香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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これでとりあえず府大会編は終了です。


エピローグ

結果発表の場に浩介はいなかった。ホールの外で騒めく音だけを耳にしていた。

一瞬の静寂の後、大きな歓声、悲鳴。様々な声が聞こえてくる。結果が出たようだ。果たして北宇治高校の名前があるのか、あともう少しも経てば分かるだろう。

 

表彰式が終わり続々とホールから人が退出し始める。

喜んでいる生徒、対照的に泣いている生徒。数分が経った頃に北宇治の生徒が出てきた。その表情は涙を流している人もいるが、みな笑顔であった。

香織も目に涙を浮かべていた。

 

 

「香織」

 

 

香織は浩介の姿を見つけると涙を拭うことなく、そして人目を気にすることなく抱き付いた。

浩介は慌ててそれを受け止める。嗚咽混じりに結果を伝えようとするが、上手く言葉にならない。落ち着かせようと背中を軽く叩いていると、ふと視線を感じた。視線の先には晴香や優子を始めとした吹奏楽部員が顔をニヤつかせていた。

浩介は香織の肩を掴んで引き離そうとするが、離れまいと余計に力を込めて胸に顔を押し付けてきたため、諦めて甘んじて現状を受け入れることにした。

 

数分も経つと香織も落ち着いてきたようだ。ゆっくりと顔を上げる。

潤んだ目、感情を爆発させたせいか上気した頰。表情にドキッとさせられるが、公共の場であることを思い出し深呼吸する。そしてポケットからハンカチを取り出すと香織に手渡した。

 

香織はハンカチで目元を抑えると改めて浩介の顔を見つめた。

 

 

「関西大会出場が決まったよ」

 

「そっか……。おめでとう」

 

「今もまだ信じられないけど、私たちはやれたんだ」

 

「うん、演奏中ずっと鳥肌が立ってたよ」

 

 

浩介は誇らしかった。あんなに人を感動させる演奏が出来るのだと。

そして、その中の一人に香織がいることに。

 

 

「次も応援に行くよ」

 

「うん。浩介が来てくれるなら百人力だよ」

 

「お二人さん! こっち向いて!」

 

 

声の方向に振り向くと晴香がスマホを構えていた。口元はにやけたままである。香織は慌てて逃げようとするが、浩介は香織の肩に手を回すとポーズを取る。晴香もシャッターチャンスを逃さまいとボタンを連打し、結果シャッター音が何度も鳴らされた。

 

 

「晴香!」

 

「あんなにイチャつかれたら撮るしかないでしょ」

 

「後で送ってね」

 

「浩介まで!」

 

 

誰もが笑顔を見せていた。

新学期からは辛いことが多かった筈である。それでも滝への反発という負の感情から始まった吹奏楽部は、演奏の楽しさを覚え府大会銅賞の去年から、関西大会出場へと成長することが出来た。

その姿に浩介も一つの決断をする。

 

 

 

 

 

 

 

「ドイツ?」

 

「うん。この前のアジアでの大会を見て、うちの練習会に参加してみないかって連絡が来たんだ」

 

 

帰り道。

片方は私服、もう片方は冬服の制服というアンバランスではあるが、いつものように二人は肩を並べ歩いていた。

浩介は自身の決断を香織に伝える。

 

 

「ずっと向こうに行っちゃうの……?」

 

「いや、あくまで練習に参加するだけだから、長くても二週間くらいかな」

 

「二週間……。関西大会はギリギリかな」

 

「それまでには戻ってくるよ」

 

 

ドイツのクラブチームからの練習の誘い。ヨーロッパのクラブチームでアジアの市場開拓を狙っているところは多い。有望な若い選手の発掘のため、この前のアジアの大会にもスカウトを送っているクラブチームは幾つもあった。

その中の一つのクラブチームが浩介を含めた何人かに練習会への参加を打診しており、浩介は悩んでいた。評価されたことは嬉しいが、自分がついていけるのか。将来も不透明な今、練習会に参加する意義はあるのか。

様々な考えが浮かんでは消えることを繰り返していた。

しかし、今日の香織の姿を見て悩みは吹き飛んだ。無理と言われていた、その逆境を乗り越える姿に勇気をもらった。将来が分からなくてもきっとその挑戦は無駄にはならない。

 

 

「いつ行くの?」

 

「それがさっき連絡したら来週末って言われたよ」

 

「すごい急だね」

 

「向こうの都合みたいなんだ」

 

 

そっか、と香織は小さく呟く。

少し背中が見えたと思ったら、さらにその先に行こうとしている。嬉しくもあるけど、全く背中の見えない遠くの世界に行ってしまうのではないか。そんな不安に襲われる。

沈んだ様子の香織に、浩介は頭に手を乗せた。

 

 

「香織のおかげなんだ」

 

「え……?」

 

「あの時、香織が背中を押してくれなかったら俺はもうサッカーをやめていた」

 

 

二人で新たにスタートを切ったあの日。

浩介は香織の言葉に救われた。

 

 

「だからこれから先、サッカーに限らずどんな時も、香織に隣にいて欲しいんだ」

 

「それって––––」

 

「これ以上は恥ずかしいから続きはまた今度ね」

 

 

涙は枯れたと思っていたけど、まだ出てくるみたいだ。

香織は目に涙を浮かべると浩介の胸に飛び込んだ。

 

 

 




2期については大凡の考えを纏めてからまた書き始めたいと思います。
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