香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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オリジナル設定組み込んでます。


第二話

入学式から数日が経過し、本格的に新学期が始まった。

三年ともなると、少しずつ入試の事を意識するようになってくる。北宇治高校も教科によってはコースが設定されており、各々の学力に合わせ選択していくシステムが取られている。

授業開始初日に試験を行い、試験結果により今日からコース毎の授業が開始された。普段のクラスは異なるが、運良く数学が一緒になった浩介と香織は昼食を取っていた。

 

 

「入試を意識した問題になると、急に内容も難しくなった気がするのは何でなんだろうな」

 

「さあ、気の持ちようだと思うけどね。実際初めて見る問題だからそう感じるだけで、そこまで難しくはなってないし」

 

「受験とか気が重くなるなぁ。そういえば––––」

 

 

ふと思い出したように浩介は切り出す。

吹奏楽部の前顧問は産休に入ったため、今年度から新しい顧問が着任することになっていた。

確か始業式で挨拶していた記憶はあるが、遠くからはよく見えなかったため、浩介にはどんな人なのかは分かっていない。

 

 

「うーん。まだ滝先生は部活には顔出してないの。忙しいみたいで。あ、でも確か今日あたり来る予定って言ってたかな」

 

「新任だと色々やらなくちゃいけないことがあるんかね。よう分からんけど」

 

「まあ、でも一年生のパート決めとか、初心者向けに基礎的なことの確認の時間が取れるから」

 

「香織先輩の基礎練か。俺もぜひ出たいな」

 

 

何気ない会話を続けていると昼休み終了のチャイムが鳴る。残念ながら午後からは、再び自分の教室の授業である。

またね、と自分のクラスに戻っていく香織を見送り、浩介も次の授業の準備を始めた。

 

 

聞いたところによると、吹奏楽部では毎年三年生が腹式呼吸の確認など初心者の一年生向けに行っており、今年は香織がその役割を担うらしい。

既に後輩たちからあれだけ人気のある香織のことだ、解りやすく丁寧に指導し、さらに一年生からの人気も得るのだろう。

自分の彼女であることをアピールするためにも––––

 

 

「やっぱり出たいなぁ……」

 

 

呟きは誰に聞かれる訳でもなくチャイムの音にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

「では今からチーム分けを発表する。発表後、Aチームは進藤に、Bチームは俺のところに集まれ。今後の練習メニューについて確認する」

 

「「はい!」」

 

「では……」

 

 

サッカー部顧問の山田によりチーム分けが発表されていく。北宇治のサッカー部は部員が50名である。この中から入学式からの数日間の練習を踏まえ、一年生を含め二つにチームを分けていく。

 

Aチームはおおよそ20人で構成される。基本的には大会に登録されるメンバーもAチームから選出されて挑むことになる。

 

部活内の競争力を高め、さらにモチベーションを保つため、チーム間の入れ替えは激しく行われる。レギュラーであっても、気を抜いたプレーをすれば直ぐにBチームへ落とされる。

 

山田が顧問に着任し、伝統を無視した急なチーム方針の変更に始めは在校生、OBたちからの反発もあった。しかし、チーム成績は確実に伸びてきており、また多くのメンバーにチャンスが与えられるシステムのため、現在は部員からも受け入れられている。

実際に前回の高校サッカー選手権大会に初めて出場できたことは大きな実績となっていた。

 

 

「じゃあAチームに選ばれた人はこっち集合して」

 

 

山田による発表後、浩介はメンバーを集まらせた。流石に、この時期では一年生はAチームにいないようだ。

 

 

「アップが終わったら一対一から始めるよ」

 

 

今日の練習メニューを確認した後、早速練習を開始する。

全員が準備を開始したことを確認し、浩介も練習に加わろうとしたところで山田に声を掛けられた。

 

 

「進藤。来月のお前の合宿の件で、ちょっと書いてもらいたい書類がある。この後の指示出し終わったら職員室に来てくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 

書類くらい練習が終わった後でも良いんじゃないか、とは思ったものの、先方の都合で今日中に送って欲しいらしい。面倒ではあるが早めに済ませて練習に戻るしかない。指示を出し終えると浩介は足早に職員室へと向かっていた。

 

職員室のある校舎へ向かうためには中庭を通る必要がある。春休みは賑わっているこの広場も放課後ともなると大抵静かな場所になる。

靴が砂利を踏む音がその静けさを強調しているようにも思えてくる。浩介が中庭へと差し掛かると、そこには普段の中庭とは異なる光景が目に入った。花壇の縁と並行に列を作り、一様に腹部に手を当てている集団がいた。

 

女子の制服のリボンの色からその集団がは一年生であることが分かる。そして、その一年生たちを監督している三年生は香織––––つまりは、吹奏楽部の集まりのようだ。

 

流石に後輩たちの前で練習中に声を掛けるのは公私混同の点でも良くないか。気付いたようにこちらを見てきた香織に、笑顔で軽く手を振り集団を通り過ぎた。

 

ふと、集団の中にどこかで見たことがあるような子がいたが、関東の中学校からこちらに来た浩介には新一年生に知り合いはいないはずである。首を傾げながらも不審に思われないよう、足は止めなかった。

 

 

 

 

 

「あ、こりゃダメだの子か」

 

 

入学式の日、吹奏楽部の演奏を聴いていた少女だ。浩介が思い出したのは数分後––––職員室に入る直前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

無事楽器を選び終わった低音パートの面々は3年3組の教室に集まっていた。

 

 

「ねえ、さっきサッカー部の人が通った時、香織先輩と仲良さそうな雰囲気だったよね」

 

 

葉月の問いかけに緑輝も同調する。瞳がキラキラと輝いているのは気のせいではないだろう。

 

 

「ミドリもそう思います! もしかしたら彼氏さんとかですかね?」

 

 

ひゃー、と赤くなる緑輝に久美子は半目で聞き流していた。確かに仲は良さそうではあったが、付き合っている云々は飛躍しすぎではないか––––尤もまだ自分にはそういったことが無いために、そう思ってしまうだけかもしれないが。

 

 

「中世古先輩なら彼氏いるぞ」

 

 

意外にも会話に加わってきたのは後藤であった。葉月は急な後藤の介入に驚きつつ、目を丸くした。

 

 

「え! じゃあ、さっきの人が本当に彼氏だったのかな」

 

「後藤先輩、香織先輩の彼氏さんはサッカー部の方なのですか?」

 

 

興味津々という緑輝の表情にたじろぎながらも後藤は頷く。

恋バナ苦手なんだから口挟まなければいいのに、という梨子の声が微かに聞こえた。

 

 

「今のサッカー部のキャプテン……進藤先輩だよ。俺はよく分からないけど、かなり上手いって。高校生の日本代表の候補にもなってるらしい」

 

「かなり凄い人じゃないですか! 流石香織先輩の彼氏ですね」

 

 

ほへー、とため息をつく葉月。その様子を勘違いした緑輝は肩を叩く。

 

 

「大丈夫です。葉月ちゃんにもきっと素敵な彼氏さんができますよ!」

 

「いや、今まだ入学したばかりだし。少し憧れはあるけど特別欲しい訳ではないかな」

 

「憧れちゃいますよね! 吹奏楽部のマドンナとサッカー部のキャプテン……素敵です」

 

 

姦しい会話はその後あすかが教室に来るまで続けられていた。

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