不屈のヒーローアカデミア 作:猫しゃぶ
猫好きです。
かぁいいです。
よろしくお願いします。
酷く曖昧な記憶だ。
雨の音の強い日だったように思う。
鉄と肉とをぐちゃぐちゃに引き裂いて混ぜ込んだかのような生臭い匂いが湿った空気を汚染して、鼻孔を著しく刺激して彼は吐き気を必死に飲み込んだ。
少年だった。それこそ、小学校に入るか入らないかくらいの、小さな少年。
庭付き一戸建ての、どこにでもありそうな住宅の一室。少年の眼前には、信じがたい風景が浮かび上がっていた。
人の残骸は、髪の毛の入り交じった赤い液体は、見慣れた服の引き裂かれて真っ赤に染まったソレは、なんだか非現実じみていて、少年はひどく狼狽した。
「…まだいやがったか」
少年の後ろから声がした。ゆっくりと振り返った。
「…ガキを殺すのは趣味じゃねえんだがな。まあ、恨むんだったらヒーローとかいう糞つまらねえ事やって自己満足に酔いしれてたそこの糞親父の事を恨めよ」
ひひっ、と、空気を裂くかのような笑い声が短く響いた。
「じゃあな、糞ガキーーーひひっ」
その男は手を少年にかざして、狂気じみた目を大きく見開いて口角を上げた。
じゃきんっ、という音を立てて、腕から先が重火器へと変化する。それで少年を細切れにする算段だった。
特徴のある耳を舐るような笑い声を最後に、彼の銃口が派手に火を噴いてーーーー
ーーー次の瞬間、少年の頭に真っ赤な花が乱れ咲いた。
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「やあ」
「…んあ?」
唐突に開けた視界に、男は呆然とその場に立ち尽くしてあほ面を浮かばせた。
真っ白で何もない空間に、目の前には白いローブを頭からかぶった正体不明の人物が一人。
とりあえず男はまじまじと片手を上げたまま動かないそのローブに視線を集めた。
体格的には女だろうか。身長が高いので男っぽさも備えているが、纏っている雰囲気は老熟した老人のソレだった。声は男とも女とも取れる幼い子供の声だった。
ちぐはぐだ。男はとっさにそんな印象を抱いた。
「うん、言いたいことも色々とあるだろうね。とりあえずこれはサービスだ。飲んで落ち着いてほしい」
「あ、はい」
差し出されたコップを手に取って、中身を見る。そこにはオレンジ色の液体がなみなみと注がれていた。
「ああ、『また』なんだ。すまない。仏の顔もっていうしね、謝って許してもらおうとも思っていない。僕は君を間違えて殺してしまったが、これは何も君だけに起きた事象ではなく、そして何よりも偶発的に起こった事故であることをわかってほしいんだ」
「…はあ」
男はそういわれてうすぼんやりと思い出した。
車に青空。それと真っ赤に染まったアスファルトの地面と、そこに伏する自身の姿が頭の中に浮かんで、ようやく彼はローブの言っている事を理解した。
これはあれだ、神様転生ってやつだ。古事記にも載ってる。
「…つまり、俺はあの時死ぬ運命じゃなかった、と」
「理解が早くて助かるな。ああ、そのはずだったんだ。それなのにお前は死んだ。明らかに異常事態なんだ。きっと俺の知らないところで何かが動いている」
「その何かの所為で俺は死んだって?なんだそりゃあ」
「その通りだね。だが、その何かについては今は問題ではない。もっと重大な事は、世界がこの事を受け入れられないという事のみ、この一点に尽きるんだよ」
「はあ…」
ローブはかすかにかぶりを振って、申し訳なさそうに告げた。
「この世界は運命から外れた者を許容することはできないわ。つまりあなたは今、消滅の危機に瀕していると言っているのよ」
「どうすりゃいい?」
「簡単な話。この世界がだめなら、ほかの世界にねじ込んでしまえばいい」
「テンプレですねわかります」
「どの世界がいい?漫画、アニメ、映画の世界。どこにでも送ってあげる。あんたが欲しいっていえば、なんでも与えてあげる」
「んー…とりあえず退屈な世界は嫌だしなぁ…よし、決めたぞ」
彼は一時逡巡して、そして口を開いた。
「俺、不屈のヒーローにあこがれてたんだよね」