東方超人記   作:銀剣士

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第一話

「……ここは……どうやら三途の川の様じゃが……」

 

ごつごつとした岩や小石で些か歩きにくい筈のその川原、それを一切感じることもなく進んでいくと、視界に桟橋と一艘の小さな舟が目に入る。

 

「ふむ……これは渡しの舟かの?」

 

川面に揺れる小舟、見たところ船頭は居ない、自分で漕いでいけと言うことなのだろうかと思っていれば、かなり遠くから一瞬で女性が姿を現した。

 

「やーゴメンゴメン、ちょっとさbじゃなくて、お昼食いに行ってたもんだから、あたいは小野塚小町、この舟の船頭やってる死神さ、あんたは?」

 

空けていた事を悪びれることもない彼女、小野塚小町に愉快な物を見たように笑いを浮かべ。

 

「風林寺隼人じゃ、短い付き合いじゃろうがよろしくのぅ」

 

「はは、それはあんたの出す渡し賃次第だよ」

 

担いだ大鎌の石突きを地面に突き、手を隼人に向けて差し出す。

 

「ふむ、いつの間にやら財布が懐に……これかね?」

 

「ああ、そいつで良いよ」

 

小町の言葉に隼人はがま口を空けて、小町の差し出した手の上でひっくり返す、すると滝のように一文銭が降り注ぐ。

 

「うわっ!? び、びっくりした……なんて枚数だ……これ程の渡し賃であれば、本当に短い付き合いになっちまうね」

 

「ほっほ、よろしく頼むわい」

 

 

 

 

舟に乗る前は対岸など見も出来なかった筈ではあるが……

 

「ほれ、向こうに立派な建物があるだろう? そこが所謂『地獄の裁判所』がある是非直曲庁さ、そこで爺さんの行き先が決められる、とは言えあれほどの功徳を生前に積んでたあんただ、地獄行きってのは無いんじゃないかね?」

 

気が付けば対岸に在り、舟から降りていた。

 

この頃には声も発せず、手足もない、単なる魂だけの存在となっていた事に、さして驚くこともない。

 

死して川を越えた、ならば現世を模した姿など最早無用だろう、そう納得したものだ。

 

しばらく進めば吸い寄せられるように建物に入り、導かれるままに扉をくぐる。

 

そこでは一人の少女が様々な魂に行き先を示していた、その姿こそ少女であるが、その裁きは早く、しかし的確なのだろう、さして異議もなく順番が訪れた。

 

「風林寺隼人、享年……ふむふむ……」

 

暫し何かを考えて、少女は隼人に問い掛ける。

 

「貴方は既に『さとり』に至っている様です、いわば輪廻のために『死んだ』のではなく、釈迦牟尼仏のように解脱したと言えるでしょう」

 

そこまで言うと一息吐いて、改めて少女は隼人を見て。

 

「神仏として天界へと赴くか、現世に赴き信仰を得るか……如何致しますか?」

 

魂は人の形を取り、少女の前に姿を顕す。

 

それは生前、無敵超人と呼ばれたそのままの姿。

 

「そうじゃなぁ……一先ず閻魔殿の名前を教えて下さらんか?」

 

「これは失礼、私は四季映姫・ヤマザナドゥ、幻想郷界隈を担当する閻魔です」

 

風林寺隼人はふと気になった事を問う、すなわち『幻想郷』とは何かと。

 

映姫の説明は簡潔だった、簡単に言えば外……つまり生前住んでいた世界を追われた幻想の住民、妖怪や神仏、鬼や悪魔など、最早外では会えない者が住まう世界。

 

その中には、外では伝承や伝説として語られる、鬼もいると言う。

 

「有名処であれば、星熊童子と伊吹童子、茨木童子でしょうか」

 

「ほほぅ……有名処じゃな、しかし伊吹童子とは……酒呑童子と名乗ってはおらんのじゃな」

 

「そうですね、いずれもかつて『鬼』であった頃とは姿はすっかり変わってしまっていますので」

 

変わった姿について聞こうとしたところで、映姫から待ったが掛かる、彼女は未だ職務の上、いつまでも話し込む訳にはいかないと言うので、一端小町のところに戻り、幻想郷にある人が住まう里に案内してもらうと良いと告げる。

 

「それは良いが、人里となれば先立つものも要るじゃろ?」

 

金は一銭も持っては居ない、それでは茶も飲めないだろう。

 

「ああ、そうですね……では『博麗神社』に案内させますので、そちらで幻想郷について詳しく教わって下さい、勿論『鬼』に関しても、博麗の巫女であれば答えてくれるでしょう……『武神・風林寺隼人』殿、またいずれお会いできることを」

 

 

 

 

自身の足で川原に向かうと、一艘の舟が既にあった。

 

「や、映姫様から連絡は受けてるよ、博麗神社に行くんだね」

 

「うむ、先立つものが無いのでな、幻想郷の説明がてら世話になれればと、言うのが四季殿の考えじゃ」

 

「成る程ねぇ……しかし折角解脱に至って神にも仏にも転じられるって映姫様が仰ってたじゃないか、人間のままで良いってのは変わってるねぇ」

 

風林寺隼人、本来であれば武の神に転ずる筈だった、だが幻想郷と言う所には人が妖怪が神が……様々な者が暮らしていると聞きもした。

 

ならば神仏になど転じず、人のまま幻想郷を楽しみたい、そう言って人の頃であった肉体を得たのである。

 

「でもどうせなら若い頃の体になれば良かったのに、なんでじい様の体なのさ?」

 

「ほっほっほ、まぁこの体が一番しっくりくるんじゃよ、剣星……わしの友人であれば喜んで若い姿に戻るじゃろうがのぉ」

 

「ふぅん、まぁ今のじい様なら肉体年齢程度なんとでもなるさ、必要とあれば若くなれば良いよ」

 

便利なものだと笑った所で、二度と踏むことはなかった筈の三途の川原に到着、舟を降りたところで小町から一気に神社にいくかと提案があった。

 

「折角じゃしそうさせて貰おうかの、幻想郷の散策は巫女殿に会ってからでも遅くはなかろうて」

 

「そんじゃ、あたいの肩でも腕でも触ってな、一気に行くからさ」

 

言われるままに肩に触れると、景色が流れていき、石段の前に着いた。

 

「ほほう……結構な距離じゃったろうに」

 

「ふふん、あたいの能力『距離を操る程度の能力』は便利なものだろう?」

 

「じゃな、だからこそのサボり癖と言うのは如何かと思うが」

 

小町はその言葉に苦笑を浮かべることしかできずに、誤魔化すことに決めた。

 

「ほ、ほら、この上が博麗神社だよ」

 

「おっとそうじゃな、では行くとしよう」

 

ここまで一瞬とも言える早さで来た二人ではあるが、石段を踏み締める様にゆっくりと登っていく。

 

それはきっと隼人にとって一種の敬意を示すもの、何を奉っているのか解りはしないが、閻魔が此処に行けと言う以上重要な場所なのだろう、ならばこそ新参者が横着するのは石段まで、一歩、また一歩と、これから世話になるであろう神社の鳥居を目指す。

 

 

 

 

「……何か来るわね」

 

「あら、参拝客?」

 

「だったらこんな感じはしないわよ」

 

「んーだったら……」

 

「何よ?」

 

「新しく幻想の仲間になった、何か」

 

「……あんたの仕業じゃなく?」

 

「あら、何も幻想郷に来るのは、私の仕業だけでは無いわよ?」

 

「そうね」

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