ましいです。私だって特典が欲しい。周囲は恵まれていても自分自身は全く恵まれていません。……え、特典を貰ったらどうするか? とりあえず目が欲しいです。
『むしろ低空飛行でもできるのってすごいと思うけどな』
『な、なんで知ってるの!?』
『さっき大きい声で言ってたじゃん』
それも聞かれていたって言うんですか。なんてこったい。
『とりあえず俺は面白いから見学してようかなー』
『ええええ!? なんでそうなるの!? 良い子はお家に帰りなさい!』
『だって今母さんが狩りに出かけてていないんだ。俺だってもう狩りできるのに心配性で』
リオはなんだか不満そうだ。たぶん頬をぷくっと膨らませてるんじゃないかな、と勝手な妄想をしてみる。うん、非常に可愛い。私の疲れが一気に吹き飛びました、ありがとう。
とりあえず、飛行に関しては焦る必要はないよって事なのかな? まあそれで諦める私じゃないですけどね! 思い付いた時にやらねばいけないのです、明日から頑張るは禁句なのですよ!
『飛べないギィギはただのギィギです!』
『いや、そもそもギィギに翼はないよ、サヤちゃん』
『ええいっ、元ネタを知っているならツッコまないでください!!』
私は着々とギギネブラへの道を歩んでいるから何も問題はないはずです。
そういえばリオも見ないうちにすくすくと育ってきているんですね。初めて会ったころと比べればかなり体格もがっしりしてきているように思えます。ベリィさんと違って立派な雄になるんでしょうかね。
既に成長し切っている大人組と違って、これから大きくなる子供組はなんだか見ていて違和感を覚えちゃいます。といっても、子供組は私とリオだけなんですけどね。リオもどんどん成長して、可愛いあの頃には戻れないんですね……。成長と言うのは罪です。
あ、前にミラさんが小さい頃のジョーおじさんは可愛かったって言ってましたね。やっぱり成長と言うのは罪だということですね。成長してしまえばあの頃の純粋な気持ちには戻れないのさ……!
『相変わらずサヤは煩そうで何よりだ』
『えへへー、可愛いでしょー?』
『どうなったらそうなるのかさっぱりなんですが、ギギィさん……』
なんだか後ろで親馬鹿っぷりが発揮されているようですけど、気にしない。
私はもう一度段差の上に上ると気合を入れて再び空中に飛び出しました。
――――――――――
……うむ、死にそうだ。ここまで死にそうになったのは久しぶりかもしれん。
そもそも、妾は何故ここに来たんだったか? 確か旧友に会うために塔に来たはずなのだが……。それにしてもここはいつまで経っても変わらんな。建築されてから相当な時間も経過し妾たちの攻撃も食らっておろうにその身を崩さぬとはなんとも屈強な身体よ。是非とも貧弱な人間がこれを見習ってほしいものよ。
何しろ最近のハンターはひょろいのが多くて拍子抜けじゃ。何故女を戦場に出すのか、妾には理解できんわ。モンスターであれば良い。だが相手は女じゃ。
女とは内に籠るべきであると妾は思っておる。性別の壁という物が存在しているのだから、戦いにおいて能力値が低いのじゃ。にも拘らず何故危険地帯へ出てくるか。こんな場所に送り出す男も男よの! この意気地なし共めが、それほど人材不足だと言うのか。
男は女を守るのが務めであろうに。ええい、情けないにも程がある。妾が人間に生まれ変わるなら男になろう。そして周囲の女全員守ってやる。言い出しっぺが実行せずして何となるか。
「だからであるな? 何故妾に武器を向けるのじゃ」
「お前が怪しいから。それ以外の答えをお望みか?」
「えぇー……?」
女に武器を向けるとは言語道断よ。男失格じゃな。
しかも妾は飢えに喘いでいるのじゃぞ? 武器を向ける理由がどこにあるか。
まったく、これならまだジョウのほうが気配りができるじゃろうて。
「女に親切に出来ん奴は“まほーつかい”確定じゃぞ」
「う、煩い! お前に言われるまでもない!!」
ふむ、やはり怒ったか。ボルアの言っていた『男に“まほーつかい”と言うと大抵は怒る』というのは本当だったか。それにしても面白い言葉じゃ。不思議なスイッチみたいなものかの。
しかしこの場面においてこの言葉は失敗だったようじゃな。旧友に会いに来たはずがハンター四名(男二名、女二名。何故女がおるのか)と遭遇なんて洒落にならんぞ。仕方なく隠れていたが見つかってしまうという始末。どうやらこのハンターたちは妾のモンスター姿を見て探しに来たようであるな。
……あれ? では旧友はどこにおるのじゃ? ここにはおらんのか?
「お、お主らに尋ねたい。付近で古龍種の目撃はないかの?」
「あ゛? ……ミラルーツだけだよ。今はいないみたいだがな」
「なん……じゃと……」
あれっ!? あれっ!? どうして妾をこの場に呼んだあやつがおらんのだ!? まさかあやつは妾のことが嫌い過ぎて人間どもに討伐させようとした、とでも言うのか!?
妾は……嫌われているとでも言うのか……?
「ぐすっ、何故じゃあ……。妾が何をしたというのじゃあ……」
「お、おい。こいつ泣きだしたぞ」
「今のどこに泣くポイントがあったんだ……」
「最近の女子はこんなやつばっかなのか……?」
「えぇー? もっと女の子は乙女だよぅ」
「きゃはっ、あんたを乙女って言うならそこの男どものほうが乙女よっ」
妾がいつ嫌われるようなことをしたというのだ……。幼馴染と言うのは腐れ縁と言う奴なのであろう? つまり仲がいいということなのであろう? 昔は殺し合いをした仲であるというのに何故じゃ……。
「ふぇぇぇん!! あやつ、絶対殺してやるんじゃからなああああ!!」
「泣きながら物騒なこと口走ったぞ!?」
「マジ最近の女子は意味分からんな」
「ちょっとどういうことよぅ」
「とりあえずこの子連れて帰りましょっ。ここは危ないもんねっ」
ふわりと身体が持ち上がる。どうやらお姫様抱っこと言うのをされているらしい。
妙な浮遊感が少し気持ち悪いが、これでともあれ飢えからは解放されそうじゃな……。
泣き疲れ、更に飢えもあるせいか睡魔が妾に襲いかかる。運んでもらっているし今は身の危険を心配することも無かろう。睡魔に身を任せても構わんな。
「……そういや、なんでこいつはこんなとこにいたんだ……?」
ハンターの一人の言葉を理解する前に、妾の意識は途絶えた。
ハンターさんに名前を付ける予定はありません。