紅蓮のフラグメンツ   作:にょきにょき

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Act.1 運命の夜

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カルデアに配属されてから数日が経った。

 

 

外は相変わらずの吹雪。

夜なども相まって外の様子などまるで分らないが、壁に掛けられた時計には夜中の2時と時計の針が示している。

愛歌は与えられた私室を工房として魔改造した後、特異点での戦闘で使用するであろう礼装などの最終調整を行っていた。

夜中にも関わらず、工房の外でも足音は絶えない。レイシフトの準備のため隈をこしらえた職員たちが忙しなくカルデア中を歩きまわっているのだ。彼らも又、愛歌と同じく最終調整の段階に入っている。オルガマリーが掲げたレイシフト予定の時刻としている明日の夕方頃へと間に合わせようと奮闘しているのだ。

軍事部門の職員になったファルデウスも例外ではなく、カルデア中にカメラを配置し、監視しながら職務を全うしている。不測の事態に備えて、カルデアの武器庫とは別に武器や、医療品を揃えていた。

かくいう、マスター候補である愛歌も色々と問題はあったが、Aチーム入りが決まったものの、一抹の不安がある。同じAチームに所属するメンバーの事だ。

 

Aチームと言うのは、カルデアで行われた戦闘訓練や魔術などで好成績を得た人々が選ばれており、特異点攻略の主軸となるチーム。

A以下のチームは、補佐又は予備として特異点に同行する事となっている。

だが、レイシフトやマスター適正があり、優秀な魔術回路を持った名門一族の魔術師だからと言って、真の実戦経験(●●●●)があるとは限らない。

戦いと言っても、精々、決闘か権力闘争ぐらいが関の山。名指しにはしないが、そんな魔術師がチーム内の半数である。人外や怪物との殺し合いなんて、きっと知らないだろう。

 

幾らシュミレータで敵性プログラムを倒しても、実戦の空気は違う。不測の事態に彼らが対応できるか愛歌は不安なのだ。

精神面も一部を除き、かなり脆い。もし強大な敵と遭遇した場合、絶望して心が折れたままになったり、発狂したりしないか…その所為で仲間の足を引っ張らないか。

何かあったとしても、Bチームから嫉妬されてるため、特異点で彼等に助力してもらえるかどうか定かでは無い。

下手したら最悪は囮として捨てられる可能性もある。だが、それはマシな方で、Aチームの悪影響を精神的に受けたBチーム諸共、使い物にならなくなるか…。

 

戦場でそんな事になれば、敵に唆されて裏切ったり、殺されるのがオチだろう。

例え、サーヴァントが居たとしても、マスターが発狂すれば、主従共々、戦闘不能といっても差し支えない。

そもそも、魔術師が集団行動なんて基本的に出来るわけもなく、意見の相違で決闘と評して互いに殺し合い、果てにはサーヴァントを使う可能性もある。

そんな事になるならば、一層の事、全滅や争いを避けるため、別行動した方が効率的だ。ある程度の決まりを作れば、最低でも其れに則って行動するだろう。

集団で行動すれば敵の的にも成り易いし、余程のことがない限り、集団行動は避けた方が良いと……そう所長に一応、進言したが、レフに邪魔をされて、まるで聞き入れなかった。

 

彼のポジティブな発言……オルガマリーの命令を聞き、皆んなで協力して特異点を解決するだろうという希望的推測をオルガマリーは信じたのだ。

人間というのは悪い物に目を瞑って、都合の良いことを信じたがる性質…特にオルガマリーはそう言う物が顕著に出てるため致し方無いが、その意見に反論しないカルデアも非常にマズイ気がする。

正直、あまり実績がないオルガマリーに対して、プライドが高く社会性の無い魔術師たちが言うことを聞くわけなが無い……聞いたフリされるのがオチだ。

ぶっちゃけ、ヒステリーを起こしている彼女の言葉よりレフやオペレーターの言うことの方がよく聞くかもしれない。

そうこう考えていると、スマホの着信音が工房に響く。

着信相手はファルデウス……どうやら、レフに動きがあったようだ。

 

『師匠、レフに動きがありました』

 

スマホを手に取り、着信に出れば普段よりも緊張感のある声音でファルデウスは静かに呟く。

 

『最終調整を終えた職員たちが私室に帰った後、各部門の最高責任者がいる部署などに時限爆弾を仕掛けてます。明日、夕方…第一回目のレイシフトの実験の際に爆発するよう設定されているようです…レフの仕掛けた爆弾は把握してますが、奴の監視をすり抜けて全てを回収するのは不可能。特に管制室に仕掛けられたものは………』

 

ファルデウスは言葉を濁す。レイシフト直前の管制室には恐らくレフが居るため、爆弾の回収は不可能。回収したのがバレれば、一巻の終わりだろう。故に、愛歌は正しく非情(●●●●●)な判断を下す。

 

「―――分かっているだろうが、管制室の爆弾は放置しろ。他の爆弾もそうだが、下手に弄ればレフにバレる。それだけは本末転倒だからな…残念だが所長やマスター達には犠牲になってもらう…計算の範囲以内の犠牲だ。他は明日のレイシフトが始まる前……レフが管制室に入った際に可能な限り回収しろ」

 

そう答えると、ファルデウスは一瞬、間を置いた後、答える。

 

『……了解しました。可能な限り回収しましょう。にしても、流石ですね。その判断力は…』

「はっ、褒めても何も出てこないぞ。お前だって結局のところは、そうしただろ」

『えぇ、勿論。世界を救うのに47名が犠牲になっても痛くは無いですから。寧ろ、少ない方でしょう』

 

流石はファルデウス。アメリカのためならば、己を含めた民衆すら犠牲にする在り方はキチガイじみてるが、愛歌からすれば、下手に善良ではなく大義のためなら悪に染まることも厭わず、効率や合理的に考えて行動する彼を高く評価している。

 

『…爆弾に巻き込まれて死ぬなんて事はないでしょうが、気を付けて下さいね』

「あぁ、大丈夫だ。だが、流石に例の起源弾が含まれているなら死ぬかもな。お前が私を半殺しにした時のように……」

 

ファルデウスと殺し合った際の記憶を思い出しながら愛歌は忌々しげに呟いた。

まさか、アンチマテリアルライフルを礼装にして、魔改造した起源弾を撃ってくるとは夢にも思わず、人質にされた綾香を庇った所為で、右上半身が肉片になるという失態を犯したのだ。

ちなみに、その事件以降、綾香は血が苦手になってしまった。当然である。誰だってトラウマになるだろう。流石の愛歌もショック死しかけたが、魔術刻印を使って正気を保ち綾香を守る為、ファルデウスに反撃し、相討ち持ち込んだ。

起源弾を出す訳が無いと言う慢心した考え持った私も悪かったが、妹を人質に取ったのを頭に来て、ファルデウスのことを真面目に殺そうとした。

 

だが、混乱している綾香の前で殺したら、妹の精神がもっと酷いことになると考え殺さず、交渉しある魔術礼装の資料を渡すことで殺し合いを終わりにしたのだ。

だが、死に掛けた所為で、素質のあった〝直死の魔眼〟を開眼し、本当に碌な目に遭わなかった。

度重なる強襲でボロボロになった私を哀れんだ橙子師がくれた魔眼殺しの眼鏡や魔眼のコントロールを教えて貰い何とか事なきを得たが、それが無かったらもっと酷い事になってただろう。

そのため、ファルデウスに対して複雑な感情を愛歌は抱いている。

愛歌が内に抱いている感情に気が付いているのか、ファルデウスの渇いた笑い声がスマホ越しに聞こえてきた。

 

『ハハッ、それは無いでしょう…仕掛けてるのは、通常のプラスチック爆弾でしたし、レフが彼から起源弾を入手する事なんて出来ませんよ。そもそも、此方が既に貴女を殺す為に起源弾を全て買い占めたんですからね。それではまた明日……』

「ふっ、そうだな。お前も精々、頑張れよ」

 

愛歌はファルデウスからの着信を切った後、工房の机に並べられている物……とりわけ強い神秘を宿した品々をを眺めながら、明日のレイシフト――――どんなサーヴァントを現地で呼ぶか思案していた。人理焼却を防ぐため、反英霊であれ大抵のサーヴァントたちは此方に応えてくれるだろうが、指定して呼べるならそれに越した事は無く、そのサーヴァントに合わせた戦術を行えるので触媒はやはり必要だ。

故にカルデアに来る前にコネを駆使して、様々なサーヴァントの触媒を集めていたのだ。

 

ギルガメッシュ叙事詩からは、ギルガメッシュとエルキドゥ。ぶっちゃけた話、エルキドゥは大丈夫だろうが、ギルガメッシュはあまり呼びたくはない。extracccの会話だけで死亡は怖すぎる…ザビーズは本当にコミュ力が強い。ただ、英雄王自身、カルデアでザビーズの時の様にマスターの命を奪う様な身勝手なことをする程、愚かでは無いので何とかなる筈だ。彼を呼ぶ場合、念のため他のサーヴァントを呼んでからの方が良いだろう。

ギリシャ神話はケイローンやメドゥーサ。他にはアッティラや百の貌のハサン。それと、何故か運良く手に入ったダビデ王の触媒。

 

最後に―――ブカレストのスタヴロポレオス教会の墓地で発見された「円卓」の木片。ちなみに、この木片で召喚が出来るのは、アーサー王とギャラハッド以外の騎士たちだけである。そう作中で明言されていたため、男騎士王は召喚されないと安心しつつ戦力が多いに越した事はないと考え、取り寄せたのである。

上記の英霊たちなら冬木やオルレアン、セプテム、オケアノスを容易に攻略できるだろう。それ以降は、それ相応の策が必要になるだろうが問題はない筈だ。

ただ、『沙条 愛歌』という乱入者(イレギュラー)が存在するため原作通りに動くことは決してない。だからこそ、用心しなければいけない。

 

そのため、愛歌は「円卓」の木片を手に取る。『特異点F』のボスはアルトリア・オルタだった筈だ。故に、モードレッドと戦わせれば、容易でなくとも下手な采配をしなければ確実に勝利することが出来る。

なにせ、サーヴァントと言う者は、特性上、生前の因縁に左右されやすい。生前の死因となった存在は、例え英霊になっても引きずられ弱点と成る。

例え、モードレッドが呼ばれなくとも、他の円卓の騎士たちでも十分、勝利は出来るだろう。

相手は一人だが、此方は複数のサーヴァントを用いて戦うのだ。そもそも、私が十全のサポートするのだから負ける筈がないと、愛歌は自信を持っていた。

ゆえに、彼女は迷いなく、円卓の「木片」をポーチに入れる。

だが、彼女は真に型月世界の事を、宝石翁に言われた事を理解していなかった。

 

――――人が空想できること全ては起こり得る魔法事象。

 

もとより、型月世界は良くも悪くも例外塗れ…自分の用意した触媒によって、己にとって死亡フラグと言っても過言では無い最悪なモノを引き寄せる事になるとは、愛歌は知る由もない。

そうして、夜は明けた。

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

――――カルデア 中央管制室。

 

 

「レフ!レフ・ライノール!この新人を一秒でも早く出して!何の経験のない素人を出して、私のカルデアスに何かあったらどうするの!?」

 

 

そう怒るオルガマリー所長に、藤丸(ふじまる)立香(りつか)―――通称『ぐだ男』は困惑していた。

己の身に起こった事を、オルガマリーがマスター適性のある人々に対して語ったこと。

…人類が後一年で滅んでしまうことも、急すぎてあまり理解できていない。

だからこそ、説明会で色々と教えてもらおうとしたが、何の訓練も受けていないと言う理由で所長に怒られてしまい追い出されかけていた。

 

「うーん、どうやら怒らせてしまったようだ。すまないね、立香くん…マシュ、彼を専用のルームへ連れて行ってあげなさい。」

 

結局、追い出さてしまうようだ。ほんの少しだけ、落胆してした。

そんな立香の感情を察して、レフは哀れんだ声音でそう謝罪すると、マシュを呼びつけ、共に管制室から出るよう促した。立香はレフに謝罪すると、マシュと共に管制室から出る為、立香に出口へと向かった。

出口に向かいつつ、立香はこのカルデアに来た理由を思い出していた。

ちょうど、夏休みが始まると言う事もあって、何か仕事でもしようかと求人を探していたら、駅前に張られていた国連のスタッフ募集のチラシをたまたま見て、給料が非常に高いので応募した。

 

だが、突如、職員がやってきて何の説明もなく今すぐ働くかどうかを決めろと迫られ、働くことを決意し、荷造りし急いでカルデアにやって来たのだ。

このカルデアがどういう処か、まるで知らない。

だからこそ、追い出されてしまうのは仕方ない。下手に素人が居れば迷惑になるだろうと、立香は不服ながらも納得していた。アルバイト初日に、何も知らない人間に対して重要な仕事を任す職場なんて無いのだから当然だ。

 

「それでは先輩、こちらへ。先輩用の先輩ルームにご案内しますので」

 

オルガマリーとは違い、優しい声で話し掛けてきたマシュに案内され、管制室を出る際の事だった。金髪の、黒いマキシレングスコートに身を包んだ一人の女性と目が合った。

 

「――――――――」

 

唖然と息を呑む。

周囲の人々が発する雑音が聴覚(せかい)から消失する。本当に時が止まったかのような錯覚を受けた。

 

「……………………」

 

彼女はほんの少し目を見開いて、此方を見つめ返してきた。

目を見開かなければ、あるいは、美しい人形と見間違えるだろう。

細い手足と陽の光を知らぬ白い肌。金糸の様に輝く綺麗な長い金髪。

空を写しているかの様な蒼い瞳は、品定めするかの如く立香を見つめたまま視線を外すことはない。何処かの魔導師を思わせる品のある黒衣は、自分が見知っている洋服屋に売って無さそうな衣服だ。あまりにも良く似合っていて、非の打ちどころがない。

初めからそういう形で生まれてきたとさえ思える現実感の無さ。

御伽の国の世界からやって来た魔女と言われれば納得してしまいそうになる程、綺麗な人だ。

顔を俯かせた際に服の隙間から覗く白い首筋からは色気が漂っており、思春期の立香にとっては目の毒。彼女は立香から視線を外すと、聞こえるか聞こえないか程の小さなか細い声で呟く。

 

 

「………真の乱入者(イレギュラー)か」

 

 

その言葉の意味を、彼女に尋ねたかったけど、マシュに呼びとめられ我に返る。

 

「先輩?」

「あ、ごめん…マシュ。今、そっちに行くよ」

 

彼と彼女の間に、会話なんて無かった。

ロマンチックな出会いでは無かったけれど、何か運命的な物を少年は薄々、感じとっていた。

それが二人の初めての顔合わせ。

 

 

 

――――二人の運命は流転する。

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

【──――緊急事態発生、緊急事態発生。】

【──――中央管制室で火災が発生しました。】

【─――─中央区画は閉鎖されます。】

【─――─職員はただちに第二ゲートから退避してください。】

 

 

視界が真っ赤な光で点滅している。

アナウンスを耳にしながら、愛歌は壊れたコフィンの扉を蹴飛ばして、外へと飛び出る。辺りはレフの仕掛けた爆弾により火の海になっており、壊れたスプリンクラーから水が勢いよく飛び出しいた。壊れても尚、炎をの勢いを弱め、役割を果たしている。

そんな管制室で、唯一人、愛歌は佇んでいた。

愛歌が涼し顔をしていられるのは、防御のルーンが刻まれたマキシレングスコートのお蔭で炎の熱さも何も感じない。傷が無いのは橙子師と共に復元し、複製した原初のルーンを刻んだ宝石が発した結界により、爆発を喰らっても無傷で居られたのだ。

管制室はある種の地獄と化していたが、愛歌は意に介さず、顔色一つ変えない。

彼女にとって、この手のモノは見慣れていた。良くも悪くも型月世界の色に染まった愛歌は、鼻に衝く人の焼け焦げた臭いなどに、眉を顰めはするが動じる事は無い。

死都になった街を処理する際に、自分から似たような光景を作り出したことさえあるのだから。

 

彼女は足元に転がっている原形をとどめていない肉片となった死体をなるべく踏み付けない様、避けながら淡々と自分以外のマスター候補が入ってたコフィンに近寄る。

コフィンも甚大な破壊を受けているが辛うじて機能しており、中に居る魔術師は刻印のお蔭もあるのだろうが、死にはしていないものの、重傷を負って気を失っている。

幾ら、ファルデウスが爆弾を回収したとはいえ、管制室の外の被害も甚大だろう。恐らく、彼らに回す医療器具や薬品の余裕はない筈だ。

 

故に、愛歌は独断で、機能しているコフィンを手動で一つ、また一つと、コールドスリープ状態にしていった。人理修復を終えた暁ならば、彼らを癒し以前の状態に戻せるが、今は時間が無く、命を繋ぎ止める為、必要最低限の処置を行うのに留まる。

見捨てた、救わなかった彼らに対して、今できるせめてもの罪償い。

生きて居れば何んとかなる――――ただ死んでしまった場合は、どうしようもない。

特にカルデアや特異点で死亡した際は、人理修復されても復活する事はない。

特異点で死亡した場合は、抑止力によってその時代に死んだ人間として修正される。

カルデアの場合は、カルデア自体が時間軸を外れても存在して居られるよう特異な磁場の上に造られてるため、爆弾で死んだ事実は変わらない。

死者蘇生は不可能。

 

―――そう、魔法を使わない限りでは。

 

死んだ事実を魔法を用意て改竄は可能だが、ゼル爺との約束で魔法を乱用する気は無い。そもそも、星の理を反してまで蘇生させる気は起きない。

そうして、愛歌は最後のコフィンの前に立った。

コフィンの中は空だった。

入る前に吹き飛ばされたのか、と

周囲を見回そうとした時――――がらり、と瓦礫が崩れる音が聞こえる。

 

「ぁ…ま…な…か…さ、ん」

「―――マシュ」

 

音の方へと振り向けば、瓦礫に下半身を押しつぶされ血を流している少女―――マシュ・キリエライトが其処に居た。愛歌はすぐに彼女の元へと駆け寄る。

瓦礫に押しつぶされた下半身に形は無く、爆発に巻き込まれた人々と同じように押しつぶされほぼ肉片になっていた。

 

「わ、た、しの、ことは、いいので、ほかの、ひと、たちを………」

 

マシュはそう言った後に、ごぷりと血を吐き出す。

この子は今わの際まで、他人を心配する事ができるのか―――?!と愛歌は目を見開き驚愕する。

あまりにも純粋無垢な魂。まるで、伊勢三一族の当主の子を思い出す。

自分が魔法を初めて使った少年と―――少女が重なる。

目の前にいる少女は彼では無い…魔法は使わない―――絶対に使ってはいけない!そう別の自分が警鐘を鳴らしている…けれど……彼女を救いたい。

その思いは本当だから―――彼女に触れて、魔法を使おうとした瞬間、知らない男の声が響く。

少女に対して魔法は使ってはいけない、使う必要はないと、そう優しく諌め、宥める男の声だ。

 

「……わかった」

 

そう返答すると、愛歌はせめてもの気休めにマシュの痛みや恐怖を少しでもを和らげるため、治癒魔術で下半身を一瞬で再生させた。

潰れた筈の自身の下半身が一瞬で回復したのを見て、マシュは信じられない様な目で自分の下半身を見つめる。

これは()が来るまでの細やかな延命措置。

愛歌からすれば、真に彼女を救ったわけでは無い。

普通の人間やホムンクルスであれば、潰れた下半身を治せば普通に助かったかもしれない。だが、彼女は、英霊の器になるために生まれた、通常の人間として設計されていないデザインベビー……。

 

必要最低限の生殖機能しか持っておらず、現につい最近まで無菌室に居た彼女の身体はあまりに脆い…脆すぎるのだ。治したとしても、恐らく免疫力の関係で感染症など直ぐに発症するだろう。早々に主治医であるロマニに見せれば兎も角、この状況では処置させることは不可能。

もとより、彼女の脆弱な身体をでは特異点を耐えられない。

…――――『死』は絶対に避けられない。こんな風に彼女を生み出した人間に対して、愛歌は言いようのない怒りに震える。その感情をマシュに悟られないよう表面上では取り繕ってはいるものの、隠し切れているかどうか定かでは無い。

 

「あ、ありがとう、ございます…その、に、逃げましょう…!」

 

そう礼を言うと、マシュは自分の足が有るのを確認しながら、ゆっくりと小鹿の様に震える足で立ち上がり、凛とした精一杯な声音で叫ぶ。

その時だった。

 

「マシュ!!」

「あっ…、せ、せん、ぱ、い……無事だったんですね!」

「よかった、無事で本当に良かった!」

 

管制室の扉が開き、説明会を追い出された少年は今にも泣きだしそうな顔で、マシュたちの元に駆け寄ってきた。その少年を見て、漸く本命が来たか!と愛歌は安心する。だが、感動の再開に水を差すように、アナウンスが管制室内に響く。

 

 

【――──システムレイシフト、最終段階へと移行します。】

【――──座標西暦2004年、1月30日、日本。】

【――──マスターは最終調整に入って下さい。】

 

 

そのアナウンスを聞き、愛歌を除く二人は驚いていた。

実験できるような状況でもないにも関わらず、設定された機械は淡々と起動する。

 

 

【――──観測スタッフに警告。】

【―──―カルデアスに変化が生じました。】

【―──―近未来100年にわたり、人類の痕跡は発見できません。】

【――──人類の生存を保障できません。】

 

 

先ほどまで灰色だった地球儀―――カルデアスは今の絶望的な状況を表すかのように真っ赤に染まった。

 

 

「カルデアスが、真っ赤になっちゃいました。いえ、そんな事より………」

 

 

【――──中央隔壁、封鎖。】

 

 

「隔壁しまっちゃいました」

「……うん、閉じ込められちゃったな」

 

二人はお互い怯えながらも手を握り合う。

されど、表情は笑っていた…お互いを思うがため、不安にさせない様、配慮しているのだ。そんな彼らの隣に愛歌は立ち、暗示を籠めた優しい声音で話しかけた。

 

「……大丈夫だ、例え何がっても君らは私が守る…だから、安心しなさい」

 

暗示は成功したようで、炎の海の中であっても、二人は先ほどまでの震えは消え、ほんの少しだけ安心している。

 

 

【──――レイシフト要員規定に達していません。】

【――──該当マスターを検索中。】

【――──発見しました。】

【――──番号21と番号48をマスターとして再登録します。】

 

 

淡々とアナウンスはカウントダウンを始める。

 

 

【――──―全行程クリア。ファーストオーダー実証を開始します。】

 

 

そうして、聖杯探索の旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

 

 

管制室以上に様々なものが焼き焦げた異臭が鼻に衝く。

 

目を静かに開ければ、予想通り、炎に包まれた森と瓦礫の山…だが、辛うじて城の跡地だと分かる場所だった。

空気中には普通の人間では耐えられない程のマナと呪いが充満し、何かしらの抵抗(レジスト)や加護が無ければ無辜の民は即座に死ぬ。

故に、この特異点にいる生者はカルデアから送られた愛歌と、例の少年とデミ・サーヴァントであるマシュ、この土地に召喚され縛られている英霊(サーヴァント)のみだろう。

 

他に活きている存在といば、一般人の死体が呪いとマナの影響でゾンビや死霊、魔物化したものぐらい。

にしても、あの二人とは別の場所にレイシフトしてしまったようだ。

今すぐに彼らと合流しようと思った瞬間だった。

凄まじい殺意と共に、かなりの速度で此方に強大な魔力の塊が近寄って来るのが手に取るように分かる…これは――――。

 

「そうか、ここはアインツベルンの――──―しまった!」

 

そう愛歌が叫んだ瞬間、黒い靄を被った巨大な人型が森から飛び出てきて、獣のような雄叫びを上げると容赦なく巨大な斧を愛歌に振り下ろす。

 

「■■■■■■■■■■■─―!!!」

「―──―チッ!」

 

愛歌は瞬時に身体強化をして、その巨大な斧を両手で何とか受け止める。

そう、冬木にある城なんてアインツベルンの所有する城しかない―――そこ守るサーヴァントといえばアインツベルンが召喚した最強のサーヴァント…ギリシャ神話において知らぬ人はいない大英雄ヘラクレス。

彼は呪いで黒化し、正気を無くそうとも、既に亡くなっている己のマスターを何とか守ろうと、拠点にしていた場所に張り付いているのだろう。

そのため、この敷地に入った人間を問答無用で倒す殺戮機械と化している。

さっさと空間転移をして離れてしまえばいいが、マスター亡き後も拠点を守っているその姿は、あまりにも哀れだった。

 

だからこそ――――止めを刺してやらねばならない。

 

愛歌はそう決意すると、斧から手を離しヘラクレスから、十メートル程、後ろに空間転移しする。黒化している所為で、判断力が鈍っているヘラクレスは手応えの合った筈の斧から感触が消えた事に関して即座に反応できなかった。

だが、己の獲物が十メートルさきに居る事を聴覚で感じ取り、愛歌の呼吸音が聞こえたのを合図に彼女へと弾け飛ぶ。

黒化した狂戦士の残像は遥かに、それは、暴風にしか見えない速度だった。

 

―――まさしく、神速の域。

 

それを畏れることなく愛歌は呼吸を整え、迎え撃たんと静かに踏み込み、視点を切り替える。

途端に彼女の視界は禍々しく静謐な死の線と点で満ち溢れた。

不運にも開眼した〝直死の魔眼〟…それを真に活用すべき瞬間が来たからだ。

 

瞬く間に迫る死の時間。

 

疾走する巨大な暴力の前にして、彼女は避ける素振りすら見せない。ヘラクレスの前脚が踏み込んだ地面からは凄まじい衝撃とヒビ割れが走る。

神の祝福(呪い)で鍛えられた肉体から、ありあまる力と呪いから発せられる風圧と共に狂戦士の腕が振り下ろされる。

わずかな踏み込みが狂戦士の斧を躱す。

しかし、彼女が飛び込んだのは回避のためではない。彼女にはこの位置が必要だっただけ…そも、躱すも躱さないもない。

彼女の思考には初めからその点しか存在していない。

 

――――狙うは一点、意識の同一、呼吸の合致。

 

体幹の見切りと筋肉の凝固弛緩その隙間。その地点こそ、死の点が、線が滲み出る命の壁の亀裂。

華奢な腕から考えられない様な力が狂戦士の胸に叩きつけられる、あまりにも強い人の力。

強烈な打撃音と、貫かれ割れる霊核の音。

正体不明の一撃………狂戦士は己の身に何が起こったか正確に分からなかった。

 

―――黒化していようとも、その肉体の強靭さは変わっていない。

 

なのに、なぜ己の胸は貫かれたと―――そんな僅かに残る意識で疑問を持つものの、己を倒した者に対して狂戦士は声の無い賞賛を上げながら、俯せに倒れかけた。

その横を、か細い人影が何事も無かったようにすり抜けていく。

そうして、漸く狂戦士―――ヘラクレスは呪縛から解き放たれ、地面に伏す前に黄金の粒子となり、静かにこの特異点から消え去った。

 

「ふぅ………それにしても―――…」

 

息を整え、ヘラクレスが倒れた場所を眺めながら、愛歌はため息をしながら呟く。愛歌が彼の狂戦士に勝てたのは、狂化の末の黒化…サーヴァントの能力がかなり劣化していたことが起因する。彼が黒化していない通常の狂戦士であれば、流石の愛歌でも容易には勝てなかった。サーヴァントの助力が不可欠になっていただろう。

されど、今の愛歌の頭の中にあるのはヘラクレスの事ではなく―――自身の体を舐め回す様に観ている異様な視線のことだった。

この特異点に存在する人物の視線ではないのは明らか。

別の場所から観ているそれは、あまりにも不快、何の対策もせず直で対面すれば呪いの一つや二つを貰いそうな眼線。

恐らく魔術王だろう…彼の王がどれ程の実力があるか試すため、彼方が観ているならば、此方も観返してやろう―――愛歌的にはそんな細やかな、悪戯という名の嫌がらせで、視線を辿った。

 

そうして、彼女の目に映ったのは……FGOのOPに出て来た謎の大木の様な何かと趣味の悪い神殿にいる癖のある長い白髪と褐色肌の男の姿。

その白髪の男が此方の視線に気が付くと、文字通り悪魔の様な凶悪な笑みを浮かべた瞬間―――空気が、世界が、何かにひびが入り、割れた音が響く。

そんな音と共に魔眼殺しと防御のルーンが刻まれたマキシレングスコートが壊れ――唯の服に成り下がり、スペアとして持っていた結界を張る原初のルーンが刻まれた宝石に関しては無残に砕け散った。

愛歌は驚愕する―――ただ一度だけ直視しただけで、此方の魔術礼装を破壊したのだ。

 

ただの破壊だけならばまだ良い……だが、この壊し方は此方の使う魔術礼装を解析した末の破壊だ。

先ほどの攻撃によって己の命が途絶えていないのは僥倖ではあるが、恐らく此方の使った魔術を解析されているがため、魔術王の攻撃に対して先ほどの礼装を使って防御することは不可能。

これが魔術王ソロモン―――魔術師である限り、彼には勝つことは不可能…本気で魔法を使わなければ絶対に勝てない相手!

普通の魔術師であるならば、対抗する手段が無いがため、絶望して膝下に下っていたのだろう…だが、愛歌は魔術師である前に、魔法使いだ。

人類や星の理から外れた奇跡―――いや、業を司るが故に対抗する事が出来る。彼方もその事を理解してるのだろう。故に愛歌を殺す為に新たな一手を打って来たのだ。

 

 

―――呪いの充満した冬木にて、再び魔神柱が投錨された。

 

 

投錨された衝撃で、土埃が空中に舞う。

その隙に愛歌は虚空に魔眼殺しのルーンと勝利のルーンを刻む。

土埃が晴れた後、あまりにも醜悪な姿が彼女の前に現れた。

幾筋ものどす赤い裂け目が走った巨大な黒緑色の肉の柱、それぞれの裂け目からは奇妙な形の瞳孔が開いた異様な眼が覗いており、幾重もの眼光が愛歌を凝視する。

案の定、魔眼殺しのルーンと勝利のルーンの効果が発動しているため、眼前にいる魔神柱はどうやら邪視を所持しているようだ。

 

『―――――ソロモン七十二柱が一柱(ひとはしら)、序列二位。アガレス。我はたたずむ者を走らせ、走り去ったものを呼び戻すもの。我らが王の不興を買いし、愚かな魔法使いよ。この地に呑まれ果てるが良い!』

 

アガレスと名乗った魔神柱がそう叫んだ瞬間、地面の揺れと共に黒い波動が周囲を走り、容赦無く愛歌を飲み込む。

勝利のルーンのお陰で、直接的な攻撃は防げたが、衝撃波によって数十メートル程先の瓦礫の山へと吹き飛ばされ、勢い良く地面に叩きつけられる。

何とか受け身を取ったものの、瓦礫の破片が額を掠り、赤い血が滴り落ちていた。

畳み掛ける様に、魔神柱は黒い波導を繰り出す。

宝石剣で吹き飛ばすか――――そう愛歌が思案した時だ。懐に入れていた呼符が独りでに輝く。

その瞬間―――青白い光の柱が突如として現れ、強風が魔神柱の攻撃を打ち消す。

 

『ナニィ!英霊だと!?』

「―――――――な、ん…だっ…と…」

 

愛歌は自分の目を疑う。

当然だった。どんな事が起こっても絶対に召喚されない筈の英霊(●●●●●●●●●●●●●)が目の前に居たのだから。

白銀の鎧を身に纏い、金髪の蒼い瞳をした騎士。

並行世界の〝愛歌〟が白馬の王子様と謳い、恋した騎士。

だが、彼女とは違いその騎士の顔を見た時、愛歌は言い知れぬ罪悪感が体中にぞわぞわと這うように駆け廻る。

この男とは、初対面の筈だ…なのになぜ、なんだこの感情は!と混乱した。

 

「お、お前は…」

「―――僕はセイバー。君を守る、サーヴァントだ」

 

何んとか口から言葉を振り絞ろうとしたが、言葉は続かない。そんな彼女に蒼銀の騎士は、穏やかに、柔らかな笑みを浮かべながら語りかける。

 

 

「―――今度こそ、絶対に君を守ろう」

 

 

―――騎士の口から出たその言葉には、彼が愛歌に対して抱く様々な感情が煮詰まっていた。

何故、自分に対してそんな言葉を掛けるのか、綾歌に対していう言葉では無いのか?と愛歌は問いただしたかったが、そんな余裕は無く茫然としていた。

彼女にとっての運命の夜が漸く始まった。

 

 

 

 

 




ソロモンくんの怖さを表現できたら良いな。てか、みんなソロモンのことを舐めすぎてる気が……。

プロトセイバーが召喚されたのは、マーリンが干渉した所為です。また、愛歌が生きてるのもマーリンのお蔭です。
ちなみに、別の平行世界の主人公がプロトセイバーに対してやらかしてます。
愛歌様みたいなやらかしではないです。
主人公がわけあってプロトセイバーを使って自殺したようなノリです。
プロトセイバーはその所為で、半場、オルタ化しかけたとか何んとか…。
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