もうこの人は不憫担当でいいよ。
時々ギィギの周りの人(あるいはモンスター)の目線も書く予定です。
では、スタートです。
俺の名前はスウ。最近ハンターになったばかりの弓使いだ。
……え、名前が酷い? それは親に言ってくれ。ネーミングセンスが酷過ぎるんだ。
話を戻すぞ。
俺はユクモ村という小さな村でハンターとして活動している。
無論、一人だと新米だからすぐ死ぬ。そのため仕事には先輩ハンターと一緒に出ている。
先輩たちにはいつも迷惑をかけてばかりだから正直申し訳ない。
経験をたくさん積んで、いつか先輩たちの役に立てるようになるのが今の俺の目標だ。
「え、
「はい。緊急の討伐
いつも通りの時間に集会場に向かった俺に、受付嬢のお姉さんは申し訳なさそうにそう言った。
それを聞いてから俺はどうすればいいか困った。
基本、いつも
ましてや先輩たちが一緒にいるおかげであまり今の自分の実力が俺には分からない。だからどの依頼に行っても大丈夫なのか分からないのだ。
「うーん……。どうしよう」
先輩の一人が「一人で
前にも似たようなことが一度あり、大型モンスターに一人で挑んでいったらフルボッコされて三オチして帰った覚えがある。
それ以来一人で大型モンスターには行けなくなったのだ。先輩たちの制止的な意味で。
ちなみに三オチとはその名の通り三回力尽きたということだ。
ハンターが体力切れで倒れた場合、ギルドに雇われているアイルーたちが決死の覚悟でハンターを戦場から助けてくれる。
しかし毎回毎回助けるのも危険だし骨が折れるということなのでギルドでは挑戦は三回まで、と決めているのだ。
まあアイルーたちが来る前に本当の意味での瀕死になる場合もあるそうだから、必ず迎えに来てくれるという保証はない。
ハンターの世界はいつだって死と隣り合わせだ。
「じゃあ……、素材ツアーに行ってこようかな」
ちょうど鉱石が色々と足りなくなっていたはずだ。この機会に採って来ればちょうどいいだろう。
アイシスメタルが足りなかったような気がするから凍土の素材ツアーに行けば時間つぶしにも採取にもちょうどいい。
きっと素材ツアーから帰ってきたときには先輩たちの
……そういえば先輩たちは何の依頼に出たんだろうか。
「ねえねえ、先輩たちってちなみに何の
「えっと……、ジンオウガ二頭の討伐ですね」
「……すご」
俺はまだジンオウガというモンスターを見たことがない。
まあ先輩たちが連れて行ってくれないわけだが、それはつまり俺の実力が全く足りないということを示す。
そのモンスターを二体も相手にするというのは俺にとっては神業のようにしか見えない。
俺もいつかそれくらいの実力を持たなくてはいけない、と今から少し意気込んだ。
「凍土の素材ツアーに行きたいんだけど、大丈夫?」
「今の凍土は……、大丈夫、ですかね……」
「ん? なんでそんなに語尾が暗いの?」
「いえ、ここのところ凍土で大型モンスターが観測されないので、逆に不安になりまして」
「……隠れてるとか、そういうことじゃないよね?」
「そうではないと祈りたいです」
これは、嫌な予感しかしないような気がする……。
いやしかし、ここで依頼に出ないと暇になるしなあ……。
腹を括ってみるか。もしかしたらドスバギィ類だけかもしれないし、それだけなら大丈夫な気がする。
「いいや。それ、受けるよ」
「わ、分かりました! お気をつけて……!」
お姉さんの心配そうな表情に笑いだけを返しておいた。
俺は先輩たちの活躍によって整備された温泉に浸かってからギルドを後にした。
――――――――――
凍土に着き、一番エリアで俺は辺りを見回す。
正直に言えばいつも通り、としか言いようがない。
特に変わったところなど無く、静かに吹雪だけが吹雪いている。
「どこが危ないんだろうな……」
二番エリアに入ってもそれは変わらなかった。
構えを一度解き、弓を背負う。
ここは吹雪が酷いが大抵の大型モンスターが来るところである。まあ、場合によるのだが。
特に問題はなさそうだ、と早々に判断してピッケルを取り出す。
ここには採掘ポイントはないが洞窟にはいれば二個ほどあるはずだ。
俺はそう思いながら洞窟に足を踏み入れた。
「……えっ?」
思わず、情けない擦れた声が俺の口からこぼれた。
何もいないはずのその洞窟の中に、一体のギギネブラがいた。
(ヤバイヤバイヤバイ!)
こういう時先輩たちなら冷静に対処するのだろうが、生憎こういった経験がほとんどない俺はこの状況にパニックになるしかなかった。
とりあえずその場で俺が出来たのはピッケルを仕舞い、弓を構えることくらいだった。
(こういう時って、どうすればいいんだろう……)
俺の中に浮かぶのは三つの言葉。
『戦う』 『逃げる』 『帰る』
……まあ、二つ目と三つ目があんまり変わらない気がしないでもないがこの際それは無視しよう。
やっぱり今は逃げるという選択が一番だろうか。ついでにもう出会わないように帰ったほうが良いかもしれない。
うん、帰る。帰ろう。決定。
(そうと決まれば今すぐ撤退……!)
そう思って踵を返した時、
「うげっ!」
思いっきり転びました。何もない所で。
何だこれ、恥ずかしすぎる! 思わず両手で顔を押さえる。
うわー、さすがに今のはない。先輩たちがこの場に居なくてよかった……。
『ゴアアアァァァァッ!!』
「うっ、うわああああああ!!」
見 つ か っ た ー !
何やってんだよ、俺……。今のは絶対転んだせいで見つかった気がする。
結局、俺はヘタレなんだ。そうなんだ……。
「ううっ、とりあえず俺一人じゃ不利過ぎるから逃げ」
『ガアアァァァッ!!』
ギギネブラから距離を取るために後退りしていると後ろから咆哮が聞こえ、あまりの大きさに両耳を手で塞いだ。
なんだってんだよ、もう……。悪態をつきながら後ろを振り向き、俺は腰を抜かした。
「ティッ、ティガレックス!? なんだよ、聞いてないぞ!?」
背後にいたのは確かにティガレックスだった。
もう悪態をつくだけでは済まされない状況になってきた。というか悪態をついてたらその間に確実に死ぬ。
ティガレックスとギギネブラ両方から距離を取る。必然的に洞窟の中に入ることになったのだが、これは一応大丈夫だ。後で猛ダッシュで逃げればいい。
(牽制……、牽制しないと……!)
焦った気持ちだけが空回りしていき、ギギネブラに矢を放つものの全くの大外れで洞窟の奥へと飛んで行った。
それを見たギギネブラとティガレックスが何故か攻撃の勢いを増した。
いや、攻撃にキレが出てきたというべきか。とにかくどう見ても俺が対処できない鬼畜レベルになったのだ。
「なんで素材ツアーに大型モンスターが二体もいるんだよ! 下位だぞ! おかしいだろ!!」
大声で悪態をつくが時すでに遅し。受付嬢のお姉さんに言われた時、来るのを止めればよかった。素直にあの場で待つべきだったと今更ながらに思う。
……これはもう牽制どころじゃない。すぐに走って逃げた方がまだ賢明に違いない。
そう思い、すぐに弓を担ぎ直したのだが……。
『ガアァァッ!』
『ゴアァァッ!』
ギギネブラが毒液をまるでビームのように発射し、ティガレックスが大きな岩を三個も飛ばしてきやがったのだ。
当然、そんなにたくさんの攻撃を放たれたら狭い洞窟の中では避ける場所などあるわけが無く。
「はあ!? なんだこの技、亜種か……ぐはあ!!」
俺は盛大にその技を食らって体力切れになったのだった。
くそう、俺は悪役じゃないんだぞ……。
――――――――――
「おーい、大丈夫か?」
「いや、さすがにダメージがでかいかもしれないよ?」
「いやいや、そうは思ってもああいう風に声をかけるべきだろ」
「まあそうなんだろうけどさー」
……あれ、俺って死んでない? 生きてる?
先輩たちの声が聞こえ、俺は飛び起きた。見渡せばそこは俺の部屋。いつの間に帰ってきたのだろうか。
「あれ……、先輩たち……」
「あ、スウ起きたよ」
「ああ、起きたな」
「えー、なんか他にかける言葉とかないの?」
「生きてりゃ特になし」
「ひっどいねー」
先輩二人の声を呆然としながら俺は聞いていた。というか呆然するほかなかった。
二人はいつもの装備を脱いでいてラフなTシャツ姿になっていた。
普段狩りの時では凛々しい姿をみせている二人もここでは普通の人となる。
「それにしても一人で大型二体の
「それって死にに行くようなものだよね。死にたいほど嫌なことあった?」
「なんで俺が自殺したいみたいになってるんですか!?」
「「え、違うの?」」
「……」
この二人は兄妹でもないのになんで息がぴったりなのだろうか、と内心で思う。
二人が幼馴染であるということは以前に聞いたことがあったが、幼馴染でここまで息が合うことなどあるのだろうか。
元は根暗で友達のいなかった俺にそういうことはよくわからない。
俺はとりあえず自殺疑惑を解消するために口を開いた。
「凍土の素材ツアー行ってたんですよ」
「素材ツアーで大型二体?」
「それって立派な討伐
「
「そんなことしませんって!」
「怪しい……」
どうやら先輩二人はあくまで俺を自殺未遂にしたいようだ。
俺ってそんなに嫌われてるのか……。
「まあ、次凍土に行くときは三人だな」
「もっちろん! 叩き潰そうね!」
「先輩。それ、女の子が言う言葉じゃないです」
「分かって言ってますぅ。いちいち指摘しないでくださいぃ」
「それ気持ち悪いから止めろ」
「そこはスルーしてよ!!」
この二人はいつも騒がしいけど、見てると元気がもらえるな。
そう思ってからクスリと笑った。
二人がきょとんとした顔で俺を見ている。
「あ、いや、なんでもないです」
「嘘つけー。何考えてたのさ、言ってごらんよ」
「二人がイビルジョーに果敢に挑んでいく姿を……」
「嘘つくの下手だな」
誰かが最初に笑う。もしかしたらそれは俺だったかもしれないし、先輩たちだったかもしれない。
そうしてみんなでひとしきり笑った後に、誓った。
――いつか凍土にいる大型モンスターを倒そう、と。
なんだかちょっと話が壮大に見えた。
自分で書いててびっくり。
この三人は今度いつ出てくるんだろうか……。