香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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建物とチームは完全にオリジナルです。
やっと小説2巻買ったので、読みながら今後の展開を考えたいと思います。


例えばそんな始まり ②

「大きいスタジアムだね」

 

 

目を何度も瞬かせ驚きを表現する香織に苦笑いする。確かに浩介も初めてスタジアムに来た時には圧倒的な大きさに暫し立ち尽くした記憶がある。

初夏の陽射しの下、浩介と香織はサッカーの試合を観戦するため、とあるスタジアムへとやって来ていた。

 

––––ことの始まりは一週間前に遡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? あの時が初めてだったの?」

 

「うん。それまでサッカーには興味が無かったからね、家族でも観る人がいないから全然観たことがなかったんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

 

浩介は心の中で香織の友達に感謝する。誰かは存じませんが、機会を与えてくださってありがとうございます。

そして、ふと思い出す。

 

 

「も、もし良かったらさ」

 

「うん?」

 

 

声が震えるのを悟られないように、努めて冷静に話を続ける。話掛けから噛んでしまったのは愛嬌だ。

 

 

「来週プロの試合が近くのスタジアムで行なわれるんだけど、ちょうど知り合いから貰ったチケットあるんだ。……行ってみる?」

 

「来週……、うん、大丈夫かな。サッカーは全然分からないから色々教えてね?」

 

 

軽く首を傾げながら、はにかむ様子に心臓の高鳴りは抑えられない。

チケットを貰ったことは本当である。話の流れから香織を誘うことが出来たが、元々は誰か友達と行く予定であった。

 

最近の運気は絶好調なのではないか。一生分の運を使い果たしているような気もするが、それならば運が残っている間に全力を尽くす。

それくらいの気概を見せていかないと後悔する、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、今日試合するチームも全く知らないんだけど、それでも大丈夫なのかな」

 

 

香織は圧倒的な大きさにキョロキョロと忙しなく周りを見渡していた。国際大会でも使用されるこのスタジアムの収容人数は5万を超えていた筈だ。浩介も初めてここに来た時は圧倒されたことを覚えている。

 

 

「全然問題ないよ。因みに今日試合するのは地元の京都と千葉のチームだよ」

 

 

浩介は一つ一つ丁寧に説明をしていく。

香織にとっては初めてのことばかりであり、全てが新鮮であった。色鮮やかにグラウンドの芝が映えている。

 

 

 

 

 

『本日のスターティングメンバーを発表します!!』

 

 

場外アナウンスと共にスクリーンに選手が紹介されていく。一人一人の選手の名前とポジションが呼ばれ、サポーターは選手の名前がアナウンスされる度にコールしている。

あまりにも大きな歓声に隣に座って会話することさえ大変になる。浩介はやや声を張り上げるように香織に説明を始めた。

 

 

「選手全員なんて覚えられないし、覚える必要もないんだけど。今日の試合だと千葉の7番の選手が元日本代表のエースで注目選手だよ」

 

「元ってことは今は違うの?」

 

「代表にいたのは五年以上前だからね。以前は海外のチームにいたんだけど、日本のリーグを盛り上げるために戻って来たんだ」

 

「日本のためにってすごいね」

 

「本当に凄い選手だよ。俺の憧れの選手で、小学生の頃からずっとプレーを真似たりしてたんだ」

 

 

そう語る浩介の顔は学校にいる時とはまた違っていた。別に造形がカッコ良い訳ではないし、香織のタイプな訳でもない。

しかし、どうしてか心臓が強く鼓動する。何故か分からない。特にサッカーについて話している時の顔に惹かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今笛鳴ったけどファウルだったの?」

 

「今のはオフサイドって言ってちょっと説明は難しいんだけど––––」

 

 

そこまで言い掛けて、 鼻孔をくすぐる良い匂いに気付いた。サポーターの応援する声などが騒音となり、会話をしようとすると必然的に顔を近付けなくてはいけない。試合開始直後は緊張感などで気付いていなかったが、大分落ち着いてきた今になって至近距離に香織がいることを自覚する。

気付いた瞬間、恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

香織は話している途中で急に黙り込んで赤面した浩介を不思議に思っていたが、その答えはちょうど通り過ぎた小さい女の子が教えてくれた。

 

 

「お母さん、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん顔近いよ?」

 

「見ないの! ほら、早く行くよ!」

 

 

なるほど、顔が近いお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるらしい。女の子がこっちを見ながら言ってたことから私たちのことを言っているのだろう。

そこまで考えて浩介の赤面の理由を把握する。香織は話を聞こうと少し身を乗り出しながら顔を寄せていた。

 

 

「ご、ごめん!」

 

「あ、いや大丈夫。むしろ……」

 

 

もごもごと口ごもる浩介が何を言っているかまでは分からないけど、恥ずかしさをかき消すため少し大きめに声を出す。

 

 

「そ、そう! さっきのオフ、サイド? についてなんだけど!」

 

「う、うん! 何かな?」

 

 

話題を変えて何とか落ち着かせようとする。顔の熱が取れる頃には試合の半分が終わっていた。

 

ハーフタイムに入り浩介が席を外している間に、香織は持ってきていた飲み物で喉を潤す。冷たいお茶が体を冷やすことで冷静さが戻って来た。よくよく考えてみると、男子から誘われたことはあれど全て断っていた。つまり男子と二人で出掛けたのは今回が初めてだ。

緊張する訳だ、と一人納得する。

数分もすると、白い紙皿を両手に持った浩介が戻ってきた。

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

「ううん。大丈夫。……それは何?」

 

「スタジアムで売ってるお好み焼きだよ。これが意外と美味しん––––」

 

 

浩介はそこで香織の服装を見て止まる。

今日の香織は白を基調とした服装であり、万が一ソースが付いたりした日には目も当てられなくなる。

しまったという顔が可笑しかったのだろう、香織はクスクスと笑った。

 

 

「進藤君は面白いね。私にも一つちょうだい?」

 

「でも、もし服を汚しちゃったりしちゃったら……」

 

「大丈夫だよ。お好み焼きの良い匂い嗅いだらお腹空いちゃった」

 

 

香織は戸惑っている浩介から皿を受け取ると一口大に切り口へと運ぶ。チーズがふんだんに使われており、お好み焼きの生地と合わさってフワフワとした食感がたまらない。

 

 

「美味しい!」

 

「好みに合ったようで良かったよ。スタジアムによって食べられる物が違ってたりしてて、そこでしか食べられないやつもあるんだ」

 

「そうなんだ。スタジアムの外でも小さい子向けのイベントやってたりしたし、お祭りみたいだね」

 

 

話しながらも香織は一口、また一口とお好み焼きを食べていく。あっという間に皿から姿は無くなり、それに気付いた顔が少し寂しげになる。

晴香から吹奏楽部のマドンナと言われつつあると聞いていた浩介には、その様子はマドンナから程遠いと感じた。でもマドンナよりこちらの方が好感が持てる。

 

 

「何で笑ってるの?」

 

「思った以上に美味しそうに食べ切ってくれたからさ」

 

 

浩介の手元を見るとまだお好み焼きは残っていた。先に食べ終わるなんて食いしん坊に思われたかもしれない。

恥ずかしさで顔が熱くなる。

 

 

「でも、変に遠慮されるよりそっちの方が好ましいよね」

 

「そ、そうかな」

 

「うん。少なくとも俺はそう思うよ」

 

 

浩介の笑顔に再び心臓の高鳴りを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

 

 

『デートどうだったの?』

 

 

浩介と別れた帰り道、香織は晴香へと電話を掛けていた。

電話口越しの晴香の声にからかいが含まれていることは直ぐに分かる。

 

 

「デートじゃないってば。……でも、うん、楽しかったよ」

 

 

思い出すのは無意識ながら顔を近付けていたこと。恥ずかしさはあったが、嫌な感じはなかった。

ドキドキよりも安心感の方が強くある。好感はあるけれども、それが異性としての好きとはまた違うような気がした。

 

 

『えー? 何にもなかったの?』

 

「デートじゃないんだから何もないよ」

 

『つまらないなー』

 

 

通話を終えると浩介にお礼のメールを送る。

 

まだ自分の気持ちに答えは出ない。

いつか結論が出るまで今のままで良い。今はこの気持ちを大切にしていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴香はため息を吐いた。

目の前には、一緒に勉強をしている香織と浩介がいる。三人は定期試験に向けて、苦手分野を補うべく机を並べていた。

今は香織が浩介に数学の分からない点を聞いており、ノートに書きながら説明するために自ずと二人の距離は近くなっている。浩介の耳は赤くなっていることから、意識をしていることがよく分かるが、一方で香織は全く意識をしていないようだ。

 

男として意識されていないことに薄々浩介も気付いているのだろう。でも今はわざと気付かないフリをしている。もしかしたら、近くにいれるだけで良いと考えているのかもしれない。

 

期待させるだけになっているのなら浩介が可哀想だ。

 

しかし、香織が無意識に好意を寄せていることは晴香からは一目瞭然であった。本人は自覚していないが、男子とあれだけ近距離で会話が出来るのは浩介だけである。むしろ先日のデート以来––––香織はデートを否定したが––––他の男子と浩介とは線引きがなされているようにも感じた。

 

何かキッカケがあれば二人の距離は縮まるかもしれない。

晴香はどうにかして次の機会を設けたかった。

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