テイルズオブベルセリア 世にも珍しい樹の聖隷   作:メガネ愛好者

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どうもお久しぶりです。メガネ愛好者です

今回はルィーンとアイゼンさんがちょっと衝突します

それでは


十話 気の緩み

 

 

 ルィーンの推論から数分後、なんとか苛立ちを抑えたベルベットはアイゼンへと再び対面していた。先ほどの返答を返すためだ

 

 「私達も要塞を抜ける必要がある以上協力してもいい。……ただし、要塞を抜けた後に王都までの船と船員を貸すことが条件よ」

 

 「それで構わん。業魔の手が借りられる以上、しのごの言うつもりはない」

 

 どうやら海賊達と共闘する気にはなってくれたらしい。……まあ依然としてアイゼン達の事を警戒してはいるようだが

 それも仕方がないだろう。ルィーンのせいで協力する流れになってしまったものの、海賊達が信用出来ない事には変わりないのだ。だからベルベットの対応は何ら間違ったものではないだろう。……例えベルベット以外の者達が既に海賊達と意気投合していたとしても、ベルベットの対応は間違っていない筈なのだ

 

 しかし、一刻も早く王都へと向かいたいベルベットとしては、例え信用ならない海賊達の申し出を呑む事もやぶさかではなかったのだ。決して周りの能天気さにあてられた訳ではない。絶対ない。断じてあり得ない

 

 それでも無償で協力する事に納得がいかなかったベルベットは、こちらからも海賊達に要求する事にしたのだった

 その条件とは、”こちらが協力するにあたり作戦が成功したら当初の目的地である王都まで連れていく”と言うものだ。船を確保出来たとはいえ、ベルベット達だけでは例えヴォーティガンを抜けたとしても王都まで無事に辿り着くかがわからなかったのだ。事実、航海するに必要な船員がベルベット達には圧倒的に不足しているのだから

 その上、船員を雇うにしても自分達は業魔だ。人間達が快く引き受けるとは思えない。寧ろ逃げられるか聖寮の対魔士達に告げ口を言われるかの二択になるだろう。前者はともかく、後者の可能性がある以上、態々危険を晒すような真似をするのは得策ではないのだ

 だからベルベットはアイゼンにこの要求を提示したのだ。自分達の目的を、より確実なものにする為に……

 

 

 

 ここでルィーンの言葉を借りるのならば、『お互いに利用し合え』と言ったところだろう

 どちらか一方が利用する関係だと、大事なところで足を引っ張り合う事になる可能性が極めて大きいのだ。しかし、お互いに利用し合うことを容認しているのならば、お互いに譲れない場合は除くとしても、意図せずして発生する無駄な衝突を避けることも出来るだろう

 今回の共同戦線もそれと同じだ。ベルベット達は王都に行く為に海賊達を利用し、海賊達はヴォ―ティガンを抜ける為にベルベット達を利用する。お互いに利益があり、目的までの過程で協力が出来るのであれば、思い切って協力するのも一興だろう……つまりはそういう事なのだ

 

 そして、一度協力した者達の間には僅かながらの”繋がり”が形成されることだろう

 その繋がりによって、再び協力する機会が訪れる事があるかもしれない。利用出来る機会が訪れるかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……だからこそ、ここは海賊達と協力する方が得策なんじゃねーかな?」

 

 ——と、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 決めあぐねていたベルベットを見かねてか、ルィーンはベルベット達の方に赴き自身の考えを伝えてきた

 「あくまでもこれは助言であり、この後どうするかを決めるのはベルベット自身だ。俺じゃあない」——そうルィーンが言葉を最後に添えたところで、最早ベルベットに他の選択肢を選ぶ余地はなかった

 自分達では航海するにも困難な現状を、自分達の目的の為に成すべき最善を、今後に再び利用出来るかもしれない可能性を一気に提示されたのだ。例えルィーンが信用できないとはいえ、その提示された内容が自身の目的に適している以上無理に反論するのは得策ではないだろう

 自分にとってそれが最善策であれば、それを無暗に突き返す必要は無い。それを上回る策があるのなら話も変わるのだが、現状ベルベットには他の選択肢が思いつかなかった

 

 助言? とてもそうは思えない。寧ろ一つしかない選択肢を突き付けられたようなものだった

 先程からルィーンの都合がいいように物事を勧められている気がしてならなかった。それによって、ベルベットの苛立ちは増していく一方だ

 利用する事を隠そうともしないルィーンの厚かましさには感服するが、それの相手をするベルベットからしてみれば堪ったものではなかった。本人も自覚している分、尚更質が悪いだろう……

 

 とにもかくにも、ベルベットが提示した条件をアイゼンは了承した。別に断る程の条件でもないし、アイゼン達も王都に少々用事があったので、最早ベルベットの提示した条件はあってないようなものだったからだ

 こうして業魔組(一部例外あり)と海賊達の交渉は難なく成立することとなるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……まあルィーンに対するベルベットの苛立ちは未だに晴れていないみたいだが

 そんなベルベット達の意見も聞かずに海賊達と共闘する流れを作ったルィーンはというと——

 

 「大丈夫か?」

 

 「……むり、すげーいたい……たんこぶできてるきがする」

 

 「あぁ、見事に腫れてるな」

 

 ——苛立ちがピークを達したベルベットに拳骨をもらっていたのだった。よく見ると目じりに涙を浮かべている辺り、余程ベルベットの拳骨は痛かったのだろう

 

 ベルベット曰く、”矯正”である

 先程のルィーンの言動から、ルィーンがある意味でイイ性格をしている事を身を持って理解したベルベットは、ルィーンが今後に出会う者達との交友関係に支障をきたさないようにとの”親切心”を持って対応したのだ

 その一環として、ベルベットは”何もかも他人任せにするのはよくない”との理由でルィーンを躾(物理)たまでに過ぎなかった。——と、ベルベット・クラウ氏は述べている。真意は不明

 これに対し、ルィーンはベルベットに『理不尽だ!』と抗議しているのだが……ベルベットが見せた満面の笑み()に背筋がゾッとしたルィーンは小鹿のように震えあがっていたという。強ち躾と言うのも間違っていなかった

 

 そうして現在、ベルベットから送られた拳骨の痛みにルィーンが悶えている状況が続いていた。殴られた瞬間に与えられた痛みよりも、今も尚継続してじわじわとくる痛みの方が辛いらしい

 そんなルィーンの様子を見たロクロウが気にかけてくれたのだが、ルィーンはタンコブの痛みに耐えていたせいで少し舌足らずな返事になってしまった。ルィーンの見た目上そこまで違和感もないのだが……どうにもルィーンはそれが恥ずかしかったようで、ロクロウに返事した後すぐに顔を俯かせてしまう。その顔はほんのりと朱に染まっているのは気のせいではないはずだ

 

 「ん? どうしたんだ?」

 

 「……なんでもない」

 

 「そうか? ならいいが……あまり無理はするなよ?」

 

 「だ、大丈夫だって……」

 

 しかしロクロウはそんなルィーンの心情も知らずにどうしたのかと追及してしまう

 決してロクロウに悪気は無い。ただルィーンが急に顔を俯かせたから具合でも悪いのかと心配して問いかけただけに過ぎなかった。……その心配が、ルィーンにとって反応に困るものだとも知らずに

 ルィーンとしてはあまり掘り下げないでほしい話題であったのだ。だからルィーンがロクロウに意図せずして素っ気ない返事を返してしまうのも仕方がないだろう

 しかし、心配してくれた相手を自身の醜態から来る苛立ちと気恥ずかしさによって突き放す様な態度を取ってしまったルィーンは、ロクロウに対して少なからず罪悪感を抱いてしまうのだった。……まあ、元を辿れば自業自得ではあるのだが

 

 因みに、そんなルィーンを愉快そうに眺めていた魔女は後にこう語った——「お主の照れ顔、なかなかに(うい)ものだったぞえ~」と

 それに対してルィーンは自分の醜態に身を捩ったとかなんとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——西ラバン洞穴・内部——

 

 

 

 

 

 あれからしばらくたった後、ルィーン達はヴォ―ティガンに向かう為に洞穴内を進んでいた

 内部構造は複雑だったものの、ルィーンやアイゼンが道順を知っていたのもあって迷わずに進めている

 洞穴内を進んでいるのは五人——ベルベットとロクロウの業魔二人にルィーン、二号、アイゼンの聖隷三人である

 とりあえずは道筋を知っているルィーンとアイゼンが先行しつつ、後の三人が周囲を警戒しながら二人の後ろをついていく現状が続いていた

 

 それと、ここにいない二人——マギルゥとダイルは海賊達と共に海からヴォ―ティガンを目指していた

 マギルゥは戦えないので海賊達の乗っていた船——”バンエルティア号”に乗せてもらっているだけだが、ダイルはアイゼンが船から離れている間、業魔からバンエルティア号を守る役割を担うことになっていた

 彼は本来航海士ではあるものの、業魔となった事でそれなりに戦えるようになっている。故にその役割を与えられるのは自然な流れだったと言えるだろう。事実、ベルベットとロクロウの二人を相手に、ダイルはそれなりに戦えたらしい事を当事者から聞いている。ある程度の業魔なら撃退できることだろう

 

 そんなダイルは「任せろッ!!」との二つ返事でこの役割を承諾している

 何故そうも簡単に決められたのかと疑問に思うところだが、彼のこれまでの人生を考えると不思議な事でもないのだろう

 

 ダイルは”周囲に頼られる”という状況に喜びを感じていた

 今までの自分——人間だった頃は、周囲から”期待”されるような事が全くと言っていいほどなかったのだ。それによってか、初めは真面目に働いていたダイルも徐々にやさぐれていき、終いには業魔になるまでに至ってしまった

 しかし、ベルベット達に出会った事をきっかけにダイルは他者から頼られるようになっていた

 船を動かすのに協力してほしい、王都に連れて行ってほしい、業魔から船を守ってほしい……この短期間のうちに様々な事で頼られた

 自分には取柄など無いのだと自暴自棄になっていたダイルにとって、頼られる事がどれ程喜ばしい事か……同じくしてやさぐれて言った物なら、今のダイルを羨ましがるのではなかろうか?

 だからダイルは護衛の任を受けることにしたのだろう。自分に出来る事ならと、周囲の”期待”に応えるが為に——

 

 そんなやる気満々のダイルを見たベルベット達が、一方でやる気なさげにのらりくらりと船に乗り込むマギルゥに対して呆れた視線を送るのも無理はないだろう。……まあいつも通りか

 

 

 

 そうして彼女達が洞穴内を進む中、ルィーンとアイゼンは後ろの三人に気づかれない程度の声量で密かに言葉を交わし合っていた

 別に聞かれて困る内容ではない。アイゼンとしては後程後ろの三人にも問うつもりである以上、ルィーンとの会話を聞かれても何ら支障はなかったりする

 それでもルィーンだけに話を聞こうとしたのは……ルィーンが自身の知りたいことについて、何かを掴んでいる気がしたからだろう。言ってしまえば勘だ

 

 「ルィーン。一つ聞きたい事がある」

 

 「俺が答えられる範囲でなら何でも聞いてくれていいぜ」

 

 「助かる。……お前が知る限りでいい、”ペンデュラムを戦闘に使う人物”に心当たりはないか?」

 

 「……ペンデュラムだと?」

 

 アイゼンの問いにルィーンは適当に答えようとしていたのだが、アイゼンの言い放った一言でその考えが一変する

 ペンデュラム——簡単に言うと、ダウジングなどの時に用いる振り子の事だ

 決して武器として扱うようなものではない。それを使うんだったら鞭や鎖などを使った方が利口だろう。もしもここでルィーンがその相手に心当たりが無かった場合、彼女の性格上「振り子を武器にするとか何考えてんのソイツ?」と笑い飛ばしているところだろう

 

 ——しかし、ルィーンは一切笑わなかった

 

 逆に、今のルィーンの表情は誰から見ても真剣なものだった。寧ろ、アイゼンに対して明らかに警戒しているようにも見受けられる

 そしてそんなルィーンの反応に、勿論の事アイゼンも気づいていた

 

 「……知っているんだな?」

 

 「……だから何?」

 

 「単刀直入に聞く。……そいつは今何処にいる?」

 

 「…………」

 

 ルィーンの反応から確信を抱いたアイゼンは、ルィーンを脅すかのように鋭く睨めつけながら低い声で問い返す。……傍から見れば、幼子を脅す強面の大人の図が出来上がりなんとも犯罪臭がする光景だが……今の二人にそのような事を気にする余裕は無かった

 アイゼンの問いに黙り込むルィーン。別にアイゼンに脅されて委縮している訳ではない。ただ、どう答えるべきか悩んでいるだけだ

 アイゼンの事情を知らないルィーンとしては、別にその事を言う義理なんてないのだが、下手に機嫌を悪くされては今後の行動に支障が出てしまう。もしかしたら敵対するようなことになるかもしれない可能性が出てきてしまった以上、返す言葉を慎重に選ばなければいけないだろう

 

 「……一つ、問いに答えてくれ」

 

 「……なんだ」

 

 暫く間を置いた後、ルィーンはアイゼンに確認取るかのように語り掛けた

 その時のルィーンは至って平常心で、普通なら怯えてもおかしくはないアイゼンの睨みを前にしても一切動じることはなかった。図々しさに加え図太さも持ち得ているようだ

 

 今からルィーンが問いかける内容は、おそらくルィーンにとって譲れないことなのだろう。先程までのお気楽な雰囲気とは打って変わって、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気からそれを察することは容易だった

 

 そんなルィーンの雰囲気に、アイゼンはより身を引き締める。下手に気を抜けば()()()()()()()……そう思わせるだけの気迫が今のルィーンにあったからだ

 アイゼンはルィーンに顔を向けて言葉を待つ。向けた先にいるルィーンもいつからかアイゼンに顔を向けていた。どちらも険しい剣幕でお互いの顔を見つめている。その張り詰めた空気には何者も口を挟むことは出来やしない。

 そして、ルィーンはその言葉をアイゼンへと突き付けるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あんたは……どんな目的があるのかも知れない他人に、”大事な仲間”の情報を売るってのか?」

 

 「……!」

 

 ルィーンの言葉に、アイゼンは不覚を取られたかのように息を呑んだ

 

 ルィーンの言葉は最もだ。普通の人格者であれば、誰もがその問いを肯定することだろう

 先程知り合ったばかりの相手に大切な仲間の情報を渡すなどありえない。それを行った場合、裏切者やスパイなどと罵られるに決まっているからだ

 勿論アイゼンだってすんな卑劣な行為をするような男ではない。だからルィーンの言い分は理解できる

 ——しかし、アイゼンが息をのんだ理由はそこじゃない

 

 

 ”お互いに利用し合う”——それを己が身を持って体現するこの少女が、”大切な仲間”だと断言したのだ

 

 

 ルィーンが誰彼構わず使えるモノだったら使おうという考えの持ち主であるということはこの少ない時間で気づいていた。現にベルベットとのやり取りを見ていたアイゼンは、ルィーンがそういった人物だという事を少しの会話で掴んでいる

 だからこそアイゼンは、彼女に協力者はいれど仲間はいないと思っていたのだ。——その考えを覆されたアイゼンが、驚きに一瞬唖然としてしまうのも無理はないだろう

 ルィーンはそれだけ言って黙っている。おそらくはアイゼンがどう答えるかを待っているのだろう

 勿論答えは決まっている。しかし、それを言ってしまえばアイゼンが知りたい情報を得る事が困難になりかねない。何より自分が拒むことを相手に強要するなどあってはならないし、その行為は……自身の”流儀”に反するものだ

 

 「そうか……ならいい。例えお前が教えなくとも、自分で調べるまでだ」

 

 「それがいいと思うぜ。今ここで俺が嘘を吐く可能性だってあるんだし、それなら自分の足で探した方が賢明ってやつさ」

 

 アイゼンはルィーンを無理に問い詰める事をしなかった

 問い詰めたところで正確な情報が得られるとは思えない。ルィーンの性格上、下手に問い詰めれば何かに利用される可能性もあっただろう。だからこれがきっと最善なのだとアイゼンは考えた

 何もルィーンからでしか情報を得られないとは限らないのだ。焦ってはいけない。例え時間がなかろうとも、自身の”流儀”を貫き通した上で——”あいつ”を見つけ出し、連れ戻す。そうアイゼンは再び心に誓うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そんなアイゼンの返答を聞いたルィーンは一気に先程まで纏っていた雰囲気を霧散させた

 いつまでも()()()()空気を纏っている必要がなかったし、それに……少し落ち着きたかったのだ

 ——危うく”過ちを犯してしまうところだった”自分に喝を入れる為にも——

 

 

 

 今のルィーンは自分のしようとしていた行いに自己嫌悪していた

 当初の考えとしては、アイゼンの質問に辺り触りの無いよう答えるつもりだったのだ。今後の作戦に亀裂を残したまま行動するなどよろしくない状況であろうことはわかりきっている

 

 だからルィーンはある程度の情報を教えればいいかと考え、”彼”についての情報を——————話すことはなかった

 

 気づけば相手の質問を拒むような事を言ってしまっていた。明らかな敵意をアイゼンに向け、情報を与える事を拒んでしまっていた

 何故そんな対応を取ってしまったのか? 今は目先の問題(ヴォ―ティガン)を確実に片づけるべきなのに、何故自分から亀裂を入れるような真似をしてしまったのか?

 ……いや、わかっている。わかっているんだ。いくら些細な事だったとしても、”仲間”の情報を売るなんて行為を自分はしたくなかったのだ

 

 

 だってそれは——”あいつ”から受け継いだ”信念”を汚す事になってしまうから

 

 

 それだけは駄目だ。それだけは例えこちらの状況が不利になろうとも、やってはならない行いだった

 別にルィーンは仲間の情報の秘匿に”誓約”を課した訳ではない。しかし、ルィーンにとっての”それ”は誓約をも上回る程に優先度が高かった

 

 

 何せそれは——()()()()()が”あいつ”と交わし引き継いだ”信念”であり、俺にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()優先すべき”誓い”なのだから

 

 

 結果的には話さなかったが、ルィーンは”あいつ”と交わした”誓い”に反そうとした

 例えそれが一時の気の緩みだったとしても、ルィーンは自分自身の行いが許せなかった。”あいつ”と交わした”誓い”が軽いもののように感じ、そうさせてしまった自身の至らなさに自己嫌悪してしまう

 それをルィーンは態度に表す事はしないだろう。それこそ変に勘繰られ、調子を崩されては元も子もないからだ。だからルィーンは平静を保ち続けることに努めた。内心で自身を叱咤し、二度とこのような事が無いように気を引き締めながら……

 

 

 

 二人はお互いに心を改める。一方は己が”流儀”を、もう一方は己が”信念”を貫き通すよう……人知れず気を引き締めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ねぇ、早く進んでくれない?」

 

 「「…………ごめん(すまん)」」

 

 そんな二人に、暫くの間待ち惚けを喰らわされていた女業魔の苛立ちがぶつけられることになるのは、そのすぐ後の事だった

 

 





スキットEX7 頭上注意



 ルィーン
「——そうそう、ここでは頭上に気をつけてな」

 ベルベット
「何よ急に。崩落でもある訳?」

 ルィーン
「いや、崩落はそこまで心配しなくていいんだけど……」

 ロクロウ
「なら何に気をつければいいんだ?」

 アイゼン
「上を見ればわかる」

 聖隷二号
「……?」

ルィーンとアイゼンの言葉に天井を見る三人
そこには——シードやスパイダーを始めとした業魔が天井に張り付いていた

――――数十体程

 聖隷二号
「ひっ……!」

 アイゼン
「複数の業魔共が天井に張り付いている。下手に騒ぐと落ちてくるぞ」

 ベルベット
「ちょっ——そういうことは入る前に言ってくれない!?」

 ルィーン
「すまんすまん、久しぶりに来たから忘れてたわ」

 ベルベット
「笑い事じゃないでしょ……」

 ロクロウ
「うぅむ……しかしまぁ、こうも天井に多くの業魔がいるとなると、気が落ち着かないものだな」

 ベルベット
「当たり前でしょ。いつ落ちてくるのかがわからないんだから、気を抜ける訳ないじゃない」

 ルィーン
「因みに、時折寝ている業魔の涎なんかが落ちてきたりもするぜ? 正直心臓に悪いんだよなぁアレ」

 アイゼン
「まだいい方だ。運が悪いと、排泄物まで落ちてくる場合がある。……あの時ほど、死神の呪いを呪ったことはない」

 ベルベット
「呪いを呪うってどうなのよ……」

 ルィーン
「まぁでも、一番面倒なのが……アレだな」

 アイゼン
「アレか……確かにアレは、苦い経験だった……」

遠い眼をする二人。何処か悲壮感を漂わせている

 ロクロウ
「うん? アレってのは……なんなんだ?」

 ルィーン
「あー……うん、それはだな……」

 アイゼン
「待てルィーン、下手に言うべきではない。俺の呪いを忘れたか?」

 ルィーン
「あ……そ、そうだな。ごめんロクロウ、ちょっと言えないわ」

 ベルベット
「何よそれ。勿体ぶった挙句に言わないとか、後味悪いんだけど」

 アイゼン
「聞いた場合、面倒事が増える事になるかもしれんが……それでもいいのか?」

 ベルベット
「……パスね」

 ロクロウ
「そうだな。今はこの先に進むことの方が先決だ。その話はまた今度でもいいだろう」

 ルィーン
「そうしてくれ…………ハァ、どうかアレが起こりませんように」

 アイゼン
「やめろ。今は忘れるんだ……」

 ルィーン
「おう……そうだな……」

 聖隷二号
(…………気になる)

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