東方超人記   作:銀剣士

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第六話

竹は高く育ち、枝葉を縦横に広げ、それは隣の竹と重なりあい、天を覆う蓋となっている。

 

「まあこのくらいの竹林なら外にもあるよね、でもこの竹林は他にも色々特殊でさ、まずこの霧が視覚を騙す、次にこの地面の僅かな傾斜が、方向感覚に微妙な狂いを生む、何よりもこの竹の成長速度ね、朝顔を見せた筍が明日にはもう竹になってるって位には早い」

 

「つまり、目印など意味がないと言うことじゃな」

 

「そういうこと、それと……」

 

言葉を切って、妹紅は周囲を警戒して舌打ちを一つ。

 

「囲まれておるな」

 

「流石隼人君、すぐ散らしてあげるから見てて」

 

一歩下げようとする妹紅の肩を軽く叩き、人差し指を自信に向け。

 

「ここは儂に任せてみんかね、物の化相手にどの程度やれるのか知っておきたいのでな」

 

白い歯を見せる笑みを浮かべる隼人に、些か諦めを覚え、仕方無いと隼人の後方に下がる。

 

「……わかった、でも危険だと感じたら手を出すからね?」

 

「それは致し方無かろうな」

 

身構える事もなく、隼人は周囲に気を巡らせる。

 

それは気当たりの応用で成され、囲む者達の本能に訴える、即ち『あれに手を出すな』と。

 

それでも向かって来ようとする者に、隼人は違和感を覚えた。

 

「妹紅、妖怪は動物の変化だけではないのじゃろう?」

 

「うん、希にだけど、人が禁忌を犯して妖怪に変化してしまう事例はあるよ」

 

「その禁忌とは、幼児を殺める事も含まれておるかな?」

 

その台詞と共に、スキマが開く。

 

「含まれておりますわ、そして、そこに居る『それ』が殺めたのは、母体……何処に消えたかと捜していたのですが……よくぞ見付けてくださいました、後の始末は私にお任せくださいな」

 

「妖怪に変化した『人間』の逝く果ては?」

 

「ふふ……それは、秘密に御座います、では失礼致しました」

 

妖しく笑んだ紫が人差し指を口元で立てるとスキマが二つ開き、妖怪と紫が揃って姿を消した。

 

「……そう言えば隼人君が来る前に、里で御触れが出ていたよ、母子を殺めたお尋ね者っ……てね、懸賞金は十円、懸けたのは八雲紫……」

 

妹紅の言葉に、隼人は先程の紫の笑みを思い出す、あの笑みの奥に果たしてどれ程の憎悪を秘めていたのか。

 

「さ、気を取り直して永遠亭に行こうか」

 

「……そうじゃな、では引き続き案内頼むぞい」

 

 

 

 

先程の一件以降、二人を襲おうとする妖怪は居なくなったお陰か、妹紅の案内で順調に進み、やがて密集していた竹が開けてきた。

 

「ちょっと待って、落とし穴だ」

 

普段との僅かな差異、ここは案内の利用頻度は低いが使わないわけではない、逆に永遠亭関係者(主にウサギ耳のブレザー少女)が利用する頻度が高いこの『道』に仕掛けられた罠。

 

「ありゃ、鈴仙じゃ無かったか」

 

その場に現れたのはウサギ耳の、桃色の服が似合う少女だった。

 

「あんたまたこんな所に……」

 

「あはは、埋めとくから文句言わない言わない、で妹紅そのお爺さんは?」

 

「ほっほ、儂は風林寺隼人、つい昨日幻想郷に来たところじゃよ」

 

「ふぅん、私は因幡てゐ、この竹林に住む兎達のリーダーさ、ところで妹紅、外の人間ならここじゃなく紅白の巫女の所に連れていきなよ、ここからじゃ帰れないんだからさ」

 

さして興味はないのだろう、そっけないその言葉に妹紅は違うと返し、隼人はそれに加えるように人里に住む予定だと説明した。

 

「へぇ、じゃあなんで尚更ここなのさ、人里に住むなら住むでここには用はない筈じゃない」

 

「なに、妹紅の好敵手である『お姫様』とやらが気になってのぅ」

 

「成る程ねー……『お姫様』に求婚しに来た、とかじゃないよね?」

 

「ほっほっほ、流石にこの歳で誰かとどうこうという気にはならんよ」

 

そう笑う隼人に、それでもてゐは苦言を呈する。

 

かつての『お姫様』に求婚したのはなにも若い男だけではなかったと、そこの妹紅の親もそうだと。

 

このてゐの言葉に妹紅は瞬間顔を歪めるが、かぶりを振って息を落とす。

 

「どうかしたかね?」

 

「んーん、なんでもないよ、ほら永遠亭はもうそこだ、行こう」

 

「ふむ、そうするとしようか、では因幡殿失礼しますぞ」

 

「てゐでいいよ、お爺さん」

 

「そうかね、ではてゐまたの」

 

挨拶を済ませて永遠亭に向かい始めると、後方から土を落とす音が聞こえてきた。

 

「いつもああして落とし穴を?」

 

「そうでもないと思うわ、どっちかと言えば口八丁手八丁でだまくらかす方が多いはず」

 

成る程と呟いて、隼人は意識を後方に向けてみれば、てゐは既にそこには居なかった。

 

 

 

 

『永遠亭』

 

そこは人里と竹林の奥地を遮るかのように建つ屋敷、妹紅は門の前に立ち、隼人に永遠亭の簡単な説明を済ませる。

 

「八意永琳、彼女の作る薬もだけど、その医学にはホントに助かってるんだよ、おまけに安くてツケも利く、まあツケ踏み倒した奴は臨床試験に駆り出されるって噂みたいだけどね」

 

「それはまた恐ろしい噂じゃのぅ」

 

「そうだね、とは言え踏み倒した奴はまあ居ないって話だけどさ」

 

「ほう、余程信用されとるんじゃな、八意永琳という医者は」

 

「永琳は医者と言うか薬師だね、医者でも良いんだろうけど、本人の能力自体がそう言うものなんだ」

 

能力については本人に訊いて欲しいと妹紅が言ったところで、背後から声がかけられた。

 

「妹紅さん、こんにちは」

 

振り向いたそこに居たのは、ウサギ耳のブレザー少女、洋装の者が居ることに意外性を感じはしたが、先程の因幡てゐもよくよく思い出せば洋装だったなと、切り替える。

 

「それと……」

 

「おお済まんね、儂は風林寺隼人と申す、妹紅にはここまで案内して貰いましてな」

 

「あ、私は鈴仙・優曇華院・イナバと申します、ここ永遠亭で薬師(医者)見習いとして働かせて頂いています、呼び方は鈴仙でも優曇華院でも構いませんよ」

 

そう微笑む鈴仙に、妹紅からはうどんげで良いんじゃないと声がかかるが、鈴仙からやや冷ややかな目線が妹紅に向けられた。

 

「まぁうどんげでもいいですけどね」

 

「じゃあんな目で見なくても良いじゃない……」

 

「ちょっとした仕返しですよ」

 

はにかむ鈴仙に妹紅も苦笑を浮かべて話題を切り替える。

 

「そろそろ上がって良い?」

 

「あ、ごめんなさい、患者さん……じゃなくてお客さんでしたね、すぐ師匠呼んできます、客間まで妹紅さんお願いします」

 

「ん、わかったよ」

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