昨日、時間が時間でしたので、僕は研究所に泊まり、早起きして学校に登校しました。
校門を過ぎた辺りからみんなの視線が僕へと突き刺さります。
「……はぁ」
理由はわかっています。僕の今の状態は、左手と頭に包帯、ほっぺにはガーゼと、かなり危ない人だと思われてしまいます。
「レント、おはよ!」
後ろからポンと僕の肩を叩いてくる女性がいました。
「おはようございます、姉さん」
この学校の花である生徒会長、僕の姉さんです。
「あんた、またすごい怪我ね。昨日帰って来なかったのは治療を受けてたからね?」
「まぁ、はい」
「ほんと、あんたたち双子は似てるよね」
姉さんが似てると言っているのは、顔もでしょうが、性質のことでしょう。僕も兄さんもこんな感じの怪我をすることが多いのです。手をナイフで貫通させられたのはさすがに初めてでしたが。
教室に入ると、クラスメイトの視線が突き刺さります。
「黒瀬、大丈夫か? 何があった?」
長谷くんが駆け寄ってきました。
「昨日、大勢の不良に絡まれちゃって。でも大丈夫です。大したことありません」
「そうか、なら良いが」
大したこと有るんですけどね。
僕はカーターさんの席を見ます。
席には座っていませんが、鞄があるので来てはいるようです。学校のみんなを巻き込むことがなければ良いのですが。
「どわぁ!? レント、どうした!?」
今、登校してきた福井さんが、教室に入るや否や僕の姿を見て一気に距離を詰めてきました。
「い、いえ。大したことありませんから」
「そうなのか? まぁ、お前のことだから女に恨みでも買われて襲われちゃった口だろ?」
この人、勘が良すぎじゃありませんかね? カーターさんの間違いではありますが。
僕は席に座り、教科書を引き出しに入れようとすると、中に何がが入っていることに気が付きました。
「これは……」
〈昼休み 旧校舎二階で待つ〉
と、それだけが書かれてありました。
中学生のときなら大半が僕を嫌っている不良からでしたが、今日はわけが違います。これは十中八九、カーターさんからの果たし状です。
「レントはいるか!?」
バーン! と勢い良く教室のドアを開ける人がいました。みんなの視線がドアの方へと集まります。そこには、金髪のストレートロングに、三白眼、耳のピアス、スカートはくるぶしよりも少し上という誰が見ても不良だと言い切れる女子がいました。
「は、はい。ここに」
「ま、マジもんの怪我じゃん!? この怪我、誰にやられた!?」
この女の子は、鬼崎 優香(おにざき ゆうか)。中学校からの同級生。どこをどう見ても不良なのですが、頭は非常に良く授業態度も極めて良好です。
「ふ、不良に」
「くそ! アタシのダチに何てことを。こんな弱そうなやつに寄って集って……今時の不良は恥ずかしくねえのか!? 普通はサシだろ!」
「サシでも嫌ですよ!」
……と、こんな感じで根は良い人です。僕と鬼崎さんの出会いも僕が不良数人に絡まれている所を鬼崎さんから助けてもらったことが始まりです。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴りました。先生が教室に入ってきます。
「鬼崎、教室に戻れー」
「はいはい」
鬼崎さんは先生の言うことに素直に従いました。
「黒瀬くんって意外ね」
「イケメンなのに不良なんて残念」
「でもそこが良いじゃない」
「…………」
僕が不良という噂が流れちゃうのかな?
☆
昼休みに入ると、僕は真っ先に旧校舎の二階に向かいました。
先生の話によると、カーターさんは朝から保健室で休んでいるようです。
「カーターさん! どこですか!?」
誰の気配もしない旧校舎で僕は叫びます。
「……ふ、やはり来たか」
後ろから声が聞こえました。
僕は振り向き際にポケットから昨日カーターさんから奪い取った銃とナイフを取り出し、カーターさんに銃口を向けます。しかし、そこには両手を挙げたカーターさんが立っていました。
「…………どういうことですか?」
「見ての通り降参だ。撃たないでくれ」
どういうことでしょう。僕を油断させる罠でしょうか。
「すまない、人違いだった。あの後、貴様の事を調べてみたが、私が知っているやつとは別ということがわかった。何も調べないで襲いかかって悪かった」
「…………その別の奴とは?」
僕と間違えるほどです。兄さんかもしれません。
「貴様には無関係だ」
「無関係ではありません。実際、その人の所為で僕はあなたに殺されそうになったのですから」
「それも……そうか」
「カーターさん、あなたは何者ですか? 昨日の戦闘テクニック、訓練を積んだものであることは間違いないようですが。アメリカの情報機関ですか?」
「残念ながら違うな。ただの殺し屋さ。とは言っても最近は殺し屋の肩書きさえ危ないところだが」
殺し屋……こんな若い女の子が?
「どうして、この学校に?」
「日本での依頼を最後に殺し屋をしばらく休業しようと思っていてな。ついでに私も日本の学校で学ばせてもらおうと思ったのだ」
どれもこれも非現実的な話です。ですが、昨日この人と戦った身としては非現実のものが現実に見えてきます。
「最後の質問、『幻想の殺し屋』とは何ですか?」
僕は『幻想の殺し屋』に間違われて殺されそうになったのです。
「本当に知りたいのか?」
僕はコクリと頷きます。
「ま、これも何かの縁だな。これを見てくれ」
カーターさんはポケットからスマホを取り出し、僕にある画像を見せました。
「それは!?」
その画像に写っていたのは、僕と同じ顔の人間。違うのは、肩にロケットランチャーを担いでいるところです。兄さんかもと疑いましたが、兄さんは何故か飛び道具を使わない主義なのでこれは兄さんではありません。
「ほんと、貴様とそっくりだろ? だが、調べてみたところ、こいつの経歴と貴様の経歴が一致しない。こんなに似た奴がいるんだな」
僕も正直びっくりです。まさか、僕とそっくりな人が兄さん以外にもいるだなんて。
「その人も殺し屋?」
「ああ。だが、殺し屋の癖に穏便には済ませない。やるからにはド派手にやる。それが『幻想の殺し屋』の手口でな。こいつに殺された奴は無惨に殺されてるよ。対物ライフル、ロケットランチャーを人に当てる。ひどいときには生身の人間にC4を付けて爆破だ」
『幻想の殺し屋』さんがとんでもないことはわかりました。でも、カーターさんと『幻想の殺し屋』さんの間で何があったのでしょう? 殺し屋同士、いざこざでもあったのでしょうか? 怖いので聞きはしませんが。
「質問は以上だな? では、次は私から質問しよう」
え、僕に質問?
「昨日のあれは何だ?」
「え? 昨日のあれ?」
あれって?
「私は貴様を気絶させたかと思ったが、体毛を変化させて復活したじゃないか」
「…………ええ!? 僕がそんなことを!?」
全然記憶にありません。体毛を変化!? 何それ怖すぎです。
「覚えてないのか?」
「すみません。全く記憶にありません。詳しく説明してもらってもよろしいですか?」
「ま、良いだろう。貴様が気絶したと思っていたが、すぐに立ち上がったのだ。そのときには髪も眉も真っ白になっていた。そして超人的な力で私を倒したのだが……本当に何も覚えてないのか?」
「はい、すみません」
そんな能力が僕に? でも記憶にないってどういうこと?
「……そういえば、白くなってからは言葉遣いが変わっていたな。その面倒くさい敬語からは考えられないほど暴言を吐きまくってたぞ」
ますます意味不明に。もしかして僕って二重人格? 気絶したら発動するみたいな? でも中学生の頃はありませんでした。今頃になって中二病とやらが……?
いやいや、人格が入れ替わったらパワーアップとか意味不明ですよ。ありえません。
「その様子を見るに、本当に覚えてないみたいだな。」
「すみません」
明日また研究所に行くのでメグミさんから見てもらいましょう。
「そろそろ昼休みが終わる。貴様、私の正体を周りに話したら貴様と貴様の家族を殺すからな」
「大丈夫ですよ。絶対に言いません」
僕は笑顔で答えました。
「ふん」
カーターさんは去っていきました。
「ふう~」
なんかもう、色々と疲れました。あ、銃を返すのを忘れていました。
「あの銃はー?」
カーターさんの姿は見えませんが、言いました。
「くれてやる! 『幻想の殺し屋』が接触してきたときにでも使え!」
どこからかカーターさんの声が返ってきました。
「使えと言われましても……」
銃刀法違反じゃないですか。ありがたくもらっておきますけど。
重要な問題が一つ解決しました。あと一つは、彼女たちの写真撮影!
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