「charm」の翻訳揺れとの見解が有る「妖精の呪文」ですが、本作ではそういう教科として扱います。小学校低学年の「せいかつか」のように、複数分野の初心者向け複合科目みたいなものをイメージしていただけると、だいたいそんな感じです(語彙不足)。
「あふ……おはようございます、メリッサさん」
「おう、おはよう」
次の日。ホグワーツで迎える初めての朝である。
軽く柔らかな羽根布団を身体から押し退けるのに苦戦しているダフネとは対照的に魔理沙はだいぶ前から起きていたようで、僅かに湿った横髪を編みながら返事をした。
「もうシャワー済ませたんですのね」
布団を巻き込みながら身体を回して枕もとの目覚まし時計を見ると、まだだいぶ早い時間だったらしい。ダフネは起き上がるのを後回しにしてしばらくベッドでもたもたしていることにした。
「ああ、私はシャワーってか風呂だがな。そっちはもう昨日の夜に行ったのか?」
細い四つ編みの先をリボンで留めて、鏡の前で少し揺らしてみる。これといった基準が有るワケではないが、魔理沙的にとりあえず納得のいくセットができた。
「いえ、まだ」
「そうか。……結構良い風呂だったぜ。相変わらず灯りが緑なのが欠点だけどな」
そう言えば自分もこれからシャワーを浴びなければならない。髪を整える時間なんかも考えると案外余裕は無いのかとダフネの頭に血がめぐり出し、何度かの寝返りの後、やっと布団から這い出す決心をさせた。
「それはそうと、一限目の授業って何でしたかしら?」
タオルや代えの服、『驚異的に髪に優しい魔法ドライヤー』なんかを用意しながら、割と切実な疑問を口にした。思い返すと、授業関連の連絡は聞いた覚えが無い。時間の方は親から聞きかじった話と、あと常識から推し測れるものなのだが。
「メリッサさん……?」
返事が無いのを不思議に思い振り返ると姿も無かった。それもそのはず、魔理沙はとうの昔に「じゃ、探検に行って来る」なんて言い残して出て行ってしまっていたのだ。
次に魔理沙とダフネが顔を合わせたのは8時頃、大広間でのことだった。ダフネが同じくスリザリン新入生であるミリセントとパンジーの二人と一緒に朝食をとっていたところにやたら上機嫌で現れたのだ。
「全くおもしろおかしいお城だな。設計者の顔が見てみたいもんだ。……確かレイブンクローだったか」
魔理沙は三人の正面にドッカと座り、今しがた発見してきた仕掛け扉や通路のことをスラスラと話し始めた。ドアノブではなく蝶番の方を押さないと開かない扉やら真ん中に差し掛かった辺りで折れ曲がって結局上の階に行けない階段なんかはまだ序の口で、少しずつ天井が降りて来る部屋や後ろから水流が迫ってくる地下道やらにも出くわしたという。
「地下から隠し通路に入って6階の男子トイレに出たときはさすがに面食らったぜ。しかもそこがきったねぇのなんのって」
「食事中よ」
それまで黙って聞いていたパンジーが割って入った。そもそもざっくばらんに過ぎる口調が気になってはいたのだが、朝食時にトイレの話が出たところで我慢ならなくなったのだ。
「ああ……悪い。ちょっと興奮してた」
「あなた、昨日ドラコと一緒に居た子よね」
「メリッサ・ミストウッドだ。そっちはパンジー・パーキンソンとミリセント・ブロストロード……だったか?」
「ブルストロード」
「こりゃ失礼、ブルストロードな、覚えた。何はともあれよろしく」
テーブル越しに握手を交わす。特別小柄な魔理沙と特別大柄なミリセントの手はまるで子供と大人のようだった。
「……にしても、これじゃ教室に行くのも一苦労だな。実際、私は件の6階からこの大広間に来るのに難儀したし。親切な肖像画が道を教えてくれたが」
「先輩方もそうおっしゃっていて、役に立つ通路や階段のシカケを教えていただきましたわ。メリッサさんは早くから出かけてらっしゃったからその場にいませんでしたけれど」
微妙に棘のある声色。朝置いて行かれたのをちょっとだけ根に持っていた。
「掲示板見てるときにね」
「げー、私もちょっと待ってりゃよかったな」
「メモしてますから大丈夫ですわ」
「助かる」
と、そこへ声をかける者があった。
「おはよう。ここ、いいかい?」
「ようドラコ。どこに座るのもお前の自由だ」
だいたいどういう反応をするかは予想していたらしく、返事を聞くか聞かないかのうちに魔理沙の隣に腰かけ、二人の手下がそれに続いた。ドラコは大皿からブラックプディングばかり取って食べ始めた。
「一時間目は『妖精の呪文』らしいね。みんなはどの程度できる?」
「モノを飛ばしたり呼んだりの魔法だな。ま、できないってことはないんじゃないか?」
「そう言えば、私が初めて使った魔法って浮遊なの。ちょっとお母さんとケンカしたときに周りの食器とかふっ飛ばしちゃって」
「じゃあいきなり好成績かもな」
「ちゃんと狙ったところに飛ばせるかどうかが問題だろうけどね」
「でも月曜の一時間目が妖精の呪文なのは幸運ですわね。この時間ですと教室に向かうのに丁度いいところへ階段が降りてくるみたいですし」
ダフネはメモに書いてあることをそのまま言ったのだが、我ながら「階段が降りてくる」なんて妙な言葉だと思った。階段"を"降りるのが普通だろうに。しかしそこを気に留めたのはダフネだけのようで、みんな「へぇ~、便利だなぁ」という反応。一人、魔理沙は「時間で変わるのかよ……調べ直しかなぁ」とかなんとかブツブツ言っていたが。
と、大広間が俄かに騒々しくなった。何かと思って入り口の方へ眼を移すと赤毛ののっぽ……の隣にくしゃくしゃ髪の眼鏡。ハリー・ポッターだ。視線や人だかりに少し顔をしかめながらどうにか周りに人が少ない席を見つけ出すものの、すぐに生徒たちが寄って来てチラチラと顔を窺ってはヒソヒソと何やら言い出す。周りは魔法界随一の英雄に興味深々だが本人の眉間には皺が寄っていた。その上、この城が愉快さと引き換えにやたらと複雑であることをハリーも今しがた思い知らされてきたところ。授業でうまくやれるか以前に教室に無事到着できるかどうかという新たな心配事は、観衆にサービスのスマイルを返さない理由として十分だろう。
「私があの立場ならすぐにでも学校をやめるだろうな。落ち着いて本も読めやしないだろうぜ」
「取り巻きを作って上手くやりそうだと思うけど」
「どうせ何日かしたら落ち着くわよ。これから授業もあることだし、実力相応の人気になると思うわ」
「これで全然ダメだったらピエロだね」
「彼、ちょっとボサッとした感じだものね」
パンジーがフンと鼻を鳴らした。
「賭けでもするか?」
「私は好成績にお昼の一品賭けますわ」
「ビュッフェスタイルのこの城の食事で一品賭けるも何も、な」
結局、朝食の終わりと共に賭けの話は流れ、『妖精の呪文』の授業が行われる教室に着いた頃には誰もその事を覚えていなかった。突然湧いて出たゴーストに驚いたミリセントの右ストレートの風切り音のインパクトに比べれば、成立しなかった賭け事の話なんて芥同然だろうから。
インパクトと言えば教授であるフィリウス・フリットウィックもなかなかのものだった。新入生歓迎会のときに見かけた小人。教壇の机に背が届かずに、足下に本を積み上げたその上に立ってやっと頭がのぞく程度だ。ドラコが言うには半小鬼らしいが、グリンゴッツの小鬼100%の小鬼よりも小さい印象すら受けるほどだった。
「この科目では『妖精の呪文』……単純な浮遊から家事の助けになるもの、軽いイタズラの類まで……つまり"おとぎ話の"妖精が使うような、イメージが簡単で親しみやすい魔法を学んでいきます。魔法魔術学校に入って最初の授業としてはこれ以上無いでしょうな」
フリットウィックはニコニコとした顔で話した。声も聞き取りやすいし、いかにも授業をやり慣れているベテラン教授といった感じだ。
「皆さんも杖を買ったときなどに体験したものでしょうし、この中には既に教科書の内容をいくらか使えるという人もいるとは思うのですが……『できる』と『極める』は異なる」
そう言うと共に無造作に杖を振るう。瞬間、教室中の椅子と机がそこに座っている生徒たちもろとも全て浮き上がった。その小さな見た目とは裏腹の強力な魔法にみんな目を見開いて呆気にとられる中、フリットウィックとしては狙い通りという感じ。スリザリン生というものは、その能力の代わりに、これくらいやって実力を見せておかないとすぐに教授らを舐めてかかるから苦手だ。自分があまり罰則や減点を行わないスタイルであるせいで損をしている部分もあるかもしれないが。
「では、記念すべき、皆さんが学ぶ初めての呪文は『フリペンド』……モノをはじく魔法ですな」
フリットウィックは皆を床に降ろすと木のキューブを配り、早速呪文の説明に取り掛かった。
とは言え呪文そのものは極めて単純。対象に向かって「どけ」と思い、そのように杖先から魔力を出すだけだ。発音も難しいところは無いし、杖の振りも思い思いにやれば良い。授業時間は根本的に『魔力を出す』こと自体の練習と、モノを"はじく"この呪文が、後に習うモノを"動かす"呪文に比べて如何に簡単かの説明に費やされた。
魔理沙は魔力の扱いに慣れているだけあって、それこそ一瞬で『フリペンド』を習得した。
狐につままれた気分だった。説明されたそのままに、とりあえず「どけ」と思って杖を振ったらキューブがその場からどいた。「どの方向からどの程度の外力を加えれば対象は動き、そのためにはどんな質のどれくらいの魔力をどの程度変換すれば良いか」なんて思考は一切無し。無論、今までモノを動かす魔法を使うたびに心の中でそんな長ったらしい文言を確認していたワケではないが、魔理沙の魔法の根源にあるものはそういう理論だ。
モノを吹き飛ばすというのは、パンジーの例のように、魔力の目覚めとしてありふれたものだ。魔理沙自身も似たようなものだったと記憶している。しかし、その原因には双方で異なる説明が為された。
魔理沙の理論では「身体から無制御の魔力が放出された結果、その一部が物理力に変換されて物体を動かす現象」と捉えていた。しかし、フリットウィックは「怒りや悲しみなどの感情の昂ぶりによって周囲の物体や状況を"拒絶する"つまり"どけと思う"ことにより『フリペンド』に似た現象が起こる」と言った。どちらかが間違っているというわけでもなく(実際、どちらの魔法でもモノは動く)片方の場合、もう片方の場合、或いは両方の併発というケースがあるのだろう。
根底にある『魔力』はどうやら同じものらしいが、その使い方が大きく異なるということを、自分でやってみて改めて実感した。ホグワーツへ通う意義に、もはや疑問など無かった。確実に「新しいことを学べる」だろう。
「次は魔法史だね」
「ジェマさんが『覚悟しといた方がいいわよ』なんて言ってらしたけれど……」
なりたての一年生とはいえ学生は多忙だ。魔理沙がちょっとしたショックに整理をつけているうちにも次の教室へ。仕掛け通路のレクチャーを受けたスリザリン生たちは殆ど時間前に到着していたが、合同で授業を受けるハッフルパフ生には道に迷ったらしく息を切らせてギリギリで入ってくる者も多かった。
そうして時計の針が授業開始時間を指してしばらくすると黒板からニュッと顔が生えてきた。ゴースト教師のカスバート・ビンズである。大胆な壁抜けで現れた彼は、続けざまに自分がゴーストになったいきさつを語った。なんでも、教員室での居眠りから覚めてクラスに急いだ際に身体を置き去りにしてしまったらしい。ちなみに、ここが授業のハイライトである。
あとはひたすら退屈であった。なにせ真面目で知られるハッフルパフ生ですら居眠りが多発するほどだ。しょぼくれた声の一本調子でひたすら年号や人名を読み上げる様はまるで催眠術。授業を聞いていたら意識を持っていかれると察知し、独自に教科書を纏めることに集中した魔理沙でさえ耳から自然に流れ込んでくる声のせいで何度か瞼が落ちたほどで、次からは魔法で耳をふさぐことに決めた。
「あの幽霊教師はさっさとクビにした方がいいよ」
昼食はフィッシュアンドチップスとサンドイッチだった。ドラコはポテトをマッシーピーズに沈没させながらいつものように文句を並べた。
「はは、ドラコの言葉通りにコトが運んだら二年に上がる前には教師が総入れ替えになってそうだ。……お、このビネガー良いな」
「でも、確かにアレは酷いですわ……うちのしもべ妖精の方がまだ面白く話せそうですもの」
「ダフネがそんな風に言うとは意外だ」
「私も寝てしまって……この調子ではテストが不安なんですの」
「くく、居眠りした生徒の方が先生に文句を言うのか」
「ぁう……そう言われると……」
「ダフネだけが寝てたならそうだけど、この場合みんな寝てるからね。むこうが悪いよ」
「冷静な返しだな。あと、ソースこぼしてるぞ」
魔理沙が指さした襟元にはべったりとマッシーピーズの緑色が張り付いていた。
「え? おっと、こういう時はなんだったかな……確か、ステューピファ――」
「きっと『スコージファイ』ですわ」
「そう、それ。掃除の呪文。――スコージファイ!」
咳払いの後もう一度唱えるも効果なし。ドラコの服は汚れたままだ。
「ダメみたいですわね」
「こうか? ……スコージファイ」
気まずそうに黙るドラコに代わり魔理沙が杖を一振り。一瞬の沈黙が過ぎ、今度は宙に溶けるように汚れが端から消えていき、カッターシャツの襟はもとの白い輝きを取り戻した。
「まぁ! メリッサさん、この呪文ももう使えますのね」
「いや、はは、ちょっともたついたけどな」
白々しい愛想笑いから分かる通り、実は魔理沙も『スコージファイ』には失敗している。本当は元々使える方の魔法でマッシーピーズを微粒子に分解したに過ぎない。『スコージファイ』は『清め』の呪文であり、"汚れが"落ちることより対象がきれいになることが意識の中心にあるべきなのだ。魔理沙はドラコの『掃除の呪文』という言葉を聞いて、"シャツの本来の姿"より"襟元のマッシーピーズが消える"ことをイメージしながら呪文を唱えたために成功しなかった。
ごまかしついでにアンチョビサンドを間食用にいくつか帽子の中に隠し、昼食時間もそろそろ終わり。次の『闇の魔術に対する防衛術』の教室へ急ぐ。
この教科は一年生たち(特に男子)が特に期待を寄せている教科だ。なぜなら、それはもちろんことさら戦闘技術を学ぶからである。とりわけグリフィンドール生は闇の魔法使いを倒す魔法戦士に憧れているし、逆に、ちょっと(もしくはどっぷり)闇の魔術に傾倒している生徒でも、『まず敵を知る』ということで闇の魔術や生物そのものについても教えてくれるらしいこの科目は注目すべきものなのだ。
しかしそういう生徒たちは残念ながらかなり落胆することになった。なんというか……教授であるクィリナス・クィレルが既に闇の魔術に屈してそうなレベルでおどおどしているのだ。目はしょっちゅう泳ぐし、何でもない言葉に詰まる。ルーマニアで吸血鬼に出会って以来この調子らしく教室の至る所に魔除け(特にニンニク)が吊るされ、本人からも強烈な臭いが漂っていたし、トレードマークのターバンにもよく見ると妙な染みがたくさんあった。このターバンは厄介なゾンビを退治した褒美にアフリカのどっかの国の王子がくれた品だというのがクィレル本人の言だが、ドラコはこれも嘘に違いないと断じていた。
「でもまぁ、当然っちゃ当然だな」
「闇の魔術から身を守るためにはまず怪しい人や店に関わらないようにする」なんて、まるで生活指導のような話を聞きながら、ふいに魔理沙が呟いた。
「何がですの?」
「いや、自分も妖怪の類なのに魔除けまみれで生活してりゃ様子が変になるのも当然だろって。ニンニクって吸血鬼除けとして有名だが、そもそも臭いのキツイものは大抵何にでも効くからなぁ。香水だってもともと魔除けだぜ」
「……え、クィレル先生って魔法生物ですの?」
「いや、魔力が明らかに普通の人間の雰囲気じゃないし。今日だけで半小鬼、ゴーストときてるんだからさほど驚くことでもないだろ」
「そう言われるとそうですわね。でも、それならいったいクィレル先生はどういう種類の……」
「実はもう吸血鬼に噛まれてて眷属になってるとか? 私が吸血鬼に会ったことないから分からんが。……あー、でも、会ってても分からんかもな。吸血鬼ってやたら種類やら階級が豊富だし」
しかし、それにつけてもこのクィレルという教授から教科書の内容よりタメになる話は聞けそうにない。時間割だと、この『闇の魔術に対する防衛術』と『魔法史』の二大暇な授業はそれなりの割合を占めていたはずだ。教科書の独自読解もこれから一年かかる作業とは到底言えないし、何かヒマを有効活用する手立てを考える必要がある。
「でしたらやはり図書館の本ですわね」
魔理沙の愚痴に、ダフネが当然な答えを返した。席に座ったままできる暇つぶしと言えばやはり読書が代表だろう。
「君たち、今日の授業が終わったばかりだっていうのに本の話かい?」
「しょぼくれゴーストとへっぴり闇祓いの与太話を聞くよりは楽しいだろうと思ってな。……ああ、そう言えば夜中に出歩いちゃいけないとかいうクソみたいな規則も有ったな」
そう考えると本の調達は最優先課題のように思えた。本を読んでいさえすれば暇も潰れ、知識を獲得でき、そしていかにも真面目な生徒らしく見えるに違いない。
「そうかい、ま、僕は寮でチェスでもしてるよ。行くぞ、ゴイル、クラッブ」
「ああ、また夕食時に」
そういうわけでやって来た図書館(その道のりではダフネのメモが大いに役立った)だが、まさに、圧倒されるような蔵書数だった。比喩ではなく本棚の森であった。対して利用者が少ないもんだから余計に異様な静寂を感じさせる。授業初日から図書館に行こう等と思う生徒が稀有なため、閑散としているのは当たり前なのだが。
「何が良いかな」
まず、今持っている教科書の上級版のようなものは確定として……こっちの常識が欠如しているのを補うために小説なんかも良いかもしれない。或いは魔法界の慣用句辞典なども手に入れば御の字だ。
「なぁ、何か面白い小説知ってるか?」
「でしたら、ギルデなんちゃらとかいう方の本が人気らしいですわ」
「G、I、L、D、E……だよな?」
「さぁ? おそらくはそうだと思いますけれど」
「自分は興味無いのに勧めたのか……」
「私は、お母さまが『低俗な輩が書いた軽薄な文章だ』っておっしゃって読ませてくれませんでしたの。でも、世間で流行っているということは相応の価値があるものと思いまして」
「なるほどな……ってか著者名アルファベット以前に小説の棚はどこだ」
「それなら一言、司書のマダム・ピンスに訊けば良いと思うわ。自分たちであーだこーだ騒ぐんじゃなくてね」
本棚の間から現れたのはおなじみの栗毛、ハーマイオニーだ。
「『図書館では静かに』って常識よ?」
「おお、やっぱお前も来てたか」
「……私に何か用なの?」
「いや? 全然」
魔理沙の「なんでそんな風に思ったんだ?」とでも言いたげな表情にハーマイオニーは少しムッとした。
「強いて言えば……そうだな、調子はどうだ?」
「おあいにくさま、あなたに心配されるまでもなく上手くやってるわ。変身術もちゃんと成功させてマクゴナガル先生から寮杯の点をいただいたもの。マッチ棒を銀の針に変えたんだけど、はじめて……特に入学してから一日目に入った授業で私ほど銀色で尖ったまっすぐな針にできたのはここ数年居ないそうよ。……何笑ってるの? そこの――」
「ダフネ・グリーングラスですわ。ふふ、『図書館では静かに』はどこへ行ったのかと思いまして」
言われてハーマイオニーの顔がカッと赤くなった。何かやり返すセリフを探したが、自己弁護の屁理屈さえ浮かばなかった。
「もともとそんな常識無かったんだろ。それでさっきの話に戻るが、数年居なかった出来とはすごいじゃないか。何かコツとか有るのか?」
「あなたには教えないわ」
そう言ったきり、ハーマイオニーは本を抱えてさっさと行ってしまった。
「さっきの方、お知り合いですの?」
「ちょっとした縁があってな。さて、それじゃ司書さんのとこに行くか」
「その必要はありません。もうここに居ますからね」
振り返るとすぐそこに立っていたのは司書のイルマ・ピンスその人。コンドルを思わせる顔に何処からどう見ても明らかに神経質そうな表情が浮かんでいた。
「それで、結局、何を借りたんだい?」
図書館でくっちゃべっていたことについて散々マダム・ピンスから説教を喰らい、ついでに蔵書を汚したり期限までに返さなかった場合は本に施されたあらゆる呪いが牙を剥くから覚悟するようにとも釘を刺され、その後目ぼしい本を探したらそれだけでもう夕食の時間になってしまった。
「古い魔法の本と日常に使える便利な魔法の本をいくつかと、なんとなく初級の占い学本、それに一般教養本と魔術言語学と瞬間移動魔法関連。あと、ロックハートとかいう作家の小説がちょっと読んでみたら面白かったから有るだけ借りた」
しかしながらガミガミおばさんに時間を取られたとは言え目的はしっかり達成できたし……ついでに盗難防止魔法の現物資料が大量に手に入ったと思えば大成果だ。
「貸し出し制限とか無いのかい?」
「ああ、教授の許可証が無いと閲覧できない棚とか有ったな」
「そうじゃなくて、本の数さ」
「ふふ、上限キッチリですわ」
「よくやるよ……」
「そんな大げさな話でもないだろ」
文字と挿絵にしか情報が記録されてないし、かかっている魔法もマダム・ピンスの保護呪文くらいだ。読むことに関しては全く苦労しないだろうというのが魔理沙の考え。ドラコが問題にしたのはそういうことじゃないが。
「それに、上限キッチリ借りてったやつは私だけじゃないらしいしな」
マダム・ピンスは一年の女子だと言っていたから、十中八九ハーマイオニーだろう。
「メリッサが好きでやってるんなら止めやしないけど、"本の虫"にならないように気をつけなよ」
「分かってるとも。たまに本の間でカピカピのペラッペラになってるアレな」
「……もうそれでいいよ」
夕食のローストラムを食べ終わると魔理沙が今朝見つけた近道から寮に帰った。これはダフネのメモには無かったものだ。そのことを知った上級生たちは大いに喜んで、この道も来年からはスリザリンの新入りに受け継がれていくことになるだろうと帽子の上から魔理沙の頭を撫でた。
掲示板で明日のあれこれを確認した後、その帽子から借りてきたばかりの本を取り出し暖炉の前の長椅子に座ったのだが……その本が原因でまた上級生に話しかけられてしまう。魔理沙は今しがた開いたところの『グールお化けとのクールな散策』を膝の上に置いてロックハートファンらしいその女子生徒の話を聞くハメになった。ロックハートがどんなに素晴らしい男性かという演説に、魔理沙はロックハートの文章構成の巧みさを相槌代わりに話して暗に「聞き手のことを考えて話せ」と伝えたが、それが意味のある行為だったかは微妙なところだろう。
「ちょっと災難でしたわね」
「まあな。そっちもドラコにしつこくチェスを挑まれて大変だったみたいじゃないか」
女子生徒は自分が満足するまで喋ったら「それじゃお休み。読み終わったら感想聞かせてね」などと言って自室へ引っ込んで行った。ちなみに魔理沙がこの生徒に感想を聞かせることは無かった。それどころか話しかけることすら今後一切無かった。
「あら、気付いてらしたの?」
「視野の広さが売りって自負してるんでね。も一つ言うとアレの戯言を聞きながらも一冊読み終わった」
やれやれと大げさなため息をつく魔理沙の代わりに表紙のロックハートがキザっぽい笑みを投げかけていた。
月 火 水 木 金
グハレス グハレス グハレス グハレス グハレス
1史変史妖 闇史妖史 草草変妖 妖史変史 妖闇草草
3変史闇史 変闇草草 闇妖草草 草草闇変 薬変妖薬
昼休み
5草草 闇 史妖史 薬薬変 史 史闇
7 飛飛 飛 飛 ←九月最終週から
夜 天 天 天 天
時間割こんな感じ(勝手に設定)
『発音も難しいところは無いし』キリッ→『フリペンド』を『プリペンド』と書くミスを犯す私。