二重人格のプロデューサー   作:遊妙精進

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あと1、2話で一章が終了します




15話 お嬢様

「ちょっと、レント! 何でこの伊織ちゃんに仕事が入ってこないのよ!」

「い、伊織ちゃん。それはですね……」

「言い訳はいいわ!」

 

 

「また始まったぞ」

「いおりんと兄ちゃんの口喧嘩」

「プロデューサーさんが一方的にやられてるだけだけどね」

 プロデューサーさんと伊織ちゃんは毎日のように口喧嘩をしています。それが些細なことでも伊織ちゃんは気に入らないようです。

「ねえ、そういえば何で兄ちゃんはいおりんのことをちゃん付けで呼んでるの?」

「あ、そういえば」

「響ちゃん、気付いてなかったの?」

 亜美ちゃんの言う通り、プロデューサーさんは普通は名字+さん付けで呼ぶのに、伊織ちゃんだけは下の名前でしかちゃんj付けで呼ぶのです。

「でもプロデューサーは、千早や亜美と真美のことは下の名前で呼んでるぞ」

「ええ!?」

「はるるん気付いてなかったの?」

 そんな、亜美ちゃんと真美ちゃんは双子だからわかるけど、プロデューサーさんと千早ちゃんはいつの間に仲良く……

「でもさ、兄ちゃんといおりんって最初から仲が良さそうだったよね」

「そ、そうなのか?」

 そうなんです。プロデューサーさんと伊織ちゃんは今のように口喧嘩ばっかりしていますけど、二人とも本気じゃないんです。プロデューサーさんも毎回、またかという顔をしています。

「兄ちゃんといおりんは事務所で会う前から知り合いじゃなかった?」

「うん、自己紹介のときもお互いに驚いてたもん」

「なるほどな、わかったぞ。プロデューサーはどこかの坊っちゃんなんだ!」

「ひびきん、鋭い!」

「確かにプロデューサーさんの仕草を見てると、いいとこ育ちなのがわかるよね」

 もしかしたらプロデューサーさんの丁寧口調もそれが関係しているのかも。

「はるるん、兄ちゃんのことよく見てるんだね」

「自分全然気付かなかったぞ」

「えっ、ええ!?」

 顔に熱がこもるのがわかります。

「顔真っ赤だぞ」

「おやおや~、はるるん、もしかして兄ちゃんのことがー?」

「ち、違うよ! 全然違う!」

 雑誌をうちわ代わりにして顔の熱を冷まします。

「お茶ですぅ」

 雪歩ちゃんがプロデューサーさんと伊織ちゃんにお茶を渡しています。

「ゆきぴょんも兄ちゃんと仲が良いよね」

「それなら自分にもわかるぞ。雪歩は男の人が苦手なのにな」

「でもそれなら、雪歩ちゃんはプロデューサーさんが女性みたいだからって言ってたよ」

「いやいやー、それだけじゃないっしょ。兄ちゃんが女性みたいといっても男は男。もしかしたら別の感情があるのかも……」

「別の感情って、恋とか?」

「響ちゃん、ストレートすぎ!」

 雪歩ちゃんは男と聞くだけでも怖がります。響ちゃんの言う通りそんな感情があるのかも。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「……はぁ」

 あの後、萩原さんのお茶を頂き、伊織ちゃんから事務所を追い出されてしまいました。

『仕事を持ってくるまで帰ってきちゃダメだからね! わかった!?』

 ということです。僕だって頑張っているんですけど。

 そもそも働きはじめてまだ一週間なのに……。それに仕事を持ってこいと言われましても下調べをしていませんので、何も出来ません。 

「お、レントじゃねえか」

 びっくりなことに鬼崎さんと道端で会いました。

「なんでスーツ?」

「色々とわけがあるんですよ、これが」

 まぁ、言えませんが。

「じゃ、今から遊びいこーぜ」

「ええと、それは……」

 仕事中……とは言えません。

「レント?」

 ええい、もういいや。

「わかりました。遊びましょう!」

 もしかしたら遊んでいる最中に仕事が――みたいなことを期待しちゃって。

 僕たちは歩きながら話します。

「そういえば、どうして鬼崎さんはあ高校に?」

 頭が良いことを知っていましたが、これは謎です。

「ん? そりゃ将来仕事に就くときには、頭が良い高校を卒業してた方がいいだろ?」  

 この人何でヤンキーをやっているのでしょう。

 少し歩くと、ゲームセンターが見えてきました。

「よし、ゲーセンで遊びまくるぞ。レントと力を合わせりゃ全部商品ゲット出来るぜ」

「あ、あはは」

 事実、前にそれをやって出禁になったことがありました。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「ちぇ、今回は協力しても五万円かよ。全くあそこの店の店員は出禁にすんのがはやすぎるぜ」

 獲得した物(主にフィギュア)をリサイクルショップで売りました。いつもはもっと稼げるのですが、十個獲った辺りで出禁の宣言が下されてしまいました。鬼崎さんとの合計は二十個でした。

 しかし、出費が千円で山分けしても二万五千円は良い方でしょう。鬼崎さん曰く、ゲームセンターは小遣い稼ぐところだそうです。

「ほら、二万五千円」

 鬼崎さんは僕の前に金を差し出しますが、

「いえ、今回も全部鬼崎さんの物でいいですよ」

 と断ります。

「レントはさあ、もうちょっと得ってのを覚えた方がいいぜ」

「いえいえ、僕一人ではゲームセンターなんて行きませんし、それに楽しいからそれだけで得ですよ」

「そうかよ。ほい千円。お前が今回使った分、こんくらいは受け取れ」

「ではそうします」

 千円を財布の中に入れます。

「その五万円はどうするんですか?」

「半分は将来のために貯金、後は適当に、だな」 

 いや、ほんと、何でヤンキーをしているんですか?  

「あ、そういえば――」

 僕が続きを言おうとした瞬間、背後から頭を何かの硬い棒で撲られました。

「がっ!!」

 いきなりのことで僕は前に倒れます。

「キャー!!」

 通行人の叫び声。意識が朦朧としていて、上手く思考が追い付きません。

「おい、レント! 大丈夫か!?」

 鬼崎さんの声が聞こえます。しかし、近くからなのか遠くからなのかわかりません。

「てめえら!!」

「よお、久しぶりだな。お前に殴られた鼻がまだ治ってないぜ」

「あんときのくそ野郎共か」

 鬼崎さんと誰かの声が交互に聞こえてきます。視界が真っ赤に染まります。

 あーあ、折角治って間もないのに。意識が飛びそうですが、鬼崎さんが危険なことになっているのは今の僕でもわかるぜ。

「う、ぐぐ」

 僕は立ち上がります。

「れ、レント!?」

「てめえら、ふざけやがってよ。こっちは怪我が治ったばっかだぞ!」

 どういうわけかわかりませんが、僕の口調が雑になっている気がします。

「アアン!? 何だテメエ!! やんのか!?」

「よそ者は黙っとけよ、オオン!?」

「なら撲るなよ」 

 いつの間にか、僕の体は動いていました。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「いたた」

「我慢しろ。病院に行きたくないっていったのはレントだろ」

 あの後、気付いたときには不良を血だらけにしていました。逃げてきた僕は鬼崎さんからコンビニで買った包帯と消毒で手当てをしてもらっています。

「あの男たちは?」

 確か、人数は二人いたはずです。

「あいつらは二週間前に女を路地裏に連れ込んで無理やりってところをアタシがボコしたんだ。ごめんな、お前には無関係なのに」

「いえ、いいですよ。馴れていますので」

 馴れたくはないですが。

「そういやレント、お前戦えるんだな。てっきり頭が良いだけのもやしと思ってたが」

「アハハ、あれは火事場のバカ力ですよ。あんなことはいつもしません」

 いつもは合気道か柔道の技のはずですが、なぜか今回は殴っていました。意識が朦朧としていたせいでしょうか。

「よし、終わり!」

 下手ですが、頭に包帯を巻いてもらいました。

「これで良いだろ。家まで送ろうか?」

「大丈夫です。寄るところがありますので」

「そうか……。じゃあまた明日な」

「はい」

 僕は鬼崎さんを見送り、事務所へと向かいます。

「……はぁ」

 結局仕事は見つけられませんでしたし、怪我をしてしまいました。鬼崎さんと遊べた分はいいですが。

 トボトボと歩いていると、

「あ、先日のプロデューサーさん」

 と『アイグラ!!』の撮影のときにお世話になった男性が話しかけてきました。

「どうも、先日は765のアイドルを使ってくれてありがとうございます」

 と社交辞令。

「ねえ、うちの会社さ、別のファッション雑誌も作ってるんだけど、765プロのアイドルってまだいるよネ?」

「はい。十人ほど」

「その中にさ、ワガママお嬢様アイドルと貧乳で歌が上手なアイドルっていない?」

「え、いますけど」

 ワガママお嬢様アイドルは、伊織ちゃんで決定です。貧乳で歌が上手なアイドルは……千早さんかな?

「その娘たちをうちの雑誌に使わせてくれない? 特集をやるのヨ」

 何の特集ですか? と聞きたいですが、

「はい! もちろんです」

 まさか本当に仕事が向こうからやってくるとは……

「じゃ、詳しい話は明日の夕方頃事務所の方に電話をするわ。宜しくネ」

「はい!」

 やりました。こんなことって本当にあるんですね。これで事務所に帰れます。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

 事務所にて、

「プロデューサー、また転んだのか?」

「アハハ、頭からいっちゃいました」

 はぁ、みんなからドジだと思われてないかな。

 

 

 

 

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