不屈のヒーローアカデミア 作:猫しゃぶ
よろです。
「うん、大分良くなってきたね?」
…ここは、どこだろう。
清潔に保たれた真っ白な壁や天井。カーテンが風に遊ばれてひらひらと日光に波を作っていた。
病室、だろう。一目見てそう断定できた。
彼がベッドの上で寝かされていたことに気が付いたのは、そうと分かってすぐの事だった。
「再木良太君、だったね?僕の事が分かるかい?」
「…はあ」
呆けたように返事をする彼ーーー否、再木良太に、医者はふむ、とどこか愛嬌のあるカエル顔を曇らせて、こう続けた。
「やっぱりあまり元気がないみたいだね?ただ、君の身体はすでに完全なまでに再生されているね。君の個性はなかなか強力な様だね?」
「あ、ありがとう、ございます?」
褒められたみたいだ。お礼を言いつつ自分の身体を見てみて、そして良太は目を見開いた。
小さな手の平。細い太ももに、まったく成長を感じさせないやわらかな肌。
恐らく、小学低学年ほどといったところだろうか。そんな小さな身体に人生17年を生きてきた彼は宿っていた。
「…難しい話だが、これは伝えておかなきゃいけないね?君は一回、脳の機能のことごとくを破壊されているね。いくら君の個性が強力だったからと言って、すべての部位を完全に再生させることは不可能だね。おそらく、君には今、一切の記憶がないと思うね?」
「…」
良太は小さくうなずいた。ごまかす意味もあったが、医者の言っていることが事実でもあったからだ。
恐らく、これは憑依転生というやつだ。日本書紀に書いてあった。
そして、この肉体に関する一切の情報を思い出せない。名前はもちろん、この病室にきた経緯、家族、学校についての一切合切が思い出せずにいた。
それが、脳の破壊によるものなのか、憑依転生によるものなのかは、今はわからないが。
「だが、安心するといい。君の個性の再生能力は常軌を逸しているね。破裂した頭を傷跡一つなく再生させてしまうのだからね?いずれ記憶さえも再生させてしまうと思うね?」
「え」
良太君、頭破裂したの?一体どういう経緯でそうなったの?と、良太は恐れた。
「…まあ、あんなことがあったんだ。思い出さない方がいい記憶もあるとは思うが…」
カエル顔の医者がそんなことをつぶやいたが、良太はそれどころではなかった。もちろん聞き逃した。
「一応様子見で明後日までは入院してもらうね?その後、君の保護者の方が迎えに来るはずだからね。何かあったら、いつでもナースさんを呼ぶといいね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「…ふむ、なかなかしっかりした返事だね?それじゃあ、安静にね」
そういって、カエル顔の医者が去っていくのを良太は見送った。
「…個性、な」
医者の言葉を拾い上げて、小さくつぶやいた。
どうやら転生はなされたらしい。まさか途中から転生することになるとは思わなかったが、それは小さな誤差というものだ。
「…健康な身体…」
目を開くと、良太の目にはなぜか真っ白な病室が鮮やかに映し出されていた。
光がまぶしい。窓から顔を覗かせると、綺麗に整理された病院の中庭が見えた。緑色がとてもまぶしく感じた。
「…ようこそヒロアカの世界、ってな」
良太はにっと笑って、握り拳を作った。
彼のヒーローライフは、こうして始まったのだった。