ダジャレとかは各自適当なイングリッシュジョークに脳内変換してください。
口調の違いなどは使う単語の古さや文法の堅さの違いだと思ってください。
あと今後魔理沙の名前を知らないはずのキャラが「魔理沙」と言っている間違いを見つけたらできるだけ早くお知らせください。
慣れ親しんだ環境というものは、なんだかんだと不満を言ってもやはり懐かしいものである。引っ越して一週程度の間は新しい環境に興奮していても、二週三週とたてば、恋しいとまでは行かずともふと前の家の玄関が脳裏に浮かぶことだろう。よっぽど劣悪な環境だったならこの例に漏れるかもしれないが、少なくとも魔理沙はそれなりに以前の暮らしを気に入っていた。ならば、遠く我が家の森を懐かしんで深い緑に誘われるのも致し方ない――
「――そういうわけで多めに見てくれないか」
魔理沙は一通り言い訳を並べ、同意を促すように目の前に鎮座するヒゲモジャの大男と目を合わせた。
「ホームシックでどうにもならんかったっちゅーんなら、もうちーとばかし心細そうにしてもええと思うんだが」
しかしハグリットはそれには応じず、探るように見返した。
まるでいつもの散歩コースを歩くような気軽な足取りで森に入ろうとしているところに声をかけたのが数分前。「いや、これにはよんどころない事情が有ってだな……」なんて言い出したから小屋に招いて話を聞いてみたが、失敗だったと後悔した。メリッサの口から出てきた言い訳はどう見ても嘘だし、おまけに初めからここに来ることが目的だったかのような順応っぷりを見せられた。ボアハウンドのファングが番犬らしからぬ人懐っこさなのはいつものことだが、そのよだれを一滴も服に垂らさせることなくあしらう客人は稀だ。
「美味そうなハムだな。何の肉だ?」
そんな大男の懐疑の表情など気にもならないと言う風に、魔法で淡く光らせた杖先でファングを戯らしながら、魔理沙は部屋を見回した。天井に吊るされた雉や兎、干し肉に香草の類、それと使い込まれた焚き火台(正式には暖炉なのだろうが、ただの暖炉と言うにはかなり巨大だった)を見ると、もう火に炙られた肉からあぶらが滴ってジュウッという音を立てる光景を想像せずにはいられない。一気に腹が空いてくる気がする。ベッドも暖かそうだし、他にも年季の入った雑貨類……欲しいものが欲しい時に手元に有る部屋という印象だ。ドラコはバカにしていたが、案外良い生活をしているのかもしれない。「やっぱり住むなら木造の暖色でまとめられた部屋がいいよなぁ」と、魔理沙はスリザリン寮の寒々しさに嘆息した。
「――ともかく、もう勝手に森に入ろうとするんじゃぁないぞ。今回は未遂っちゅーこともあるし、見逃してやるから」
数十分後。ハグリットはいつの間にか始まっていた家具談義を切り上げ、魔理沙を帰らせた。まったく、余計な話をし過ぎた。ああいう手合いは、ウィーズリーの双子もそうだが、友達感覚で規則もなにも"なぁなぁ"にしてくるから困る。そして自分がそういうのに流されやすいから余計に厄介だ。何度教師連中から「ハグリットはすぐ生徒の口車に乗せられる」とお小言を貰ったことだろうか。ともかく、あのメリッサという生徒は、面白いのは面白いが仕事のことを考えると相性が悪い。あまり顔を合わせたくない相手だった。
そんなハグリットの願望とは裏腹に、魔理沙と対面する機会はちょくちょくあった。「罰則の一つに森でハグリットの手伝いをするってのが有るって聞いたんだが」という不穏な問いには「退学チキンレースで上手く行きゃあそんな仕置きもあるかもしれん」とだけ答えた。
そんな九月の終わりごろ。
《飛行訓練は今週木曜日に始まります。スリザリンとグリフィンドールとの合同授業です》
いよいよ飛行訓練の連絡が掲示板に張り付けられた。寮や食堂ではクィディッチや箒の銘柄の話が飛び交い、ドラコの自慢話がリピート再生されていた。同じようにリピート再生されていたのはハーマイオニーの蘊蓄で、クィディッチの本で見た飛行のコツを壊れた蛇口のように垂れ流した。ネビルは拝むように聞き入っていたが、果たして効果が有るかどうか。注意を聞いたうえで、その注意で取り上げもしなかった初歩に躓くのがネビル。スネイプですら「あまりにも突拍子もないミスをするために、出来が悪い生徒だとか腹が立つとかと言うより恐ろしさが前に来る」と愚痴っていた。一度も箒に触れさせなかったというネビルの婆さんの判断は正しいだろうという意見は魔理沙とハリーで共通のものだ。まして上級生が言うには備品の箒はそれぞれに酷いクセがあるという。意地悪とかではなくネビルの安全のために、飛行訓練は見学させておくべきだろう。
また、同じく魔法の箒に乗ったことが無いと言う生徒が、意外なことにスリザリンにも居た。なんと生粋の魔法族で魔法文化にどっぷり浸かって育ったはずのダフネだ(それを言うならネビルもそうなのだが)。
「ネビルみたいに鈍臭いようにゃ見えないけど、なんでまた?」
「お父様が東方から取り寄せた絨毯にすっかり夢中になっていらして。まぁ、優美で肌触りが良くてしかも寝ていても飛べる絨毯の方がずっと優れているというのは私も思っていることですわ。お母さまもはじめは反対なさっていたけれど、すぐに箒の『ほ』の字も言わなくなりましたもの」
「なんてことだ!」
横で聞いていたドラコが嘆いた。
「箒で飛ぶ素晴らしさが分からないなんて! 箒の方が速いし、ターンもスピンも自由自在だ。それに、ヨーロッパの魔法使いはずーっと昔から箒に乗るものだよ。まさかグリーングラス家はイギリス魔法族の誇りを無くしてしまったのかい?」
魔理沙があっと思った時にはダフネの目尻がつり上がっていた。基本温厚だから目立たないが、ダフネも相当家柄にこだわるタチらしい。一月の間ルームメイトとして過ごして分かったことだ。ダフネがマグル生まれにも寛容なのは「わざわざ歯牙にかけるのがバカらしい」と評価しているかららしかった。そんなダフネが「魔法族の誇りを無くした」なんて言われれば、それが逆鱗となる可能性は十分に有るはずだ。
「競技者でもないかぎりそれほど際立った速度も機動性も必要有りませんわ。それに、誇り云々とおっしゃるならば、箒こそマグルをつけ上がらせる魔法隠蔽文化の象徴のようなものではありませんか。魔法使いたちが箒に魔法をかけるようになった理由は、よりにもよってマグルなんかの目を恐れたからですのよ」
「それはいくつかある理由のたった一つさ。絨毯よりハンディーだし、場合によっては巨大な杖を内蔵していたことも有る。……それに、思い出した! イギリスでは空飛ぶ絨毯は法律で禁止されてる!」
ドラコは勝ち誇り、ダフネは一瞬イタズラが見つかった子供のような表情になったが、またすぐに語勢を強く反論した。
「その法が、箒製作会社らの利権を守るためだけの悪法だと言うのです。たしか《絨毯はマグルの製品と定義されるため、使用目的で魔法をかけたり魔法がかけられたものを所持することを禁ずる》でしたかしら。これが向こうの魔法族に周知されれば外交問題にもなりかねませんわよ。そもそも、貴族は法を捩じり潰すものでしょう。貴方もご存知ないワケではありませんよね?」
なんかサラッととんでもない発言が有ったようだが、どっこい魔理沙に魔法界のしきたりは分からない。しかし確実に言えるのは、現にダフネが「空飛ぶ絨毯が違法だ」ということを忘れて口を滑らせる程度には好き勝手やれているらしいということ。ますますもって貴族というのは便利な肩書だ。
「……メリッサ、君も箒好きだったよね。何か言ってやってくれ」
「私はここで空飛ぶ靴を提案してみるぜ」
「靴は左右の性能を合わせるのが難しいからって流行らなかったみたいよ。ちなみに私は箒派ね」
パンジーが通り過ぎざまに言った。どうせならもう少し靴の話題を広げる方の言葉で論点をずらして欲しかったが、次の授業のためにそんな暇も無いらしい。というか、自分たちもその授業……件の飛行訓練に行かなければならない。
「……ああ、まあ、私も箒の方に馴染みが有るが、絨毯も良いもんだろ。それは人それぞれ、もっと言うと意見が対立して口論になるのも結構だが、魔法族の誇りどうこうを持ちだしたのは明らかなミスだと思うぞ、ドラコ」
ドラコは一瞬「僕が謝らなきゃならないのかい?」と不満げな顔をした後、なんとか思い直して頭を下げた。ダフネの方は……「家に文句をつけられたから怒ったんだろうしそれを謝れば良かろう」という魔理沙の予想は半分ハズレで純粋にまだまだ絨毯の優位性を説きたい心情も有ったのだが、理由はどうあれ謝罪されて尚引きずるのは幼稚だとも思い、(結果的に)絨毯と比べて箒をけなすことを止めた。
そんなめんどくさい小競り合いとは反対に。外に出てみると爽やかな青空が広がり、秋の気配を感じさせる風がそよそよと髪を揺らした。ドラコは箒日和だと喜んだ。嘘か本当か、少しくらい風が有る方が空中で複雑な動きをしても方向感覚を失いにくいのだという。
授業で使われる箒は、傾斜のある校舎近くを避けて少し歩いたところの平坦な芝生に並べられていた。なんてことはない、魔理沙にはよくある箒にしか見えなかったが、ドラコは『箒日和』もどこへやら、露骨なため息を吐いた。
「そうだった、ホグワーツの備品は『シューティング・スター』の、しかもおんぼろなんだ」
何がそんなに憎いのか、心からの侮蔑の滲む視線を向ける。
魔理沙も箒に関する本でその名は見たことがあった。元々の性能からして、今売り出されてるどの競技用箒と比べても目劣りすると。しかも製造から時間が経てば最高速度も最高高度も極端に落ちる。10年もすれば19世紀の家庭用箒にも劣るなんて話もある程だ。競技用箒の最高速度が100km/hを超えたのも定点旋回機能を得たのも20世紀になってからだというから、競技用ですらない19世紀の箒と比較されるということがどれほどの悪評かは言うまでもない。そして、とどめにこの箒を作っていた会社は20年も前に倒産しているという。ここに並んでいる箒たちはどうあがいても20年以上前の製品なのだ。
「ご愁傷さまだな」
「誤作動で事故でも起きたらどうするつもりなのでしょうか……」
箒のポンコツ具合は多少知識のある者には一目で分かるようで、あとからやって来たグリフィンドール生たちも顔をしかめていた。もっとも、箒の質が良かろうがスリザリンとの合同授業というだけで顔に皺が寄る生徒も少なくはないが。
そうして最後に、道に迷っていたらしいネビルを連れてマダム・フーチがやってきた。新入生歓迎会で見かけた、白髪金目の魔女だ。
「ボヤボヤしてないで、箒のそばに並びなさい」
マダム・フーチは「さぁ早く」と急かした。元々せっかちなのは顔に出ているが、今はどうやらネビルのせいで授業開始時刻が遅れ気味なのを気にして余計に急いているようだ。
「さぁ、皆さん、それぞれ箒一本手元にありますね。不足はありませんか? では、右手を箒の上に突き出して」
皆の心の準備ができていない内に、マダム・フーチは次々と指示を出した。グリフィンドールの後ろ半分は自分の箒の右側に立っていたために並び直す必要があった。
「箒の上に手を出せましたね? では、『上がれ!』と言いなさい」
バヒュンッと鋭い風切り音がした。驚いて皆が見上げた先には、高速回転しながら上空にすっ飛んでいく一本の箒があった。いつぞやの杖のように魔理沙の箒が逃走したのだ。
「インカーセラス!」
しかし、マダム・フーチが「何をやっているんです!」と大股で近付いてくるころには魔理沙も対策を講じていた。長い杖の先から、これまた長い長いロープが噴水のように飛び出して箒を捉える。しかしこれではただロープごと持っていかれるだけなので、元々使える魔法……魔物理(今名付けた)で箒を抑え込んだ。
「全く、私は『上がれと言うように』としか言っていませんよ?」
「おかしなイタズラを仕掛けたと思ってるんなら勘違いも甚だしいぜ。私も『上がれ』としか言ってないぞ。悪いのはコイツだ」
箒は釣り上げられた大魚よろしく魔理沙の両腕から逃れようと暴れている。
「かしなさい」と、マダム・フーチが取り上げた。すると箒は幾分か大人しくなった。
「ふむ、新しい使い手に対して箒の調子がおかしくなるというのはまま有ることです。少ししたら落ち着くでしょう。が、この後の授業中、どうしてもダメなようなら言いなさい」
そうして最後に「流石に箒の買い替えを校長に本気で進言する時期かもしれませんねぇ」と呟くのが聞こえた。そのせいかは分からないが、魔理沙の手に戻っても箒は意気消沈したかのように静かだった。
魔理沙がアクシデントに見舞われているうちにだいたいの生徒が箒を手に持っていた。何人かは『上がれ』を諦めて自分で拾い上げていたけれども、まぁ、些事だろう。ともかくマダム・フーチは次に箒の跨り方握り方の話を始めた。
箒の重心より少し穂の側に尻を据えた方が良いだとかあまり真っすぐ上から掴むように持つと引き上げ動作や前傾姿勢が取りにくいため避けるようにだとかの指示を一通り済ませ、次にマダム・フーチは生徒の列を縫うように歩き回りながら細かいアドバイスをした。これが相当に時間を喰う。魔理沙がもしかして今日の授業では足が地面に着きっぱなしなのかと心配したほどだ。箒に疎い生徒はやっぱり修正箇所が山盛りだし、逆に箒好きな生徒は妙なクセが有った。
「ウィーズリー、右手と左手が開き過ぎです」
「え、でもトロイはこうやって……」
「彼のように片手だけで20回連続懸垂できるならそれで構いませんよ」
ウィーズリー家が嫌いだと常々言ってゐたドラコはこれ見よがしにクスクス笑った。しかしそれが癇に障ったのはロンだけではなかったらしい。マダム・フーチがすぐ目の前に来た。
「他の人を嗤うのですから当然よくできるのでしょうね、マルフォイ。そう言えば、私が説明しているときもよく聞いていないようでしたが。ま、見せてもらいましょう」
ドラコは自信満々だった。このいけ好かない女教師はなんとかして揚げ足を取ろうとしているんだろうが、この僕が今更箒の持ち方なんかで躓くはずがない、と。
「マルフォイ、利き手は?」
「? ……右ですけど」
「なら今の持ち方ではロールに問題が出ますね。後々スプリットSとインメルマンターンが出来ずに悩むことになるでしょう。手の角度はむしろ今と左右逆の方が良い」
実際ドラコはロールに苦手意識があり、何も言えなかった。今度はロンが大喜びしている。
マダム・フーチはさらにすぐ隣に居た魔理沙に声をかけた。
「ミストウッド、箒は大丈夫ですか?」
「ああ、嘘みたいに静かだぜ。良かった良かった。まったく、股の下で震えられちゃたまったもんじゃないからな」
「そうでしょうね。あと、貴女はもう少し前に座った方が良いですよ」
「おう分かった」
その後もマダム・フーチは次々に生徒たちの姿勢を直していき、結局初めからちゃんとできていたのはハリーただ一人だった。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ。一、二の――」
いつか起こるだろうと思っていたことがやはり起こった。何を思ったか、マダム・フーチの口が笛に触れる前にネビルは天高く飛び上がったのだ。「こら、戻って来なさい!」とマダム・フーチが怒鳴るものの、既にネビルはパニック状態。箒はグラグラと揺れ、本人も手足を滅茶苦茶に振り回し、やがて、投げ出された。
浮遊魔法をかけようと構えた魔理沙の横を、何かが高速で通り抜けた。ハリーがネビルの落下点に突っ込んで行く。地面まであと一メートルも無いかというところでキャッチ。グリンッと一回二回大きくロールし、そのまま滑るように着地した。
「大丈夫ですか!? ポッター、ロングボトム!」
マダム・フーチが杖をしまいながら駆け寄った。ハリーは大丈夫なワケが無いと主張するように「ネビルが!」と叫んだ。ネビルはいつもの子豚のような血色の良さからは想像もできない青白い顔色で、おまけに白目をむいている。
「気絶しているだけのようです。大方、遠心力に耐えられなかったのでしょう」
マダム・フーチは脈を取って言った。
「医務室に行きましょう。ポッター、あなたもです。自分の体重以上のものを受け止めるのは想像以上に負担がかかるものです」
最後に、他の生徒に"大人しく"待機するよう言い残し、ネビルを抱えて校舎の方へ。ハリーはその後ろをついて行った。
その背中を見送って、振り向くとドラコがネビルの顔マネをしていた。魔理沙は思わず噴き出した。
「見たかい? あの大間抜けの顔を。まったく、僕も医務室に行くべきかもしれないよ。あと1月は思い出し笑いで苦しみそうだ」
「そんだけ危険って分かってるならなんで顔マネした」
他のスリザリン生たちも好き勝手にこき下ろし始めた。魔理沙は帽子の端を下げて顔を隠すも笑いは背中に現れて、全く隠しきれていない。
「そういうのはちょっと悪趣味だと思うわ、メリッサ」と、仮にも寮の仲間を(こともあろうかスリザリンに)笑いものにされて不機嫌なグリフィンドール生の群れからパーバティが歩み出た。
「ハリーが助けてなかったら死んじゃってたかもしれないのよ?」
「初箒で落下死したらそれこそ蛙チョコのカードにされそうなもんだけど」
パンジーが即座に言い返した。
「ああ、そう言やあのカードは人死にも容赦なくネタにしてくるな」
魔理沙は《怖がりのフルバート》を思い出して苦笑いした。無論、真面目に取り合っていない様子を見てパーバティの機嫌は一層悪くなる。怒らせた肩から今にもビンタが飛んできそうだ。
「まぁ待てって。あの時、フーチが杖を抜いてたろ。ハリーが出なきゃそっちで対処してただろうさ。私も浮遊魔法をかけるとこだったし。も一つ言うと、グレンジャー、お前も何かしようとしてたろ」
グレンジャーはそっぽを向いて何も言わず、魔理沙は「嫌われたもんだな」と内心ため息をついた。
ちなみに、マダム・フーチもハーマイオニーも、杖は抜いたものの咄嗟のことで判断が追いついておらず、ハリーが飛んでいなければやはり魔理沙が最後の砦だった。またもや半分ハズレである。ハーマイオニーは本当は出来なかったことを評価されてきまりが悪かったのだ。
「……それは分かったけど、でも、同じ寮の仲間が笑われて良い気はしないわ」
「すっかりグリフィンドール寮生だな、パーバティ。それと言っとくが、私はスリザリン生が"ああ"なっても笑うぞ」
「……どうして僕の方を見るんだい?」
「いや、あれだけ大口叩いて大失敗してたら大笑いできたろうなと思って」
「僕は全然笑えないけどね」
結局、マダム・フーチが戻って来たころには授業時間は終わりかけで、ちょっと浮く練習をしただけで一回目の飛行訓練は終わってしまった。しかも魔理沙の箒はパワー切れなのかフラフラと頼りなく……あまり有意義な授業だとは言えないというのが率直な感想だった。
「マダム・ポンフリーは良い人だけど、でもちょっと大げさ過ぎる」
その日の夕食時、グレイビーソースとハーブの香りを掻き消す強烈な湿布薬の臭いをプンプン漂わせながらハリーは愚痴をこぼした。
「まぁ当人は平気な疲労に限って後を引くもんだ。怪我の予防だと思って、湿布くらい我慢しとけって」
「なんでスリザリン生が"こっち"に居るんですかねぇ?」
「おいおい汽車からの仲だろマイブラザー・ロニー。寮が分かれたからってそう睨まなくたっていいじゃないか」
ロンの呟きに、魔理沙は気味が悪いほど爽やかな笑顔で返した。「汽車からの仲ってたった一か月前の二言三言じゃないか」とは言わせない威圧感だ。「それに今日のMVPにちょっと話しかけに来ただけだろ? 我が物顔でどっかり席を占領してメインディシュのフライドチキンを横取りしたワケじゃないんだぜ」と、魔理沙はハリーとロンの椅子を半分ずつ使って座り、皿からスコッチエッグを一つ取りながら続けた。
MVPというのはもちろんハリーのことだ。一年生離れした飛行能力で友人を救ったとしてグリフィンドールに15点も入った。今は静かなものだが、加点とその理由の情報が広まれば、ハリーの元々の話題性も手伝ってちょっとしたお祭り騒ぎになりそうだ。
「ハリー、ハリーは居るかい?」
と、丁度噂を聞きつけた上級生が一人やって来た。
「ああ、ここに居たかハリー。ん? スリザリン生がなんでグリフィンドールの机に?」
「大した理由じゃないから気にすんなって」
「ああ、まあ、そうだな。大したことじゃない。それよりも何よりも、ハリー、素晴らしい飛行技術を持ってるらしいじゃないか」
「ええっと……?」
「ああ、僕はオリバー・ウッド。グリフィンドールクィディッチチームのキーパーでキャプテンだ。それで、聞いたところによると、君は自分より太った生徒が落下するのを、その落下軌道に対して垂直に突っ込んで、且つ高度を下げずロールだけで勢いを殺してキャッチしたらしいね? しかも初めての飛行訓練の授業中に」
握手した手を離さないまま話しまくるオリバーに、ハリーは曖昧な頷きを返した。あの時はどう動くかなんて殆ど意識していなかったから、垂直がどうたらとか高度がなんたらとか言われてもピンと来ない。そう言われればそんなことをしたような気がするというだけだ。
しかし、そんなハリーをよそにオリバーは大興奮している。
「そうかそうか、素晴らしい。瞬発力にバランス感覚、箒のコントロール、瞬間的な筋力、どれもバッチリってワケだ! どのポジションもイケるけど……やっぱりシーカーだな」
「もしかしてハリーをクィディッチチームに入れる腹積もりか?」
「そうだとも! こんな逸材を一年も放っておけない。才能ってものは常に相応のポジションとセットであるべきだ」
「でも一年生はチームに入れない規則なんじゃ……シーカーはウチの兄さんたちのイタズラみたいに隠せやしないでしょ」
「マクゴナガル先生に頼もう。寮監の先生が協力してくだされば、多少の規則は曲がるのさ。いつもはつまらない小事でスリザリンがやってることだが、今回はグリフィンドールが派手にやってやる」
「マクゴナガル先生が規則を曲げるかなあ……」
あの厳格そうな……実際厳格なところを何度も見せた先生が、規則を曲げるとはハリーには到底思えない。「ダメです」という声が今にも聞こえてきそうだ。
「マクゴナガル先生も規則を守る機械じゃない。あれでけっこう融通が利く。特に、クィディッチに関しては相当情熱的なんだ。機嫌のいい時を見計らっていけば、きっと通る。早ければ来週月曜にも練習に呼ぶかもしれないから予定は開けといてくれよ」
そう言ってオリバーは意気揚々と去っていった。ハリーはまだ了承していないのだが、断られるかもしれないなんて全く思っていないらしい。
「で、どうするんだ?」
「どうするもなにも参加するしかないよハリー。こんなチャンス……もしマクゴナガル先生が許したら最年少選手だ」
「うん、僕もそうしようかと思ってる。飛ぶのとは相性良いみたいだし」
魔理沙がシーカーってのは花形であると同時に真っ先にボールをぶつけられるポジションらしいと忠告しておこうかと思った矢先、また別の影が近付いてきた。魔理沙の方に用が有る人物だ。
「メリッサ、なんでこんなところに居るんだい?」
ドラコ……今度は「大した理由じゃないから気にすんな」じゃ済まない相手。しかし、魔理沙がでまかせを練る前にロンが答えた。
「今はハリーと話したいみたいだ。スリザリン生よりね」
余計なことを。
「メリッサ、ハリー・ポッターに興味が有るのは分かるけど、その隣の赤ネズミがいない時に話しかけた方が良いと思うよ。貧乏が移る」
「お金持ちでお優しいパパとママを持った"お坊ちゃま"が言うことは立派ですねー。クッションまみれでたっぷり甘やかされて育ったからさすが上品ですこと。……だからいつも女の子のあとをついて回って、ついでにその後ろを二人のお友達に守っててもらわないと落ち着かないんだ」
「僕は僕一人でも実力があるけど? それは授業の成績で証明済みだ。上から数えた方がだいぶ早い。でも、君はさして成績が良くないようだし……立派にハリー・ポッターの腰巾着やってる。ウィーズリー、ハリー・ポッターが結果を残して、君がその隣に見切れてても、君のことを覚えてる奴なんて一人も居ないぞ」
「そんな、スリザリンみたいな卑怯な気持ちでハリーの友達やってるワケじゃないよ」
「口じゃなんとでも言えるさ」
「なら決闘でもするか?」
つまらんことになったとでも言いたげだった魔理沙の瞳が一転輝いた。
「君みたいな卑怯者じゃあ受けちゃくれないのは分かってるけど」
「当然受けようじゃないか。今夜にだっていい。介添人は……」
ドラコは一瞬魔理沙の方を見たが、何やら思い直したように視線を逸らした。
「そうだな、クラッブだ。そっちは?」
「ハリー、頼むよ」
「えぇ……?」
「ウィーズリー、言っとくけど君が倒れるまで介添人は手出しできないからね? ハリー・ポッターを連れて来てもその助けが受けられるワケじゃない」
「当たり前だ」
「時間は、誰にも見つからない真夜中。トロフィー室にしよう。スリザリンの上級生の話じゃ、その時間、トロフィー室の辺りはフィルチが来ないらしい」
声を落として時間と場所を指定した後、ドラコは魔理沙を連れてスリザリンの席に帰っていった。
ハリーは心底困惑した。何か突然自分をダシに喧嘩されたあげくカイゾエニンとかいう初めて聞く役割に任命された。友達を馬鹿にされて、ドラコに腹が立ってもいるのだが……。
「ロン、カイゾエニンって何?」
少なくともクィディッチチームのシーカーほど素敵な役じゃないのは確かだ。
「僕が死んだら君が代わりに戦うのさ」
予想以上にロクでもなかった。
ダフネのセリフ中の「東方」はヨーロッパから見て東の方、アジアを指している言葉であり、「上海アリス幻樂団」製作の弾幕STGである「東方Project」のことではありません。