東方超人記   作:銀剣士

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第七話

妹紅に案内された客間、その床の間には鳥獣戯画の掛軸が飾られていて、隼人は主人が現れるまでそれを楽しむことにしたのだが、ふと作者の印が目に留まると、目を見開いた。

 

「どうしたの隼人君」

 

「いや、この軸なんじゃが……」

 

指差された先の印には『岬越寺秋雨』とある、これがどうかと訊くと、友人の物だという。

 

絵のタッチも印も、間違いなくその友人の物で間違いないと、自信をもって言う。

 

「へぇ……こんな品が外から入ってくるなんてねぇ……」

 

里の絵描きでは描くことは出来そうにない、その戯画に妹紅も魅入ってしまうが、それが大きな隙となる。

 

「ふぅ」

 

「ひゃぇう」

 

変な声を抑えるように、口を手で覆う妹紅が睨んだ先には、美女という言葉では足りない程に美しいであろう筈の黒髪の少女が、腹を抱えて笑っていた。

 

台無しである。

 

「何すんのよ輝夜!」

 

「ひゃぇうだって……だめ……お腹痛い……」

 

笑いすぎて腹筋がつると呟きながら、輝夜は踞ってしまう。

 

「ほっほっほ、成る程仲が良いんじゃな、妹紅と輝夜ちゃんは」

 

「誰が……って、あれ私まだ隼人君にこいつ紹介してないわよね?」

 

「ああ、須臾操ってもこたんの裏取ろうとしたらいきなり話し掛けられたの、いやぁびっくりしたわホント」

 

「もこたん言うなっつの、ってあんたの須臾の中で動いてたの!?」

 

流石に驚く他無かったようで、隼人を見る目が大きく開く。

 

正直あの世界で対等に(或いは一方的に)動けるのは、紅魔館の蕭洒で完璧と言って憚らないメイド位なものだと思っていた。

 

(……あれ、これ気の解放っての教わっても良くない?)

 

教わったところで隼人のようにはいかないのは解ってはいるが、輝夜相手になにも遠慮がいるものか、妹紅はそんな事を思ってしまう。

 

実際遠慮なく殺し愛う仲だ、ちょっとばかり強くなったところで……

 

「やはり、輝夜ちゃんに会いに来て良かったようじゃな」

 

顔に出ていたのだろうと、妹紅は苦笑を浮かべ、隼人に改めて乞う、気の解放を出来るようになりたいと。

 

「うむ、まぁ簡単な話じゃよ、思いっきり突き抜けてしまえばよいのじゃ、妹紅が本来どのように闘うのかはわからんが、何処か自制をかけておる、それがいかん」

 

動の気の解放は半端に行うのが最も危険なもの、つまり現在の妹紅の闘い方である、動の気の暴走となって現れてしまっていると、隼人は続ける。

 

「つまり……」

 

「妹紅の思うがままに『翔べ』ばよい、遠慮なんざ吹き飛ばしてしまえ」

 

拳を握り、親指を天に突き立て、白い歯を光らせる隼人。

 

「……うん!」

 

「ふぅん……とりあえず、今日の一発いっとく?」

 

今日の一発、それは即ち。

 

『殺し愛』

 

言うが早いか、庭に躍り出る妹紅と輝夜を見送り、隼人は部屋に入ってきた銀髪の美しい女性と挨拶を交わし自己紹介を済ませる二人。

 

「あまり派手な殺し愛にならないようにして欲しいわね」

 

「ほっほっほ、じゃが実に楽しそうじゃ」

 

「風林寺殿、これからも妹紅に指導を?」

 

しかし、永琳の問いに横に首を振る。

 

「儂の弟子はただ一人で良いのでな、それに妹紅は既にその領域に居た、後は一押しで良かった……じゃからこそ、そこに導いたに過ぎませぬ」

 

「なるほど……それでも貴方の言葉で妹紅は一つ高みに上った、これからも頼りにされるのでは?」

 

輝夜の一枚天井で潰されながらも不死鳥の姿となって復活、妹紅は再び輝夜と向き合う。

 

「さて、そうなれば断るだけですな、妹紅に教えるべき事を、儂は先程のこと以外持ち合わせておりませんで」

 

「それでも……と請われても?」

 

それには首肯で答え、出された茶を啜る、この話は打ち切ると言外に残して。

 

永琳も流石に続けるわけにもいかず、そうですかと口にして、輝夜と妹紅の殺し愛を眺めながら、茶を啜る。

 

「時に風林寺殿、これからどのような御予定で?」

 

「紅魔館とやらに住む紅美鈴という方を訪ねようかと思っておりましてな、暫く世話になる博麗神社の巫女殿に、弾幕ごっこを教わる手筈になっておるのですが、彼女に弾幕ごっこは基本的に空でやるものだと……」

 

そこまで言うと永琳も察したのか、成る程と頷いた。

 

「私は『神気』で、姫様や部下のうどんげは『月の魔力』で、飛んでいますから、流石に教えられる自信はありませんし……」

 

「お気になさらず、それにこの幻想郷を歩いてみたいと言うのもありますのでな、色々訪れるのも悪くはありませぬ」

 

「そうですか……でしたら御不要かとは思いますが一つ忠告を、太陽の畑という向日葵畑にはお気をつけ下さいな、この幻想郷でも危険度では五指に入るであろう妖怪が住んでおりますので」

 

重々しくそう言葉にする永琳ではあるが、この忠告に然程意味がない事は薄々感じているのだろう、と言うより全く意味をなしていないと確信を得るにたる隼人の表情がそこにあった。

 

「……嬉しそうですね」

 

「分かりますかな? なに、やはり武人としてはそういった相手をもとめてしまうもので」

 

「なかなか困った性分ですね、武人と言うのも」

 

二人の笑い声が届いたか、庭で互いに八回程殺し愛った妹紅と輝夜が戻ってきたが、その二人の姿に隼人は疑問を永琳に問う。

 

「服が破けておらぬようじゃが?」

 

「ああ、蓬莱人にとって服も魂の一部ですので、肉体のと同じく、再生出来るんですよ」

 

「ほほう、やろうと思えば好きな服を着られるということかね?」

 

「ですね、少し目を閉じていただいても?」

 

永琳の言葉のままに少しの間目を閉じると、開けても良いと言われ、目を開けると先程の青と赤の服から一転、淡い青の看護師服を纏った永琳の姿があった。

 

「ほう、輝夜ちゃんの須臾を使った感じは無かったのぅ、便利と言えば便利なものですな」

 

「ええ、朝面倒な時にはこうして着替えていますよ」

 

普通の服が無いわけではないと加えるが。

 

「永琳ってその辺りだらしないわよねぇ」

 

「あら、そういう姫様は……」

 

「うん、やめ、止めましょう、うん、そんな事より妹紅、大分動きが良くなったわね」

 

「そんな話題そらしに言われても……いや、嬉しいけどさ、まぁ隼人君曰く、今よりまだ上の段階があるって話だし、少しは真面目に頑張ってみるつもりよ」

 

不敵に浮かぶ妹紅の笑みを、輝夜もまた不敵に返す。

 

千年を超える二人の関係に、永琳もそして出会って間もない隼人もまた、苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

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