「いや、まさかこれ程とは思いませんでしたな」
慧音から渡された手拭いでかいた汗を拭き取りながら、隼人は先程の手合わせの感想を率直に述べる。
身体能力だけで言えば確かに孫娘程度、しかし技の練度や動の気を暴走させたまま戦う等といった辺りは、本当に驚いた。
「伊達に千年以上闘いに身を投じちゃいないよ、と言っても驚いたのは私も同じ、まさか人間の寿命、高々百年に満たない命で、よくまぁそんな領域にいったものね」
「ほっほっほ、一度は修羅の、孤高の果てを見てきましたのでな、そういう意味では人生を二回経験している様なものじゃ」
妹紅はこの言葉に驚きを禁じ得ない、孤高の道とは一つ間違えれば修羅の道、彼は孤高の道の果てを見てかつ正道を歩み、この領域に着いたのだ、果たして永遠を生きる自分にも出来ることだろうかと、妹紅は思う。
「おおそうじゃ、妹紅殿」
「妹紅で良いよ、私も隼人君と呼ぶから」
「そうかね、では妹紅や、お主動の気を解放する術を身に付けてみぬか?」
拳から感じたのは、死への憧れ、生への執着、それらが妹紅の拳から確かに伝わってきた、だがそれらは命を冒涜するようなものではない、ならばこそ、体に負担の大きい今の闘い方を代えて欲しいと願っての申し出。
「動の気の暴走……解放?」
しかし、肝心の当人はいまいちピンと来ていないようで、慧音に顔を向けるが、その慧音も首を傾げてしまう。
「妹紅、お主もしかして……我流かね?」
「流派とかそんなのはない……と言うか、誰かに師事したって事もないわ、ずっと一人で妖怪退治して暮らしてたし、喧嘩相手も一人だしね」
「成る程のぉ……しかし、じゃからこそ惜しい、気の解放を覚えればお主の練度であれば気の掌握に至るのは時間の問題じゃて」
だが妹紅の答えは否だった、修業が嫌という訳ではない、でもそれでは好敵手であるお姫様と差が開くのではないか、そうなれば、自分は……と、首を横に振る。
この答えに反論したのは慧音。
彼女が好敵手であると言うのであれば、尚の事強くなる方がいいと、語気を強めて語る。
「でも……それだと輝夜は……」
「……では、一度そのお姫様とやらに会わせてもらえぬか?」
妹紅はその言葉に首を傾げて何故と問い返す。
「そうじゃなぁ……お主の好敵手に興味がある、と言うのはどうかね」
「はぁ? いや、まあ良いけどさ」
「では決まりじゃな、自警団の入団審査を受ける前に行っておきたい場所は他にもあるのでな、向こうの都合が良いのであれば今からでも行きたいのじゃが……」
妹紅は少し悩み、それならまずは腹ごしらえでもと、慧音に昼食をたかるのだが、彼女が居合わせたのはそもそも慧音とお昼を食べるつもりだったからだと、妹紅は笑いながら言い、慧音はこれに呆れることもなく、直ぐに用意しようと告げて、屋内へと戻っていった。
「では、魔理沙か萃香に会ったら言付けておきますよ」
妹紅の案内で彼女が好敵手と認める『お姫様』に会いに行く為、隼人は魔理沙と萃香への言付けとして『迷いの竹林』に行くと慧音に伝えるよう願い、玄関先で見送られる。
「ではお願いしましたぞ」
「じゃ、また来るよ慧音」
それぞれ挨拶を交わし、慧音の寺子屋を後にしてからふと妹紅は問いかける。
「そう言えば隼人君は空飛べないんだっけ?」
「うむ、目的の場所までは基本的に歩きじゃな、背負っていってもよいぞ?」
それは楽が出来そうだと、からかい半分で言ったが運のつきと言うか、妹紅はあっという間に背負われてしまった。
「ぅえええっ!? な、なにしてんの隼人君!?」
「何と言われても背負うとるとしか言えんのじゃが」
「そ、そりゃ解るけど……!」
そうじゃなくと言おうとしたが、言葉が続かない、背負われた、と言うのは果たしてどのくらいの昔の記憶を辿れば良いのだろうか、そう思ってしまっては、最早言葉は出なかった。
ただ……この大きく、逞しい背に負われている温かさが、懐かしくて……
「じゃあ……このまま、迷いの竹林まで、お願い」
「うむ」
里を妹紅を背負って歩く、妹紅が里での知名度が高いのもあるだろう、しかし、身長が約六尺六寸もあろうかと言う筋骨隆々な翁に背負われているという光景が故か、かなり視線を集めてしまう。
(こ、これは恥ずかしい……下手に知ってる奴に見られなきゃ良いけど……)
そんな妹紅の願いを嘲笑うかのように見ていたのは、偶々花屋に生花を卸しに来た、日傘をさした女性。
(……へぇ……あんな人間が居たのね……)
それと、調味料を求めて里に来たメイド服を纏った女性。
(あら、彼女は……これは珍しい物を見ましたね)
さらにはブレザーを着たウサギの耳の女性。
(妹紅さん……を背負ってるあの御隠居は一体……?)
余談ではあるが、この日から暫くの間、おんぶをせがむ子供が増えたのだそうな。
「あ、この辺で良いよ」
里を出て、道すがらに進むこと暫し、竹林を沿う道に差し掛かった辺りで、妹紅は背中から降りる。
「迷いの竹林は名に恥じなくてね、道が見える場所までは何処から踏み入れても平気だけど、奥に行くとなると、入る場所をある程度選ばないと一巻の終りね」
ある程度とは、ズバリを言えば妹紅の建てた看板がある場所か、待機所兼妹紅の住居が少し奥に見える……
「ここから、よ」
因みに看板には妹紅の髪が仕込まれていて、看板に触れればその熱を妹紅が感知、迎えに来てくれると言う。
「そうそう、私はここで生計を立ててるの、この仕事……つまり、案内人よ」
「案内人?」
「ええ、案内人……着いてきて、案内するわ『永遠亭』に」