あとめんどくさい設定なので再三になりますが「メリッサ」は魔理沙の偽名でありそれを知らないキャラのセリフ(やその視点に立った地の分のほとんど)では魔理沙のことをメリッサと呼んでいます。
試合から何週間か経って、冬の間数ヵ月もほとんど空を覆い続けていた重苦しい鉛色の雲が綻ぶことが多くなってきた。それと共にか、なんとハリーたちとドラコたちの交流も増えてきていた。主に(冷たく言えば)これまでコウモリをしていた魔理沙が無理に両者をくっつけているような面が強く、特にドラコとロンは皮肉の言い合いばかりだ。とはいえ今までのように退学の策略を張り巡らせるまで拗らせたりはせず、お互いに距離感がつかめつつあるようにも見える。まぁ、それまでのグループに面白いこと好きな魔理沙とお淑やかで女の子らしいダフネが加わって華やかになるのも、11歳の男の子であるロンにとってなんとなく悪い気はしないことだという面も大きいか。汽車で縁のあったパーバティも魔理沙とドラコがグリフィンドールに近くなるのを喜んで輪に加わることが多かった。
ここで面白くないのはハーマイオニーだ。魔理沙ダフネに加えて跳び抜けた美少女であるパーバティまで近づいて来て劣等感が……なんて可愛らしい理由ではない。決して。
「メリッサはスネイプの側近なのよ? 気付かないの? メリッサが付きまとって来るようになってから、反対にスネイプがちょっかいをかけてくることが少なくなったわ。メリッサはスネイプの代わりに私たちを見張ってるのよ」
「少なくともメリッサには付きまとわれてるって感じはしないけどなぁ。ドラコは鬱陶しいけど」
ロンは呑気な様子だ。スネイプのように突拍子もなく出くわしたということは記憶に無い。今までと同じように話しかけて来て、今までならドラコが話を切って連れていってしまっていたところで、ドラコも話に加わるようになっただけのように思う。
「それに、メリッサがスネイプに素直に従ってるとは思えないよ。この前の、スネイプが実は審判を嫌がってるなんて、本当にスネイプの手下なら言っちゃいけないはずだよ」
「結果的には私たちはそこから推理したけれど、相手がそのつもりで言ったかは分からないわ。混乱させるためのでまかせかもしれないもの」
「そこまで疑ってかかると何もできないよ。メリッサは見た目通り僕たちと向こうとの間に立ってると思う」
実のところ、ハーマイオニーの言うことはほとんど当たっていた。確かに、魔理沙はスネイプの代わりにハリーたちを見張る役目を受けている。……理由は想像とは違うもので。
ところでハリーたちがハーマイオニーの言う事を素直に取り合わないのには、公平な判断以外にもちょっとした理由があった。二人ともハーマイオニーがイライラしているから何にでも文句をつけるんだと思っていた。
最近、ただでさえうるさかった勉強虫がとうとう手が付けられないまでになっていた。テストが近いと言って、図書館でも、寮でも、歩きながらでも視線は教科書に張り付いたままだ。そうでなければ、カレンダーに印をつけて残りの日数を心に刻みつけていた。ハリーが見たところそれは三か月も先だったけれど、ハーマイオニーのこの必死さはどういったことだろう。ハリーとロンも最近は図書室なんかで机に向かう時間が増えた。ハーマイオニーが周りにも先の見えないテスト勉強を強要しだしたので、ポーズだけでも従っておとなしくさせるためだった。
「確かに薬草学の勉強が早急に必要だわなぁ」
そうして土曜日にまでやってくる羽目になった図書館の机。向かいの席の魔理沙が呑気な調子でそう言うと、ハーマイオニーがバッと顔を上げた。スネイプからテスト問題を聞き出して、それがとても程度の高いものなのかもしれない……。ハーマイオニーの形相に、ダフネは思わず眉を寄せた。ドラコはクスクスと、わざと分かるように中途半端に顔を隠しながら笑った。デブ二人は油でギトギトの手を見たマダム・ピンスに門前払いされていた。
「スカルキャップ、時計草、ラベンダーのページには付箋を貼っておけよ」
はて、1年生で習う範囲にそれらを使う重要な魔法薬が何かあっただろうか。はじめは意味するところが分からず動きが止まるハーマイオニー。しかし、流石、ダフネの「素敵。リラックスできるハーブですわね」というヒントをもらってからの反応は速い。皮肉にも取り合わず「大きなお世話よ」と最小限の返事をした。
ロンは口をへの字に曲げた。
「……ハリー、言ってやれ」
「言って聞くならこんなことしてないよ」
ハリーはさして興味の無い本のページを一定間隔でめくる作業を続けながら答えた。ここ最近の騒動で上の空の勉強をつづけながら、ハーマイオニーの"お世話"は避けられそうにないことだけは身にしみて学んだ。
「同情するよ」
「絶対バカにしてるだろ」
ロンはドラコのニヤケ面を睨みつけた。ついでにハーマイオニーも苛立った様子で……正確には、"より一層"苛立った様子でドラコに文句を言った。
「あなたたちはこんなおしゃべりしてていいのかしら?」
「ダメだと思ってるのはグレンジャーくらいだと思うけどなぁ」
「メリッサはともかく、マルフォイにはお引き取り願いたいね」
「そこをなんとか許してくれよ。ほら3クヌートあげるから。これで三日くらい君の家族を養えるだろう?」
「よーし僕も一緒に外に出るよ。白黒つけようぜマルフォイ」
「気合が溢れ出んばかりといったご様子ですけれど、だからって杖の芯まで外にはみ出させなくても良いのでは?」
その一言で、ロンの心はしぼんでしまった。もしダフネが男だったり、ハーマイオニーのように身近な存在だったなら余計に反発して燃え上っていたかもしれない。いつも済ました様子の彼女に、カッと強く言うことは難しい。控えめではあるが恨めしそうにダフネに目を向けるロンの後ろでドラコはわざと顔をそむけ「やれやれ」と勝ち誇った。
「おっと、そんなことよりあれ見てみなよ」
と、ドラコは首をひねったおかげでもっと面白いものを発見したようだ。面白いものならなんでも興味がある魔理沙もその方を見た。
「ハグリッドか」
「あいつ、文字が読めるのか?」
なんと、図書館なんかにハグリッドがいるのだ。分厚い体に負けないような分厚い本に顔をくっつけるようにして読みながら本棚の狭い間に挟まっている。
それまで我関せずという様子で『変身術入門』に目を落としていたハリーが顔を上げた。ハグリッドを馬鹿にした態度が気に入らないからだったが、見てみると確かにその野性的な格好と本棚とのミスマッチはひどい。もじゃもじゃの髪と髭はこの際いいとして、せめて毛皮の上着は脱いで来たらよかったのに。
「書くのはアレだが、読むのは問題ないみたいだな。新聞読んでるのをよく見かけるぜ」
「写真を眺めてるだけじゃないのかい?」
「いや、内容について話したこともある。さすがに読んでるだろう」
「書くのはアレ、ですのね……」
「ところどころ綴りを間違うくらいだよ」
5文字に1文字くらい。
「それにしたって、あの本は分厚いけどね。僕ならごめんだよ。あの本を読まなくちゃならないくらいなら文字が読めなくてもいいよ」
ロンはまた顔に皺を寄せた。魔理沙は「この調子でいくと図書館を出るころには10歳も老けてそうだ」と笑いそうになるのを咳でごまかした。
「みんな立派な大人なら新しい知識を学び続けるものよ。ハリーにロンもちょっとは集中したらどう?」
まったくブレないハーマイオニーの忠告を聞き流し、魔理沙とハリーは目を細めてハグリッドの手元を盗み見た。
「んー、卵……灼熱……飼い方………ドラゴン。ドラゴンの飼い方の本みたいだな」
「ハグリッド、ドラゴンに興味が有るみたいだしそう考えるとあり得ることなのかな……」
詳しくは知らないが、ハリーがハグリッドからこれまで聞いた話ではドラゴンは素晴らしい生き物らしい。いろいろな生き物(それこそ怪物犬も)に興味を持っているハグリッドが目を付ける生き物としては自然なように思った。
「いやぁ、『もしドラゴンが手に入ったら』って妄想の道楽に使うにゃあ、あの本は重いと思うがなぁ。二つの意味で」
「それこそ挿絵を見ているだけではありませんこと?」
「そうじゃないと困るね」
「そう言やドラゴンの飼育は違法だったか」
「うん。ハグリッドが魔法省に引っ張って行かれる姿は見たくないぞ……」
「僕は一度見てみたいけどなぁ」
実際はほとんど関わることも無いむさくるしい大男の進退になんて大きな興味も無いだろうに、マルフォイは心底面白そうにニヤついている。本当にロンをからかうことにかけては期を逃さないヤツだ。
そうこうしているうちにひとしきり読んで満足したのか、ハグリッドは本を戻して図書館を出て行った。
ロンとドラコの言い合いにマダム・ピンスの雷が落ちて、ハリーたちもまとめて図書館から追い出されたのはそれから数十分後のことだった。
「ほんっと、我慢ってものができないの?」
図書室を出ると、すぐ近くにダブル太っちょがどこから調達したのか、ミートパイ片手にドラコたちを待っていた。地下牢の方に去っていく背中に舌を出した後、ロンとハリーにはハーマイオニーのお説教が待っていた。
「でも、ドラコのやつの言うことは君も聞いていただろう?」
「出入り口に溜まるな」と、またもマダム・ピンスにせっつかれ、廊下のちょっと奥まったところに移ってからロンが反論した。
「なんでもからかってくるんだし、もう聞き流した方がいいと思うよ、ロン」
「そうよ。勉強して成績で見返してやればいいの。さすがねハリー。でもあなたも言い返してたわよ」
「それはハグリッドを引き合いに出すから……」
それにハーマイオニーだって魔理沙の冗談にムキになっていたし、うるさく言われる筋合いはないはずだ。というのは心の中に留めておいた。女の子の機微に対してちょっと純粋なところが多いハリーでも、口に出したら何が起こるかくらいは予想がつくようになっている。
しかし、その予測を立てるのはちょっと遅かったかもしれない。宿題の片づけ方から歯の間の食べカスまで、ありとあらゆるお小言が耳に詰め込まれ始めた。ハリーが嵐が過ぎるのを待つ心の準備をしかけたとき、ロンはあきらめずに話題を変えようとした。
「そうだ、ハグリッドだよ」
「何が?」
「ハグリッドは、どうしてあんな分厚い本を読んでたんだろう」
「その問いはテスト範囲にはないわよ」
「どうして、って、ドラゴンに興味があるんだから、ドラゴンの本を読んだっておかしくないと思うよ」
ちょっといつも通り様子のおかしいハーマイオニーに代わってハリーが返事をした。
「ドラゴンに興味を持ったのは最近のことなのかい?」
ロンはこう言いたいんだろう。「ドラゴンを最近手に入れたから、詳しい情報が欲しくて難しい本を読んでいたんだ」と。ハリーは、ハグリッドが禁止されていることをするはずがないと言いたかったが、初めて彼と出会った日に早速ナイショにしなければならないことをしていたのを思い出した。ダンブルドアを貶したダーズリー一家に対して魔法を使ったのだ。
「でも、そんなことを知ってどうするの」
「ハグリッドは良い人だよ。それは間違いない。でも、すごくうっかりしてる」
ハリーたち自身がこれまでハグリッドのうっかりの恩恵を大いに受けてきたものだ。ドラゴンを飼っていたとして、いつまでも隠し通せるだろうか。例えばそれをスネイプが知ればどうなるだろう。
「つまり、今からハグリッドの小屋に行こうってことだな」
ポンと肩が叩かれ、ボンっと心臓が跳ねた。背中を見送ったはずのメリッサがすぐ背後に居た。
「ここ、ちょうど隠し通路の出口なんだよ」