香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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2期のデカリボンちゃんかわいい。
でも香織先輩マジ天使。


第十八話

「進藤、昼休みご飯食べてからで良いから職員室に来てくれ」

 

 

サッカー部の朝練が終わり、片付けをしていると顧問の山田から声を掛けられた。分かりました、と返事をして後ろ姿を見送る。担任の教員ではないため学業関係の話でないことは直ぐに分かるが、しかし部活動の内容だとしても全く見当はつかない。

浩介は一度考えるのを止めてグラウンドに散らばっているボールの元へと駆ける。空にはいくつかの雲が見える程度でスッキリとした天気だ。風が青臭い匂いを運んでくるそれは意外と嫌いではなかった。

 

 

浩介が練習に本格的に復帰してから数日が経った。まだ引退の可否を決める期限の七月にはなっていないものの、殆どの三年生が既に進退を決断していた。

やはり、夏の結果が悔しかったのだろう、特にレギュラー陣の三年生は大半が引退せずに早くも練習に復帰していた。休む期間が長いほど身体は鈍ってしまう。

一、二年生も今まで以上に練習に取り組んでいることもあり、うかうかしているとレギュラーから落とされてしまうかもしれない。数日前の夏の大会ではレギュラーであったとしても、数ヶ月の実力の伸び次第では冬までに控えに落ちる可能性もある。

下級生は少しでも早くレギュラーになるために、上級生はレギュラーを守りきるために練習には熱がこもっていた。

 

総体の敗退を引きずることなく練習に取り組む部員たちの様子を見ていた山田も一つの決断をする。

練習後の集まりで部員を集めると、一枚のプリントを配り始めた。

 

 

「先生、これは……?」

 

「来月に総体の全国大会の出場を逃したチームが集まって行われる非公式の大会がある。毎年開催されているもので、参考程度だが去年の出場校も載せてある」

 

 

部員が大会の概要と昨年の出場校に目を通す姿を確認し、山田は話を続ける。

 

 

「見て分かる通り、規模は小さいが全国の強豪校が集まる大会だ。例年通り、今年も行われる予定で、昨日北宇治に招待がきた」

 

「つまり……!」

 

「まだ、他に出場する高校は決まっていないが、間違いなくうちより格上ばかりだろう。今の北宇治が全国レベルとどれだけ差があるのか、その肌で感じてこい!」

 

「「はい!」」

 

「連れて行くメンバーは二十人だ。三年生もほとんどが進退を決断しているので、少し早いがメンバーは来週には発表する。今までレギュラーだからと言って今回も選ばれるとは限らない。そのつもりで練習に取り組むように。……以上で解散とする」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 

挨拶を終え部室に戻る部員たちの顔はやる気に満ち溢れていた。降って湧いたような全国レベルの高校との試合。

自分たちがどれだけやれるのか、知りたくない人間などいないとでも言わんばかりの表情。

新生北宇治高校サッカー部は新しくスタートを切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浩介、お昼食べよー!」

 

「おー」

 

 

午前中の授業も終わり昼休みに入ると途端に学校全体が騒がしくなる。友人の誘いを断り、香織は三組の教室へと顔を出した。もちろん、忘れずに弁当は持っている。浩介の前の人に机を借りると浩介の机と並べて着席をした。始めの頃とは異なり二人の空間が出来上がっていても周りがそれを気にすることはない。それが三年三組の昼休みの日常になりつつあった。

 

 

「昼は練習良いの?」

 

「朝と放課後は精一杯練習を頑張る。その代わりに昼はしっかりと休む。中途半端にならないように明確にルール決めしてるから大丈夫だよ」

 

「そっか。香織が大丈夫なら大丈夫か」

 

「うん!」

 

 

浩介はバッグから弁当を取り出す。プラスチック製のタッパーが二つ。一つは白米のみ、もう一つには半分がオカズと残りが白米であった。香織はほお、と息をもらす。

 

 

「相変わらず凄い量だね。見てるだけでお腹いっぱいだよ」

 

「これでもあまり多くないんだけどね……。強豪校だと大盛りを三杯とかも普通だし」

 

「そうなんだ。うん、まさに修行だね」

 

「強豪校の選手たちは身体の仕上がりが違うし、実際に効果はあるんだろうけどね」

 

 

弁当を突きながら他愛もない話をする。最近は部活などで一緒に食事をする機会もなく、久しぶりにのんびりした時間を過ごしていた。

二人ともに食事を終えると浩介は立ち上がる。昼休みも半分を過ぎたところだ。

 

 

「じゃあ山ちゃんに呼ばれてるから行ってくるよ」

 

「山田先生? 何の話なんだろうね」

 

「さあ……。多分来月の大会の話だと思うんだけど、それだとわざわざ昼に呼び出すようなことは無いはずなんだよね。……うん、全くもって想像がつかないや」

 

「でも行ったら分かるもんね。いってらっしゃい」

 

 

おー、と返すと浩介は教室を出て行った。香織は後ろ姿を見送ると自分の教室に戻るべく弁当を片付け袋に入れる。持ち主のいなくなった机の上に何もなくなると少し寂しい感覚に陥る。さっきまでの楽しい空気感が嘘のようだ。

 

しんみりするのも性に合わない。気持ちを切り替えようと椅子を引いて立ち上がる。そのタイミングで浩介と入れ違うように晴香が教室に入って来た。手には弁当箱が掲げられており、外で誰かと食べて戻って来たところのようだ。

晴香は香織を見つけると柔らかく微笑んだ。

 

 

「もうすっかり元に戻ったね」

 

「あ、晴香。うん、むしろ昔より良くなったかも」

 

「なんだなんだ。惚気かー?」

 

「独り身の晴香に悪いから惚気ないようにしとくよ」

 

「おいコラ」

 

 

いつものやり取りが心地良い。晴香も香織が以前のように戻ったことを嬉しく感じていた。いや、むしろ以前より生き生きしているようにすら見える。

これが彼氏がいるということなのだろうか。

 

 

「そうそう、今日の練習についてなんだけど––––」

 

 

今の香織ならソロもやりきってくれる。そんな気にさせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

何事も一生懸命になっていると時間が経つのは早い。吹奏楽部のオーディションが終わり数日が経過したある日。奇しくも吹奏楽部のオーディションの結果発表の日とサッカー部の親善大会のメンバー発表は同じ日であった。

 

その日、朝から香織の顔は強張っていた。

頑張ってきたという自信はある。やり切った自信もある。でも、何か欠けているような、喉に引っかかっているような感覚が残る。それが無形の不安を煽っていた。

 

浩介はオーディションが終わった日の香織の表情を覚えている。今の自分を出し切った、そのような顔をしていた。

しかし、決して満足はしていなかった。オーディションが終わってからも、より一層練習に取り組み大会に臨もうとしている。

 

 

 

だからこそ心配になる。

浩介は隣を歩く彼女がいつもより弱々しく見えた。別にやつれているわけではない。スカートから覗く白い足は健康そのものだ。多分醸し出されている雰囲気、オーラがそう感じさせているのだろう。

仮の話になるが、もしオーディションに落ちていたら──いや、それは流石にあり得ないだろう。

あり得るとしたら、トランペットのソロパートに選ばれないことだ。

 

聞くところによると、一年生にとてもレベルの高い奏者がいるという。香織とその一年生のどちらが担当するのか、それが問題になっていた。例年通りであれば間違いなく三年生の香織が選出されるだろう。ただ、四月から就任した新しい顧問である滝は学年に関係なく上手い方を選ぶはずだ。

 

果たしてソロパートのオーディションに落ちた時、香織は納得出来るのだろうか。

香織は全身全霊をかけオーディションに臨んでいた。それが否定された時、香織は再び立つことができるのか。

浩介の唯一の懸念であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「集合!」

 

 

サッカー部顧問の山田の号令に部員は集まる。ぐるりと一人一人の表情を確認した後、山田は一枚の紙を取り出した。

その紙には大会の登録メンバーが記載されている。果たして自分の名前は記載されているのか、緊張感が漂い部員の誰もが息を呑んだ。

 

 

「今年は多くの三年生が残った。それだけ総体の結果に満足していない奴が多かったということだろう。だからと言って今回のメンバーに温情で入れたりはしていない。今の北宇治のベストメンバーを選んでいるつもりだ」

 

 

山田は一区切りつけると、ゴールキーパーから順に発表していく。

 

 

「次、10番は岩田」

 

 

部員の間に動揺が走る。呼ばれた二年生──岩田は口を開いたまま固まっていた。

 

 

「岩田! 返事は!」

 

「は、はい!」

 

 

信じられないという表情で返事をする。ほとんどの部員が浩介に視線を送るが、当の本人は表情を変えず目を瞑ったまま立ち尽くしたままだ。

一方で岩田はまだ困惑していた。浩介は憧れの存在である。いつかは追いつきたいと目標を持っていた。しかし、これは──

 

 

「以上で大会の登録メンバーの発表を終える。選ばれなかった者は、次の機会に生きるよう一層努力すること」

 

「か、監督……」

 

 

恐る恐る手を挙げる部員がいた。山田が発言を促すと、他の部員も思っているであろう意見を代弁した。

 

 

「進藤が今回メンバーに入っていないのはどうしてですか?」

 

「ああ、その件か。理由は二つある」

 

 

一つは今までのサッカー部が浩介に頼り過ぎていたこと。どれだけ優れていたプレイヤーであろうと、ずっと試合に出続けることは厳しい。それこそ全国大会のように日程が過密になるほど、浩介にかかる負担は大きくなってしまう。

またこの前の試合のように、交代した場合にチームとして機能しなくなる事態は避けたかった。精神的支柱であることは間違いないが、全体重をかけて寄りかかって良い訳ではない。

 

山田はこの大会で、新しい形を作ろうとしていた。そのための一歩目が岩田を中心に据えたスタイルである。

浩介の影に隠れているが、岩田も十分にレギュラーになるだけのモノはある。しかし、精神的に弱いところ、技術的に足りないところが控えに甘んじている理由となっていた。

岩田に成長してもらうことを期待しての10番である。

 

 

「そして、まだ発表していなかったが、今回進藤はU-18日本代表に追加招集された」

 

 

急な爆弾発言に今日一番のどよめきが起こる。今まで浩介は候補として練習に招集されることはあっても代表に選ばれることはなかった。

 

 

「そっちに集中してもらうためにも大会メンバーには入れていない。今度の事で双方が成長できる場にすること。以上!」

 

 

いつもならば直ぐに片付けに移るが、今日ばかりは様子が違っていた。誰もが浩介に話し掛けに行こうとする。

しかし当の浩介は山田と話をしており、誰もが近付ける雰囲気ではない。

何処か浮ついているような空気の中、岩田は一人浮かない顔のままであった。

 

 

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