「ただいまー」
僕は家に帰ってきました。
「お兄ちゃん、お帰り。うわ、お姉ちゃんの言ってた通りすごい怪我だね」
どうやら姉さんから聞いたようです。
「大丈夫ですよ。このくらいすぐに治ります」
「それならいいけど……何で最近帰るのが遅いの?」
うわーい、嫌な質問きちゃった。
「ええと、友達と遊んでいて」
「嘘ね、前は友達と遊んでても十八時には帰ってきてたもん」
なんと! 看破されてしまいました。本当のことを言うしかないのでしょうか。
「実は……女の子たちと遊んでいたんです」
バチン! と顔に強烈なビンタを喰らってしまいました。
「お兄ちゃん、サイテー!」
そう言ってしおりちゃんは去ってしまいました。
「え? 僕ってサイテーなの?」
そもそもビンタをしなくていいでしょう。僕、怪我人ですよ?
☆
「はぁ、ダサい」
風呂に入る際、メグミさんから左手は水に浸けないようにと言われたのを思いだし、左手にゴム手袋をしました。裸にゴム手袋って。
風呂の扉を開けます。
「あ」
「え?」
先客がいました。メグルくんです。
「あ、メグルくん、僕も入っていいかな?」
「いいよー、て、そのゴム手袋なに? 怪我?」
「うん、水に浸けたらダメなんだ」
「全身傷だらけじゃん」
「あはは」
僕は体を水で流します。
「ボクが洗おうか? 左手使えないんだろ?」
「え、じゃあお願いします」
断るのもしゃくですし。
メグルくんは浴槽からあがります。
メグルくんは髪が長く、声も高いので外見は女の子ですが、下半身にはもちろんアレがついています。菊地さんも女の子っぽくしたかったら髪を伸ばせば良いのに。
☆
「ん?」
土曜日なので、朝から事務所で昨日の報告書を作成していると、パソコンの画面の前にハムスターが現れました。
「なにこれ?」
ハムスターって。
ハムスターは僕をじっと見つめてきます。
「…………」
とりあえずハムスターに向かって満面の笑みをしました。
「!!?」
ハムスターは飛び上がって逃げて行きました。
「え? 僕の笑顔って怖いの?」
今までそんなことは聞かなかったのですが。もしかしたら動物だけが怖く思うのかもしれません。てか、あのハムスター誰の?
それにしても、なぜ僕と音無さんしか事務所にいないのでしょう。
「音無さん」
「はい?」
「他のみんなは今日は休みなんですか?」
秋月さんも来ていませんし。
「え、プロデューサー知らないんですか? 今日はみんなレッスン場で練習をしているんですよ」
「えぇ!?」
知りませんでした。聞かないの自分が悪いのですが。
「じゃあ今日みんなは来ないと?」
「練習が終わった後に来る人は来ると思いますよ」
「…………」
高速で報告書を作成しました。
音無さんから場所を聞き、走って練習場まで向かいました。
☆
「ふう」
走るのが疲れました。音無さんから聞いた話だとそこまで練習場への距離ないようですが。
て、なんか微妙に右肩が重い気が……
見てみると、さっきのハムスターが肩に乗っていました。誰のペットでしょうか。
「あ、プロデューサー」
「我那覇さん」
我那覇さんが両手に袋を持って走ってきました。袋の中身はジュースやらスポーツドリンクやらおにぎりやらが入っています。
我那覇 響(がなは ひびき)さんは、765のアイドルで黒髪のポニーテール、やや日焼けした肌が特徴です。ときどき沖縄の方言を使うので沖縄出身であることは間違いないようですが。
「て、ハム蔵!? 探したんだからな~、何もなくて良かったぞ!」
「え、じゃあこのハムスターは我那覇さんのペットですか?」
「ペットじゃなくて家族だぞ!」
「は、はぁ」
ペットであることには変わらない気が……。まぁ、人によって価値観が違うと言いますし。
「プロデューサーは仕事を見つけてる最中なのか?」
「いえ、みんなの練習の様子を見に行こうと」
「ふぅ~ん、仕事は?」
結構手厳しい。
「練習を見終わったら探しますよ」
「それなら良いけど」
僕は我那覇さんの袋を持って練習場へと一緒に向かいます。
「なんでこんなにたくさんの荷物を? 他の子は?」
「え、えっと」
我那覇さんはモジモジしています。
「チュチュチューチュチュ」
ハム蔵さんが僕の肩で鳴きました。
「なるほど、一人で大丈夫と見栄を張ったと」
「えぇ!? プロデューサー、ハム蔵の言ってることわかるのか!?」
「わかるというか、なんというか」
何故かわからないけどわかるみたいな? 何を言っているか僕でもわかりませんが。
少し歩くと、練習している建物が見えてきて、僕たちは中に入ります。
「響ちゃん、お帰りって、プロデューサー!?」
みんなが僕の方を見ます。
「あはは、来ちゃいました」
☆
彼女たちの練習を見終わり仕事を探した後、怪我を見せに行くため神奈川県の理化学研究所に向かうことしました。
「あれ? どうしてプロデューサーさんが?」
「………………」
天海さんが電車に乗っていきました。
「えっと、神奈川の方に用がありまして」
「そうなんですか! 私は神奈川に住んでいるんですよ」
天海さんは僕の隣に座ります。
「え!?」
初耳です。東京に住んでいるのかと思っていました。
「じゃあいつも神奈川から東京まで?」
「はい。時間はかかっちゃいますけど」
そんなことをするならアパートで暮らした方が良いと思いますが。でも家族と別れたくないというのもあるでしょう。メグミさんも家は東京、仕事場は神奈川ですし。
「プロデューサーさんは何の用事で神奈川まで?」
「えっと、理化学研究所に知り合いがいるので会いに行くんです」
全くもって嘘はついていない。
「知り合いの人って女の人ですか?」
「はい。困っているときには助けてくれる頼りになる女性です」
「え~と、その女性ってプロデューサーさんの彼女だったり?」
「え?」
「って、ははは、冗談ですよ冗談。私ったらなんて変な質問してるんだろー」
よくわかりませんが、天海さんの顔は真っ赤になっています。
「知り合いと言いましたが、実は家族なんです」
「家族!? 結婚済み!?」
「ええっと、結婚はしてなくて、従姉なんですよ」
「従姉と結婚!?」
天海さんの思考回路がおかしくなっています。
「いや、結婚とかじゃなくて、そもそも付き合ってないです」
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。
「あはは、それならそう早く言ってくださいよ~。安心しました~」
何の安心したのはわかりませんが、天海さんが勘違いをしてしまったのはこちらの落ち度です。
「あ、そろそろ着きますね」
「あ、はい」
天海さんと色々話していると目的の駅が近くなってきました。
「プロデューサーさん、将来の夢ってありますか?」
天海さんから突然の質問が。
「そうですね……」
将来の夢……兄さんに勝って父さんの会社を受け継ぐことでしょうか。さすがにそれは天海さんの前で言えないので。
「765プロのみんなを誰もが知ってるアイドルにすることかな」
前途多難ですが。
「プロデューサーさん。私の夢はトップアイドルになることなんです」
天海さんは頬赤く染めます。
「今さらですけど、私たちのプロデュース、よろしくお願いします」
「はい! がんばらせていただきます」
☆
「ふむ、やはり治ってきているな」
僕の左手の傷を見ながらメグミさんは言います。
「やっぱり」
痛みが少なくなってきたなとは思っていましたが、本当に治っているとは。
「これなら完治するのは一週間程度になるだろうな。一体どうなっているのやら」
「僕もわかりません」
こんなに傷が早く治るなんて異常です。今までこんなことはなかったのですが。
「ほんと、お前ら双子はおかしいよな」
「反論出来ませんね」
メグミさんの言う通り、兄さんも怪我の治りが異常に早かったです。銃で撃たれても一週間で治っていました。
「研究者として少年の身体を調べ尽くしたいが」
「…………」
悪寒がしたので、逃げるように帰りました。
今回はどうでもいい話でしたね