合言葉は卑劣だ 作:奈良くるみ
自宅に到着直後、リアス・グレモリーから連絡が入った。
なんでもライザー・フェニックスとの婚約は条件付きではあるが回避できそうらしい。その条件とは俺が知っている通りレーティングゲームの勝者の意見を最優先するというものだった。
レーティングゲーム…悪魔が行うゲームであり、ルールはチェスと変わらないが動かすのは駒ではなくリアス・グレモリーたちだ。
つまり彼女達が駒代わりとなってライザー・フェニックス達と競い合うというわけだ。
本来なら、このゲームに未だ人の身である俺の参加資格はないのだがライザー・フェニックスが俺の偉そうな態度に腹を立てて参加させろと言ってきたらしい。
成程…だからリアス・グレモリーはこうして俺に通話してきたのか。
ふん、いいだろう。参加してやる。最初から、そのつもりだったしな。
俺がそう伝えると、電話口からリアス・グレモリーの苦笑が聞こえてきた。解せぬ。
レーティングゲーム当日だ。
やることがない俺は、オカルト研究部室のソファで寛いでいた。すぐ近くではリアス・グレモリーが自分の眷属たちにレーティングゲームの作戦内容を伝えている。
俺には関係ないがな。
まぁリアス・グレモリーにはすでにアレをつけているので問題ないだろう。時が来るまで俺はここで紅茶でも飲んで大人しく待っていればいい。
ん?どうやらリアス・グレモリーたちの準備も整い終えたようだな。
さあ、レーティングゲーム開始だ。
レーティングゲーム中盤だ。
先程、部室のスピーカーからはチェスの駒に置き換えると
さて、そろそろ俺も動くか…
「飛雷神の術ッ!!!!」
俺は重い腰を上げて、素早く印を組むと、ある術の名を口にした。
すると、次の瞬間…
「後は俺に任せろ、リアス・グレモリー」
「なっ!?」
「…えっ?イッセー?どうして私の後ろにいるの?」
俺はリアス・グレモリーの背後で仁王立ちしていた。
飛雷神の術…その術の正体は
勿論、制限もある。それはこの術が俺が触れてマーキングを施した場所にしか飛べないことだ。
が、そんなことは最初から考慮している。
だからこそ、俺はリアス・グレモリーの右肩にあらかじめマーキングを施しておいた。そのおかげで俺は、リアス・グレモリーの背後へと移動できた。
そして、リアス・グレモリーの前へと立つと、無言のまま顔だけを振り向かせる。
奴は俺がなんとかする。
そう視線で伝えるとリアス・グレモリーが俺とライザー・フェニックスから距離をとった。
すると、ライザー・フェニックスが正気を取り戻したのか視線を鋭くさせながら口を開く。
「貴様…今更いったい何の用だ?すでにリアスと貴様以外はこのフィールドから消失している。現れるタイミングを間違えたな、人間」
「ふん…理解していないようだな、焼き鳥。レーティングゲームとはチェスと同じルールだ。それはつまり
「ほう…この俺を倒せるつもりでいるのか、人間」
「倒せるつもりではない。今から倒すのだ、焼き鳥」
互いを睨み合う俺とライザー・フェニックス。
先に動いたのはライザー・フェニックスのほうだった。
「減らず口を叩いていられるのも今のうちだ、人間!」
ライザー・フェニックスの天へと掲げた手のひらに火球が形成される。
バレーボール程度のサイズだったそれはやがて俺の身の丈以上のサイズへと成長を遂げた。ライザー・フェニックスはその巨大な火球を俺に向かって投げ放ちながら叫ぶ。
「喰らえッ!フェニックスと称えられた我が一族の業火!その身で受けて燃え尽きろッ!」
次の瞬間、ライザー・フェニックスが投擲した巨大な火球が俺の全身を包み込んだ。
燃え盛る火炎の中、俺は心の中で感想を漏らす。
…熱いな。今すぐ制服を脱ぎ捨てたくなる程度には。
視界が遮られているので声しか聞き取れないがライザー・フェニックスはすでに己の勝利を確信しているのか狂ったように笑っているようだった。リアス・グレモリーの方は声ひとつ上げていないが、おそらく自信満々の様子でしゃしゃり出てきた俺が、あっさりとやられたことに失望でもしているのだろう。
勝手に失望すればいい。最後に笑うのは俺だからな。
それにしても少しは期待していたというのにこの程度か、ライザー・フェニックス。この程度の火力では、美味しい焼き鳥を作ることしか出来んぞ。
ふむ、さっさとこのくだらないゲームに終止符を打つか…
「水遁・水陣壁ッ!!!!」
俺は印を組み、術を発動した。
すると虚空から現れた大量の水が俺の周囲に存在していた火炎を掻き消していく。
火の粉ひとつ残さず消火し終えると、俺を取り囲んでいた水の壁を消し去り、ニヤリといやらしく笑う俺の姿を見せつけてやった。
ライザー・フェニックスは五体無事の俺の姿を認識すると目を見開かせて驚く。
「ば、馬鹿な!有り得ん!俺の全力の攻撃を凌いだこともそうだが、それよりも驚きなのは水のないところでこれ程の水量を…貴様、まさか魔術師の類いだったのか!?」
見当違いの推測だな、と言おうと思ったが止めた。勝手に勘違いしてもらっていた方が都合がいいからだ。
「水遁・水衝波ッ!!!!」
印を組んで術を発動させると、俺の目の前に身の丈の何倍以上もある津波を発生させた。急ぎ空中へ逃れようとしていたライザー・フェニックスへとその大波は勢いよく襲いかかり、全身を容易く呑み込んだ。
ふん、まだ終わりではないぞ。
「水遁・大水牢の術ッ!!!!」
また印を組み、術を発動させると、今度はライザー・フェニックスの全身を包み込んだ大量の水が巨大な水のドームへと形状を変える。その中心には身動きが取れないのか、水中で顔を青くしてもがき苦しむライザー・フェニックスの姿があった。
俺はそれを確認すると少し離れた物陰でこちらを見ていたリアス・グレモリーの背後へと飛雷神の術で回り込んだ。
「おい、リアス・グレモリー」
「ひゃい!?」
…不覚にも少し可愛いと思ってしまった俺がいる。いや、そんなことはどうでもいい。
それよりもこの女にはライザー・フェニックスにトドメを刺してもらわないとな。
「聞け、リアス・グレモリー。貴様の手で、あそこにいるライザー・フェニックスにトドメを刺せ」
「ど、どうして?あそこまでライザーを追い詰めたのなら貴方がトドメを刺せばいいじゃない」
お人形のように可愛らしく首を傾げながら発したリアス・グレモリーのその言葉に俺は頭を抱えた。
この女…はあ、少しだけ説明してやるか。
「リアス・グレモリー、少しは頭を使え。もしも俺がこのままトドメを刺したなら、このゲームを観覧している者達は、貴様の眷属でもない俺が奴を打倒してしまえば其奴らはどう思う?ゲームの勝敗を素直に受け入れると思うか?思わないだろう?必ず難癖をつけて、再戦を要求してくるはずだ。そうならないために貴様がやらなければならないのだ」
本来ならあの状態の焼き鳥に向かって起爆札を全方位から一斉に投げつけ無限に起爆札を口寄せし続ける互乗起爆札の出番の予定だったのだが…今回は貴様に譲ってやる。
もう飽きたからな。
「後は貴様がやれ、リアス・グレモリー。俺は、飛雷神でオカルト研究部室に帰る」
「待っ」
リアス・グレモリーが何か言う前に俺は彼女の前から姿を消し、オカルト研究部室へと帰還した。
暫くして、リアス・グレモリーの勝利を伝えるアナウンスが流れた。