香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

23 / 70
今回はサッカー関係の話なので原作キャラはほぼ出ないです。
呼び飛ばしても全くストーリーに影響しません。


第二十一話

石川で行われている親善大会。

帯同しているマネージャーからメールで試合結果が報告される。

大会は参加している八校を二つのグループに分け、グループ一位が決勝を戦うという簡単なスケジュールになっている。

 

北宇治高校以外はテレビなどで名前をよく耳にする強豪校しかいないその大会で、予想通りと言うべきか苦戦しているようだ。

明日がグループ最後の試合であるが、既に二敗を喫しており敗退は決定している。

新生北宇治高校サッカー部がどれだけのことを収穫できるか、元より勝利することは厳しいことは分かっていた。その中で強豪校との差を痛感すること、冬の全国大会の予選に繋げるためのプレーや考え方など、チームに取り入れられそうなことを見つけることに重点を置いている。

 

マネージャーからの報告では、試合内容の詳細までは分からないが、この大会でエースナンバーを付けている岩田は徹底的に潰されているらしい。チームの核を潰された北宇治高校は攻撃の形が作れずに攻め込まれての失点が多い。

大会が終わってから北宇治高校が取り組まなくてはいけないことは非常に多いだろう。むしろ、多過ぎてチームが立ち止まってしまわないか心配にもなる。

 

 

その予想は大きくは外れていなかったことは戻ってきた時の岩田の表情が物語っていた。練習が始まる前に浩介に掛ける声は沈んでいた。

 

 

「浩介先輩、この後今日時間良いですか?」

 

「うーん、香織居ても良い?」

 

「それはちょっと……」

 

「冗談だよ。じゃあ、とりあえずグラウンドに残っていれば良いかな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

俯いている姿から大会で余程のショックを受けたのか、口数もいつも以上に少なくなっていた。周りも腫れ物を扱うかのように距離を置いている。

 

 

「ではAチームは今日はここまで」

 

「ありがとうございました!」

 

 

大会直後という事もあり、登録メンバーは早めに練習を上がる。浩介はBチームの練習に加わっているため、岩田はグラウンドの端の方で待つことになる。

練習が終わるまでの間、何度か横目で観察していたが、終始俯いているままであった。いつもであれば待ち時間ともなればずっとボールに触っているくらいの人間が、ボールにも触らずにずっと座り込んでいる姿は、相当重症であることを匂わせていた。

Bチームの練習が終わると浩介は岩田の元へと足を運ぶ。

 

 

「ごめん、待たせた」

 

「いえいえ、むしろ中世古先輩と一緒に帰るの邪魔しちゃってすみません」

 

「ああ、今日は特に予定もなかったし別に大丈夫だよ」

 

 

浩介が隣に座ると岩田は少しずつ話し始める。

強豪校との差は痛いくらいに感じることが出来た。むしろあまりにも改善点や強豪校との差が開き過ぎていることが分かり、全国大会出場の目標が夢物語にすら見えてきた。

他校の部員からも結構厳しいことを言われたらしい。その部員は浩介も知り合いであるため、メールで連絡は来ていた。

曰く、浩介の代わりに10番を付けているから対決が楽しみだったのに期待はずれだった。北宇治は冬は諦めたのか、と。

もちろんその事は否定している。北宇治高校サッカー部が全国大会に出場するためには岩田の成長が必要不可欠である。

 

 

「岩田、少しボール蹴ろうか」

 

「え……、あ、はい」

 

 

浩介はボールを取り出すと岩田にパスを送る。岩田はそれを受け取ると浩介へと返す。

 

 

「今回の大会でさ、岩田の目標って何だった?」

 

「俺の目標ですか?」

 

「そう。何かしら目標持ってたでしょ?」

 

「はい。……俺の目標は浩介先輩の様にチームをまとめることでした」

 

 

山田から言われた岩田中心のチーム作り。今年の冬だけでなく、来年以降も見据えたチーム作りを構想していた。

山田が個人名を出してチームのコンセプトを押し出したのは実は顧問に就任してから今回が初めてであった。去年も一昨年もその年のメンバーに合ったコンセプトは有れど、誰かを指名することはしていなかった。

 

 

「つまり、監督はそれだけ岩田に期待しているんだよ」

 

「何でですか」

 

 

岩田はボールをトラップするとそのまま立ち尽くした。拳は強く握り締められている。

 

 

「俺は……、監督に何を期待されているのか分かりません。俺より上手い二年生はいます。俺よりリーダーシップを取れる人もいます。なのに、何で俺が中心になるんですか」

 

「まだ一つ一つの技術は足りてないと思う。そこは確かだね」

 

「なら––––」

 

「でも、岩田には練習では身に付けられない才能がある」

 

「……才能なんて無いですよ」

 

 

小学生の問題を解かされているような、それなのに間違った答えを教えられたように感じた。

もし才能があるならば、浩介と同じように世代の日本代表候補なり何かしらの選抜メンバーに選ばれていてもおかしくない筈だ。しかし、実際には北宇治高校のレギュラーにすらなれていない。

 

 

「いや、少なくとも俺や監督を始めとしたコーチ陣は才能があると思ってるよ」

 

「じゃあ教えて下さいよ」

 

「視界の広さと状況判断能力。これは世代の代表のメンバーと張り合えるか、もしかしたらそれ以上のレベルだと思うな」

 

「視界の広さと状況判断能力……?」

 

「岩田は試合中にボールを受け取る前とか、グラウンドにいる選手の位置はある程度分かってたりしない?」

 

「はい。おおよそですけど、味方と敵の位置は把握しています」

 

 

岩田にはそのレベルの高さが理解出来ていなかった。

昔、とあるスポーツ番組でこんな実験が行われたという。

世界トップクラスの選手とアマチュアの選手に練習試合に参加してもらい、ある瞬間でのグラウンド内の選手の位置をホワイトボードに書いてもらう。

結果はトップクラスの選手の把握率が約七〜八割、アマチュア選手が五割に満たない程度であった。激しく攻守が入れ替わる中で味方と敵とのポジショニングの把握は決定的な場面を作り出すのに大きな武器となる。

 

 

「今の段階ではその視界の広さ、状況判断能力を活かすだけの技術が無いんだ。だから上手くいっていないんだよ」

 

「じゃあ……、もし、それを活かせる技術を身に付けられたら––––」

 

「代表に呼ばれる可能性は十分あるよ」

 

 

浩介は初めて岩田のプレーを見たときに嫉妬すら覚えていた。

誰もが予想していない方向へとパスを出そうとし––––実際にはパスは通らなかったが––––度肝をぬかれた。

しかし冷静に判断すると、パスが通れば決定的なチャンスを作れる、そんなパスを当たり前のように出そうとする。

ボールを持った瞬間にゴールまでの形が作れているなど代表候補の練習でも稀にしか見ることが出来ない。パスやトラップなどの技術が追い付いていないせいで、その凄さを知っている人間は少ないが、間違いなく、このまま埋もれて良い才能ではない。

 

もし自分にその才能があったなら、あいつにも勝てるのかもしれない。

そう思わずにはいられない。

 

 

「……でも確信が持てないです。今まで出来なかったのに、急に才能があるなんて言われても自信持てないですよ」

 

「そりゃそうだ。でもやるべき事は分かったよな?」

 

「はい……」

 

「あと一年以上あるんだ。焦らずに一つ一つのことをしっかりやっていけば良いさ」

 

 

聞けば本格的にサッカーの練習をし始めたのは中学校からだという。それならば、まだ技術が未熟なのは仕方ない。むしろ伸び代が人より多い分、期待値は高くなっていく。

もしかしたら、来年は全国大会出場ではなく、さらに上を目指せるかもしれない。そう思わせてくれるだけの存在である。

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

「もしもし?」

 

『あ、進藤? 私、小笠原だけど』

 

「小笠原? 今ホールで練習中じゃなかった?」

 

『その……、ちょっとお願いあるんだけど良いかな?』

 

 

物語は新たな展開を迎える。

 

 




いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。