はりまり   作:なんなんな

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苗字が変わったので実質初投稿です。恋愛要素は有りません。
そしていつも(数か月前以来)通り、誤字脱字や設定勘違い等が有りましたらご報告ただケルト助かります。


十四話 臭い

 決闘騒動から一週間ほどたった。

 魔理沙の予想した通り、ドラコとロンの仲はひとまず小康を保っていた。四羽立てのフクロウ便がハリーにニンバス2000を届けても、ロンはドラコに見せびらかしたり皮肉を言ったりしなかったし、反対に、ドラコも箒のことでとやかく言うことは無かった。マクゴナガルが大喜びでハリーをクィディッチチーム入りさせ規則を曲げる気でいるのを自分の目で見たから、当然、その新選手が箒を持ったところで文句のつけようが無い(ようになっている)ことは分かっていたのだ。ドラコはまたも苦々しい思いをしたが……しかたない。これに関して何を言ったって「ハリーの箒捌きは素晴らしい」という話に帰結してしまって余計に具合が悪くなるに決まっている。

 週に三回のクィディッチはハリーにとって一番の楽しみである反面、一番の悩みでもあった。(噂されるのにはいい加減慣れたものの)時間も体力も気が付いたら吹っ飛んで行ってしまっているし、授業中も飛ぶことばかり考えてしまう。一年生のクィディッチチーム入りが禁止されていたのは、その辺りの理由もあったのだなと気付いたのは10月も折り返した後だった。

 もっとも、気が付いたら10月も末というのは多かれ少なかれ一年生殆どに言えることだろう。なんせ授業もそろそろと各分野の本題に入って行き、次から次に宿題が出る。生徒たちは授業が終わっても談話室や空き教室に集まってあーでもないこーでもないと話し合いながら課題に取り組んでいた。

 しかしその輪の中に姿を見ない生徒もほんの少しだけ居た。

 一人はグリフィンドールのハーマイオニーだ。「集中してるから話しかけないで」とでも言いたげな雰囲気を振りまきながら凄い速さで課題を消化し、それが終わっても何かしら本に齧りついている。普段からの小言癖や「自分でやらないとためにならない」云々という講釈のせいで、彼女に渋い反応をする生徒はロンだけではなくなっていた。

 そしてもう一人は、やはりと言うべきか、魔理沙。同じく自分の宿題はさっさと終わらせてしまうのだが、こちらはまた別のタイプで話しかけ辛いとは思われていない。しかし活発過ぎて「ああ、メリッサならさっき○○に出かけたよ」という具合に気が付いたらどこかに行ってしまっているのだ。

 そんな彼女が今執心しているのは、箒。しかし世界最速ニンバス2000のハリーと正反対でオンボロ。骨董箒、流れ星だ。しかも学校の備品の廃品。初めての飛行訓練で跨がったダメ箒……あの後結局、もうダメだということで他に先立って用済みになっていたところを(ゴミ捨て場から)譲り受けたのだ。

 校庭の隅のベンチで箒に関する本とにらめっこしながら分解したり組み立て直したり。とりあえず競技用箒の最低ラインくらいに直してみたいと思っている。意外なことに、ハグリッドが材料に適した小枝を持ってきたりと協力してくれた。おかしなイタズラの魔法の開発や機を伺うように立入禁止の森の境界をフラフラすることに精を出されるよりは直る見込みの薄い古道具に夢中でいてくれる方がよっぽど気が楽だからだった。

 

 そんなハグリットの期待を裏切って片手間に 耳毛を伸ばして顎の下で蝶結びにする呪文を開発してしまったころ、ハロウィーンがやってきた。

 蜂蜜や砂糖がたっぷり入ったお菓子の甘ったるい匂いが、朝 地下牢から上がって来たとたんに魔理沙の鼻をくすぐった。「『トリック・オア・トリート』も無しに初めから用意してくれてるとは有り難い」なんて言いながら急ぎ足で大広間に飛び込んだ。しかし並べてあったのは普段と同じ、パンやソーセージの朝食。どうにも食堂の戸のスキマから匂いをまき散らしている大量のお菓子たちは、さんざもったいぶられた後、夕食時に一気に開放されるらしい。

 とはいえお祭りごとは何も学校が主催するだけのものではない。みんな教室移動の間にでも(或いは授業中でも)お菓子のやり取りで盛り上がっている。ドラコには一抱えほどもある高級菓子の詰め合わせが両親から届いた(ので有頂天で自慢していた)し、上級生の何人かは市販の魔法菓子も顔負けの不思議な味がするビスケットやニョロニョロ動くチューイングキャンディーを作って配り歩いた。

 しかしこれが闇の魔術に対する防衛学の授業で悲劇を引き起こす。……まぁ、クィレルとその教室が放つ異臭と菓子の匂いが混じり合ったせいでダフネが体調を崩したというだけの話だが。その間もクラッブとゴイルは悪臭も先生の目も何も気にせずスイートポテトを頬張っていた。

 

「ゔゔ……一生の恥ですわ……」

「嘔吐ってのはなにも一概に下品な事じゃないんだ。古代ローマの貴族たちは日常的に吐いてたんだぞ」

 

 なんとか授業を乗り切ったもののいよいよ切羽詰まった様子になったダフネを連れて、魔理沙はトイレにやってきた。いったん吐いてスッキリしようというワケなのだ。

 

「……っと、メリッサ? ……大変そうね」

 

 しかもいざ入ろうというところで結局他の生徒と出くわしたもんだから、ダフネの顔色は吐き気に恥ずかしさが混ざって余計に恥ずかしい物になってしまった。

 

「ダフネがちょっとな。そう言うパーバティは? なんか浮かない顔だな」

 

 パーバティは眉を下げて少し言いよどんだ。

 

「えーっと、こっちも、同級生がちょっとね。できればここは暫く使わないで欲しいんだけど……」

「すまんがそれは無理みたいだな」

 

 ダフネはいよいよリミットを半歩超えたようで、青紫がかった顔をして口を押えている。目的地にたどり着いて気が抜けたところに"待った"がかかった辛さはそれなりの人に共感してもらえるだろう。そうして、パーバティが次の言葉を継ぐ前にトイレへ駆け込んでいってしまった。

 

「あー、まぁ、お大事にね。それと……」

「先客はそっとしといてあげて……ってか」

 

 言わずとも分かっていたという風な言葉にパーバティは安心したらしく、魔理沙たちが来た道を帰っていった。

 

「ま、そのお願いをきくかどうかは私次第だがな」

 

 魔理沙がトイレの中に入ると、なるほど、ダフネが顔を突っ込んでいる以外にもう一つ使用中の個室があった。中から何か音がするというわけではないが、逆に言うと無理に息を殺している感じがする。「腹でも崩したか? グレンジャー」と、個室の薄い壁の向こうに居るであろう知り合いに声をかけた。

 

「ほっといてよ」

 

 俄かに後悔の念が膨らんだ。いらんものを突っついてしまった。柄にもなく語彙の貧しい返事に、さすがの魔理沙も申し訳なく思ったのだ。せいぜい何かで癇癪を起こして鼻息荒く怒り泣きしているのだろうと思ったら、まさかまさか歳若い女の子らしく声を細く震わせていたのだ。「まぁ、元気出せよ」なんて面白みのかけらもない言葉が自分の口から出た時はこっちが泣きたい気分になった。

 

「どうかしましたの?」

「いや、どうもしてない」

 

 ハーマイオニーのことは気掛かりだが、何せ魔理沙は嫌われている自覚が有った。ここからまた下手に関わると逆効果だろう。それよりダフネの金の巻き髪の端にへばりついたチョコと胃液の混合物を魔法でさり気なく取り除くことが、今自分にできる一番の仕事だ。

 

 ダフネの気分が治ってくると、いよいよディナー。ハロウィン・パーティー。大広間は新入生歓迎の宴以来の美しさ(やかましさ)で魔理沙たち生徒を迎え入れた。

 普段の蝋燭の代わりにジャック・オ・ランタンが何色ともつかない炎で辺りを照らし、数えようと試みるヤツは確実にバカだと言い切れるほどたくさんの蝙蝠が壁や空中にひしめいていた。魔理沙は糞が落ちてこないか気になったが、事実辺りにそれらしい汚れは見当たらなかったので何かしらの方法で防がれているのだろう。

 皆がそれぞれの寮の席につくと同時に金の皿に乗ったご馳走が湧き出た。律儀に夕方まで間食を控えていた生徒はもちろん、ドラコたちもいざ料理を前にすると一気に胃袋にスペースができるのが分かったし、ダフネも吐いた分だけ入れたくなってきた頃合いのようだった。デブ二人は言うまでもない。

 コルカノンを口に運びながら、魔理沙はハーマイオニーがグリフィンドールの席に居ないことに気が付いた。あのプライドの高いグレンジャーがパーティーにまで顔を出さないとはいよいよ何があったか気になるなと思い始めた矢先、クィレルがドターンと倒れ込むような勢いで扉を開けて入って来た。そして、そのまま実際に倒れ込んだ。

 

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」

 

 そうしてそれだけ言ったきり、白目を剥いて静かになってしまった。

 怖がりの小さな女の子と一部の男の子たちが悲鳴を上げた。上級生たちも「なんでトロールが?」「本当に言ってるの?」などと一斉に騒ぎ合い始め、静かにするよう諌める先生たちの声で喧騒は一層大きくなった。

 

「面白い催しだな」

「エイプリルフールとないまぜですわね」

「でもリアリティが無さすぎるよ。学校にトロールが入り混むのはともかく、仮にも教授がその程度で気を失うなんて」

 

 言いながら、ドラコの顔は普段以上に青かった。

 

「いや、クィレルのことだからむしろそれは有り得る点だろ」

「そうだったね。ホント、クビにするべきだよ」

 

 魔理沙たちは寸劇か何かだと受け取って相変わらず食事を楽しんでいた。……しかし、どうやらそうではないらしい。破裂音が鳴り響いた。ダンブルドアが空中に爆竹を炸裂させたのだ。シンと静まった大広間に、重々しい声で指示が為された。

 

「監督生よ、今すぐに生徒を引率して寮へ帰るように」

 

 監督生たちがサッと立ち上がって避難誘導を始めた。レイブンクローやハッフルパフの群衆にぶち当たって、グリフィンドールの監督生のパーシー・ウィーズリーが他寮にまで一際やかましく指図している。対照的にスリザリンは地下牢へつながる小扉から少しづつ抜け出した。

 

「まったく、ホグワーツも地に落ちたものだよ」と、入って半年も経ってないドラコがやはり偉そうに愚痴った。地下牢の細い通路に入って安心したのか、顔色はいつもの薄白色に戻っている。

 

「トロールってすんなり入り込めるものなのか?」

 

 魔理沙は魔法生物図鑑のトロールの頁に連ねられた散々な文句(バカ、のろま、肥満、禿げ、汚い、臭い、卑しさだけは持ち合わせた生命の屑、その他)を思い出しながら呟いた。

 

「さぁ。ホグワーツには怪物事件がいくつか有ったって父上から聞いてるし、何かそういうルートがあるのかもしれないね。……トロールで避難騒ぎが起こるなんて笑い話は聞いたことないけど」

「侮られていますけれど弱いワケではないのでしょう」

「はは、まさか。だってトロールだよ?」

「じゃああなた退治して来てくださるかしら?」

「はは、まさか」

 

 ダフネはため息をついた。魔法族のパーティで見かけたときはもっとクールな男だと思っていたのだが、今ではひょうきんなイメージが先に立つ。

 

「でも少なくともクィレルみたいに情けなく気絶したりはしないよ」

「だと良いのですけれど。……でもメリッサさんなら軽く倒しそうですわね?」

 

 返事は無し。こんなときにまでいつも通りフラっといなくなっていた。

 

 ダフネから報告を受けてスリザリンの監督生が大きく一つため息を吐いた頃、魔理沙は本館の廊下を進んでいた。ツカツカと小さい足音が静かに遠くまで響いている。

 トロールを見てみたいというのが一つ目の理由。というのはまたも魔理沙の知るものと魔法界で知られるものに差が有ったからだ。魔理沙が見たことのあるトロールは禿げでなく全身毛むくじゃらで、且つ強力な再生能力とことさら人に対しての凶暴性を持ち、(だからって負けるとは思わないが)とてもバカの代名詞のように扱える代物ではなかった。果たして魔法族が親しむトロールとはどの程度のものなのか……欲を言えば何かしらの素材が取れればと期待している。

 二つめはハーマイオニーのことだ。ずっとトイレに籠っていたのならトロールのことも知らないだろう。さんざバカにしている魔法族の生物学者たちも、「ただし――」と、大きいトロールの皮膚はその分厚さのせいかある程度の魔法までなら撥いてしまうため注意が必要だと記述している。そもそもこちらの魔法は大抵の大型生物に対して効果が薄いようだ。「分厚い皮膚」や「堅い鱗」のような"守りのイメージ"に弱いのかもしれない。……そんな考察は今は置いておいて。余計なお世話かもしれないが、もし対面してしまったとして、ハーマイオニーの呪文がトロールに効くか心配なのだ。

 

「トロールがどっちに居るか知らないか?」

 

 魔理沙はすぐに聞き込みを始めた。その一番目で成果が有ったのは幸いだ。緑の肩掛けを着けた厳めしい僧侶の絵画は聞き耳を立てるのが得意だった。

 

「寮に戻るんじゃないのかね? お嬢ちゃん」

「急に催してな」

「ふーむ。それでなんでトロールの居場所を?」

 

 魔理沙は悪びれもせず「うっかり出くわさないために決まってるじゃないか」と鼻で笑った。

 

「そうか。ならば、この塔の二階のトイレは使わんことだ。どうやらそっちに行ったらしいとご婦人方が噂しておった」

 

 僧侶はお茶会をする貴婦人の絵画を見やった。いつも何やら楽し気にしゃべくっている絵だが、今は煙たそうな表情を寄せ合ってひそひそとやっている。

 魔理沙は一言礼を残して歩き出した。……二階のトイレの方へ迷い無く。僧侶は呆れて、いっそハハハと大きく笑った。

 

 二階のトイレと言えばダフネが嘔吐しハーマイオニーが泣いていた場所だ。魔理沙は三番目の理由――トロールが現れた原因(もっと踏み込むと"招き入れた"人物)を探るのは取りやめにして、ハーマイオニーのところに直行することにした。しかし残念。その次の角を曲がった瞬間に余計な相手と出くわしてしまった。

 

「なんだ!? ……ミ、ミストウッド君じ、じゃないか。ど、どうしてこんなところに」

 

 大理石の壁の向こうからふいに現れたクィレルは、普段より一層声と視線を震わせている。

 

「ちょっとトイレだ」

「い、今はと、トロールが、が出てるんだよ。き、危険だ。後にしたらど、どうだい」

「あいにく差し迫っててな」

「じゃ、じゃあ、寮のトイレは」

「スリザリンの寮の場所知ってるか? 下手すりゃ一回出してもう一回催すくらいの僻地だぜ」

 

 魔理沙はスリザリン寮の場所が知られていないのをいいことに本日何回目かも分からない適当を言った。

 

「し、しかし……」

「漏らすくらいならトロールに潰された方がマシだってのが乙女の心ってもんなんだよ。……そうだ。気になるんならそこまでついて来てくれりゃあいい」

「いや、トロールを探さなければ……」

「探してどうするんだ? また気絶するのか? ……ってなるとついてきてもらう意味も無いな。じゃ、私は行くぜ」

 

 辛辣なセリフを言うだけ言ってさっさと横をすり抜けて通り過ぎてしまった。クィレルは引き留めようと片手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。今はあのアホな生徒より優先することが有る。

 

 そうしてクィレルと別れて少し後、甲高い、恐怖を絞り出したような悲鳴が石造りの通路に反響した。魔理沙はもはや自重せず筋力強化と魔力ブーストを最大にして、壁にかかった絵画やタペストリーを轟轟と揺らしながら走った。油絵の眠り狼が何事かと目を瞬かせたが、そのころにはもう女子トイレの目の前だった。

 ザラザラした灰色の小山のようなモノ……トロールがトイレの狭い空間を埋めていた。その身長とさほど変わらないくらいに長い長い腕がグワングワンと振り回され、手にした棍棒が太い風切り音を響かせている。途切れたパイプが噴水になっている。切株のような脚が石の床板に亀裂を走らせた。そして相対的に見ると無いに等しい大きさのブサイクな頭にはハリーがしがみついていた。どうやったか(ついでに何故か)は分からないがトロールの鼻に杖を刺し込んでいる。

 

「メリッサ!? なんで――」

 

 向こうの壁に張り付いて硬直しているハーマイオニーの、トロールを挟んで入り口近くにいたロンが一番に魔理沙に気付いた。しかし、その返事をしている暇はない。トロールの前に立つが早いか、ドンッと大きく踵を鳴らした。鈍い水音と共に床が崩れたかと思うや沼が現れ、トロールの短い脚が沈み込む。周囲の瓦礫が浮き上がり暴風雨の如く撃ちつける。しかし、ハリーを避けるために頭の周りを外した攻撃では効果が薄かったか、まだ倒れる気配は無い。手を変えようかと思案している後ろから呪文が飛んだ。

 

「ウィンガーディアム レビオーサ!」

 

 ぬるりと静かに棍棒が浮き上がって、ふらふらと持ち主の頭の上に制止し、……その脳天にまっすぐ落ちた。トロールの有るか無いか分からない首が跳ねて、シジミのように小さな目が有らぬ方向を向く。そして、止めに、魔理沙の魔法によって鼻の杖が根元まで深く刺さった。

 それで終わった。

 ハリーはトロールの肩から沼の外に降りた。初めての戦いを経験して、冷たくなった膝が震えている。同じくどこをみているのか杖を振り上げたままボーっとしているロンに代わり、ハーマイオニーが緊張でおかしくなった顔色のまま喘ぎ喘ぎ言った。

 

「これ……死んだの?」

「完全に死んだ」

 

 四人は動かなくなった巨体を見下ろした。恐ろしく愚かでも脳は脳。致命傷だ。鼻から流れ出るネットリとした血液が、沼の灰色の上に気味の悪い模様を描いているようだった。

 ハリーが血まみれの杖を引き抜くのを決心する前に、バタバタと騒がしい足音を立ててマクゴナガルが入って来た。その次がスネイプ、最後に、そのスネイプに引っ張られるようにして、クィレルだ。片やマクゴナガルの怒りに血が退いた顔を見るや、片やトロールの凄惨な死体を見るや、ハーマイオニーとクィレルはそれぞれ膝を折ってへたり込んだ。

 

「これは一体どういうことなんです?」

 

 魔理沙がめんどくさそうに頭を掻く横で、ロンは何故か銃を向けられたマグルがするような格好になっていた。スネイプはトロールだったものに一瞥をくれた後、説教をマクゴナガルに任せていつものようにハリーに怨嗟の視線を飛ばす仕事を始めた。

 

「今ここに倒れているのはあなたたちの方だったのかもしれないのですよ? 何故寮に戻る列から抜け出したのですか……」

「私はトイレに行こうと思ってな。そのことはクィレル 先 生 にも言ったんだが」

「クィリナス!」

「わ、私は」

 

 突如飛び火した鋭い眼光にクィレルの声がいつもの二割増しで上擦った。

 

「ち、ちゅ、注意しました。どこか、かにトロー、ロールが、が居るからき、危険だと」

「注意するだけならマグルの看板にでもできます」

 

 マクゴナガルがピシャリと切り捨てた。そのまま職も切り落とされると思ったのか、ターバンの形が崩れ色が濃くなるほど一気に汗を噴き出した。

 

「も、もちろん、た、立ちふさがって止め、めました!」

 

 魔理沙は「そうだったか?」と笑った。

 

「でも、漏らすく、くらいならトロールに潰された方がマシ、しなのがお、乙女だと言わ、われて……」

「じゃあハイ殺されなさいと言うのが教授のやることですか」

 

 マクゴナガルは「校長に意見を訊くことになるでしょう」と呟いて魔理沙に向き直った。

 

「それで、そもそも寮まで我慢できなかったのですか」

「寮のトイレは間に合わなそうだったんだよ」

「セブルス」

「異性の侵入は禁止されておりますので女子トイレについては言及しかねますが……まぁ、談話室そのものからして他と比べれば格段に遠いでしょうな。それに、一般的に女性の方が排尿の我慢がきかないとも言う」

 

 胡散臭いものを見る目に、スネイプは片眉を上げた。

 

「……そうですか。しかし、百歩譲って本館で用を足す必要があったとして、一階にもトイレは有りますが」

「新入生なもんで」

 

 ハリーはよくこれだけスラスラと方便が出るものだと呆気に取られてしまった。

 

「……それで、済ませたのですか?」

「トロールを見たら引っ込んだ。もしかしたら無意識に出しちまったのかもしれないけどな」

 

 まったく困ったもんだと尊大な態度で首を振り、ぐちゃぐちゃのびしょ濡れになったトイレ跡地を見回した。マクゴナガルはもう話すのに疲れたという様子で、今度はハリーのほうに目を向けた。

 

「それで、あなた方は?」

「グレンジャーもトイレだよな」

 

 マクゴナガルはあなたに訊いてないとでも言いたいのか、僅かに顔を顰めた。

 

「その……少し長引いていて、トロールのことを知りませんでした」

「なるほど。ミスタ・ポッター、ミスタ・ウィズリーは」

「パーティーのときハーマイオニーが居ないなって……」

「二人は私を助けに来てくれたんです。二人が来てくれてなかったら、もう、今頃は……」

「少なくとも先生方が後から来た頃には絶対に間違いなく手遅れだったろうな」

「それは確かにこちらの落ち度とも言えよう。……しかし、助けるにしても監督生に報告する等、より良い方法が有っただろう」

「慌ててて」

 

 スネイプは不機嫌にフンと鼻を鳴らした。

 

「分かりました。無謀だった点を差し引いて、結果的に大人のトロールを倒して生徒を一人救った働きは評価できます。ミスター・ポッターとミスター・ウィズリーには10点ずつあげましょう。スリザリンは……」

「ミストウッドは20点で良いでしょう。トイレに行くことは、吾輩ならそうはしまいと思いますが、クィレル教授が黙認したこと。そして、戦闘でも恐らくは……この沼など……中心的な役割を担ったのだろう?」

「まぁな」

「なら、皆、怪我が無いならそれぞれ寮に戻りなさい。パーティーの続きを談話室でやっているはずです」

 

「僕らは二人で20点、向こうは一人でおんなじだけだ」

 

 トイレの出口で魔理沙と別れて、グリフィンドールの三人は階段を上る。戦いの興奮が冷めて、ロンはスネイプの贔屓を非難する心の余裕ができてきた。

 

「しかたないよ。メリッサの魔法は凄かった」

「そうだけどさ。棍棒をぶつけたのは僕だ。きっとアレが決め手だったね」

「じゃあそう言えば良かったのに」

 

 取り調べの間中ロンは口を開けて呆けっぱなしだった。

 

「……ともかく、まぁ、なんというか君が無事で良かった」

 

 そのロンが今度は耳を赤くしながら言った。二人の後ろを黙って歩いていたハーマイオニーは少し下を向いた後、「そう思ってくれるくらいなら始めから陰口なんて言わないでほしいわ」と笑った。

 

「やっぱり可愛くないよ。キミ」

 

 

 太った婦人の肖像画を抜けて寮に帰ると、ついさっきのスリルが嘘のように楽しいパーティーが続いていた。鼻にこびりついたトロールの悪臭も素晴らしいごちそうの匂いで掻き消された。三人は料理を囲む生徒たちに一目散に混ざり込んだ。大広間に居なかったハーマイオニーはもちろん、ハリーとロンの身体も大仕事の報酬を求めていたのだ。

 

 ちなみに魔理沙はジェマ含めた監督生六人によるありがたいお説教のおかげでパーティーに参加できなかった。




「でも20点稼いだんだぜ?」
「あらご褒美はもう貰ってるのね。じゃあなおさら私達は説教に専念しなきゃ」
「かなしいぜ...」
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