聖杯戦争―――、それは万能の願望機、「聖杯」を求め、奪い合う闘争。
7人の魔術師が、己の願望を叶える為に、その覇権を奪い合う戦争である。
たった7人の魔術師が争う戦いなど、戦争と呼ぶには迫力不足、だと思う者も少なからずいよう。―――それが、魔術師のみにおける戦争ならば―――
◇
「あのエセ神父、触媒まで用意してくれるなんて...なんか、気前がいいわね。」
ここは、ある魔術の名門の魔術工房。ここに居座る赤い服を身にまとった少女、彼女はアタッシュケースを開け、中から 宝石で加工されたイヤリングを右手で掴み、持ち上げて見せた。
「でもコレ、ルーン基盤よね?私が欲しいのはセイバーなんだけど、まさかキャスターなんて出てこないでしょうね?
嫌よ、私コソコソするのは好きじゃないし。」
エセ神父が私に
そんな物を触媒に
「私
しかし、せっかく貰った触媒だ、無駄にするわけにはいかない。―――というか、冷静に考えてみればキャスターのサーヴァントは
強力なクラスだ。しかし、私はその中でも
「まぁ、この触媒にすべてを賭けるしかないわね。」
時計の時刻はじき午前2時を指そうとしている。私にとって最も波長のいい時間帯。その中でもピークになるのが午前2時ジャスト。制限的にもこれが最初にして最後のチャンスだから、わずかでもミスをする訳にはいかない。
「―――消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む、と」
地下室の床に陣を刻む。・・・・・・実際、サーヴァント召喚にはさして大がかりな降霊は必要ない。
サーヴァントは聖杯によって招かれるモノ。
マスターは彼らをつなぎ止め、実体化に必要な魔力を提供する事が第一なのだから、召喚はあちらが勝手にやってくれる。
「―――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
それでも、細心の注意と努力を。
本来なら血液で描く魔法陣を、今回は溶解した宝石で描く。
・・・・・・私が今までため込んできた宝石のうち半分を使うんだから、財政的にも失敗なんて承知しない。
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
・・・・・・じき午前2時。
遠坂の家に伝わる召喚陣を描き終え、全霊をもって対峙する。
「―――
私の中にある、カタチのないスイッチをオンにする。
かちり、と体の中身が入れ替わるような感覚。
通常の神経が反転して、魔力を伝わらせる回路へと切り替わる。
これより、遠坂凛は人ではなくなる。
ただ、神秘を成し得るだけの部品となる。
・・・・・・指先から溶けていく。
否、指先から満たされていく。
取り込むマナがあまりにも濃密だから、もとからあった肉体の感覚が塗りつぶされていく。
だから、満たされるという事は、同時に破却するという事だ。
「―――――――――――」
全身に行き渡る力は大気に含まれる純然たる魔力。
これを回路となった自身に取り込み、違う魔力へと変換。
魔術師の体は、回路に過ぎない。幽体と物質を繋げる為の回路。
その結果、成し得た様々な神秘を、我々は魔術と呼ぶ。
「――――――告げる」
始めよう。
取り入れたマナを“固定化”する為の魔力へと変換する。
あとは、ただ。
この身が空になるまで魔力を注ぎ込み、召喚陣というエンジンを回すだけ――――
「告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
視覚が閉ざされる。
目前には肉眼では捉えられぬという第五要素。
故に、潰されるのを恐れ、視覚は自ら停止する。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!」
文句無し・・・!手応えなんてもう、釣竿で鯨を釣り上げたってぐらいにパーフェクト!
完璧。間違いはない。私は最強のカードを引き当てたのだ!
そして、徐々に視覚を取り戻す。眼前には召喚したサーヴァントの姿が―――――――――――ない。
「は?」
ないものはいくら見てもない。
変化もなし。あんだけ派手に乱舞していたエーテル。ソレを思わせるはずの実体化物は欠片もなし。
加えて。
なんか、居間の方で大爆発が・・・。
「なんでよーーーーー!?」
地下室の階段を駆け上がり、居間へと急ぐ。
そして、ようやく居間へと辿り着き一目散に扉を開け――――――れない。
「扉、壊れてる!?」
居間の扉は歪んでいた。取っ手は飾りのような物。回しても意味など無かった。しかも、押しても引いても開かないと来た。ここで、私の沸点は最高点の手前まで差し掛かった。
「あぁ、もう!邪魔だこのおっ・・・!」
勢いよくドアを蹴破って中へと入った。
―――そして、
「・・・・・・」
居間はめちゃくちゃになっていた。
何かが天井から落ちてきたのか、部屋は瓦礫とホコリまみれ。
部屋の電気が切れているせいか、
そして、破壊を免れた柱時計に目が入る。・・・それで、思い出してしまった。そうそう。たしか、うちの時計今日に限って一時間早かったんだっけ。
故に、今は午前2時改め、午前1時。
私の絶好調まで、実にあと一時間。
「――――また、やっちゃった・・・・・・けど、やっちゃった事は仕方ない。反省反省」
まぁ、つまりはサーヴァントの召喚に失敗したのだ。
自分の馬鹿さ加減に頭を痛める。
「仕方ない。また明日。今度こそ、午前2時きっかりに召喚を―――――」
その時。背後からの寒気と共に何者かが私の尻部に触れる。
「ひゃうっ!?」
即座に後ろを振り向くが既に影は姿なく。ソレは、もはや目では捉えられぬ速度で今度は私の正面に立った。
すぐさまそれに目を向ける。
「―――え、」
暗闇の中だからか、姿がはっきりとしない。ただ、目の前には何か人型の生物が立っている。これだけははっきりとわかる。
「
先程溶かした宝石の余りを用いて、指先より明かりを灯す。
すると、目の前には青い男が立っていた。
「サーヴァント・・・・・・?」
私の呟きに呼応するように眼前のソレは応える。
「如何にも、お前の召喚に応じた。サーヴァント、ランサーだ。」
その一言を聞き、安堵のため息と共に一つの言葉に引っかかった。
“ランサー”・・・・・・?
そう、私が引き当てたかったのは最優の英霊、“セイバー”だ。サーヴァントの召喚には成功した。それは勿論喜ばしい。だが、私はあくまでセイバーのサーヴァントを期待していた。召喚には成功したが、目的は失敗に終わる。半身歓喜、半身絶望。素直に喜べないなあ。
「―――はぁ・・・・・・」
私の、いかにも不満そうなため息に、何か引っかかったのかランサーが目を顰めて声をかけてきた。
「おい、どうした嬢ちゃんのマスター。なんか問題でもあったのか?」
「一応、もう1度聞くけど、貴方セイバーじゃないのよね?」
「あぁ、俺はランサーのサーヴァントだ。セイバーじゃねぇ。なんだ。それでちょいとご機嫌斜めなわけか。俺じゃ不満か?」
うっ・・・。そう言われると、そんな事は口が裂けても言えない。
事実、あの男の体は桁外れの魔力を帯びている事が判る。アレは、間違いなく人間以上の高次元の存在。人の身でありながら精霊の域に達した“亡霊”なのだ。
不満じゃない、そう言いかけた途端―――
「あーぁ、それなら俺だって不満だぜ。こーんな乳癖ぇガキがマスターだなんてよ。」
あ、なんか今のカチンと来た。
「はぁ?それどういう事よ・・・?」
「いやぁ?せめて俺も、呼ばれるなら美人で強情で、いい身体の姉ちゃんのマスターがよかったなぁーー。て、少しばかり不満を述べたまでだが?」
なんて、私の下半身をじろじろ見ながら右手をいやらしくいじいじする。いやまて、コイツ。さっき私のお尻に―――。
ここで、遠坂凛の沸点は最高点を優に越え、火山の噴火の如く怒号が居間を響く―――
「こんの・・・・・・っ!!」
―――事はない。私は大人だ。これぐらいの挑発に乗るほど子供じゃない。だいたい、あんなヤツ如きの言い分に耳を貸す必要は無いのだ。何がガキよ。私だって立派な大人なお姉さんです。
下を俯き、ふつふつと湧き上がる怒りを抑えつける。少しだけ悔しかったので、目尻には涙を蓄えてしまったがもうじき収まるだろう。
「おやぁ?やっぱり図星を突かれて怒っちゃったかぁ?反論の一つもないとは、身体だけじゃなく
はっはっは、と高笑いを上げて私を見下すその態度に、私は理性を消し飛ばす程の怒りに駆られた。あぁ、もう無理。どうでもいいや。
私の中の見えないスイッチが、カチンと音を立て入ったのがわかる。
お父さん、ダメみたい。私、もうブチギレします。
「こんのっ・・・・・・・・・!!セクハラサーヴァントーーーー!!!!!」
「――――Anfang」
もう許さない。もう容赦なし。謝ったって許すもんか!情けなんてクソくらえよ!!
「げ、――――おい、まさか・・・」
「そのまさかよ!このセクハランサー!!
「バカ!待て、マスター!?そんなコトで令呪を使うか普通!?」
「うるさーーい!黙ってなさい!このっ!!」
―――右手に刻まれた印が疼く。
三つの令呪。それは、戒めの刻印。サーヴァントを律する事が叶う、三回限りの絶対命令権なのだ。
「待て待て待て待て!!やめろ!マスター!考えなしかアンタ!?」
「ふん!今更遅いわよ!!だいたい私だってアンタのせいで大事な三つの内一つを使うハメになるんだから!」
???「自害せよ、ランサー」
ランサー「なんでだァァァァ!?」
次回!!ランサー死す!!(大嘘)