夜、隼人は始めての見回りという事で、妹紅と里を回ることとなった。
「始めての見回りが夜回りなんて、隼人君もついてるね」
「まぁ構わんが、しかし夜回りに割く人員少なくないかのう?」
狭くはない人里の夜回り組は精々四人五組、これで十分な見回りが出来るのかと思うが、そこは妹紅がスキマが見てるからと笑う。
本当に危険な者が居れば紫が対処するだろうから、基本的にはこれで良いのだそうだ。
「でもあのスキマ、妖怪に関しては『幻想郷そのもの』に大きな影響を及ぼすような事件と言うか異変を起こさなきゃ放置してるから……」
そう言う点に於いては、里の見回り自体は必要なのだと口にする。
(観てはいる……か、ならば宿舎に人が増えている理由も知り得そうなんじゃがな)
恐らくではあるが、試されでもしているのだろうと思いはするも、それならそれでも良いかと、隼人は妹紅との見回りを再開した。
影にとって、それは唐突に舞い込んだ好機だった。
もう少し準備に手間がかかると思っていたが……狙いの餌は現れたのだ、始めて見る年寄りが邪魔ではあるが問題はないだろうと見る。
匂いで解るがあれは只の人、妖怪である自分に敵いはせまい。
如何に蓬莱人であれ、影からの不意打ちは防げはしないだろう。
年寄りを始末して後妹紅の血肉を頂く、そして馴染んだ頃合いに本命である上白沢慧音を食すのだ。
では、前菜を頂こう。
その殺気は隼人の影から這い出してきた。
「儂か、妹紅か、何れにせよ……甘いわい」
「ぎびぇっ」
中空に弾き出された影からの妖怪は、妹紅の炎の追撃を受けて灰塵と化した。
「……良かったのかね?」
「ああいうのは始末するに限るのよ」
いと哀れと思えば、妹紅はああいう手合いは里にとって害にしかならないと言う。
「ほら、見回り再開するよ」
「……そうじゃな」
妹紅は割と派手に炎を上げたが騒ぎにならない辺り、里の住人にとっては慣れたものなのかもしれないと、一先ず合点をいかせておく事にした隼人であった。
「ふぅん……」
「紫様?」
何時ものようにスキマを開き、その先を眺める紫から漏れるのは、果たして感心か呆れか。
愛する式である藍の声が耳に届いたか、紫は何でもないと告げて、スキマを閉じる。
「さ、今日はもう寝ましょうか」
「おや、珍しいですね、まだ夜は長いですよ?」
「そんな日もあって良いでしょう?」
柔らかな笑みに、藍はそれ以上何を言わずに、お休みなさいませと告げるに止まった。
隼人が自警団に入って一週間、始めての夜回り以降妖怪に襲われる事は無いが、人の起こす色々な事件に何故か遭遇しては解決していった隼人。
問題を起こす側に共通していたのは、自警団に提供されている長屋の住人、つまりは隼人と同じく外来の人間だった。
「困ったもんじゃな」
「真面目にやってる団員の評判は変わらないけど、団そのものの評判はやっぱり落ちているようだしな」
「うむ、一度落ちた評判は盛り返すに苦労するしの」
「団長も頭抱えてるよ、外来人の保護と思ってやった事が裏目に出てるんだから」
団員はそう溢すが、保護された外来人とは恐らく紫によって『餌』として連れてこられた者達だろうと当たりは付く。
流石にそれを口にしはしないではおくが、今話をしている団員も幻想郷の里の者、その辺りは把握はしているだろう。
保護を謳い『餌』を里に入れる事は、恐らく紫にとっては意に反するだろう、自警団に厳罰でもあるのだろうかと思えど、紫自身はそれに関して口は出していない。
いや、出そうかとしたところで、隼人と出会ったと言うべきか。
機を逸した紫の取った行動は静観。
人の事は『人を超えた人』に任せてしまおう、それが紫の答え。
決して面倒臭いとか面倒臭いとかではないと、藍に語りはしたが、結局のところは面倒臭いのだろう。
陽も暮れて、隼人の今日の勤務は終わる、後は博麗神社に帰るだけと言ったところで、職場の仲間に飲みに誘われ、どうしたものかと悩んでいると、そこに霊夢が現れた。
「良いんじゃないですか? 取り敢えず正面は閉めておきますから、裏から入って貰えれば良いですよ」
いともあっさりと許可を得られたもので、ならばと同僚は霊夢も誘うが、流石にそれは断り、霊夢は買い物籠を手に帰っていった。
「くー巫女様と御近づきになれるかと思ったのにぃ」
「ほっほ、残念じゃったな」
「良いよなぁじい様は、巫女様と屋根を同じくしてるんだろ、羨ましいぜ……」
項垂れる同僚に、隼人は『年寄りじゃからなぁ』と答えて笑う。
そう、未だに隼人が博麗神社に留まって居られる理由にはその見た目と、隼人自身に女性への性的欲求が無い事に大きく因っている。
若い頃の姿であれば、今頃は長屋か根無し草だったであろうと、笑ったことがあった。
「とは言え、そろそろ居を移す頃合いかもしれんのぅ」
仕事も安定してきた、住まう家も自警団員から伝を貰った。
付き合いから戻り、それを霊夢に伝えると、少し寂しそうに『わかりました』と答えるに留まり、席を立つ。
直ぐに戻ってきた霊夢の手には、束になった札。
「これを」
「これは……よろしいのかな?」
「ええ、今日までお世話になりましたし、せめて出来る餞別ですから」
世話になったと言うのであれば、それこそ隼人の台詞であろうも、さして霊夢は気にせず言葉を続ける。
その札は一枚あれば弱い妖怪は寄れず、陣を敷けば力ある妖怪さえ突破は難しいという。
「尤も、私には意味無いものですが」
自慢気に、逆さまに顔を見せた紫はそう微笑んだ。
「そりゃあんたに効くんなら私がそうするわ」
「おお、隼人出てっちゃうのかい?」
霧が萃まり、寂しそうに、けれど期待に満ちた声の主が現れる。
「うむ、そろそろ里でも暮らせる程度には稼げるようになったのでな」
「そーかーうんうん、そうかぁそうかぁ……と言うことはだ、いよいよ以てがちで闘れる日が……!」
キラキラの笑顔でそう言った萃香に、紫は呆れながらも準備はすると微笑んだ。