香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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アニメより熱くなりそうな香織先輩


第三話

その日香織は悩んでいた。

 

 

––––なんですか、これ

 

 

滝が顧問に着任してから初めての合奏。元々本格的に練習を行ってきていなかった吹奏楽部としては、当然の結果の合奏であった。

ミスをしても仕方ない。楽しく吹くことが出来れば良い。それらの言葉を本気で取り組まないことの免罪符にして、基礎練習すら遊びの時間に費やしていた。

 

目標ではなく、あくまでスローガンとしての全国大会出場。本気で全国を目指していない部員は、その時の空気に流され手を挙げたに過ぎない。

 

しかし、滝はそれを良しとしなかった。

 

一週間後、再度『海兵隊』を合奏し、その結果如何ではサンフェスに参加しない。

強引な決定にもちろん部員の反発も大きく、部長以下パートリーダーは各々のパートをまとめるために奔走していた。

 

 

 

 

 

 

 

「悩んでるいるな、若人よ」

 

「部活お疲れ様。うん、ちょっとね……」

 

「さっき吹部の人たちとすれ違ったけど、中々すごい先生みたいだな」

 

 

影ている月をぼーっと眺めていると後ろから声を掛けられる。

サッカー部の練習が終わるのを待っていた香織は、浩介の姿を確認するとバッグを持ち立ち上がった。バッグの肩掛けがいつも以上に肩に食い込む。

 

香織は部活で起こった内容を話しながら帰り道を歩いていく。なるべく主観的にはならないよう注意していてもどうしても自分の気持ちも入ってしまう。

浩介は話を聞きながら相槌を打っていたが、香織が一通り話し終えると目を閉じ腕を組んだ。

 

 

「ふむ。つまりは、全国を目指せば良いわけだ」

 

「うん、浩介ならそういうと思った。もちろん私も全国目指せるならそれが良いと思う」

 

 

でも––––

 

 

「去年の事があったから。だから、私は何も起きないでいて欲しいっていうのもあるんだ……」

 

 

後悔を含んだ呟き––––否、願望に浩介は口を閉じる。

浩介も昨年の吹奏楽部の出来事を知っている。先輩と後輩に挟まれてどれだけ香織や晴香が苦しんでいたかということも。

みんなでワイワイとやることも間違っているとは思わないし、当事者でない自分が下手に横から口出しをするようなことは言えない。

しかし、一つの部のトップとして、今の吹奏楽部の現状に思うことはある。

 

 

「これは個人的なことだからさ、別に賛同してもらわなくても良いんだけど」

 

 

そう前置きし、浩介は自分にも言い聞かせるように言葉を続ける。

 

 

「全国を目指すことと、みんなで楽しくやるって両立しないのかな」

 

「––––ッ!」

 

「サッカーだとさ、みんなが上手くなることでゲームとして成り立つようになるし、パスやプレーに繋がりが生まれるんだ。……切磋琢磨してって感じかな? ワイワイとは違うけど。それもちゃんとしたサッカーの楽しさだと思ってる。昔さ、香織が言ってくれた言葉に似てるんだけど、吹部も繋がりが生まれることでの楽しさってあると思うんだ」

 

 

浩介の指摘に香織は目を見開いた。

もちろん頭の片隅では理解していたつもりではあった。でも何処か諦めていた部分があることも事実である。

今のままで良いと勝手に決めつけていたのかもしれない。

 

 

「……吹部は変われるかな」

 

「それは何とも言えないかな。実際に去年、その機会を一度失っている訳だし」

 

「そうだよね……」

 

「ただ、新しく来た滝先生と小笠原ならやってくれるような気がする」

 

 

もちろん、滝先生とは実際に話したことないから憶測だけどな。

笑みを浮かべる浩介につられて笑ってしまう。

意外と浩介の予想は外れたことがない。香織は少し光が見えたような気がした。

 

 

「なんか晴香に嫉妬しちゃうな……」

 

「うん?」

 

 

ううん、何でもないと首を振る香織に浩介は首を傾げた。

香織はグッと背筋を伸ばす。

 

 

「とりあえず。まずは自分のパートのメンバーをまとめてみるよ。私の出来るところからやってみる」

 

「そうだな。周りが変わっていくと、きっと部内全部が一気に変化する時がくるよ」

 

「うん。なんか少しホッとしたらお腹減ってきちゃった」

 

 

わざとらしくお腹をさする仕草をする香織。その様子に浩介は苦笑いしながらバッグを持ち替える。

 

 

「今日は部活でだいぶ待たせちゃったからな。何か軽く食べてく?」

 

「じゃあ……ハンバーグ!」

 

 

え?!と驚く浩介を置き去りに香織は駆け出す。

さっきまで影ていた月も今はよく見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、簡単に今までの空気は変われない。凝り固まった空気を入れ替えるには強く大きな風が必要である。

香織の決意とは裏腹に、吹奏楽部がまとまるのは当分先の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

「我慢できないです!」

 

「私も! 何で今さら海兵隊に時間かけなくちゃいけないんですか!」

 

 

香織は頭を抱えていた。

予想以上に部員の反発が大きい。

頑張ってまとめる筈だったのに思惑とは別の方向へ話が進んでいた。

 

 

『このまま無理に練習を行っても難しいのではないか』

『意見がまとまるまで練習すべきではない』

 

 

部員の一部ではあるものの、声を大にしての発言を無視する訳にはいかない。結局のところ、パートリーダー会議にて今後の方針を話し合うことになり、それまで練習は休みとなった。

 

部室に来た一年生に謝りながら説明していると、悔しさと申し訳なさが混じり合う。それを感じ取った一年生の表情に、さらに悔しさが募る。

上の学年のイザコザに下級生が巻き込まれるなんてことは本来ならばあってはいけない筈なのだ。これでは去年の二の舞になってしまう、そんな危惧があった。

 

 

「前途多難だね……」

 

「ね……」

 

 

晴香と二人、教室を出て行く一年生の姿を眺めながら呟く。部がまとまる日は来るのだろうか。

快晴の空を見つめ香織はため息をついた。

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