特に何もないので、本編へ
「実家?」
「ええ。なんでも実家の用事で1週間くらい実家に帰るらしいわよ」
バレンタインの次の日、ノンナが学校に来なかった。
先生に理由を聞いてもなぜか答えてくれなかったので放課後、一番付き合いが長いカチューシャに聞くと、割と普通な理由で休んでいた。
…………なんで先生は教えてくれなかったんだ?
別に隠すような理由じゃないと思うけど……。
「ま、病気とかじゃなくて良かった」
この時はそれくらいにしか思ってなかった。
「ユキ!」
金曜日の朝。あきらかに動揺しているカチューシャが走って俺の教室に入ってくるなり、俺の服を掴む。
「どうしたカチューシャ、そんなに慌てて?」
「ノ、ノンナが、ノンナが大変!」
「っ!?どういうことだ?詳しく話せ」
カチューシャが俺の服を先程より強く握る。……その手は震えていた。
これだけでもノンナに大変なことが起きてるのか分かる。
「ノンナが学校を辞めちゃう」
一瞬、俺の中で時が止まった。
「どういう……ことだ?」
「私にも分かんないわよ!たださっきノンナから電話があって『今まで私なんかと一緒に居てくれてありがとうございました。……さようならです』って言われたのよ!」
くそ!意味が分からない!バレンタインデーにはそんな素振り無かったぞ!
あー、ここで考えてても分からん。本人聞かなきゃ分からない
「カチューシャ、行くぞ!」
「行くってどこに!?それに授業は!?」
「ノンナの所以外あるわけないだろう。授業はサボる!」
今は授業なんかよりこっちの方が何倍も大事だ
「あれ西住、どこ行くんだ?授業始めるぞ」
タイミング悪く一時間目の先生が教室に入ってくる。
「先生すいません、サボります」
「え……いや、ちょっと待ちなさい!」
俺は先生の声を無視して、カチューシャを抱えて校門を目指して走り出す。
「ここか?」
「ええ、ここがノンナの実家よ」
先生達を振り切って近くに止まっていたタクシーに乗り込み、カチューシャの案内でノンナの実家の前に到着した。
ピンポーン!
インターホンを鳴らしてみるが反応がない。
留守か……人がいる気配もないし、どこかに出掛けてるのか?
「カチューシャ、他にノンナが居そうな場所あるか?特に家族で行きそうな場所」
「ノンナが行きそうな場所…………あ、ちょっと待ってて」
カチューシャは小走りで近くの家に行く。
知り合いの家なのか?
カチューシャはおばさんと少し喋るとこちらに戻ってくる。
「何か分かったか?」
「どうやらノンナのお母さんが倒れて病院に居るらしいわよ」
「じゃあお見舞いの品買って行くか」
いくらノンナに用があるって言っても、病人の前に手ぶらはいかんだろうな
もう一度タクシーを呼び、カチューシャが教えてもらった病院に向かう。
「……ユキ、カチューシャ」
お見舞いの品を持って病院に行くと、廊下で私服のノンナと出会う。
「ノンナ!今日の電話はどういう意味!?」
「…………二人とも学校はどうしたんですか?」
「サボりだ。あとこれ、お母さんに」
「ありがとうございます」
「それで……学校を辞めるって言うのはどういうことなんだ?」
「…………少しだけ待っててもらえますか」
「分かった」
ノンナは小走りでお母さんが居ると思われる病室に向かって行った。
……明らかに表情が曇ってる
何があったんだよノンナ……。
「ここなら良いですかね」
数分して戻ってきたノンナに連れられて病院の屋上に来た俺達。
「それでノンナ、お前に何があった?」
ノンナは左手で自分の右腕を掴んで、うつむきながら口を開いた。
「……昨日ユキの家から帰ると母から電話がありました。…………父が借金を作って居なくなったそうです」
「っ!?」
「嘘……あのおじさんが…………」
なんかあるとは分かっていたが予想以上の問題だ。
ノンナのお父さんがどんな人かは俺は知らないがカチューシャの反応を見る限り、そんなことをするような人ではないんだろう
「私が急いで実家に戻ると母が倒れていました。今回の心労で持病が悪化してしまったそうです。父の借金が 500万、母の治療費が500万。合わせて1000万円の借金が出来てしまいました」
「……親戚とかはいないのか?」
「いないです。結婚するときに反対されてたみたいで、縁を切ってしまったそうです」
…………最悪だ。両親はどちらもお金を支払えそうにない。いくらノンナが頑張っても高校生に払える額じゃない。
「母の着替えを取りに帰った時、父が借金した人達……きっとあれはヤクザだと思われる人達に会って言われました『お前は良い体してるから、お前が身売りするなら借金は勿論お母さんの治療費まで払ってやるぞ』って」
「ノンナ!そんなの駄目よ!絶対に駄目!カチューシャは許さないわよ!」
カチューシャがノンナの腕を掴み、涙目になりながらもノンナを止める。
「…………私だって知らない男に売られたくありません。カチューシャやユキ達と一緒に学校に行きたいです。学校を辞めたくないです」
「なら―――」
「じゃあ二人が借金を返してくれますか?」
「そ、それは…………」
「…………………」
「病気の母はどうするんですか?病気の母に借金を押し付けるんですか?…………そんなの出来るわけないじゃない。何も出来ないのに……勝手なこと言わないでください!
―――私の気持ちも知らない癖に!」
ノンナは涙を流しながら走ってどこかに行ってしまう。
…………最低だな、女の子を泣かせるなんて。ノンナの涙は見たくなかったな
確かに俺達の願いはきれいごとだ。ノンナが身売りしなければお母さんの病気は治らないし、借金に追い回される生活になるだろう。
ノンナはその事を踏まえて何度も考えた結果がこれなんだろう。
だからって…………このままで良いわけないだろう!
「……カチューシャ、気持ちが収まったら連絡しろ」
崩れるように座って静かに泣いてるカチューシャの頭に手を置いて、子供をあやすように撫でる。
「……うん」
小さな声で返事をしたカチューシャを一人残して、俺は屋上を出る。
「ノンナ……」
病院の目の前にある広場のベンチで座っているノンナを見つけた。
「ユキ……ですか」
俺に気づいたノンナは俺の方に顔をあげてくれる。
…………涙は止まってるみたいだけど目がかなり赤い
「隣、座ってもいいか?」
「……ええ」
ノンナの許可を得て隣に座る。
「…………何をしに来たんですか?」
俺を威圧的に睨みながら聞くノンナ
「ノンナが知ってる俺は、大事な人が泣いてるのをほっとくような奴だったか?」
「……ふふ、ユキは優しいですからね」
睨むのを止めてぎこちなく笑うノンナ。
……いつもの笑顔はどうした?
「俺の言いたいことはほとんどカチューシャが言ったし、これ以上言われるのも嫌と思うから言わない。ノンナ!
―――俺に出来ることはないか?」
ベンチから立ち上がりノンナの前に移動する。
今の俺にはきっとこれがノンナに対して出来ることだろう。
「雪穂…………すいません」
そういうと勢いよく俺の胸に顔を隠すように抱きしめる。
「なんでこんなことになってしまったんでしょうか……?私は雪穂やカチューシャ達と楽しく学校生活をして、戦車道の全国大会で優勝目標して…………大好きな人の隣に居たかっただけなにの…………私が何かしましたか?」
「……いや、ノンナは何もしてない」
「じゃあなんでこんな目にあっているんですか!?答えてくださいよ!雪穂!?」
背中に手を回してるノンナの力が強くなる。
「……ごめんな、俺にも分かんない」
……バカな俺はこんな女の子の慰め方を知らないから、落ち着かせるように頭を優しく撫でる。
「……すいません、雪穂にあたってしまいました」
「いいよ、一番辛いのはノンナだから」
「……雪穂の手は温かいですね。とても心地良いです…………本当に雪穂は良い男性です」
隠してた顔をあげて俺の顔を見つめるノンナ
「雪穂、お願いが一つあります。
―――最後に思い出をください」
そういうとノンナは―――俺の唇を自分の唇で塞ぐ。
「さようなら雪穂。私は雪穂のこと大好きですよ」
ノンナが笑顔でそう告げると病院の方へ戻っていく。
「ちょっと待てよ!ノンナ!」
「来ないでください!」
珍しく大声を出したノンナの迫力に負けて俺の脚が止まる。
「私を困らせないでください…………雪穂に引き留められると、決心が揺らいでしまいます」
「ノンナ…………」
「ありがとうございます―――今度こそさようなら雪穂」
俺の方を向くと深くお辞儀すると再び病院の方へ歩き出す。
……そんな泣き顔で別れを言われても納得出来るわけないだろう!
笑ってるノンナが好き。
カチューシャの世話をして微笑んでるノンナが好き。
戦車に乗ってる凛々しいノンナが好き。
優しいノンナが好き。
―――ノンナを愛してる
全くそっちの都合で返事も聞かないなんて許さないぞ。
あー、あんまり頼りたくなかったんだけど…………一千万円もあるかな……。『西住』ならあるよな?
「カチューシャ」
「ひぐっ……ユキ」
病院のロビーの椅子で泣いてるカチューシャを見つける。
「カチューシャ、お前に頼みがある」
「…………何よ?」
「ノンナは明日にも身売りをするはずだ。だから明日、俺が戻るまでノンナを引き留めてほしい。これはノンナを一番理解しているお前にしか出来ないことだ」
「……ユキが戻るまでノンナを引き留めたら、ノンナは身売りしなくてすんで…………また学校に来れるようになる?」
「ああ、必ずだ」
「分かったわ」
カチューシャは制服で涙をふく。
……いつもならノンナがハンカチを差し出してくれるんだけどな
「ほら、これを使え」
「……ありがとう」
ティッシュをカチューシャに渡して鼻水をかませる。
流石に鼻水を制服で拭かせるのは気が引けるからな
「…………ノンナのこと頼むわよ」
鼻水をかんだカチューシャはティッシュを近くのゴミ箱に捨てると、真剣な表情で俺を見る。
……いつもそんな顔で指揮が出来たらノンナも喜ぶよ
カチューシャも才能はある。後は経験、格下相手でも傲慢しない、ノンナからもう少し自立出来たら優秀な隊長になれると思ってる。
―――カチューシャが隊長で俺とノンナが二人で副隊長をしてカチューシャを支えるのも悪くないかもな
「ああ、カチューシャも頼むぞ。俺が戻ったら全て終わってましたなんてやめろよ」
「当たり前でしょ!私を誰だと思ってるのよ?」
…………やっといつものカチューシャらしくなってきたな
「じゃあ行ってくるな」
「早く帰って来なさいよユキ」
「おう」
すれ違い様にカチューシャとハイタッチして別れる。
ここはカチューシャに任せて大丈夫だな
「あ、もしもし、母さんいますか?」
後は俺自身が頑張るだけだ。
読んでいただきありがとうございます!
次回も読んでいただけるように頑張ります!