東方超人記   作:銀剣士

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第十話

夕焼けに染まる幻想郷、隼人はゆっくり空を泳ぐ。

 

目に映る景色は正に『素晴らしい』に尽きる、日本の『美しさ』が夕陽に映え、改めて幻想郷に来たこと、空を飛べるようになったこと、それらに感謝し、この長閑な日を心に刻む。

 

「いい景色でしょう? 夕刻の幻想郷は儚さも相まってより美しい」

 

「紫殿の愛する幻想郷、その一面ですかな」

 

「ええ、そうですわ、お気に召していただきました?」

 

微笑み、隼人は首肯する。 同時にだからこそ恐ろしくもあると答え、紫の笑みを深くする。

 

「この美しさの根幹に種族としての人間は居ません、だからこその景色」

 

人里や、近くの田畑は確かに人の生活のための物、だがそれ以外に人の手が入っている場所は極めて少なく、或いは皆無と言えるかもしれない。

 

「まぁだからと言って人が嫌いかと問われれば答えは否と申しますが……ではまたいずれ」

 

紫がスキマに消えたのを見て、いざ博麗神社へと向かおうとした時、隼人の耳に少女の悲鳴が届く。

 

目を凝らさずともその光景を見付け、全速で向かえば紫色の代わったデザインの傘を持つ少女が、酔っ払っているであろう男二人に衣服を剥がされる瞬間だった。

 

「……は?」

 

「いかんのう、男二人がいたいけな少女を襲うなど」

 

唐突に目の前に現れた筋骨隆々の老人が獲物の少女を引き離してしまった、酔いに感情を任せた男達は口々に自身等の正当性を主張する。

 

『我等は里の自警団員』

 

『傘の少女は妖怪』

 

『故、退治せねばならない』

 

そこまで言ったところで、男達は意識を一足先に夢に飛ばされてしまった、当然やったのは隼人である。

 

「やれやれ、こりゃあ慧音殿に自警団の現状を聴かねばならんか……」

 

幾ら仕事が欲しいと言えど、もし自警団の者達がこのような者達であるのであれば、入団は……さておき当面の問題は。

 

(さて、この妖怪の娘をどうするか……)

 

それに尽きるか、さてはてどうするかと悩んでいると、紫色の髪の女性が声を掛けてきた。

 

どうやらこの少女の知り合いのようで、少女が危険な目に合いかけていると伝え聞いて飛んできたのだと言う。

 

(はて、そのような者が居ったかな……?)

 

まあ考えても仕方がない、そう切り替えて自己紹介を済ませば、紫色の髪の女性『聖白蓮』が驚きの顔を見せた。

 

「かの高名な『無敵超人』殿に御会い出来るだなんて、何と言う奇遇なのでしょう」

 

「おや、幻想郷は外と隔絶された世界と聞いておりましたが」

 

「実を言えば、完全に隔絶されているわけではないんです……と、いつまでもこんな所で話し込むのもあれですね、また機会がございましたら命蓮寺までお越し下さい、何時でも歓迎いたしますので」

 

傘の少女、多々良小傘も、命蓮寺の墓場を根城にしていると言うので、来たときに会いに来てほしいとねだられては、断ることも出来ないのは、人情か。

 

 

 

 

白蓮に倒した男達の介抱を頼み、博麗神社に戻った頃には、黄昏も既に闇に呑まれてしまった。

 

「今戻りましたぞ」

 

玄関には既に錠か閂、つっかえ棒でもしてあるのだろう、僅かに動きはするが開かなかった、戸を叩き呼び掛けるも反応もない。

 

気配はする、恐らく眠っているか、所用でもこなしているのだろう、やむなく隼人は縁側へと向かい、そこから入ることにしたものの、縁側から見えるその部屋には、魔理沙と萃香が眠っているだけだった。

 

「はて、霊夢殿は……」

 

「……お帰りなさい」

 

声に振り向けば、何故か疲れきった霊夢が甕を持ってそこに居た。

 

「一体何が?」

 

「大したことじゃありません、そこで寝こけてる酔っぱらいが暴れるもので、諌めるのに手間取っただけです」

 

「ではその甕は……?」

 

霊夢は大袈裟とも云えるほどに大きく溜め息を吐いて。

 

「馬鹿二人が漬け込んでいた梅干しの甕駄目にしてくれたので……ああ、五年物の梅干し……」

 

「それはなんとも、しかし……酒に酔って暴れると言うのは、些か信じられませぬな」

 

何しろ一人は『酒呑童子』である伊吹萃香 なのだ、酒に酔っても酒に呑まれる事があるのだろうか、そんな疑問は霊夢によって晴らされる。

 

「萃香が酔って暴れるなんて、余程嬉しいことがあった時くらいですね」

 

例えば、血沸き肉踊るような闘いが出来そうな人間がすぐ側に居るとか……と、穏やかに眠る萃香に溢す。

 

「では魔理沙ちゃんは何故?」

 

これも答えは簡単だった、久方ぶりに楽しい喧嘩が出来そうな相手の出現に加え、里でかなりの上物の酒が樽で手に入ったと言うのもあって、萃香が神社で飲んでいると魔理沙も相伴に預り、わんやわんやと盛り上がって、芸だなんだと暴れだし、萃香と共に霊夢にしばき倒される事となったそうだ。

 

「何と言うか平和じゃのぉ」

 

「ったく……片付ける身にもなってほしいですよ……あ、お夕飯はまだですよね、すぐ用意しますから」

 

「おお、かたじけない」

 

 

 

 

用意された夕食を有り難く頂戴し、隼人は今日の出来事について霊夢に話をしていた。

 

里や竹林での事、紅魔館での事。

 

「小傘……ああ、あの驚けない驚かし妖怪」

 

そして、帰り際の出来事も。

 

「身も蓋もないのぅ」

 

実際彼女の驚かしに驚けるのは、彼女を知らない子供位だろうと、霊夢は笑う。

 

「でも、驚かないと彼女は飢えてしまうんで、里では時折肝試しをしてるそうですよ」

 

勿論小傘にはそれが小傘の為だとは教えていないと、慧音から聞いているそうだ。

 

「彼女にとっては正にご馳走と言ったところか」

 

「そうなる筈なんですけどね、彼女はほら、見た目がもう驚かすのに向いてないと言うか……」

 

言われずともである、もう少し妖怪然とした見た目(傘を除く)であれば、驚きもあろうが……

 

「それに、性格も穏やかで、どうにも妖怪らしくないみたいですわ」

 

そう、このスキマ妖怪のように、意図せぬ現れ方でもすれば、見た目云々でなく驚けるのにと、霊夢はぼやく。

 

中空にスキマを使って逆さにぶら下がる紫も、小傘に関しては多少困っているのかもしれない。

 

「ふぅむ……少しばかり、人の驚かせ方を教えてみても良いかもしれんのぅ」

 

「それは命蓮寺の方達にお任せしておきます……が、改善の見込みが無さそうであれば、お願いに上がらせていただきますわ、それよりも……隼人殿には改めてお願いしたいことがあるのですが……」

 

「里の自警団の事ですかな?」

 

「ええ、そうです、どうも最近自警団を名乗って悪事を働く者が増えているそうで、自警団に入団と言う形で潜入、事の解決に当たって頂きたいのです」

 

人間同士の事件であれば、それは『巫女』の出る幕ではない、そう紫は呟いた。

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