The Pleiades in The Jet Black   作:ドラ夫

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Prologue

 その日、エ・ランテルは揺れていた。

 比類無き英雄。

 人類の切り札。

 エ・ランテルの人々は口を揃えて言う。“漆黒”のモモンこそ、我々の希望だ、と。

 ──“漆黒”

 冒険者達の最高峰、アダマンタイト級冒険者チームの一つだ。

 そのアダマンタイト級の中でも“漆黒”は別格と言われている。

 メンバーがたった二人しか居ないのにも関わらず、どんな依頼もあり得ないほど速く、そして完璧にこなすのだ。

 アダマンタイト級冒険者の損失は人類にとっての大きな損失となる。故に冒険者組合は、何かがあった時のためにメンバーの増員を“漆黒”に進言した事があった。“数”は力なのだ。

 またメンバーの数が増えれば、単純に選択肢の幅が広がる。

 “漆黒”には剣士のモモンと、魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)のナーベしか居ない。普通であれば冒険者チームに必須と言われる、野伏(レンジャー)や司祭系の人間がいないのだ。

 しかしモモンはこう言った。他の者では足手まといになるだけだ、と。

 それは傲慢だ。冒険する冒険者は、先ず長生きできない。

 だが、モモンにはそれが許された。何故なら彼は、強いからだ。

 例え複数人に囲まれようと難なく切り抜け、不意打ちされようと完璧に反撃し、擦り傷さえ受けない。なるほど、野伏(レンジャー)や司祭系の人間が必要無いわけだ。

 

 

 しかし──そう──あれはつい昨日のことだ。

 そんな“漆黒”から、メンバーを増員するという知らせがあったのは。

 銀級以上の冒険者チームがメンバーを増員する際は、冒険者組合に申請をすることになっている。しかしこの規則は、ほとんど意味の無いものだ。

 基本的に人間は──モモンなどの一部の例外はいるものの──他の種族よりも弱い。故に対抗するには、技を磨き、数を揃え、力を合わせなくてはならない。

 その際一番大事なのは、チームワークだ。

 故に、例え銀級の冒険者チームに金級クラスの強さを持つ冒険者が入ったとしても、足手まといになる事が多い。なので一般的に、チームメイトが減ることはあっても増えることは無いのだ。それはクラスが高い冒険者チームになればなるほど、である。

 特にミスリル以上の冒険者チームなどは、歴史をひも解いて見てもほとんどメンバーの補充をした事が無い。

 ──メンバーを五人追加したい。

 今朝、冒険者組合長アインザックの元に届いた申請だ。

 五人、ハッキリ言って異例の数だ。しかもその申請がアダマンタイト級冒険者チームから来たというのだから、アインザックの驚きようといったら無い。

 

 

 申請を出して来たのは“漆黒”──よりいえばリーダーのモモンだ。モモンはその武力もさることながら、頭の方もかなりキレる。メンバーを増やした際のデメリットに気がつかないわけが無い。

 そのデメリットを差し引いても、チームに入れたい者がいる。しかも五人も。にわかには信じられない話だ。

 アインザックは例え一人だって、“漆黒”についていける人物に心当たりがなかった。

 だが、アインザックは認めなくてはならなかった。

 モモンが連れてきた五人は、だれもかれもが“美姫”ナーベと同じくらいに美しかった。故に最初アインザックは、モモンが新しい“囲い”を連れて来たと思った。

 しかし──驚くべきことに──その五人は誰もがアダマンタイト級冒険者に相応しい力を備えていたのだ。

 まったく、モモンという人物にはいつも驚かされる。

 

(しかし本当に、一体どうやってあれほどの力と美女達を手に入れたのか……)

 

 お世辞にもまっとうな職業とは言えない冒険者。なる理由は様々だ。それを詮索することは、暗黙の禁となっている。しかしそれでも、アインザックは過去が気になって仕方がなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 完全なる狂騒による騒ぎがあった日から二週間、実はアインズはあの日の事がなかなか忘れられないでいた。

 ──砕けた感じで話せ、アインズはそうプレアデス達に命令した。ユリはあまり普段と変わらなかったが、アレは昔アインズが仲間達と過ごした日々を彷彿とさせてくれた。アインズにとってそれは、何よりの喜びだ。

 仲間達が創ったNPC達は──テキストには忠実であるものの──それ以外の部分は創造主に似ている傾向がある。つまりは、仲間達の生き写しだ。

 ──楽しかった。そう、楽しかったのだ。

 ここ最近アインズは、無い胃を痛め続けてきた。過剰な期待をしてくるシモベ達、アインズはそれに応えなければならなかった。

 そんな辛い日々にあってあれは、久しぶりに楽しいひと時だった。

 

(……もう一回、もう一回くらいなら出来ないかなぁ?)

 

 ──無理だ。

 アインズは即座に切り捨てる。

 ハッキリ言ってアインズは暇だ。時間的な問題は無い。

 しかし、偉大なるナザリック地下大墳墓の絶対なる主人であるアインズ・ウール・ゴウンが、働いてるシモベを呼び出して「なあなあ、ちょっと雑談でもしない? 砕けた感じでさ!」などと言うのは、あり得ないだろう。

 いや、シモベ達なら喜んでそうしてくれそうではあるが……

 そこでふと、アインズは思い出した。

 

『──様をつけるな。それから、敬語も止めろ』

 

 冒険者ルート“漆黒”として活動していた時、アインズが良くナーベラルに言っていた言葉だ。

 これは……使えないだろうか?

 冒険者として潜り込むという設定なら、シモベ達に砕けた感じで接しろと合理的に命令出来る。それにあわよくば、かつて仲間達とそうしたように、未知の世界を全員で冒険できるかも知れない。

 ソリュシャンなどはナザリックの外で働いているが、他のシモベ──二重の影(ドッペルゲンガー)などで代用出来るだろう。

 流石にシャルティアを洗脳した者を誘っている事を考えると、メインの餌であり、対抗できる実力を持つセバスを呼び出すことは出来ないだろうが……

 しかしそれを除けば、考えてみれば考えてみるほど、穴のない計画の様に思えた。

 

(って、ちょっと待った。プレアデス達を“漆黒”に入れる理由がないじゃないか……)

 

 今のアインズの級はアダマンタイト、つまりは最高位だ。それどころか、もしアダマンタイト以上の級があればそうなっていかもしれない。ぶっちゃけ、今でさえ過剰戦力だ。

 一体、どうしたものか……いや、待てよ。

 

「アルベド」

「はっ!」

「セバスを除いた全プレアデスを招集しろ」

「私ではなく……プレアデスをですか?」

「そうだ」

「──畏まりました。至高なる御方、アインズ様の仰せのままに」

 

 近くて控えていたアルベドに命じると、直ぐにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で転移していった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今日のアインズ様当番であるメイド──サシャーラが扉を開けた。

 先頭にアルベドが立ち、次にプレアデス副リーダーのユリ、その後ろに他のプレアデス達──勿論セバスは除くが──が揃って立っている。

 アルベドがアインズの方に非常に美しい動作で歩いてきた。天井の八肢刀の暗殺虫(ナイトエッジ・アサシン)が一瞬身構えるが、何事もなくアインズの右三歩後ろに控える。

 続いてユリが平伏し、その一歩後ろでプレアデス達が平伏する。その所作は非常に流麗であり、整っている。やはり、何処かで練習しているのだろうか。

 

「ボク──失礼いたしました。我々プレアデス一同、アインズ様の御前に」

「ふむ。良く来たな、プレアデス達よ。急な呼び出しにも関わらず、直ぐに参上してくれた事を感謝しよう」

「何をおっしゃいますか。アインズ様のご命令とあれば、例え何をしていたとしても時間を作ります」

「お前達の忠義を受け取ろう。さて、本題に入ろうか。──ナーベラル・ガンマよ!」

「はっ!」

「問おう。お前は人間に対し、どの様な感情を抱いている?」

「はい。ウジ虫にも劣るゴミ、この世に存在していることが既に不愉快かと」

「……ルプスレギナ、お前は?」

「はい。扱いやすいオモチャ、でしょうか」

「それ、それだ」

 

 アインズの指摘に、ソリュシャンを除いたプレアデス達が首を傾げた。

 こちらの世界に来てからそれぞれ生を受け、動き出したNPC達だが……この首を傾げる動作は、仲間達がプログラムした通りの動きだ。アインズのない頬が緩んだ。

 

「私は、というよりナザリック全体としてだが、とりあえずは人間と敵対する気はない。勿論、それは表立ってという意味であり、必要であれば裏で排除する事もあるがな。しかし基本的な方針は融和だ。だが依然として、お前達は人間と友好的に接するという事が出来ていない」

「申し訳ございません、アインズ様。アインズ様の深淵なる御心、理解出来ていませんでした。ご不快であれば、如何様にも──」

「良い、ナーベラル。別に私は怒っているわけではない。仲間達がお前達をそうあれと──カルマ値を低く作ったわけだからな。それは否定しない。だが時には、それを抑える事もしなければならないということだ。お前達に限った話ではなく、これはナザリック当面の目標でもある。そこでだ、お前達をモデルケースとしようと思う。私と共に冒険者として活動し、そこで私が教育を──」

「アインズ様! お話の最中失礼します! ですが、何故プレアデス達なのでしょうか!? 何故私ではダメなのでしょうか!?」

「アルベド、お前は既に演技が出来ているだろ。それに、お前はナザリック全体の経営を任せている。アルベドよ、お前以外にその任を預かれる者がいるのか?」

「くぅーーー! お、おりません」

 

 どこから取り出したのか、アルベドは白いハンカチを噛みながら、悔しそうに下がった。

 

「それに、だ。──ユリ・アルファよ」

「はっ!」

「お前の創造主であるやまいこさんは、教師という職に就いていた。教師とはつまり、人にモノを教える職業だ」

 

 思わず、ユリがバッと顔を上げた。

 今は至高なる御方の御前、平伏以外の状態はありえない。直ぐに顔を再び下げるが──キリリとした平伏から、言うなればウキウキとした平伏へと変わっていた。

 ユリは人にモノを教えるのが好きだ。ツアレにメイド仕事を仕込んだのもユリである。その理由が、今分かった気がした。同時に、至高の御方と同じ趣味を持っていた事に、とてつもない喜びを感じる。

 

「お前がモデルケースとして成功した暁には、お前から他の者へと教育してほしい。つまりは私の教えを、教師として他の者に教える、ということだ」

 

 ぞわりとユリの背筋を快楽が撫でた。

 ユリはアンデッドであるため、直ぐに抑えつけられるが、それでもその悦びに終わりはない。

 至高の41人の纏め役、アインズ様の教えを、自らの創造主であるやまいこ様のように他の者に教える。しかもその仕事は、間違いなくナザリックの役に立つ。

 ユリの中で悦びが大爆発した。

 もしアインズの前でなければ、首を外して思いっきり投げて叫んでいただろう。

 

「ユリ・アルファよ。引き受けてくれるか?」

「はい! プレアデスが一人ユリ・アルファ、力の限りを尽くします!」

「うむ。期待している。さて、既に冒険者として活動しているナーベラルは良いとして、他のプレアデス達よ」

 

 プレアデスが決意の顔をアインズに向けた。

 姉であるユリが受けた任務、はっきり言って非常に羨ましかった。

 普段からの仕事に不満があるわけではないが、何せナザリックは強大だ。プレアデス達が守っている第九階層に来る敵などいない。勿論敵が来ない事は嬉しいが……それと同じくらいもっと身を粉にして働きたいという気持ちもあった。

 もしもユリと同じくらいの任務を任せられたなら、それに勝る喜びは無い。

 

「──お前達にもユリと同じ様に、冒険者として私に同伴することを命じる。そこから何を学び取るかは、お前達次第だ。私が全ての答えを言ってしまったのでは、かえってお前達のためにはならないからな。それで良いな……?」

 

 反論などあるはずが無い。

 それどころか、非才な自分達の事を考えて自ら課題を与えて下さるとは……

 ユリはアンデッド故流さなかったが、間近で見ていたアルベドとサシャーラは感動の涙を流した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「流石はアインズ様ね」

「うん。アインズ様ぁ、すごいぃ」

 

 どう見ても人間では無いエントマと、どんな格好をしても冒険者に見えないソリュシャン──そもそもソリュシャンは顔がある程度知られているが──は、アインズの命によりドレス・ルームでちょうど良い変装小道具を探していた。

 

「これなんてどうかしら?」

「……没落貴族ぅ?」

「はぁ、やっぱりそう見えるわよね」

 

 見窄らしいマントを着てみたのだが、没落貴族が命からがら逃げ出してきた様にしか見えなかった。

 変異系のマジックアイテムで姿を変えるという手段もあるのだが、至高の御方が設計した姿を変える事は不敬だ。

 

「それで、話を戻すけど、やっぱりアインズ様のあのご命令は私達の為よね?」

「たぶんそぉ」

 

 戦闘メイド(プレアデス)達の主な仕事はあくまで「戦闘」であり、「メイド」としての仕事はサブだ。

 「戦闘」の方はコキュートスの部下がいるし、そもそもここ第九階層に来る敵がいない。「メイド」としての仕事は、アルベドが組んだ完璧なスケジュールで一般メイド達が回しているから、やはりやる事がない。

  プレアデス達は仕事に飢えていた。

 ナザリックの為に──至高の御方の為に働く事は、無類の喜びだ。忙しければ忙しいほど良い。

 しかし逆に言えば、働いていないときは非常に苦痛だ。

 アインズ様は最後まで残られた、最も慈悲深き方。恐らくその崇高なる頭脳でプレアデス達の不満を悟り、仕事を与えてくださったのだろう。

 ユリに告げた言葉を思えば、それは間違いない。

 

「私達程度の存在にそこまで配慮していただけるなんて、光栄の極みですわ」

「うぷぷぷぷぅ、アインズ様はお優しいぃ」

「そうね。本当に慈悲深い方ですわ。──これはどう、エントマ?」

「……娼婦ぅ?」

「流石にそれは言い過ぎじゃないかしら……」

「本当にぃ?」

「うっ──」

 

 ソリュシャンが着た服は普通の町娘の服装なのだが、顔つきが上品であり、その上色々と豊満なソリュシャンが着ると、いかがわしいコスプレか何かに見えて仕方がなかった。

 

「それより、エントマはどうなの? 私より変装が大変だと思うけど」

「大丈夫ぅ。幻惑蟲を使うからぁ」

 

 幻惑蟲とは、特殊なフェロモンを分泌する蟲であり、そのフェロモンを嗅いだ者は混乱状態──つまりは幻覚に囚われる。

 

「エントマ、アインズ様のお言葉を聞いていなかったの? アインズ様は平和的にと仰ったのよ。幻覚に落とすのは、やめた方が良いと思うわ」

「そっかぁ。ありがとうぅ、ソリュシャン」

「いいのよ。そうねえ……やっぱり顔を隠すしかないかしら」

 

 至高なる御方の前で顔を隠すというのは出来ればやりたくはなかったが、仕方がない。

 ソリュシャンはアサシンではなく、盗賊で登録する事になっている。盗賊であれば、頭巾か何かで顔を隠していても不思議ではないだろう。

 

「それにぃ、ナーベラルも限界が近かったしねぇ」

「アインズ様に付きっ切りでお仕えしてるんですものね。心が休まる時間はないはずよ」

 

 偉大なる支配者には、それに相応しい僕がいる。

 本来であれば、至高の御方には最低でも常に三人はシモベがそばで仕えているべきだ。

 しかし冒険者モモンでいる最中は、そばにはナーベラルただ一人しかいない。恐らく、一瞬の気の緩みも許されないだろう。しかし──

 

「羨ましい……」

 

 それは確かに疲れるだろうが、それ以上に充実感がある事は間違いない。

 現にナーベラルは「はあ、疲れたわ……」と言いながら、顔は物凄く満ち足りていた。ドヤ顔していた。

 

「ナーベラルぅ、ずるいぃ」

「まあまあ、エントマ。私達もこれから同じ立場になるのだから、良いじゃない」

 

 ソリュシャンが諭すも、エントマはまだ何処か不満げだ。

 その気持ちはよくわかる。

 ソリュシャンは姉であるため、妹のエントマの前では冷静に振舞っているが、実はナーベラルにちょっとばかりの嫉妬を抱いていた。というより、ナザリックにいる者なら誰でも多少の嫉妬は覚えるだろう。

 

 

 結局ソリュシャンは黒い頭巾で顔を覆う盗賊スタイル、エントマは人間の皮を被り、擬態する事にした。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

「さて、お前たち。自身の冒険者としての名前と設定を言ってみろ。先ずはユリからだ」

「はい」

 

 アインズはプレアデス達に、冒険者になるための最終テストをしていた。

 直ぐに人を殺そうとしない、ナザリックの事を口にしない、などの基本的な事から、依頼を受ける際は依頼料の高さではなく評判を気にせよ、などの冒険者特有の知識まで、色々な事だ。

 そして最後は、ある意味アインズにとって最も重要なこと──即ち、アインズへの態度に関する設定だ。

 この辺りの設定はアインズが指定したものもあるし、丸っ切り任せているものもある。

 

「名前はユーリ。職業は打撃者(ストライカー)、魔法は使えず、スキルは基礎的なもののみ。装備は最高位でも聖遺物級(レガシー)まで。アインズ様──モモンさんとの関係は、上下関係のない平等なお仲間とさせていただきました」

「うむ。完璧だ。次に──そうだな──ルプスレギナよ。答えてみよ」

「はいっす!」

 

 アインズは最初、ボロを出すならルプスレギナかもしれないと思っていたのだが、その軽い性格故かアインズと平等に接する演技に最も違和感がなく、今ではアインズの期待の星になっていた。

 

「名前はルプー。職業は戦士司祭(バトル・クレリック)、第三位階までの信仰系魔法が使えて、後はからっきしっす! モモンとの関係は、気心の知れた大親友っすね」

「大親友とまで言った覚えはないが……まあいいだろう。概ね問題はない。ナーベラルは置いておくてして、次はソリュシャンといこうか」

「はい、アインズ様」

 

 ソリュシャンにいたっては、アインズは何の心配もしていなかった。

 ここではアインズ様と呼んでいるが、演技が必要な場面になれば、完璧にアインズを「冒険者モモン」として扱うことが出来ていた。

 

「名前はソーシャン、職業は盗賊。顔に傷があり、顔を決して見せない。スキルの類は少なく、代わりにマジックアイテムや仲間をフォローして戦う、サポート型とさせていただきます。アインズ様との関係は、顔に傷を受けた事件の際助けていただいき、それ以来一緒に旅をしている、といったところでしょうか」

「流石はソリュシャン、完璧だな」

「勿体無いお言葉ですわ」

 

 ソリュシャンはスクロールやワンドなどを使用しなければ魔法の類を使う事が出来ない。しかしソリュシャンは体の中にほぼ無限にスクロールやワンドをしまっておけるし、使い慣れてもいる。

 流石はソリュシャン、己の役目をよく理解している。

 それに、過去に何かを抱えている顔を見せない盗賊とか、なんかかっこいい。アインズの好みまで考えての設定だろうか。

 

「さて、次は……シズかエントマか」

「ここは私から」

「じゃあ私からぁ」

「──ん?」

「──んぅ?」

「今まで年功序列で来た。だから次は姉である私」

「年功序列で来たんだからぁ、次は私でしょぉ?」

 

 シズとエントマが取っ組み合いのケンカを始める。

 シズとエントマはどちらが姉でどちらが妹なのか決められていない、そのためこうしてどちらが姉かで良くケンカするのだ。

 流石にいつもならいくら何でもアインズの前でケンカなどないのだが、今は練習としてちょっと砕けた感じで話せと命じている。

 

「よせ、よせ二人とも。いや、一機と一匹か? まあとにかく、ケンカはよせ。そうだな、今回は名前順でエントマからとする」

「分かりましたぁ」

 

 チラリとシズを見た後で、エントマが語り出す。

 

「名前はエマぁ。第二位階までの魔法が使える召喚士(テイマー)でぇ、第二位階までの魔法が使える妖術士(ソーサラー)でもありますぅ。モモンとの関係はぁ、兄分と妹分ですぅ」

「ほお。それは何というか、大分マニアックな所を突いてきたな。だが、嫌ではないぞ」

 

 エントマに召喚士(テイマー)妖術士(ソーサラー)としての技能はない。しかし召喚士(テイマー)寄生虫(パラサイト)を使えば再現出来るだろう、妖術士(ソーサラー)も幻惑蟲を使えば何とかなるだろう。

 

「それでは最後に、シズ」

「はい。説明、する」

 

 シズが相変わらず無機質な声で答える。いや、シズの種族を考えれば仕方がない事なのだが。

 今回はそのあたりの無表情具合を誤魔化せるような設定を考えろ、と命じてあるのだが、どういう設定を作ったのだろうか。

 

「名前はハチ。職業は弓兵(アーチャー)。装備はこのマフラー以外、魔力の篭っていないモノ。幼い頃両親を眼の前で拷問されたから、感情がなくなった」

「いや、いや! それはちょっと重すぎるだろ? なんかこう、もうちょっと軽い設定はないのか?」

「それなら、幼い頃レイプされた──」

「分かった! もう分かったから! よし、シズ。お前は性来無口な性格だった。いいな?」

「はい、アインズ様」

(シズってこんな性格だったのか……)

「モモンとの関係は対等なパーティーメンバー。昔出会って以来、一緒に旅をしている。特別な因縁はない」

「まあ、一人くらいそういう奴がいてもいいだろう」

 

 パーティー内全員と特別な縁があるのも、変な話だ。吟遊詩人(バード)であればそう言った話を好むかもしれないが、残念ながら大半の人間は吟遊詩人(バード)ではない。

 

「よし。ではナーベラルよ、何故他の者達は“漆黒”に加わるのが遅れたのだ?」

「はい。ホニョペニョコなる吸血鬼を追い、付近を秘密裏に探索していた為です。吸血鬼は魅了系のスキルを有している為、大事にせず、少数精鋭で事に当たった方が良いとの判断からです」

「うむ。私達がアダマンタイト級冒険者になったきっかけである、シャルティアとの戦いの際は、どうしていたのだ?」

 

 もしアダマンタイト級に上がるきっかけとなったシャルティアとの戦い──実際はモモンではなくアインズとして戦ったのだが──が“漆黒”の二人ではなく、七人でよって集って戦ったという事になれば、最悪アダマンタイト級を剥奪されるかもしれない。

 

「えっと……そう、ドラゴンを狩っていました」

「ドラゴン?」

「はい」

「何処で、どのドラゴンをだ?」

「それは……」

 

 視線を漂わせるナーベラル。

 おい、おい。大丈夫なのか? とアインズが考えていると“ピシピシピシ!”と音が聞こえてきた。ユリが何処からか取り出した棒で机を叩いていた。助け舟を出したのだろう。

 

「カッツェ平野でホニョペニョコと戦い、負傷していた事にさせていただきます」

「なるほど。あそこはあまり人が立ち入らないからな、今から戦闘痕を作ったとしてもバレはしないだろう。療養は、そうだな、カルネ村でとっていた事にするか。ルプスレギナよ、村人と口裏を合わせておけ」

「はいっす!」

 

 色々と危うい気もするが……まあ、大丈夫だろう。いざとなれば、アインザックの記憶をいじれば良いわけだし。

 アインズ──いやモモンは、これから始まる冒険者としての生活に、心を躍らせた。

 アンデッドとしての特性から直ぐに鎮静化されるが、それでも心地良い余韻が残った。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 その日、エ・ランテルは揺れていた。

 比類無き英雄。

 人類の切り札。

 エ・ランテルの人々は口を揃えて言う。“漆黒”のモモンこそ、我々の希望だ、と。

 ──“漆黒”

 冒険者達の最高峰、アダマンタイト級冒険者チームの一つだ。

 そのアダマンタイト級の中でも“漆黒”は別格と言われている。

 メンバーがたった二人しか居ないのにも関わらず、どんな依頼もあり得ないほど速く、そして完璧にこなすのだ。

 だが、今日からは違う。

 騒ぎ立てる民衆の中を先頭に立って進む、一目みただけでその恐ろしさが分かるほど強大な魔物に騎乗している男──“漆黒の英雄”モモン。

 その三歩後ろを、頭が少しも動かないほど綺麗に歩いて追従する女──“美姫”ナーベ。

 エ・ランテルに住む者ならば誰でも見た事がある、そして誰もが憧れる二人だ。

 

 

 だが、今日は違うところがある。

 二人の後ろを、さらに五人の女性が追う。

 “黄金”ラナーに並ぶと言われた“美姫”ナーベ。吟遊詩人(バード)達は歌う、あの二人こそが世界で最も美しい人間だと。

 しかし、これはなんだ。

 後ろを追う五人全員が、ラナーやナーベと同じくらい美しい。一人だけ顔を隠しているが、それでもその歩き方や服を盛り上げる身体のおうとつから、美しさのほどが分かる。

 この五人こそ“漆黒”の新たなるメンバー。

 七人になった“漆黒”は、時に新米冒険者と握手を交わしながら、時に新しい生命の名付け親になりながら、時に困った老婆を助けながら、ゆっくりと冒険者組合へと歩いて行く。

 冒険者組合に入れば、誰もが帽子を脱ぎ、道を譲り、時には敬礼する者までいた。

 

「……ふむ。この依頼を受けたいんだが、構わないか?」

「勿論です、モモン様」

 

 依頼が貼られているボードから、無造作に依頼をとって渡す。

 普通の冒険者であれば、素人丸出しの愚かな行為だ。

 依頼人に裏はないか、その地域にどんなモンスターがいるのか、仲間はどう考えているか、依頼達成までの時間と依頼料は釣り合いが取れているか、その辺りをよく擦り合わせてから、漸く依頼を受ける。それが一流の冒険者というものだ。

 では超一流の冒険者は……?

 答えは目の前にあった。

 深紅のマントを翻し、ゆっくりと冒険者組合を去っていく。

 モモンが冒険者組合を出るまでの間、誰も何も発さない。

 ──“カラン、カラン”と、扉の音だけが響いた。








ナザリックのギミックを全て理解しているシズを外に出すわけないだろ! というツッコミはやめて下さい。死んでしまいます。
後でフォローしますので、とりあえずご容赦を。

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