東方超人記   作:銀剣士

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第十八話

「ここは旧地獄、所謂地底だね、紫はここの奥に結界を張ったって言うんだけど……」

 

萃香の案内で、隼人は地底を歩いていた、目的地は勿論、萃香と闘う為に用意された結界。

 

博麗神社から居を移して一月過ぎたある日、紫が隼人を訪ねてきた。

 

『鬼の住処、その奥地、そこに隼人さんと萃香の闘技結界を敷きました、向かうのであれば萃香に案内させてくださいな』

 

そう告げて後、夕飯を共にしてから紫は去った。

 

その明くる日、つまりは今日、萃香は朝靄も煙るより早く隼人の住まいに訪れ、一秒も惜しいとばかりに連れ立って地底に潜り、今に至るのだが、そこで問題が起こる。

 

地底の奥に敷かれた結界、その場所が解らないのだ。

 

「奥ったってこの旧地獄もかなり広いからねーどうしたものかなぁ……と言うかだ、私に案内させるんなら場所くらい教えといて欲しかったね」

 

二人は今、地底の奥、地霊殿と呼ばれる建物よりも更に深く、鬼さえ住まないその場で佇む。

 

「紫殿にきちんと聞いてくるべきじゃったなぁ」

 

「……仕方ない、無闇に奥地を歩いても手掛かりが無いんじゃ疲れるだけだし、この辺りから先に『私』は居ないんだよねぇ……ちと疎めて調べてみるよ、それまでは途中にあった鬼の里でのんびりしようか」

 

 

 

鬼の里は、俄に喧騒に包まれていた。

 

理由は勿論、かの伊吹萃香が年寄りとは言え人間の男に肩車をされているのだ、驚くなと言うのが無理だろう。

 

(しかし何故肩車?)

 

その疑問も、萃香の楽しそうな笑顔を見れば、口にするものは居ない。

 

「あんた……ついに心身共に子供になったかい?」

 

いや、一人居た。

 

額から天を突く一本の角に星の印が映える女性、見る者が見れば体操服にも似た服を着たその者。

 

「おや、勇儀じゃないか、旧都に居るものばかりだと思ってたよ」

 

「ん、いやねさとりから依頼されてさ、ちっとばかり調べものさ」

 

「こんなところに?」

 

しかし勇儀はそれに首を横に振って否定、頼まれたのは数日前に奥地に現れた、清浄な空間についてだと言う。

 

「ああ、それかもしれない」

 

「何がだい?」

 

その空間は恐らく紫が用意した結界だろうと伝えると、当然用途も聞いてくる。

 

その回答を得た勇儀の眼も萃香と同じく、輝きを増す。

 

期待に満ちたその瞳、やはり彼女も『鬼』なのだ。

 

「ちと先約が萃香以外にも居ってな、申し訳ないがその者の後で良いかね?」

 

「ほーう、萃香以外にも……となると……」

 

「太陽の畑の主じゃよ」

 

「へぇ……やっぱり目は付けてたんだね、アイツは鬼では無いけれど、強き人には餓えてるはずさ」

 

弾幕ごっこ、近接弾幕戦は意外な強者に会えもするがどこか物足りない、そう感じる者は少なくは無いのだろう。

 

「ま、それはそれとして、私と闘うのが先だねぇ……でさ、地霊殿の主はこの奥に確かに清浄な空間がある場所って当たりはつけてんの?」

 

「ああ、さとりが言うには『境地』にあるってさ」

 

「……奥も奥じゃないさ……」

 

『境地』旧地獄の最奥、現地獄の最下層との境界と言われる場所だと萃香は言う。

 

場所が場所なだけに清浄であるはずもなく、恐らくそこが紫の用意した結界であろうと想像は出来る。

 

「と言うかだ、めちゃくちゃ遠いよね、そこ」

 

「ああ、だからアタシもこの里で準備してたんだよね」

 

「荷物は宿?」

 

「流石に持ってうろうろ出来ないさ、アンタたちも行くんだ、ここでそれなりに仕度済ませておきなよ」

 

飛んでいくのは難しい上に遠いと勇儀の言葉。

 

それを受け、先ずは風呂敷を求める隼人と萃香だった。

 

 

 

 

「ここは……また凄いところじゃなぁ……」

 

旧と言えど地獄は地獄、その最下層だった無間地獄跡、その広さは役目を終え、かつての見る影もないが『広い』という意味では変わらないだろう。

 

「現地獄の最下層はここより遥かに広いんだよねぇ……」

 

「萃香、あんた疎ませてるんならそろそろ見つけられないかい?」

 

「ああ、ようやっと見つけた、ここのほぼ中心にあるよ」

 

だだっ広い空間のほぼ中心、ここからは疎ませた自身を萃め、その場所に向かって歩き出す。

 

「勇儀、あんたはどうする?」

 

「見ていきたいって気はあるんだけど、ああ残念だ、仕事でなければね」

 

「報告したらまたここまで来ればいいじゃんか」

 

しかし勇儀は心底残念そうに『報告の後はスキマに頼まれ事』とため息をこぼす。

 

紫からの頼まれ事自体希有であり、ましてやこのタイミングである、何か狙いでもあるのかと勘繰る萃香と勇儀。

 

とは言えこうしていても仕事は片付かないと言うことで、勇儀はその場を後にした。

 

 

 

中央付近には確かに結界が敷かれていて、隼人と萃香を迎えるように、一部が開かれる。

 

「さて隼人、あの中に入れば今日までの弾幕ごっこじゃない、本気の鬼との闘いだ、準備は良いよね?」

 

「うむ、誰にも咎められぬ闘いじゃ、純粋に楽しまさせて貰おうかね」

 

「ははっ良いねぇそうだよ、誰も咎めず止められない、隼人」

 

二人は結界の中心で構え合う。

 

「萃香」

 

互いに呼び合い。

 

『行くぞ』

 

 

 

それは、七夜続いた。

 

向かい合うは鬼と人。

 

その姿に幼さは無く、その技に衰えは無い。

 

その姿に老いは無く、その力に衰えは無い。

 

溢れる笑みに、種族は無く。

 

溢れる闘気に、種族は無い。

 

あるのは誇り。

 

己の全てを込めた力と技。

 

二人は七夜、殴り合った。

 

 

 

 

「で、数日前私に捜索依頼が来たんです」

 

さあ今日も張り切ってと準備していると、霊夢と魔理沙が結界を訪れた。

 

「む、そんなものが出るほど留守にしていたかね」

 

「あちゃあ……隼人との喧嘩が愉しすぎて日なんて忘れてたよ」

 

妖艶な美女の姿……かつて酒呑童子を名乗っていた頃の姿から、幻想郷で慣れた少女の姿に戻ったのも、思えば確かに久しぶりのような気もする。

 

「……ほんと、楽しかったのね」

 

「いくら楽しくても私はごめん被りたいぜ」

 

「ほっほっほ、さて萃香、楽しかったかね?」

 

「勿論楽しかったよ、鬼としてこんなに楽しかったのなんて、初めてさ」

 

その笑みはきっと、産まれたばかりの幼児の様に無垢だった。

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