読者達のアインクラッド   作:秋宮 のん

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添削はしたが、まだ誤字脱字あったらごめんなさい。
待望の最新章!
とくとご覧ください!


第四章イベント01:絶景の一枚

第四章イベント01:絶景の一枚

 

 

 

 0

 

 初めて世界を見たのは、このSAOに来た時だった。

 あの時僕は、本当の意味で“初めて”世界を目撃した。

 でも、今、目の前に存在するそれは………そんな僕の『世界観』を簡単に壊してしまう広がりを湛えていた。

 

 本物の世界を目撃した僕は、何が何だか分からなくなった。

 世界に対して圧倒され、平伏したくなった。

 感情だけが勝手に極まって、涙が溢れ、嗚咽まで漏れた。

 

 凄すぎる………。

 あまりに知らな過ぎた世界を目の当たりにして、僕の全てが屈服していた。

 

「どう? 凄いでしょっ!」

 

 自信満々で笑い掛ける少女に、僕は降参の意味を込めて頷く事しかできない。

 

 

 

 1

 

 

 これはさすがに死ぬんじゃないだろうか?

 デスゲームとなったソードアート・オンライン(SAO)、アインクラッド第一層で知り合った≪デパチカ≫の店主、ジャスと、第一層で危険なゲーム攻略に参加できない子供達を保護しているタカシに、商業関係の仕事心得なる物を教わっていた僕ことサヤは、本気でそんな危機感を抱いていた。

 僕達の立ち上げたギルド≪ケイリュケイオン≫を商業的な物として発展させようと考えた事が原因で、この手の話に詳しい二人に御教授願ったんだけど………。

「ごめんなさい………頭パンクしそうです………」

 ≪デパチカ≫カウンター席で紙と格闘していた僕は、机に突っ伏して呟いた。

「はいはい。それで、このアインクラッドではそもそも交渉術自体が現実とは違うと考えた方が良いだろうね? なんせ現実の様でまったく違うルールが敷かれてるのが、このSAOだからね?」

 僕の呟き、軽く無視したよジャス姐さん(面白いからこう呼べと言われた)。

 この人達の僕に対する扱いは酷い物があると思う。

「まあまあ、もう結構な時間ですし、少し休ませてあげたらどうですか?」

 そう言って僕の元に飲物を差し出してくれた男性に、僕は緊張して姿勢を正してしまう。

 彼の名前はワスプ。長い髪で顔半分が隠れているちょっと謎っぽい感じの男の子。………いや、自分より年上の相手を“男の子”呼ばわりはどうなのかとも思うけど。

 今は身軽い革系の装備にしてるけど、普段は重装甲の隙間ないフルプレートアーマーを着ている。

 ………っで、なんで僕がこの人相手に緊張してしまうのかと言うと、それは数日前、新しい仲間、ラビットを迎えにこの一層にやってきた時だ。二層での『決闘騒ぎ』で僕の事を知ったらしいワスプに、僕は告白されてしまった。

 本当はすぐに答えを返すつもりだったんだけど、男の子に告白されるなんて初めての経験だし、それ以前にあんまり意識し過ぎると、それだけで頭の中がショートして気絶しちゃったりするわけで………。ウィセやスニーにも相談してみたんだけど―――。

 

ウィセ「私には解りません」

スニー「悩んでるサヤさんを見る方が楽しいので、黙秘権を行使しますわ♪」

ラビット「~~~~~っ!? @~~~~!」(混乱する人間を一人増やしてしまった)

 

 そして、僕には他に女の子の知り合いはいないのです。

 何この四面楚歌? 僕は一体どうすればいいのでしょう?

 いっそ、ジャス姐さんに相談しようかとも思ったけど………、仕事の方でもお世話になってるのに、恋愛相談なんてできないよぅ~~………。

 そんな訳で、僕はワスプが近くに来る度に、顔を赤くして身体を固くしちゃう、ある種失礼なんじゃないだろうかとも思える対応をしてしまう。

 ワスプはそんな僕を見ても、優しげに微笑むだけで………ぎゃ、逆に顔が熱くなって視線を合わせられないよぅ~~~っ!! 誰か助けてぇ~~~っ!?

「サヤさん、御顔真っ赤ですよ? また気絶したりしないでくださいね?」

「うん………、がんばる………っ!」

 近くの席に座っていたクロンに言われて、両頬を手で押さえながら頭を振って耐えて見る。なんか、こう言う動作するの初めての経験かもしれない。

「ジャス、ワスプの言う通り少しくらい休憩をとってやろう」

 同じく教師役を務めていたタカシが提案してくれる。

 やった! これで少し休める!

 っと思ったらタカシはその後、更にこう続けた。

「若いもんに二人の時間と言う物を作ってやらんと、大人としては情けないだろう?」

「おや? それもその通りだね? 気が効かなくて悪かったよ二人とも………」

 本当に申し訳なさそうに返すジャス姐さん。

 それが暗に、僕とワスプの時間を作ると言う事だと解って、思わずワスプの方を見てしまうと、同じくワスプも僕の方へと視線を向けていた。視線が交差して、僕達は同時に顔を真っ赤にして視線を逸らしあった。

 うわ~~~っ!! 何これっ!? よく解んないけどすごく恥ずかしいよ~~~~っ!!

「………。こう言う時、普通は嫉妬して『余所でやれ』って台詞が出るものだと思ったけど………、初々し過ぎてこっちが恥ずかしいね………」

「はい………」

 ≪デパチカ≫常連のアルカナとクロンが二人して頬を軽く染めながら渋面になってる。そこはかとなく恥ずかしそうにしてるのが返って申し訳なくなってくるっ!?

 二人して視線を合わせられず、なんだか気まずい雰囲気が流れ始める中、まるで計ったかのようなタイミングで入室してくるお客さんが現れた。

「サヤさ~~~ん! 近況報告に来て差し上げましたわよ~~~!」

「生きてるかサヤ?」

 入ってきたのはスニーと………ケンだ。間があったのは別に久しぶりで一瞬NPCと間違えたからなんて事は無いよ? うん。

 勉強中の僕に変わって第五層を攻略に向かっていたウィセ達。毎日近況報告で誰かが来てくれる。今日はこの二人みたいだ。

 変な空気を追い払うため、僕は二人に飛び付く勢いで御出迎えする。

「お帰りなさい! って言うと違うかな?」

「うふふっ、このネタ何回目かしら? サヤさんったら相変わらず忘れんぼさんですわね? 頭のネジ大丈夫ですか?」

 うん、スニー、今なんか胸にグッサリと刺さる一言付けたさなかった?

「サヤ、あんまり頭のキャパシティ多くなさそうデスもんね? 普通にバカっぽく。僕の顔とか絶対忘れテルヨこの子?」

 ケンは普通に殴っても許されると思う! 実際顔忘れてたから殴るに殴れないけどっ!

 だから代わりに膨れて睨んでみたけど、むしろケンは片手で制しながらニヤニヤ半眼で笑ってた。スニーも軽く握った拳で口元を上品に隠してクスクスッ笑ってる。なんか全部お見通しって感じで余計膨れたら、後ろからワスプが近づいてきた。

「まあまあサヤさん。お二人とも、サヤさんが大好きだから、ついからかっちゃうんですよ。愛情表現です」

「あ、愛情表現で、人の事からかわないでほしいかな………?」

 視線を斜めに逸らしながらちょっと膨れたまま答える。いくら恥ずかしくても、いい加減ワスプとはちゃんと話せるようになっときたいし、ちょっとずつ慣れて行こう。

「愛情表現って言うなら、もっと優しくしてもらっても良いと思うよっ!」

 本当は解ってるんだけど、ワスプへの恥ずかしさを紛らわすのに、つい強めに話題を引きずってみたりする。それがスニーとケン、それどころか他の皆にも伝わってしまったらしく、なんか子供を見るみたいに微笑んでるんだよね。それ、ちょっと納得できない………。

「間違いなく愛情表現ですよ。サヤさんの事を一番好きな僕が言うんですから」

「まあ、そう言ってしまえばそうなん―――」

 …………。

 和訳。翻訳。解析。噛み砕いて処理。

 ―――するまでもないよね~~?

 

 ボンッ!

 

 一瞬で頭が沸騰して身体から力が抜けた。

 ものすっごく顔が熱くて、思わず黙ってうつむいてしまう。

 自分の発言に今更気付いたらしいワスプが、口を押さえ、一緒に赤くなってる気配が頭の上でする。ついでに微笑ましそうに笑う大人二人と、恥ずかしそうに見つめる常連二人+NPCもどき、むしろ何だか恍惚とした表情で息を荒げ始める二人の気配も伝わってくる。

 死にたいほど恥ずかしいって、こう言う事を言うんだよね? きっと。

 顔から火が出ないのが逆に不思議に思えてくるよ。

 そんな風に俯いてたら、ある事に気付いて気持ちが入れ替わった。

 あれ? なんか、一人多い?

 視線をスニーとケンの後ろへと送ると、そこにはメガネを掛けた身長の高い男の人が立っていた。

「ああ、この人はシンっと言うそうです。ジャスさんの御客様ですわ」

 スニーが僕の視線に気づいた様で、そう紹介してくれた。

 シンは、前に出てくると、人の良さそうな笑みを皆に向けてきた。

「いやぁ~~、ラブラブな二人の空気にあてられて、このまま紹介されないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ? アツアツだったけど」

 止めてください。恥ずかしさで僕とワスプが死にそうです。

 僕らの反応に満足そうな笑みを一つしてから、シンはジャスさんと話す為にカウンター席に近寄る。

「俺は最近、アインクラッドの情報を記事にしようとしている者なんだ。情報屋だけじゃ処理する量が多くて難儀するからな。俺らみたいな文屋も必要だろうってことさ」

「なるほどのぅ? しかし何故こなたの元へ? アインクラッドの情報で最も必要なのは攻略くらいとも思えるが?」

「確かに、今一番新鮮で一番の大事件は『アインクラッド第5層攻略!』の見出しだ」

 え? 嘘! いつの間に5層攻略してるのっ!? また僕、ボス戦に参加できなかったっ!?

 こっそりショックを受けてる僕を、既にボス戦も参加済みと見えるケンとスニーがクスクスッ笑っている。

 今日の報告はこれだったんだね。しょぼ~~ん………。

「だが、それだけが情報じゃない。そんな情報はすぐに流通するが、鮮度だけが取り柄の情報だ。俺はそこに、知っておけば役に立つ情報って言うのを取り入れたいんだよ」

「それでこなたに会う理由は何か? 考え付く事と言えばこの店くらいの物だが………」

「正にそれだ!」

 シンは嬉しそうに眼を輝かせると、カウンターから軽く身を乗り出した。

「まだ、攻略が5層までしか進んでおらず、これから6層の攻略が始まる段階! そんなまだ序盤でしかない段階で、既に≪ハウス≫を持ってるところなんて此処くらいの物だ! 俺はそれを記事にしたいんだよっ!」

「なるほどの? 一応言っておくが、ここは『貸し屋』だよ? こなたはここに定期的に必要分の稼ぎを得ることでこの店を任されているだけの身だ。それでも良いのか?」

「もちろんだ! むしろ、俺が記事にする事で、売り上げの助けになると思うんだが?」

「ふふふ………っ、なら、詳しい交渉は後で二階でしようじゃないか? もちろんタダで取材できるとは思ってはいなかろう?」

 不敵に笑うジャス姐さんに、シンは「ですよね~~~!」っ的な笑みを浮かべた。

「それに、売り上げが上がらないのなら取材される意味もないからのう? その辺もちゃんとしているのかチェックさせてもうか?」

「その辺は任せておけよ! 実はとあるクエストで、この階層段階でも≪記録結晶(メモリー・クリスタル)≫が手に入る事が解ってな! ソイツで静止画を紙に印刷できるみたいなんだ! もちろん印刷のスキルはいるが、当然持ち合わせているぞ!」

「なるほど、それは期待できそうじゃないか?」

 二人が笑い合う中、聞いていた僕は、話に出てきたアイテムの名前に興味を引かれた。僕がベータにいた時は、そんな名前のアイテムはお目にかかれなかったけど、でも、≪結晶(クリスタル)≫の名前はよく聞いていた気がする。そんなアイテムも確か持っていたと思うし。

 そのアイテムが静止画を取る物だと聞いた僕は、ある事を思いついてシンに声を掛ける

「ねえシン、そのアイテムが手に入るクエストって、どんなの?」

 

 

 

 2

 

――『風紋』さん、提供シナリオ参考――

 

 

 

「よーっし、今日から4層だー!」

 私は一人気合を入れる。私はフウリン。ごく一般的なレベルのプレイヤーだ。

 昨日までで3層までの一人向けクエストをあらかた終えた。14レベルという4層での安全マージンがようやくとれたので、4層に上がることにした。

 4層の主街区≪ラッテン≫は多くのプレイヤーがいた。今の最前線は6層。最前線でレベル上げをしているのは攻略組と言われる高レベルプレイヤーだ。そして、準攻略組と言われる層は5層をメインの狩場としている。ここ4層は、一般的なレベルのプレイヤーの主戦場であり、当然人が多い。恐らく1層に次いで人口が多いのは、ここであろう。

 私は4層にいいクエストがあると聞いてやってきたのだ。そのクエストというのは基本「このアイテムをAさんからもらってきてほしい」「Aさんにアイテムをくれるようお願いすると、別の人からアイテムをもらってくるように依頼される」というのが連鎖的に6つ繋がっており、最終的には自力で山マップに自生する花を取ってくるところで折り返しとなる、典型的なお使いクエストだ。

 私が欲しかったアイテムがこのクエストの最終的な報酬なのだ。その名も≪記録結晶≫。モンスタードロップや宝箱でもとれるようだが、一番低レベルで確実に取れるのがこのクエストというわけだ。SAO内の『新聞』でたまに使われるようになり、以前から気になっていた。

 

 

 この世界………SAOはデスゲームだ。死んだら終わり。これは恐らく事実であろう。私が≪はじまりの街≫を出たのは、2層がアクティベートされてからだ。それまではこの悪夢のような境遇に、寝ても覚めてもうなされているような状態であった。

 だが、一部のプレイヤーは危険を承知でボスに挑み、結果、グループのリーダーが戦死してしまうという事態になってしまったが、いつかはクリアできる! という大きな希望を見せてくれた。それに比べ私がしたことといえば、日に10匹程度のフレンジーボアを狩り、食費と宿賃を稼ぐくらいだ。何か自分にもできることを………と思ったが、何をしようにも、始まって1か月経つのにこの世界のことをあまりにも知らな過ぎた。まずは、このゲームに本格参戦し、世界や人の動きを見てみるところから始めなきゃ。

 ということで、ソロでもやりやすいクエストを中心にレベル上げをすることにした。というのも、当初は数度パーティーを組んだけど、なんというか、複数人での指揮系統の無いふわっとした行動や戦闘が非常にやりにくい。自信なさげに「じゃあそこにいってみよう………か?」とか「ソードスキルを使ってみて、ダメだったら誰か他の方法で攻撃してみたらいいような」とか。そりゃみんな初心者だし、まして死に直結のこの世界で人の行動に責任を持つことは難しい。それはわかる。が、情けない。それにもまして許せないのが、街に帰ってからのやたらと長い夕食。会話の中心は………今日の反省が大半かと思いきや私のことを聞き出そうとするような話題ばかりでもううんざり。そんなのを3パーティーもこなした末、自分で仲間を見つけるまではソロで行こうと思い立ったのだ。

 1層からクエストをこなし、モンスターを倒し、フロアマップを歩くうちに、この世界はやはり美しいと感じるようになった。私は両親の旅行好きの影響もあり、いろんな景色を見るのが好きだが、SAOはその宝庫と言ってもいい。1層の小川のある広い草原。これだけを見ても素晴らしい。ならば他の層にはどんな景色が待っているのだろう? 私の胸にはそんな好奇心に満ち溢れた。

 確かにデスゲームではあるが、その一言で終わらせるにはもったいないほど美しい。私はまず、いろんな景色を見たいと思うようになり、マップ探索を続けていたところ、最前線が4層のときに発刊された『新聞』に写真が載っていることに気づいた。写真さえあれば、この美しい景色を自分だけのものとしてとどめておくことができる。この世界で生きていくための、勇気と元気が出る写真というものがまずはほしかった。

 

 しかし、写真なんて一体何処で手に入るのか、私には情報は回ってこなかった。情報屋に効くのが一番手っ取り早かったんだけど、パーティーを抜け、ソロになった私は、急激に財政難になっていた。パーティーを組んだ時は周囲の態度に悩まされ、ソロになれば一人身の厳しさを教えられ………、現実とは理不尽な事この上ない。ゲームだけど。

 そんな訳で私は、一度新しいパーティーを一時的に組んでいる次第なのです。とりあえずは情報料が堪るまでの辛抱だ。幸い、今組んでるパーティーは女の子率が圧倒的に高い、珍しいパーティー。チームワークもわりかしいい感じになりつつある。何とかやっていけるんじゃないかな?

 

 ゲシッ!

 

「ひゃんっ!?」

 いきなり何者かにお尻蹴られました!? 一体何事!?

 振り返った私は、そこにくすんだ金髪の女の子が、頬を膨らませて腕組している姿を目撃した。小柄でやせっぽち、翠の瞳をそっぽに向けて拗ねているこの女の子は、セリアと言うパーティーメンバー。一度も喋ったところを見た事無いけど、案外感情表現が豊かな子だ。たまに、感情に任せて八つ当たりするところがあるのがたまに傷かも?

「にゃふふっ♪ リアリアが御立腹なのもしょうがないよぅ~~?」

 笑いながら話し掛けてきたのは、セリアの後ろにいた彼女より多少背が高い、藍色の髪をした女の子。髪を後ろで結い上げたポニーテイルなのに、背中の中ほどまで伸びている長い髪の女性。背以外の所は見事に発育の良い………、発育の良い身体を持ったライラって名前のメンバー。ホント、身体のあっちこっちが発育良く育ってる。胸とかお尻とか………。

 ライラは猫みたいな笑みを作って私に言う。

「今なんか考え事してたでしょ? リアリアがずっとアピールしてたのにフーリン、気付いてあげないんだもん♪」

「なんとっ!? ごめんねリアリア! なんのようだったの?」

「………」

 セリアことリアリアは頬を膨らませながらチャットを開き、内容を打ち込んで行く。ホント、この子喋らないねぇ。

 

「 別に用なんて無かったけど、リーダー達が戻ってくるまで暇だったから話し相手が欲しかった。だからとりあえず蹴ったの 」

 

 とりあえずで蹴られたんだ。私………。

「淋しくしてごめんね~~~っ!」

 私は淋しがり屋のリアリアに抱き付き、思いっきり愛情アピール!

「フーリン………、今の内容でそう言う判断できるアンタは、わりと大物だと思うよ。そこは尊敬する。見習いたくはないけど、私も弄り甲斐があるのでずっとそのままでいてください」

「何か言ったララちゃん?」

「何も言ってませ~~んのニャ~~っ!」

 長い髪と一緒にくるりと回って、猫の手アピールしながら笑って見せるライラことララちゃん。気の所為だったかな?

「悪い、待たせちゃったみたいだな?」

 三人で雑談していると、メンバー残りの三人が戻ってきた。今日はパーティーを分断して複数のクエストを同時にこなしていたんだ。

「もう、お兄ちゃんがうっかりスローター系のクエスト受けちゃうから、三人とも待たせちゃったよ?」

 最初に声を掛けてきた男の子に並んで、膨れた亜麻色の髪をした女の子が、拗ねた様な声を出す。

 この子はロイちゃん。小麦色のフリルドレスにプレートアーマーを装備した、細剣使いの女の子。最初に声を掛けた男の子、ロアくんの妹さん。

 ロアくんは短い黒髪に赤い瞳をした、見た目頼りなさそうな男の子。でも、顔はかなり良い方だし、妹に優しくて行動的。女性に対してあんまり免疫がないみたいで、ちょっとからかい甲斐のある子。でも、兄妹仲が良いから、からかい過ぎるとロイちゃんの方が拗ねちゃうんだよね。

 装備は短剣の≪フラッシュダガー≫。黒いジャケットの≪クロスジャケット≫。この防具は4層ではお目にかかれず、なんでも6層を見学しに行った時、試しにフィールドのモンスターと戦って、偶然出てきたレア装備らしい。6層の攻略組なら、同じような人は多いかもしれないけど、4層じゃまずお目にかかれないから結構頼もしく感じる。

「まったく、アナタに選択を委ねたのが間違いでした。ツイてませんね………」

 その二人の後ろで、溜息を吐いているお姉さんは、シナドさん。つい最近、お金稼ぎとレベリングのために、一時的にパーティーメンバーになった人。私やリアリアもその一人だけど………。

 ピンクのローブに、両こめかみ部分に羽の付いたブロンドカラーのヘルメット。茶色のブーツ。曲刀シミターに盾をもった戦士タイプ。

 

【挿絵表示】

 

 年長者だけあって、時々私達の行動に「合理的じゃない」と詳しい意見をくれたりする。ちょっと強引なところもある人だけど、基本的に良い人だと思う。

「悪かったって………! でも、二人だってクエストの内容確認してなかったじゃないか?」

「私はほら? お兄ちゃんと一緒なら基本良いし? お兄ちゃん主導?」

 ロイちゃんお兄さん絶賛だね! 仲良いね二人とも!

「新参者がパーティーリーダーをさしおいて行動するのは本来失礼ですから」

 社会だ! さすがシナドさん! 社会人は言う事が大人過ぎて逆に怖い!

「ぷぷっ、ロアっち四面楚歌だ………っ!」

「おいライラ! なんでそこで噴き出してんだよ!」

 恥ずかしそうに突っ込むロアくんに、皆が笑ったり呆れたりしている。

 うんうん! 最初会った時はちょっとシリアスの入ったお堅い感じの人達ばっかりだったけど、だいぶ笑いあえるようになってきたね! ………ララちゃんは最初からそんな感じだった気もするけど?

 

 ドゲシッ!

 

「ぐふっ!?」

 なんかいきなりロアくんがリアリアに蹴られた。しかも顔面。

 リアリアが涙目でなおもロアくんの脚を軽く蹴ってる。なんだろう? 手がチャットを操作してるみたいだから皆で確認。

 

「 ロアさんお疲れ様 」

「 “すろーたー”系ってなに? 」

「 私も御使いクエスト見つけてきました 」

「 たまには私の返事もして欲しい 」

「 ねえ? 皆少しはチャット見て? 」

「 私がチャットばっかりするの知ってるよね? 少しは私の事も気に掛けてよ! 」

「 わたし………淋しいんですけど……… 」

「 蹴っても良いですか? 」

「 蹴ります 」

「 無視しないでよ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!! 」

 

「「「「「何かログ、すごく溜まってるっ!?」」」」」

「ごめんねリアリア! 私、さっきまでチャット開いてたのに気付いてあげられなくて~~~~っ!」

 すぐさま私がリアリアに飛び付き、お詫びのハグ。皆はすごい苦笑い。

「ええっと、待たせたのは悪かったけど、一応情報も幾つか仕入れてきたんだぞ?」

「そうは言ってもお兄ちゃん? その情報って、情報屋じゃなくて新聞みたいな人達が話してた噂みたいなものでしょ?」

「良いんだよ。その中のクエストに関する情報しか使うつもりないんだから! 皆も情報集めてきたんだろ? 纏めて見ようぜ」

 ロアくんがそう返し、皆が集めた情報をシナドさんが纏めて確認していく。ほどなく彼女から大人っぽく艶めかしい溜息が洩れる。

「ただで集めた情報はやはり本場には叶いませんね? 『ギルドリーダー獲得クエストフィールド内に隠された道がある』などと言う眉唾『割に合わない回復アイテム獲得クエスト』などと言うどうでも良いの『それほど必要でもない≪記録結晶≫が面倒な御使いクエストで獲得できる』と言う世間話。はては『ランダム出現のNPC鍛冶屋の強化依頼を受ける事でレアアイテムをゲットできる』っと言う、専用のスキルがないと意味がない物まで………、時間をかけた割には大した情報は無かったですね?」

「ぐう………っ!」

「うぷぷっ♪」

 ロアくんが呻き、ララちゃんがまた笑いを漏らす中、とある情報を耳にした私はシナドさんに飛び付いた。

「今! ≪記録結晶≫がどうとか言った!?」

 

 

 3

 

 

 そんなわけで私は、装備・ポーション類を補充した後で、4層の通称『最後は記録結晶クエ』を開始した。『ソロでも安全』クエストの中なので、よっぽどヘマしなければ安全のはずだ。クエスト全体を通して敵の出現率『低』、敵の最大レベル『7』、最大同時ポップ数『2』、毒・麻痺『なし』。本当はもう1レベルが欲しかったけど、戦闘には慣れてきているし、早めの回復で何とかなるはず。

 パーティーを組んでいた皆を誘っても良かったんだけど、パーティーリーダーはロアくんだし、元々コレのための一時的なパーティーだったし、これ以上はお世話になれないかな? って事で、数時間前にお別れしてきた。でもちゃんとフレンドは交換してきた。

 主街区のメインストリートのNPCを起点に、武器屋のNPCに、青服の通行人NPC、槍装備の衛兵のNPCと、お使いの「目的のモノ」を持っているキャラのフラグを立て、連続的に発生するお使いクエストを受けていく。4人まで受けたところで、次の町のNPCにバトンが渡った。

「ふ~~っ! 街のマップを持ってても、場所ランダムの『青服の通行人』と『槍装備の衛兵』はちょっと見つけにくかった~~!」

 っとつぶやく。そんなに大きな主街区ではないけど、結構探し回った。休憩も挟んで三時間使ってしまった。NPC一人ひとりの話も長いし、さすがクエストを受ける人数が多くないだけある。もちろん、新聞屋の人がいるので少なくもないが。

 とりあえずまだ午前中なので、次の町に行くことにした。

 主街区の外に出た途端、一面の草原が広がっていた。第2層も立派な草原だったけど、これは何とも素晴らしい。1層より少し深い草原、遠くから主街区に流れる河と大きな吊り橋。奥にそびえる、富士山のようにきれいな形の山。5層までは届きようがないので、高さはまぁ、そんなにはないんだろうけどね。

 途中で単独でPOPしている敵を狩りながら昼過ぎに次の町についた。街の正面に大きな山がそびえており、その位置は迷宮区とは反対側だった。近くにはサブダンジョンがあるようだが、山自体はフィールドマップ扱いで、モンスターの沸きなど、特筆して注意すべき点はない。早くクエストをクリアしたいと、はやる気持ちはあったが、まだ4層に来て日も浅いし、夕方までは付近の単独POPのモンスターを狩って終わることにした。

 翌日、朝一で出発した。普通に歩いて二時間はかからない距離だ。モンスターを狩りながらで片道四時間、夕方に町に戻る予定を立て出発した。山のふもとまでは河を上流に向かって順調にたどり着き、ついに登山を開始する。

 

 

 4

 

 

 山の中腹辺りまで来ただろうか? 私は危機に瀕していた。

 ここではモンスターが一度に襲い掛かってきても二体までだと聞いていたけど、私は今、三体の鳥型モンスター≪ガルー≫を相手にしていた。

 失敗したかな? 二体の≪ガルー≫を相手にしていた時、一体を倒したところで丁度リポップが開始されたみたいで、私の目の前に新たな≪ガルー≫が二体出現した。おかげで私は一度に三体………いや、最初に倒した一体も合わせれば四体の≪ガルー≫と戦う事になってしまった。

「こんのっ!」

 片手棍単発ソードスキル≪パワー・ストライク≫で一体を弾き飛ばす。この隙にもう一体と交戦し、吹き飛ばした方が戻ってきたらもう一度ソードスキルで吹き飛ばし、常に一対一の状況を作っていたんだけど、敵が三体ではそうもいかない。一体吹き飛ばしてもまだ二体だ。上手く戦う事が出来ない。

 今まで一人で数体を相手にした事なんて無かったからなぁ………。あったとしてもかなりの安全マージン取ってからだったし。

 山の周囲を回る様に上る坂道で、飛行系のモンスターと戦うのは中々に困難だ。それを初めて知りながら、もう一つまずい事に気付いた。

 戦いに集中し過ぎて自分の足場を気にしていなかった。三体の≪ガルー≫に押され、いつの間にか私は崖を背に追い込まれつつあった。圏外での落下はもちろんダメージとして入る。ここから落ちたとしても一段下の道に落ちるだけだが、飛行系のモンスターが追ってこないとも限らない。落ちれば間違いなく―――!

 考えてる内に一体の≪ガルー≫が突撃してきた。武器で受け止めるけど、衝撃まで殺しきれず、身体が僅かに後ろに下がり―――ズルッ! 足を踏み外した。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っ!!」

 崖を転がり下の道まで滑落(かつらく)してしまう。地面に激突してやっと止まり、慌ててHPを確認する。HPバーは黄色に変わっていたけど、落下ダメージはそれほどでもなかったみたい。

 ほっ、とするのも束の間、三体の≪ガルー≫が上方から滑空するように追いかけてくる。モンスターの追尾性能って、もしかして上下の長さは無視してるんじゃないよね?

 回復する間もなく、武器を構え、敵の迎撃に備える。焦ってソードスキルを使いたくなるけど、ソードスキルは使用した直前は動けなくなってしまう。通常の攻撃力より圧倒的に強いので、つい頼りがちになってしまうが、使いどころを間違うと手痛いしっぺ返しを受ける。

 だから通常はパーティーを組んで、複数で当たるのが定石なのだ。普通、私みたいにソロで攻略する人間はまずいない。そんな事をしても前線にはくらいつけず、中ほどをうろつくのが限界だからだ。

 こうなると、やっぱりあそこで皆と別れたのは痛かったかな?

「―――って、ぼやいても仕方ないし! 根性で何とか倒す!」

 一体の攻撃を受け止め、振り払う。二体目が側面から襲いかかってきたので慌てて薙ぎ払う。だが、三体目への対応が間に合わない。攻撃をまともに受け、数歩下がる。まだHPは赤くなっていないが、回復できない状況では焼け石に水だ。

 負けるかもしれない。そんな気持ちが過ぎった時、『死』と言う現実がこの世界にあるのを思い出し、一瞬だけ身体に恐怖が走った。その一瞬の硬直に、一体の≪ガルー≫が運悪く突撃してきた。

 やられるっ!? そんな戦慄が走った時だった―――。

 

「伏せてっ!!」

 

 背中を打つ声に合わせて屈み、同時に後ろを振り返った。

 こちらに向かってくる黒髪の少女が見えた。彼女は槍の突撃系ソードスキルを使い、こちらに飛び込もうとしているが、それでもまだ距離が―――!?

「りゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 届いちゃったっ!?

 五、六メートルはあったんじゃないかと言う距離を、ソードスキルのアシストがあったとは言え、たった一歩で踏破した女の子は、私に突撃しようとしていた≪ガルー≫をカウンター気味に突き刺し、後方へと押しやる。

 着地した女の子は後ろに結わえた髪を尻尾みたいに揺らし、袖長の和服を身に纏っていた。頭に引っかけられている狐の面が、なんだか怪しい雰囲気を醸し出している風にも見える。

 三体の≪ガルー≫は、彼女を敵と認識したらしく、一斉に攻撃を開始し始めた。

 まさかの一斉攻撃に、慌てる私を余所に、狐の子は槍を巧みに操り、三体の≪ガルー≫の攻撃を次々といなしていく。左右から同時に攻撃が来るが、槍の穂先と石突で同時に受け止め、攻撃を相殺すると同時に身体をくるりと回転させ、正面の一体を斬り付け、攻撃をいなす。

 三体の攻撃をいなせば、休む事無く槍を操り、切り上げる様にして一体を斬る。水が流れる様な動作で攻撃を止めず、くるりと回ってもう一体も斬り付ける。

 なんて優雅なんだろう………。まるで槍が意思を持った小動物であるかのように動き、鋭い牙を突き立てるかのようだ。

 そんな感想を抱いた瞬間、見えた。彼女が目を瞑っているのが。

 長い前髪で少し隠れているから、見間違いかとも思ったがそんな事は無い。本気で目を瞑ったまま戦っている。

 なんなのこの子っ!?

 驚いていると、一体の≪ガルー≫が大きく旋回し、狐の子の背後を取ろうとした。

「あ―――!」

「サヤさんっ!!」

 私が「危ない」と叫ぶより早く、誰かが私を追い抜き、手にした剣で≪ガルー≫を弾き返す。

「一人で先走らないでください! 心配するじゃないですか!?」

「だ、大丈夫だもん! このくらいの相手!」

 くすんだ灰色のローブをマントみたいにした男の子が、片手剣を構え、狐の子の背後を守る。二人は共闘して互いの背を守りつつ攻防一体の演武を舞い始める。

 まるで剣の舞だ。狐の子が完璧な防御に徹し、片手剣の子が素早く敵を切り裂いて行く。怒涛の様な演武は、まるでモンスターの方まで演武の一部として協力しているかのように見えてしまう。二人が攻撃を放った姿勢のままピタリと動きを止めた瞬間、三体の≪ガルー≫は同時にポリゴン片となって爆散した。

 な、何これ? 私、どっか漫画の世界にでも入り込んだ?

 そんな風に呆然としていると、やっと目を開けた狐の子が、背後の男の子を確認して―――同時に振り返った男の子が心配そうな表情を向ける。

「サヤさん! 怪我とかしてませんか? 大丈夫でしたか?」

「あう………っ!? だい、じょうぶ………」

 あ、あれ? なんか狐の子―――サヤ? って言うのかな?―――が、顔を赤くして明後日の方向見てるんだけど………、何この態度? すごく解り易い。

「おお~~い!」

「お二人とも早すぎます~~~!」

 また背後から声がして振り返ると、小さな女の子と、右側半分の髪をバックにした半眼の男の子が………何故かNPCらしき男の子と一緒に駆け寄ってくる。

 えっと………? これどんなパーティー?

 

 

 5

 

 

 先程助けた女の子、フウリンに軽く自己紹介した僕達は彼女が一人でこの山に登る理由を聞いた(自己紹介の時、ケンがまたNPCと間違われたけど)。どうやら僕達と同じく≪記録結晶≫が目当てだったみたい。

 僕達のパーティーは僕の他にワスプ、ケン、クロン、アルカナの五人パーティーで来ている。スニーは近況報告してくれた後、攻略に戻ると言って先に6層に行ってしまった。なので、パーティーメンバー上限には、あと一人だけ空きがある。ソロで山を登ってきたというフウリンを加えて、パーティーを組み、頂上を目指す事になった。

「と、とりゃあっ!」

 フウリンが根を振り被り、一撃を放つ。一体の≪ガルー≫に命中し、僅かに仰け反った。そこ目がけてクロンが素早く地面を蹴っり、一撃斬り付ける。少し間をおいてから飛び出したアルカナが前衛に変わってタゲを取る。

「はあっ!」

 敵の一撃を上手く躱したアルカナが≪フラクラム・サルベージ≫を見舞う。

「フウリン! スイッチ!」

「はいさっ!」

 同時に入れ変わったフウリンが≪サイレント・ブロウ≫でトドメを刺し、撃破する。

「ナイス………」

 もう一体の≪ガルー≫を相手にしていたケンが呟き、敵を蹴飛ばすと、ワスプの方にタゲを移動させる。

 ワスプは怖気ることなく正面から迎え撃ち、手にした短剣で通り過ぎ様に斬り付け、背後に回ると同時に≪クイック・チェンジ≫で片手剣を呼び出しトドメの≪バーチカル・アーク≫を見舞う。

 ポリゴン片になる≪ガルー≫を見ながら、僕はワスプの独特な戦い方に興味を惹かれていた。

 一つの戦闘に複数の武器を使い分けて戦うスタイル。システム的に≪装備している≫と判断されない≪クイック≫以外の手段で武器を持ってもソードスキルは使えないけど、それでもワスプの戦い方は興味深くはある。今はまだ未完成な気もするけど、きっと完成したらカッコいいんだろうなぁ~~。

 なんて漠然と思いながら眺めていたら、僕の視線に気づいたワスプが振り返ってニッコリ笑い掛けてきた。

「~~~~~~っ!!」

 う、うわっ! 恥ずかしいっ!!

 視線を逸らすのが失礼な気もしたんだけど、どうしても見つめ返せず槍を抱きしめながら先を急いじゃう。ワスプ今ので気を悪くしてないかな? でも、今絶対顔が真っ赤になってるし、あんまり見られたくないなぁ………。

 

「………ふふ~~んっ♪」

 

 僕達のパーティーで主に戦っているのはワスプを中心に、フウリン、クロン、アルカナの四人だけだ。なんせ、僕とケンは最前線を拠点に攻略している攻略組メンバーだ。いくらボス戦経験0の僕でも、4層で後れを取る事は無い。むしろ下手に僕達が戦えば、経験値ドロボーも良いところだよ。経験値の獲得内容は、モンスターに与えたダメージに比例するからね。僕達は適度に敵をいなす事だけに集中した。

 そのおかげなのか、山頂近くまで来た頃には四人ともレベルが一つ上がっていた。

 このまま山頂に着いて≪アネモネの花≫をゲットできれば、何事もなくクエスト達成だ。

 そんなおり、僕が先頭に立った時、フウリンが隣にやってきて小声で話し掛けてきた。

「ねえねえサヤちゃん?」

「なに?」

「もしかしてワスプくんって、サヤちゃんの彼氏さん」

 

 思考停止………。

 脳内コンピューター異常加熱により脳内活動の完全停止………。

 

「落ちます! サヤさん落ちてます!?」(クロン)

「うわ~~~っ!? サヤちゃん! そっちは崖~~~っ!?」(フウリン)

「サヤさん正気に戻って!! 僕の手を取ってください! 落ちてるんですよ! 解ってます!?」(ワスプ)

 

 ちょっと、すません。

 閑話休題。

 

 

 とりあえず皆に引き上げてもらった後もしばらく爆発状態だった僕が冷静に戻った時には、結構な時間経ってましたすみません………。

 今度は最後尾から皆の後を付いて行く僕に、フウリンは隣で苦笑いを浮かべてる。

「ご、ごめんね! まさかあんなに反応するとは………!」

「あぁ~~~………! 破壊不可能オブジェクトじゃなかったら穴掘ってるよ~~~っ!」

 顔の赤みが全く抜けなくて、さっきから頬がアツアツだよぅ。スニーがいつもやってるみたいに片頬に手をやりながら恥ずかしがる僕に、フウリンは声を潜めてまた訪ねてくる。

「それで? ワスプくんとはどうなの?」

「つ、付き合ってないよぅ!? 僕、そう言うの解んないし………!」

「またまたぁ! 気にしてないならそんなに意識したりしないでしょう?」

「そ、それは………!」

 僕は一度皆の方に視線をやって、ついでに気配も探り、こっちの話に聞き耳を立てていないかを確認する。

「………耳そばだてないでよケン」

「何故ワカる………」

 渋面になるケンに、アルカナに抱っこされたクロンがケンの耳を引っ張って前方へと移動。気を使ってもらったようだ。

 今度こそ誰も聞いていない事を確認してから、僕は片手で口を隠してフウリンにヒソヒソ話をする。

「あ、あのね………? 僕がワスプを気にしてるのは………? 別に僕が好きだからじゃなくてね………? その………」

 ワスプ本人に告白されたからです………。

「ふんふん? なるほど。………ほぅわぁ~~~~!」

 突然フウリンが目を輝かせて喜んだ。何この反応? 今まで見た事―――いや、なんかスニーが意地悪する時に似てる気がする。

「そ、それは! ワスプくんがんばったねっ! その時どんな気持だったっ!?」

「ど、どんなって………? フウリン、顔近い。当たる当たる。僕触られるの苦手だから当たらないでよ?」

 普段は当たらなければ近いのは平気なんだけど、今のフウリンはちょっと怖い。

「いいからいいから! お姉さんにちょっと詳しく話してみ?」

「お姉さんって………、僕とフウリン二つ位しか歳違わないよね?」

「充分です!」

「何処から来るの? その無意味な自信?」

 なんて渋りながらも、恥ずかしいだけで隠す様な事でも無い。だから押しの強いフウリンに負けた僕は、極力声をひそめながら教えた。

「え、えっと………、最初は何言われたのか解んなくて………、でも、言われた内容が理解出来たら、男の子に生まれて初めて告白されたんだって解って………、僕みたいな魅力に欠ける女の子を好きだって言ってくれたんだって思って………、そしたら、胸の方が熱くなって、とってもとっても嬉しくて………、なんて言うか、ぽわぽわした感じでね? 上手く言えないけど………、ともかく頭の中まで全部熱くなって、気付いたら………気を失ってました」

 頭が沸騰する程恥ずかしがりながら、落ちつかなくて両手の指を無意味に遊ばせていたり、視線を明後日に向けたりと、会話中に落ち着きがないところを見せてしまった。おまけに最後は『気を失った』なんて………、さすがに呆れられちゃったかな?

「か―――っ」

「ふえ?」

 フウリンが俯き、肩を震わせている。もしかしてじれったくて怒らせちゃった?

「可愛い~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!!!!」

「うわああああぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!?」

 手を万歳して絶叫するフウリン。テンション高いよどうしたの!? 僕の悲鳴も軽く掻き消されたよっ!?

「可愛い可愛い可愛いっ!! なんなのこの子っ!? 恋話(コイバナ)ほど女の子が盛り上がる話は無いけど! サヤちゃんは思いっきり初々しくて可愛いです!! もうずっと御嫁に行かずドキドキしててください!! って言うか私が貰っても良いですかっ!?」

「解んない! 解んないよ!? フウリンがいきなり何言い出してるのかよく解んないけど………っ! その、今にも飛び付いてきそうな手をまずは引っ込めてくれないかなっ!? 僕、今までで一番身の危険を感じてますっ! あと、皆に聞こえるから大声出すの止めて!」

 ぜえ、ぜえ、と二人で息を整えてから話を戻す。皆がちょっと心配そうな視線を送っていたけど、僕には軽く手を振って「たぶん大丈夫~~」っ的なアピールをする事しかできない。

「いやぁ~~! そうかそうか! こんな状況になっても、こうやって淡い恋の花を咲かせている子もいるんだねぇ~~!」

「あうぅ………」

 恥ずかしい。ホンット恥ずかしい………。

 他人に自分の恋愛話聞かせるのって、こんなにも恥ずかしいものだったんだ………。今度からこう言う話をする相手は選ぼう。ウィセ辺りとか冷静な子が良いよね? って、ウィセには見捨てられたばかりでした………。

「そっかそっか~~! 初々しいね~~! 青春だねぇ~~! お姉さんもつられてドッキドキだねぇ~~!」

「うぅ………っ! フウリン、いい加減にしないと僕でも殴るよ?」

 羞恥心の限界で物騒な事を言い出す僕を軽くスルーして、フウリンは少しだけ表情を改めて問いかけてくる。

「それで? サヤちゃんはどうするの?」

「え? どうするって………」

「ワスプくんと付き合うの? ふっちゃうの?」

「それは………」

 僕は、どうしたいんだろう?

 ワスプの事は嫌いじゃないよ? でも、好きなのかと聞かれても、判断に困る。

「彼の事嫌い?」

「そんな事は無いよ」

「じゃあ、好き?」

「………好き、じゃないと思う」

 僕はまだワスプと知り合って数日くらいしか経っていない。彼の事を好きになる程、彼の事を知ってはいないんだ。だから、僕は彼を『好き』とは言えない。

 でも、嫌いになる程の事をされた事はないし、そんな話も聞いた事がない。だからやっぱり嫌いじゃない。

「『好きじゃないけど嫌いでもない』だから、どうして良いのか解んないって感じ?」

「うん………」

 ワスプに対して失礼だと思い、ちょっとしょんぼりしながら頷くと、フウリンは「うんうん」と頷いてみせる。

「なるほどね。確かに、付き合いの長い人相手なら答えも出るだろうけど、知らない人からじゃ困るか? でも、知らない人相手なら、付き合う気はないからって断っても良いんじゃない?」

「そう言うの、ラジオとかではよく聞くけど、そんな事が出来るのは普段から告白されてる人くらいだよ。それにさ………、ワスプはずっと僕の事好きになってて、やっと会えて、想いを伝えてくれたんだよ? それにちゃんと応えないのって、不謹慎とかいう問題じゃ済まないと思う」

「ふぅ~~ん………。なるほど! サヤちゃんは優しいねぇ~~! でも、それで答えを先延ばしにするのも、男の子にはかわいそうだよ?」

「う、うん………」

 そりゃ、解ってるつもりなんだけど………。

 でも、何も解らない状態じゃ、何もできないって言うか………。

「そこでお姉さんから一つだけアドバイスです!」

「え? なに?」

「もし、サヤちゃんがもう少し考えても答えが出なかったら、その時はとりあえず付き合ってみたら良いと思うよ?」

「え? え? でも、それってまだ僕の答えが出てないんだよね? それで付き合うのおかしくない?」

「そんなことはないけど………。こう言うのってね? 先延ばしにすればするほど、その状態が楽に思えてきて、いつの間にか今の関係のままを望んじゃうんだ。そこから進む事も戻る事も怖くなっちゃうの。それで、考える事もしなくなっちゃう。そのどっち付かずの距離が、案外居心地が良いんだろうね? でも、男の子からしてみたら、それってもう殆ど望み薄で、でも望みが切れたわけじゃないから、別の子を好きになる事も出来なくて、とっても苦しい思いをする事になるんだよ」

「そ、そうなの………?」

「そうなのそうなの! だから、そうならない様に、一度『お試し期間』って事で付き合ってみるの! もし好きになれなかったら、そこでお別れ。付き合ってみてもダメだったんだから、これはもうしょうがない。好きになれたら、そのまま付き合っちゃえばいいんだしね?」

「で、でも………、そんな簡単に付き合ったりして良い物なのかな?」

「とっかえひっかえはダメだよ! そんな不謹慎はお姉さん許しません! でも、サヤちゃんが真面目にワスプくんの事考えるって言うなら、それも一つの手段だと思います! もう少し考えて見て、答えが出なかったら、そうして見ても良いんじゃないかな?」

 そう言ってフウリンは優しい笑みを向けてきた。

 そっか………、そんな考え方もあるんだ………。

 確かに、今の僕がどんなに考えても、男性経験0の僕には考えるだけの材料がそもそもない。だったら、一度ワスプと付き合ってみる事で、自分の基準と言う物を見つけてみるのも手なのかもしれないよね? うん! その事も踏まえて、もう少し考えてみよう!

「ありがとうフウリン。ちょっと考えて見るね」

「おうおう! サヤちゃんは笑ってる顔が可愛いよ! その調子で笑顔で行こう!」

 あははっ! と二人で笑い、頂上付近が見えてきた。

「あ、頂上!」

 気付いた僕は楽しい気持ちに押されて走り出す。隣にいたフウリンも一緒になって走り、頂上一番乗りを狙う。

「わっ! サヤさん!」

「転ぶなよサヤ~~」

 ワスプとケンに「気を付ける~~~!」と返事をしながら頂上まで走る。

 フウリンと並び頂上に辿り着いた僕は―――そこに、居るのを………見た。

 

 赤い髪を二つに結わえ、外套と一緒に風に靡かせ、腰に見覚えのある剣の柄を覗かせる。ゆっくりと振り返り、彼女(、、)の髪以上に怪しく赤い瞳が真直ぐ―――。

 

 気付いた時、僕は槍を落とし、自分の身体を抱きしめて跪いていた。落とした槍がカタリと音を鳴らし、隣にいたフウリンが僕に気付く。

「どうしたの? サヤちゃん?」

 身体中が勝手に震えあがり、返事をまともに返す事さえできない。

 人通りの無い圏内で、何度も受けた赤い閃光を思い出す。心が砕けそうになるほど、何度も何度も弄ぶように斬りつけられた事は身体中が憶えている。

 震える僕を見て、こちらに気付いたらしい赤い少女は………ニヤリと笑った。

「あら? お久しぶり? こんな階層に居るなんて、もしかして私の事追いかけてきちゃったのかしら?」

 剣の柄に手を掛け、彼女はあの時と同じ笑みを湛えながらゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 此処に至って、フウリンもやっと危機感を抱いたらしく、根を構えて緊張した面持ちになる。

 赤い少女が………アイリオンが踏み出してくる度に、足音がやけに耳に付き、あの時の恐怖が僕の全身を支配していく。心が先に音を上げ、決壊しそうになった時、僕の前に躍り出る影があった。

「それ以上近寄るなっ!」

 片手剣を構えたワスプが、牽制するように叫ぶ。

 彼の両隣りに、ケンとアルカナも並ぶ。

「サヤさん! しっかりしてください!」

 僕の傍に走ってきたクロンが、心配そうな声を上げる。

 皆が駆け付けて来てくれた事で、やっと安心感が身体の束縛を和らげてくれた。きつく抱きしめていた手をゆっくり解き、一つ深呼吸をして落ちつかせる。

「うん、もう大丈夫………」

 答えた僕は槍を拾い、三人の後方で構える。

 この中でレベルが高いのは僕とケンだけだ。ワスプもそれなりみたいだけど、まだ僕達と比べるとどの程度なのか解らない。解っている僕達ががんばっていかないと!

 僕に合わせてクロンとフウリンも改めて武器を手にする。完全な臨戦態勢を取る僕らに………アイリオンは意外なほど興味なさそうな表情でツインテールの片方を手で払う。

「あのさ? やる気なのは良いんだけど………? 戦う意味あんの?」

「それをお前が言うのかよ!」

 アルカナが尤もらしい事を言う。何か実感が籠っている辺り、彼等もアイリオンと接触した事があるのかな?

 正面から怒気が立ち上(のぼ)る。僕に背を見せるワスプが、静かだけど、かなり昂った怒気を放っている。

「サヤさんに何をした………?」

「何もしてないわ。今回は、ね………?」

「………っ!」

 ワスプの怒気が高まり、一瞬、飛び出そうとする気配を放つ。だけど、それより早くケンがワスプの前に出て動きを制止した。

「一つ訪ねるケド、アンタがアイリオンでOK?」

「さあ? もしそうだったら?」

「ルナゼスが探シテる奴で良いノカ?」

 ケンの質問にアイリオンの表情が目に見えるほど剣呑になった。

 この気配の感じ………、なんだろう? 嫉妬にも似てるけど、何処か嫌悪感も混じっている気がする? 嫌悪感は誰に? ナッスー? それともケン?

 僅かにアイリオンの視線が下がる。アレは何処を見てる?

「ギルドマーク………。アンタら三人は同類って事? そう言えば前にぶっ倒した女二人組が『サヤ』がどうこうって言ってたっけ?」

「! それって………ウィセの事?」

 仲間が標的になったと知ると、不思議と腹が立ってくる。この人、何だかヤダ………。

「名前なんて聞いてないわよ。それより、やり合う気がないなら私から一つプレゼント」

 “プレゼント”と言う言葉に皆が緊張を走らせる。一体何をしてくるのか?

 だが、彼女が口にしたのは、意外な言葉だった。

「『ごめんねルナ。でも、私を追ってきちゃダメだよ』って、伝えておいてよ」

 それだけ言うと、彼女は懐から≪転移結晶≫を取り出す。

「! 待てっ!」

 ワスプが慌てて追いかけようとするけど、アイリオンが鋭い視線を送り制止する。

「止めておきなさい。ここは圏外よ。私の攻撃力に、今のアンタらが耐えられるわけないでしょ?」

 それだけ言い残し、アイリオンは転移した。

 彼女が姿を消し、やっと緊張が解けた皆が構えを解く。

 大きく息を吐いたフウリンが、緊張したと言う風に声を漏らした。

「なんだったのあの子? 一体何者?」

「解んないけど、あの子、ウチのギルドメンバーの知り合いみたいなんだ? でも突然いなくなって、たまに私達が会えてもこんな感じだし………、僕の時は、圏内でいきなり攻撃されて、手も足も出せなかった………」

「サヤさんにもっ!? ………くっ! 僕達の時もそうだった! いきなり攻撃を仕掛けて来て………! なんなんだ! 一体何が目的なんだよっ!?」

 ワスプが憤りを露わに声を荒げ、僕とクロンが同時にビクつく。それに気付いたワスプは、すぐにいつもの表情に戻って「ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃいました」っと謝った。

「別に良いよ。いきなり攻撃されて、その理由が解らないと腹も立つよね?」

「あ~~~………、サヤ、ワスプが怒った意味違いマスヨ?」

 ケンが半眼で教えてくれるが、意味が解らず首を傾げてしまう。

 何故かアルカナまで「この子、告白されててなんで解らん………?」って呟いてるし、クロンまで若干、残念な人を見る様な眼をしている。僕何かしたかな!?

 慌てる僕に、後ろからフウリンが耳打ちしてくれる。

「サヤちゃん、ワスプくんが怒ったのは、だ~い好きなサヤちゃんを、自分の知らないところで傷つけられていたと知ったからだよ~~!」

「―――ッ!!」

 

 ドカンッ!!

 

 なんて音がしたんじゃないかと思う程、一気に顔が熱くった。ううん、顔だけじゃなくて全身が熱い! 一瞬でも気を抜いたらそのまま気を失ってしまいそうだよっ!!

「ええっと、えぇ~~っと………っ!?」

 え? なに? こう言う時何言えば良いの!? なんて返すのが無難なの!? お姉ちゃん教えて!?

 

幻想姉1『妹よ! こう言う時は服を脱ぎ出すのだっ!!!』

 

 死ねば良いよこの姉はッ!!

 

幻想姉2『妹よ! こう言う時はしりとりして誤魔化すのだ! “ん”からスタート!』

 

 それから始められる単語をお姉ちゃんは知ってるのかなっ!?

 

幻想姉3『妹よ! こう言う時は「ワスプくんのエッチ~~!」っと言いながら走り去るのだ!!』

 

 僕、死んで良いかなっ!?

 

幻想姉4『面倒な妹だな………、じゃあ、もうとりあえず“笑顔でありがとう”で良いんじゃない………?』

 

 最初からそ言う無難なの言ってよっ!!

 って、僕の想像した脳内お姉ちゃんに、何一人で振り回されてるんだろう………? 僕の中でのお姉ちゃんってこう言う印象だったっけ? それとも、これが最近流行りの、病気じゃない、“お年頃病”? そう言えば、年齢的に僕その辺だよ………。

 などと羞恥心で混乱した思考を混乱させたまま、とりあえず出た結論に従い、上手く笑えるかも解らない状態ではにかみながら―――、

「あ、ありがとう………!」

「――――っ!!!」

 

 ボカンッ!!

 

 今、そんな音がした錯覚を得る程、ワスプが一瞬で真っ赤になった。

 お姉ちゃん失敗です。どうやら僕は、仲間を一人増やしただけの様です。このままだと羞恥心に負けて気を失うと言う選択肢しかなくなってしまいそうです。って言うかしても良いですか? 失神?

「え、ええっと………、なんかもう初々し過ぎてこっちが恥ずかしくなってきたから、この辺で≪アネモネの花≫取りに行かない? 何気に日も傾き始めたし?」

「そ、そうだね! そうしようフウリン!?」

「解りました! その方向で行きましょう!」

 フウリンの提案に速攻で乗っかる僕とワスプ。

 うぅ~~………、僕達普通に話せる時ってくるんだろうか?

 

 

 

 6

 

 

「≪記録結晶≫ゲット~~~ッ!」

 すでに夕方になっており、サヤちゃんと出会った山に夕陽が差し掛かっている頃合い、主街区≪ラッテン≫まで戻ってきた私達は互いの労(ろう)を労(ねぎら)い合っていた。

「いやぁ~~~! ホントお疲れサヤちゃん! 今日はありがとうね!」

「ううん、僕の方こそ、なんか相談乗ってもらってありがとう」

「そんなの、お姉さんが勝手に御世話しちゃっただけですよ? むしろ、その後の進行状況を聞かせてもらいたいです!」

「あ、あはは………っ」

 苦笑いするサヤちゃん。うんうん! この子はどんな形でも笑顔がよく似合う子だね~~~っ!

「ところでフウリンは≪記録結晶(メモリー・クリスタル)≫なんて、何に使うつもりだったの? フウリン新聞屋さんだったの?」

「ううん? 私はこれで景色を撮ろうと思ってるんだ!」

「けし、き………?」

 ん? なんで、ここでサヤちゃんは首を傾げるんだろう?

 まだ短い付き合いだけど、この子は一々反応が素直だ。首を傾げると言う事は、本気で意味が解っていない時だけのはずなのだが………?

「景色って………、この景色?」

 サヤちゃんが周囲を漠然と眺めながら問いかけてくる。

 そ、そりゃあ、これも景色と言えば景色なんだけど………。

「そうじゃなくて………、私が撮りたいのは絶景! もっと綺麗だったり広かったり! 世界って物を実感させられる景観を撮りたいの!」

「? それ、楽しいの? 僕はてっきり記念写真みたいなものを撮るのかと思ったけど?」

「まあ、記念写真でも良いんだけどね? でも、それにしたってバックが物凄く綺麗な景色だったら、とっても楽しい気持ちになるでしょう?」

「う、う~~~ん………っ?」

 おやおや? サヤちゃん、よく解ってないみたいに唸り始めちゃった?

 他の皆はなんとなく解ってくれたみたいに頷いてくれてるし、私の説明が悪いわけじゃないんだよね? ワスプくんも若干難しい顔してるけど………。

「?? やっぱり解んないや………。そりゃあ、初めてこの世界に来た時は、広い世界を目の当たりにして、感動したけど………。あれとはちょっと違う気もするし………」

「意味合いとしてはその感動と間違ってないと思うんだけど………? サヤちゃんだって時々眺めの良い場所とか見つけたら、『わあ! 綺麗~~!』ってならない?」

「そんなの今まで見たことない………って言うより、僕、見た目の善し悪しって、まだ全然解んないんだよね………」

 うわぁ~お………? この娘もしかして意外と面倒な感性の持ち主でしたか?

 うう~~ん? そうなると説明するより見てもらった方が早いんだけど………、そんな都合の良い場所あったかなぁ? さっき登った山の頂とか、ゆっくり見てたら充分絶景だったけど、あの時は皆眺めずに帰っちゃったからなぁ? まあ、あの赤い子がいた所為もあったんだろうけど………? 他に良い場所あったかなぁ?

 私が思い悩んで、ふと視線を上げた時、空に赤く輝く夕日が視界いっぱいに広がった。

「夕陽がキレイ………。そうだ! サヤちゃんちょっときて!」

「ひゃひぃっ!? な、なにっ!?」

 私はサヤちゃんの手を取って走り出すと、主街区を少し出た、とある場所へと連れて行く。そこは昨日、私がパーティーを組んでいた時偶然見つけたスポット。

 そこはモンスターの出現も少なく、広いフィールドの割に家の様な建造物もまったく見えない。周囲には4層で聳える山の全てが一望でき、中々の圧巻を感じさせる。

 此処に来た時思ったのだ。昼間は何でも無い光景だったけど、もしここが夕方になったら、きっとすごい事になるって!

 一面に広がる草原と河と大きな吊り橋。奥にそびえる、富士山のように綺麗な山には夕陽が差し掛かり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 だけど何よりすごいのは、この草原の中心に立ったこの位置だ。夕陽の方角を見れば綺麗な山と夕陽の絶景が、九十度ほど右に視線をずらせば、傾いた日の光に照らされ、陰影を強くした大自然の力強さを見せる山の絶景が、更に九十度ずらせば、今度は真っ向から夕日に照らされ真っ赤に染まる山々の絶景! 百八十度が太陽と山のアートを創り出す、正に大自然の芸術がそこにはあった。もしこれが、狙って作られたものだとしたら、このフィールドの製作者は自然って物を大変理解してるよ!

 私が予想していた以上の絶景が広がる中、私に引っ張られてきたサヤちゃんは………、おおっ! 想像以上! 涙まで流す程に感動しちゃってるよっ!?

 これはもう、胸張るしかないよね!

「どう? 凄いでしょっ!」

 これが絶景だ! そう言うつもりで自信満々に言ってやると、サヤちゃんは本当に嬉しそうに頷いてくれた。

 そこで私はもらいたての≪記録結晶≫を取り出す。

「私ね、こんな感じの、いろんな景色を見るのが好きなんだ~。この≪記録結晶≫で、自分の………心の写真? っていうのかな? この世界は死と隣り合わせだけど、どこもすごく綺麗で、私は好きなんだ! だからアインクラッドで、いつでも元気がもらえるような風景を撮りたかったの。よければ………ここで私と一緒に写ってくれないかな?」

 笑い掛ける私に、サヤちゃんもあの魅力的な笑顔を振りまいて応えてくれた。

「うん!」

 その後、ゆっくり追いかけて来たらしいサヤちゃんのパーティーメンバーの一人に頼んで、私達は二人で写真を撮る事にした。

「じゃー、ピースね!」

ぴーす(、、、)?」

「ん? こういう時は、やっぱりピースじゃない? 指をこーやって、ブイッ! だよっ!!」

 直接サヤちゃんの手を取って『ピース』の形を教えてあげると、サヤちゃん、何だか思いっきり抵抗してきた。

「さ、触らなくて良いから~~~!」

 楽しいので無視して『ピース』作りの指導をしばらく続けて見たけど、途中で本気で泣きそうな顔になったので慌てて止めました。

 反応は面白い子だけど、本気で触られるのはダメな子なんだね………。程度を間違うと嫌われちゃいそう。今後気を付けよう。

「おい、撮るぞ~~~?」

 アルカナに呼ばれ、私達は一度視線を合わせると、互いにニッコリ笑って同時に掛け声!

「「ピース!」」

 

 パシャリン♪

 

 

 

「ありがと~! 見て見て! すっごくいい写真が撮れたよ~!」

 私は出来たての写真(この世界的に言えば静止画なのかもだけど?)をサヤちゃんと一緒に肩を並べて見る。うん、この子触られるのダメなくせに、ホント距離感に無頓着だ………。

「綺麗な写真………。見てるとなんだか楽しくなってくる」

「そりゃ~、サヤちゃんがすっごい笑顔で写ってるからじゃないかな~?」

 決め台詞っぽく私がそう言うと、サヤちゃんは「そうなの?」っと私の顔を覗き込んできた。サヤちゃん? 顔近いよ? 私が男の子だったらワスプくん嫉妬モノだよ?

 こうして、私達の不思議で楽しい出会いは終わりを告げた。

 でも、これで全部終わったわけじゃない。この時出会った皆とはフレンドを交換し、サヤちゃんからは近い内にとあるイベントに御呼ばれしてもらった。

 私は再びソロに戻りながら、少しだけ考えて見る。

 これから先、私は何を目標にしていくべきなのかと?

 そんな未来のビジョンは、上手く決まらないけれど、とりあえず、綺麗な景色があったら、絶対に見逃さないと決めた。そのためにもまず、≪記録結晶≫をもっと欲しいかな?

 うん、ならとりあえず、またパーティーを組んで行こう。戦い方も沢山学ぼう。そしていつか………! いつか、最前線で戦っていると言うサヤちゃんのギルドにも負けない! 一流のプレイヤーになってやろう! 今度会う時は、彼女を驚かせてあげられるくらいに!

 

「おいゼロ? さすがに俺達三人で最前線は危険じゃないのか?」

「そう思いますか?」

「さすがに思うだろう? ≪スペシャルウェイポン≫結成したのは良いけど、三人はきついだろう?」

「タケ、シヨウ、僕はそう考えてないんですよ? これでも充分な戦力が整いつつあると思っています」

「何故そう思える?」

「盾役のタケが居てくれるだけで充分なんです。あとは攻撃役が二人。僕には充分だと思いますよ?」

「いやいや、せめてもう一人くらい探そうぜ? さすがに攻撃役がシーフ二人はきついだろう? せめて、もっと攻撃力のある………」

「ふう………、そこまで言うなら仕方ありませんね。解りました。そうしましょうか? ………やはりサスケくんを引きとめられなかったのは痛手でしたかね?」

 

 ちょうど良いところに困ってるパーティーが居る。攻撃力のあるパーティーを探してるみたい?

 よっし! とりあえずあのパーティーから始めて見ようかな?

 私はサヤちゃんみたいな元気いっぱい満面の笑顔を振りまき、彼ら三人に向かって声を掛ける。

「すみませ~~ん! 私と、少しだけパーティー組んでくれませんかぁ~~!」

 




とりあえずイベント01を書き終えました。
しかし、半分は『風紋』に提供してもらった内容だけに、ちょっと気が引けますね?
一応、新キャラ達もできるだけ絡ませて見ましたが、他の人達は納得してくれたでしょうか?

今回のアイリオンは何もせずに去って行きましたね。フウリン以外とは既に戦った後ですし、興味がなかったのかもしれません。

以上、フウリンメインのストーリーでした!

さて、お次はクロノメインのお話。第6層ボス戦となります。お楽しみにぃ~~~!
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