「なあ、レント」
昼休み、僕は教室で読書していると福井さんが話しかけてきました。
「はい、何でしょうか?」
「ああ、それがな……ん? お前から女の子の香りがすっげえするぞ」
「え!?」
自分の匂いをかきます。
……柔軟剤の良い匂いはしますが、女の子の香りなんてしません。というか女の子の香りがどういうものか知りませんでした。
「十人以上、昨日十人以上の女の子と触れ合ったな!」
「…………」
何故わかるのでしょう。福井さんが変態だからでしょうか。
「福井さん、本題に戻りましょう」
これ以上突っ込まれると、僕がアイドルのプロデューサーをしていることが福井さんにばれてしまうかもしれません。この人には絶対知られていけないような気がします。
「ああ、一旦置いといて。あの人についてどう思う?」
福井さんが指を差したところを見ると、クラスメイトのシーナ・カーターさんが他の女子のクラスメイトと話しているところでした。
カーターさんは、聞いた話によると、アメリカ出身でここ最近日本にやってきたらしいです。その高い身長と紫の長髪に透き通るような白い肌と美貌で、男子女子共に人気があります。
「どう思うって何がですか?」
「そりゃ見たまんまの感想だよ」
見たまんまの感想ですか……
「やはり美しいと思います。アメリカ人の女性は現地で何度も見たことあるのですが、カーターさんは目を惹き付けられるほどです」
「うわ、さりげなく自慢いれてきたよ。それだけか?」
「え? はい」
やっぱり典型的すぎましたか。
「オレはな、何か胡散臭いと思うんだよな。レントの言うことはちゃんとわかるし、オレが今まで見た女性でもトップクラスの美しさに入るんだよ。でもなぁ、告白する気にはなれないんだよなぁ」
ああ、そういえば福井さんは同級生、先輩問わず告白するので有名でした。返事は全部ダメだったらしいですが。
「胡散臭いっていうのは?」
「ああ、まずはあの笑顔だ。今、女子と話していて笑っているが、ありゃ絶対嘘の笑顔だ。そりゃ嘘の笑顔なんて誰でもするが、シーナちゃんは誰かと話すこと自体嫌ってるように見える」
う~ん、僕には普通に笑っているようにしか見えませんが。
「というか、オレが告白する気にならないこと自体が胡散臭い!」
説得力が急上昇しました。
福井さんはとりあえず可愛いかったり美しい人がいたら告白するはずなのに、クラスでもトップレベルの美しさを誇るカーターさんに告白しないのはおかしいと思います。
「シーナちゃんには気を付けた方が良いな」
何を気を付けるのでしょう。さすがに襲われたりはしないと思うのですが。
☆
僕は公園のトイレで、あらかじめリュックに入れておいたスーツに着替えて事務所へと向かいました。
「こんにちはー」
僕は事務所の扉を開け、とりあえず誰かいるかの確認を含め挨拶をします。
「あ、プロデューサーさん、こんにちは。もう十五時過ぎてますよ、出勤が遅すぎます!」
と、僕の前に出てきたのは、765プロの事務員、音無 小鳥(おとなし ことり)さん。
「あ、いや、仕事を取ってました。これをどうぞ」
僕は社長と伊織ちゃん以外からは青年だと思われています。ですので普通なら朝に事務所に出勤して色々と仕事をしなければいけませんが、学校があるもので……
そんなわけで、昨日、家に帰る前に仕事を取っておきましたので、昼は仕事を取っていたという口実ができます。
音無さんは事務員ですし、秋月さんはプロデューサーなので本当のことを言っておいた方が良いのですが、音無さんは口が軽そうなので絶対に言ってはダメですね。
僕はリュックから昨日取った仕事の書類を音無さんに渡します。
「え、もう取ってきたんですか!? しかもあの『アイグラ!!』!?」
書類を見て音無さんはびっくりします。
『アイグラ!!』は、アイドル限定のファッション雑誌のようなもので、もちろん人気は凄まじい……らしいです。昨日、このような雑誌があることを知りました。
「出演が決まっていないコーナーがありましたので頼んで仕事を貰ってきました」
「す、すごいですよ、プロデューサーさん! あの『アイグラ!!』ですよ!?」
音無さんの反応を見る限り、やはり人気はすごいようです。
「音無さん、どうしたのですか?」
秋月さんが奥の方からやってきました。
「律子さん! プロデューサーが『アイグラ!!』の仕事を取ってきたんですよ!」
「ええ!?」
☆
「みんな! プロデューサーがなんと仕事を取ってきました!」
音無さんが話を進めます。
『おー!』
「しかも、あの『アイグラ!!』ですよ!」
『ええ!?』
やはり人気があるようです。
「では、プロデューサー、説明をどうぞ」
僕は返事をし、みんなの前へと出ました。
「最初に言ってます。全員の仕事ではありません。この中から四人だけです」
僕がそう言うと、みんなの顔が残念そうになりました。
「四人か~」
「全員が良かったぞ」
とムードが一気に沈みましたが、
「ほらほら、この中から四人も『アイグラ!!』に出ること自体すごいことなのよ? この仕事がうまくいけば765プロ全員の仕事の機会もきっとあるわ」
「秋月さん……」
秋月さんのその言葉でみんなのムードが上がってきました。秋月さんはすごい人です。
「では、出演するコーナーは毎月あっている新人アイドル特集で、向こうから要望された雰囲気の人物は、え~と、ボーイッシュ、明るく元気、ミステリアス、白がよく似合う……て何これ?」
ちょっと個性的すぎるような……さすがにこの全員は765プロいないでしょう。
「ボーイッシュはまこちん、ミステリアスはお姫ちん、明るく元気はやよいっち、白がよく似合うはゆきぴょんでしょ!」
え!? いるの!?
「はい、みんなそういうことよ。真、やよい、貴音、雪歩で決定ね。プロデューサー、日にちは?」
「え~と、あ、明日!? え~と場所は……」
「プロデューサー、貸してください」
僕は秋月さんに書類を渡します。
「撮影は明日の十七時から。言われた人は十五時に事務所に集合ね。プロデューサー、これでよろしいでしょう?」
「兄ちゃん、やっぱり新人だね~」
うう、不甲斐ない。
☆
「ちょっと、レント。あの仕事は何なのよ」
デスクワークをしていると、伊織ちゃんが話しかけてきました。
「え? 何って何がですか?」
「だ~か~ら~、あの仕事は黒瀬家のコネでも使ったんじゃないの?」
何を言うかと思えば。
「確かに今回の仕事の話を聞いたのは、母さんの仕事関係者の方ですが、『アイグラ!!』の仕事を取りにいったのは僕自身ですし、黒瀬の名前は出していません。新人アイドルがあまりいないということで困って要らしたので頭を下げてお願いしました」
まあ、月に一回、新人アイドル特集をしていたら候補者が少なくなることは事実でしょう。
「ふん、それならいいわ」
伊織ちゃんはコネで人気になるのは嫌なようです。僕も彼女たちの実力で人気になってほしいですのでコネは使いたくありません。
「あ、お菓子が切れちゃってます」
「ほんとだ。飲み物もほとんど冷蔵庫にはいってないね」
と声が聞こえてきました。
「じゃあ私が買ってきます!」
と高槻さんの声。
時計を見ると、既に十六時を過ぎていました。
う~ん、一人で買いに行かせるのは危ないでしょうか。
「高槻さん、僕が買ってきますよ。外ももう暗いですので」
「本当ですか、プロデューサー? うっう~、ありがとうございます!」
「じゃあ私はオレンジジュースね」
「ミキはおにぎりがいいの」
「…………」
僕はみんなに必要なものを聞き、外へと出ました。
「え~と、コンビニは確か……」
僕は歩いてコンビニを探します。
外は人通りが少なくなっていました。
コンビニを探しはじめて五分ほど……
歩いていると、左手にズキッと変な痛みを感じ、気になって手を見てみました。
「…………え?」
僕の左手は、ナイフに貫かれていました。
はい、ラストでいきなりの急展開ですね。手がナイフに貫かれるって想像しただけでも痛々しいです
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