福井 渉(ふくい わたる)⇒福井 ワタル
「あ、レント~」
僕と福井さんが靴箱に着くと、廊下を歩いて僕たちのもとに来る人がいました。
「おいおいおいおい、誰だよあの美女! お前の知り合いか!?」
福井さんは興奮気味で僕に突っかかってきました。
「う、うん。僕の姉さんです」
そう言うと、福井さんは……なんというか……鬼のような形相をしました。
「お前、うらやましすぎるぞ……」
「えぇ……」
シスコンではないですが、確かに姉さんは美しいと思います。外見だけですが。
「お! レント~、早速友達できたの~?」
姉さんはいつに間にか僕の目の前まで来ていました。
長い赤い髪をひとつ結びにしている彼女は、僕の二歳年上の姉さん、黒瀬 ひよりです。
姉さんは、この高校の生徒会長を務めており、今日はいつもより忙しいはずですが……
「はいはいはい! そうッス! さっき友達になったばかりッスけど、もう心は通じ合ってるくらい仲が良いんです!」
福井さんは興奮気味に姉さんに言いました。
僕、まだ福井さんのと友達だとは思ってないのですが。というか、さっき会ったばかりで心が通じ合っているのは、さすがにどんな人でもありえないでしょう。
「あ! 名前言い忘れてました! 福井 ワタルッス! よろしくお願いします!」
「あたしは黒瀬 ひよりよ。 ふふ、元気が良くてよろしい! 良かったわね、レント。良い友達を持てたようで」
「う、うん」
姉さんの前では友達ということにしておきましょう……
僕の性格的に、友達じゃないです、と言えないのが悔しいというかなんというか。
「あ! あたし急いでるんだった。じゃね、レント、ワタル君!」
姉さんはそう言って外に出ていきました。
生徒会の仕事も忙しいようです。
「いや~、お前の姉さん、すっげえ美人だな。似てないけど」
僕は黒髪で姉さんは赤髪だから似てないと言われてもしょうがないと思います。
「姉さんはお母さん似で、僕は父さん似なんですよ」
「へぇ~……それにしても、まじで美人だな。なぁ、姉さんに彼氏とかいんの?」
「え? ……いないと思いますけど」
もしかしてと思いますが……
「よし、明日辺りに告白するか」
「………………」
この人には、さっきから驚かされてばっかりなんですが。
☆
僕たちは先輩に案内され、これから1年間過ごす教室、1年B組向かいました。
「やっぱ、きれいだなぁ。中学んときは壁とかに落書きとか書かれてたのに」
福井さんの言葉で思い出しました。そういえばここは、日本でトップを誇る進学校でした。福井さんは変人ですが、この高校に入れたということは、頭が良いということでしょう。変人ですけど。
教室に入ると、大体の生徒がもう来ていました。教室を見渡すと、やはり女子の割合が多く、男子は今来ている限りは僕と福井さんを合わせても12人です。時間もギリギリですので、僕たちが最後だとすると男子は12人しかいないということになります。女子は20人もいます。
教室には昔からの友人、長谷 泉貴(はせ みずき)くんがいました。
長谷くんとは別の学校でしたが、小学生からの友達で、容姿端麗、頭脳明晰です。この学校にも僕と同じく、この高校で、首席合格しました。
首席合格の二人が同じクラスってすごいですね。掲示板を見て驚きました。何かのミスでしょうか?
長谷くんと話そうかと思いましたが、時間もギリギリでしたので、席に座ることにしました。
このあとは、入学式があり、生徒会長の言葉を姉さんが、新入生代表の言葉を長谷くんが、となぜかソワソワしてしまう入学式となりました。
「いや~、まさかひよりさんが生徒会長だとは! この世界の美女はやっぱすげえな」
退場するやいなや、福井さんは隣に来て話しかけてきました。
「う、うん。そうだね」
「しかもよ、クラスメイトもかわいいやつらが多くてまじでサイコーだぜ! 俺、この世界に来れて良かった~」
それを言うならこの世界に生まれてきて良かった、でしょう。
教室に帰ると担任の紹介、学校の簡単な説明があり、そのぐらいで今日は帰ることとなりました。
長谷くんは先生と何かを話しているようで結局話せないまま、帰ることになってしましました。
福井さんはいつの間にか消えており、スムーズに靴箱まで行くと、スーツ姿で赤い長髪の女性が待っていました。
「レント、ひさしぶりね」
「ええ、ひさしぶりです。母さん」
このスーツ姿の女性は、僕の母、黒瀬 みより。母さんは美容製品や服をつくる会社の社長をやっており多忙なので、会うのは三週間ぶりです。普段は会社の近くのマンションに住んでいます。
「母さん、今日は仕事はないのですか?」
さっきも述べた通り、母さんは多忙なのです。休みも少ないらしいので、僕的には休みならしっかりと休んでほしいですが。
「そうだと良いんだけどね~。でも残念、夕方から仕事でね」
「え? じゃあどうして来てくれたのですか?」
「それはもちろん息子の入学式だからね。私だって母なのよ?」
「は、はぁ……」
中学の卒業式は来なかった記憶があるのですが。
「あ、レント、急ぐわよ。予約している店があるのよ。そろそろリョウの入学式も終わる頃だから、先に向かっておきましょう」
「え? じゃあ兄さんの入学式には父さんが行っているのですか?」
「ええ、そうよ。家族全員ってわけにはいかないけど、ひさしぶりに話したいと思ってね」
「う、うれしいです」
両親一緒に会うなんてずいぶんとひさしぶりです。正月以来でしょうか?
☆
僕と母さんは車に乗って、その予約しているという店へと向かいました。
その店は路地の奥の奥にあり、母さんから聞くと、本物のお忍びの店らしいです。料理も絶品だそうです。
和風の店ですが、比較的に新しい造りです。
店の個室で待つこと10分ほど、やっと二人が来ました。
「久しぶり、おふくろ、レント」
先に個室に入ってきたのは、僕と顔がそっくりな双子の兄、黒瀬 涼(くろせ りょう)でした。
一卵性双生児なので外見が良く似ています。他の人から聞くと、外見だけでは見分けがつかないほど似ているらしいです。ですが、わかる人にはわかるらしく、外見の違いもちゃんとあります。
まず、僕は黒縁のメガネを掛けていますが、兄さんは掛けていません。他には、赤い瞳が僕よりも濃い……ぐらいでしょうか。けっこう少ないですね。決定的な違いがあることありますが。
「こちらこそ、お久しぶりです。兄さん」
久しぶりというのは、僕と兄さんが一緒に住んでいないからです。
「全く、どこをふらついていたのだか。しおりが心配してたわよ」
兄さんと、後から入ってきた父さんは座ります。
「ごめんごめん、しおりにも謝っておくよ」
と、兄さんは軽めに頭を下げました。
兄さんは長期休みのときは連絡が取れなくなることが多く、その度に妹のしおりちゃんや幼馴染の優香ちゃんを心配させます。何をやっているか僕も知りません。
「それとレント、ありがとな。教科書代わりに受け取ってくれたんだろ?」
そういえば、そんなこともしていました。春休みはずっと兄さんと連絡が取れなかったんで僕が代わりに兄さんの学校の教科書を取りに行ったのでした。
「いいですよ。僕が勝手にしたことですから」
「いや、それでも礼を言っとくよ。ありがとう」
ここは素直に礼を受け取っておきましょう。それに、礼を言われると嬉しくなりますし。
料理が運ばれてきて、少しずつ食べながら、みんなと話します。
「レント、高校の方はどうだった?」
と兄さん。
「う~ん、そうですね。楽しくなると思います。姉さんもいますし、長谷くんと同じクラスなんですよ」
変人が一人いますが……
「兄さんの方はどうなんですか?」
兄さんとは高校が違いますので気になります。
「俺も結構良いと思うぜ。生徒の人数も多いし、クラスにも色んな奴がいるからな」
確か兄さんの高校は、生徒数が千人を超えています。それだけいれば、バラエティ豊かになること間違いなしでしょう。
三人とたくさん話した後、母さんが仕事の時間になってしまいましたので、お開きすることになりました。
「それでは、兄さん。今度の休みの日にでも来てください」
「時間があったらな」
僕は母さんの車に乗って、近くの駅前で降ろしてもらい、そこから家に帰りました。
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