Fate/ exit night   作:なんばノア

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the first night

赤い輝き。戒めの呪いが、英霊ランサーに一つの絶対命令を告げる。

『私の命令に従え‼私の言い分には絶対服従ーーー‼』

 

 ◇

 

――で。とりあえず廃墟みたくなった居間を後にし、自室に移動する事にした。

目の前には私の令呪で『絶対服従』になったはずのサーヴァントがいる。のだが――

「はぁぁーーーーーーーっ。ずいぶん気のちいせぇ嬢ちゃんだこと」

こ の 態 度 の ど こ が 絶 対 服 従 な の よ っ ! ?

「あー。念のための確認なんだが。アンタ、令呪がどんだけ重要なモンか理解してるか、マスター」

「し、知ってるっての。サーヴァントを強制的に律する三回きりの命令権。それが?」

心底呆れたようなイラつく表情で、ため息まじりに頭を掻くランサー。

「あぁ。概ね正解だ嬢ちゃん」

そんな態度に寛容でいられるほど、私は人間が出来てはいない。

「あのね、アナタ。いいかげんその舐めた態度どうにか出来ないの?それに――」

それに、使用したはずの令呪が働いていないという、この事実が不可解でもあった。

「その態度のどこが絶対服従なのよ」

「だからよ、それだ」

「はぁ?」

「……ま、コイツは俺の誤算でもあるからな。――いいか?令呪ってのは嬢ちゃんの言う通り、サーヴァントを強制的に行動させるモノだ。それは『行動を止める』だけじゃなく、『行動を強化させる』という意味でもあるわけさね。――例えば、俺はここから遠くの場所まで瞬間的には移動できねぇ。だが令呪で『行け』と命じさえすれば、俺と嬢ちゃんの魔力で届く範囲なら可能だってわけだ。

強制命令権ってのはそういう事だ。サーヴァント(おれたち)自身でも制御できない、肉体の限界さえ突破させる大魔術の結晶が、三つの令呪ってわけだ。――ま、今では二つにまで減っちまったがな」

最後の皮肉口が癪に障るが、私自身もコイツがどういう正確か理解してきた。

「し、知ってるわよそんなコト。いいじゃない、まだ二つあるんだし。それに、貴方に命じた規則だって無駄じゃないんだし」

「いや、それがな嬢ちゃん。令呪ってのは曖昧な命令には効果が弱くなるモンなのさ。『俺を絶対に守りぬけ』とか『この戦争に勝利しろ』とか、広くな永く効果が続くモンには令呪が弱くなんだよ。効き目は長く続くが苦痛が小さいからよ、その分逆らえるヤツも出てくるのさ。――逆に、『次の一撃は死ぬ気で行け』とか『あのグラスだけは壊すな』とかいう、単一の命令は絶対でな、超強力なサーヴァントでも逆らうのは難しいってわけよ。……さて、と。これで俺の言いたい事がわかったか?嬢ちゃん」

――無論だ。今のランサーの説明からして、先程の私の令呪は全くの無駄。聖杯戦争は始まってもいないのに、早々に一つを無駄にしてしまったという事だ。先ほどの口論など、言ってしまえば話し合いでも解決は出来た事だ。それに、『全ての命令に絶対服従』などというバカげた命令は、令呪が100あっても叶わないだろう。

「――ごめんなさい。謝るわ、ランサー。頭に血が上って後先考えなかった私の責任だもの」

私が俯いて沈んでいると、ランサーが肩にポンと手を置いた。

「ま、それは通常なら。の話だ。――どうも、アンタは魔術師として桁が違ったらしい。誤算ってのはそれだ」

呆れながらも喜んでいる。そんな表情で、ランサーは口元を緩ませ笑っていた。

「さっきの命令じゃあせいぜい『しかたねぇから意見くらいは聞いてやろう』って程度の心変わりにしかならない筈なんだが、アンタの言葉の重さに強い強制を感じるのさ」

――――えっと、それってつまり?

「あぁ。前言を撤回するぜ、マスター。アンタ間違いなく、最強のマスターだ」

 

 ◇

 

英霊ランサー。真明をクー・フーリンというらしい。

アルスターの光の御子。半神半人の大英雄。ケルト神話においてその武勇を馳せた最強の槍使い。

セイバーを引くことは叶わなかったが、彼もまた、間違いなく当たり。最強に相応しい英霊だった。

 

二月二日 十九時頃 夜

「とりあえず、ここが起点みたい」

昼の内、学校に結界が張ってある事に気が付き、それの解除、あわよくば張った主を突き止めようと勤しむ最中だった。

「――なにこれ.....」

刻まれた赤い文字。紅に繕われた、神代の魔術的術式。

「ダメね、これ、私の手に負えないわ」

自身の未熟さに腹を立てるが、今やそんな暇はない。手に負えない、というのは歴史の古さの一点のみ。この術式はザル。欠点だらけの欠陥品だ。魔術師である私にとって、この術式の雑さは一目で見て取れる。敵に異常を悟らせる時点で三流以下だ。

恐らく、これを張ったのは魔術師(キャスター)の英霊ではない。――他のサーヴァントか、魔術師か、だ。

「ねぇ、ランサー。確か貴方ってルーンの天才だったわよね?」

『よく知ってるな。だがこの霊基はランサークラス。俺がキャスターで召喚されたなら、あるいはあったかもな』

「つまり、無理なわけね」

『そういうこった』

霊体化しているランサーは軽口のまま呟いた。

「にしても趣味の悪い結界ね」

恐らく、この結界が起動すればその対象になるのは生徒。多くの人間が集まる学校という場所において、利点といえばそれしかない。そして、その目的は恐らく――

「魔力の抽出、かな」

そうとしか思えない。――ここを起点として、結界内に存在する人間を生贄に自身に、何らかの強化的施術を施す類のものだろう。

『まぁ、当然だと思うぜ?俺たちサーヴァントは霊体。栄養の摂取は第一要素よりも第二第三のが効率いい』

――なんか、ムカッときた。

「それ、癪に障るわ。二度と口にしないで」

人間を栄養にして、自分の使い魔を強くしようだなんて、――残酷すぎる。生きた人間を、生きたまま殺すだなんて。

『ったりめぇだ。俺だってやるつもりはねぇよ。――ただな、これはこういう闘い(、、、、、、)だからな。それだけだ』

――そう。これは聖杯戦争。魔術師による、唯一の願望器を求めた殺し合い。そういう連中は魔術師界隈には少なくない。むしろ、私のような魔術師の方が、統計としては絶対に少ないだろう。だから、私は私のやり方で勝ちに行く。ランサーもそれに賛同してくれており、心強いことこの上ない。

「まぁ、残留した魔力を引き抜くことは可能だから。――よいしょ、.....これですぐには起動しない筈よ」

術式にくべられた魔力を取り除き、一時的に無害なものとした。ただ、これはあくまでも応急処置。術者が今再び術式に魔力を通せば、簡単に起動するハリボテの処置なのだから。それでも、やらないよりはマジだろうというのが、私の理念だった。

「さて。それじゃあ結界への対処も一応だけど出来た事だし、街の探索でもしまし――」

最後まで口にすることが出来なかった。――いや、それはあまりにも、不意打ちすぎた。

ガシャン。

凍てつく夜に相応しい、鋭く重く、容赦のない殺意(おと)

「――何をしている、娘」

――黒い影は、月を背景に(うた)う。

 

 

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