まだ残してる所あったら連絡ください!
9
他人の気持ちが解らなくても、自分の行いを恥じる気持ちくらいは彼女にも充分理解出来た。きっと、今みたいな自分の行いこそ、恥と言う物なのだろう。
「き、機嫌直してくれましたか?」
「ええ、まあ………、先程は取り乱してしまいました」
連れの男、ルナゼスにクレープ(の様な物)を奢ってもらったウィセは、大して甘くも無い甘味(?)を胃袋に収め、自分の行いを振り返る。
アレはさすがに無い。あの子の混沌さと行動力に関しては今に始まった事ではないのに、それを、またもや新しい仲間を入手しようとしているからと言って、その程度で腹を立てても仕方が無い。いくら自分の預かり知らぬ所で勝手をされたからと言って、それをまったく関係の無い者を相手に怒鳴るのは間違っていた。
(なんであんな事をしてしまったんでしょう? やるにしてももう少し伏線を引いて、自分の安全を確実にするべきでした。それをあんな短絡的に………)
短慮な自分の行動に溜息を吐くウィセ。彼女の中には八つ当たりしてしまった事に関する罪悪感は微塵もない。感情と行動を直結させてしまった事に恥じているだけだ。
ちなみに彼女の名誉のために記しておくが、決して食べ物に釣られて大人しくなったわけではない。寧ろ彼女の暴走はあっさりする程すぐに沈静した。ただ、鎮静するのが早過ぎて、逆に止めるタイミングを見失っていただけだ。
(あんまり早く落ち着いてしまっては、相手からの怒りを買いますからね………。『自分が悪かったのか?』っと、疑問に思ってもらわなければ………)
そんな理由で、彼女はルナゼスが許しを請うまで………途中から冷静に八つ当たりしまくっていた。
っとは言え、ここで放置された事の貸し借りを全て使いきったのでは意味が無い。そのため、ウィセはつんけんした態度でのぞみ、しばらく相手の様子を窺っていた。
もし、途中で逆切れするようなら仲間として置いておいても途中で暴走するだけだ。早めに切り離すのが良い。そうでない場合は長く使う事が出来るので、途中で許す事にしている。
(それにしても余計な事で時間を潰してしまいました………。道案内程度の恩など、いつでも帳消しにできそうな物。かと言って恩ばかり売っていては、いずれバカでも利用されている事に気づいてしまう。これからもずっと一緒にいると言うわけではないのですが………、出来れば距離を置いても利用したい時に利用できるのが望ましいです。何とかして向こうの方からこちらに興味を持ってもらいたいところなのですが………?)
悩むウィセの傍ら、ルナゼスは密かに考えていた。
(ウィセの奴、さっきはなんで怒ってたんだ? やっぱり放っておかれたのが嫌だったのかな? 一応女の子だし、やっぱり構って欲しい物なのか?)
現実では三人の義妹を持っているルナゼスは、彼女達に甘える勢いで懐かれている。更に言えば、同級生のとある人物にも一緒に歩いている時に、別の誰かと(主に女性)話していると、大変機嫌が悪くなるのだ。彼は、女の子は誰でも放っておかれるのが嫌なんだと結論付けている。
もちろん、それは勘違いであり、男子の妬みを集める要因となる物なのだが………、この場合はどちらにしても勘違いである。
「ん? なんか騒ぎになってるぞ?」
「そのようですね」
二人が人だかりに気付いたのは、宿屋などが隣接している通りだ。二人何の騒ぎかと確認するため覗き込む。
「俺知ってるぞ! こいつ、元リンド派の一員だ! きっとこいつもベータテスターだったんだ! それでサブダンジョンの一人占めのためにパーティーから抜けたんだ!」
「うおおおん! うおおぉぉぉんっ!」
「って、なんでこいついきなり泣き出したんだ!?」
「オメエェ、良い奴だなぁ~~! リンドの野郎も、他の奴も、おっさんがパーティーに居た事なんかすっかり忘れててよぉ~~~! この前、飯食いに行くとき偶然すれ違ったんで軽く挨拶したのに、アイツらときら『コイツ誰だっけ?』みたいな顔で通り過ぎやがったんだぁ~~~!」
「「「「「((((うわぁ………))))」」」」」
その場でいくつもの声と心が―――以下略―――。
「ごめんタドコロ………」
「俺もごめん………、絶対タドコロさんの事は忘れないよ………」
「てめえら仲間だろう! もう少し気の利いたセリフないのかよ!?」
「「………ごめん」」
「『多く語らずとも思いは伝わる』っ!?」
揉め事らしい事はらしいのだが、二人が予想してたのと違って、大変、面白賑やかな光景が広がっていた。
「さ、次に行きますよ」
「待て待てっ! なに普通に無視しようとしてるんだよ!」
さっさと案内の続きをしようとしたウィセをルナゼスは慌てて呼び止める。
「するもしないも、アナタには関係の無い事でしょう? 野次馬してても時間を消費するだけですよ?」
「いや、でもアレはどう見ても言いがかりだろ? 放っておけねえよ!」
言うが早いか、ルナゼスは騒ぎの中心へと向かおうとする。その突飛な行動に、彼女は冷静に対処する。
「止めなさい。話が
彼の腕を捕まえて引っ張るが、彼も譲る気はないようだった。
「そんな事言っても、誰も止めに入らねえだろ?」
「無関係なアナタが出て行っても話がややこしくなって混乱するだけです。それは解決にはなりません」
「だから無関係な奴は放っておけって言うのか? 俺にはそんな事は出来ない!」
面倒な正義感だ。ウィセは心の中で軽く毒吐く。
「具体的に止めるプランがあるなら止めませんけど、そうじゃない人に突っ込まれても、誰も救われませんよ? 出しゃばるのは良くありません」
「それじゃあ、お前には何とかする方法があるのかよ?」
「ありますよ」っと言うのは簡単だが(実際彼女にとっては本気で簡単)、ここでそれを言ってしまっても自分が面倒に巻き込まれるだけだ。ここは答えを先延ばしにする方が効果的だと判断する。
「事態をよく解らずに割り込むのは良くありません。もう少し様子を見てからでないとただの迷惑な存在です。彼等はアナタが英雄になるための犠牲者じゃありませんよ?」
「はっ!? なんで俺が英雄になる必要があるんだよ!?」
「違うなら、他人の揉め事を、良く解りもしない癖に無暗矢鱈に首を突っ込むのは止めてください」
「う………」
強い口調で言ってやっと折れた。正直ウィセの方もヒヤヒヤした気持ちはあった。彼に言った言葉にではない。彼を説得できなかった場合、その時の対処が面倒になりそうだったからだ。最悪、その時は彼をスケープゴートにして、マサ達を逃がすしか手が無いと踏んでいた。
とりあえずの危機は去った様だが、保留した結論がまだ宙吊りになっている。ここでもう一つ、攻め手ではない方法で釘を刺しておきたいと考える。
「まあ、マサもケンも逃げ足速いですし、最悪タドコロがトカゲの尾になってくれるから大丈夫ですよ」
「………って、お前の仲間かよっ!? しかもあっさり仲間をトカゲの尻尾扱いっ!?」
とりあえず思いついた搦め手が、意外なほどに良く食い付いた。ここで釘を刺す。
「ですから、アナタが邪魔したら、私が許しませんよ?」
「わ、わかったよ………」
こうしてルナゼスを完全に沈黙させたウィセは、少々疲れたように溜息を吐く。
(他人を助けたがるこの悪癖………、ウチのパーティーには悪癖持ちが揃うジンクスでもあるんでしょうか?)
サヤ=猪突猛進。
マサ=防衛思考。
ケン=平常運転。
タドコロ=スルー。
ウィセ=他人利用思考。
ウィセの中では自分を含め、それぞれの悪癖がそう記されている。
これにルナゼスを加えれば『ルナゼス=出しゃばり(余計なお世話とも)』が、追加される事になってしまう。
(お、思ってません………! 一瞬、『類は友を呼ぶ』なんて、少しも考えていません!)
内心、過ぎりかけた思考を断ち切る様に言い訳をして、ウィセは疲れた表情で様子を窺う。
「いい加減にしやがれ! ふざけたところで、俺達は誤魔化されねえからな!」
「そう言われてもよ~~………」
タドコロ達三人は困った表情を浮かべていた。因縁をつけてきたのはウィセが追い払った四人組で、タドコロの記憶が正しければキバオウ派の連中だ。
マサとケンが白熱したデュエルを繰り広げている最中、突然現れた彼等は、「サブダンジョンをクリアしたのはアンタらか?」っと聞いてきたのだ。不躾にも思えたが、黙っている理由もないと判断し、彼等は適当に頷いた。そしたら途端に怒りを露わにして、正直戸惑っていると言うのが本音だ。
「確かに俺らはサブダンジョンをクリアしたぜ? でもよぉ、それに因縁をつけられる理由なんて無いはずだぜ?」
「ある! 俺達が前線で必死に戦っている最中に、お前らはサブダンジョンで悠々レアアイテムを儲けやがって………っ! 何様だよ!」
遠くで見ているウィセは思った事だろう。どちらが何様なのかと。そして、明晰な彼女の頭脳は、この状況を創り出した原因を正しく予想していた。
そもそも、自分達がサブダンジョンに向かった理由はなんだったか? それは、迷宮区に先駆けしたにもかかわらず、全ての宝箱を制覇されていたからだ。だから彼女達は仕方なくサブダンジョンに向かい、装備増強を図った。
それを踏まえて考えれば、この状況は予想できる。彼等キバオウ派の連中も、迷宮区で何も手に入れられず、そして、未だに迷宮区のマップ進行が、別の誰かの手によって先を行かれ続けている。そんな状況を、彼等前線メンバーが許容するのは歯痒い物だろう。だから彼等は求めていた。その憤りをぶつける先を。
そこで出てきた情報が、恐らくウィセ達の事だったのだろう。サブダンジョンを独占攻略したメンバー、その中に元前線メンバーが二人もいれば、彼等の怒りをぶつける相手としては最適だったと言う事だ。
(アナタの関係の無い所で被害が出ているのですが、これにはどう責任を取るつもりなんですか『ビーター』さん?)
ウィセの思考がその男に届く事はもちろん無く、現状はまずい方向に傾くばかりだ。
「きっと、あの男がベータテスターなんだ! だからサブダンジョンを独占攻略できたんだろ! この卑怯者共め!」
正直、この発言はまずいと感じた。聡明なウィセだけでなく、ベータ迫害を心情とするキバオウ派を見てきたタドコロでさえ、それに思い至れた。
せっかくベータへの怒りを『悪のビーター』が引き受けてくれていたはずが、このままではベータへの怒りが再発しかねない。
『悪のビーター』は、フロアボス攻略時、あそこにいたメンバー達なら印象強く残っているだろう。だが、それ以外の者達には噂程度でしか無く、その噂もかなり小規模なものだ。今ならいつ消えてもおかしくない程に。それに対して今のタドコロ達は街の中、最も多くのプレイヤーに監視されているところとも言える。そんな状況でベータが迫害されれば、見せしめとしては充分だ。誰でも、噂の悪より、目の前の悪を優先して嫌悪する。この状況はそれだけに悪い物だ。
「ちょっと落ち着かないか? 俺達がサブダンジョンに行ったのは、偶然街中でクエストをだな―――」
「聞いたか皆! コイツらサブダンジョンだけじゃなくボロいクエストまで独占しやがったんだ!」
「おいっ!」
説得しようとするタドコロの言葉の端だけを取り上げ、男達は口々にベータを罵る。よっぽどフラストレーションを溜めこんでいたのか、もはや会話する気配さえ見せていない。
((これは………、あまり良くない))
タドコロとウィセが同じ感想を胸に抱いた時、彼女はいつもの能天気顔で現れた。
「ねえねえ、これってどういう状況?」
「っ!」
遠くで見ていたウィセは、目に見えて身体をビクつかせた。
(どう言う状況で出てくるんですか? せめてもう少しこっそり登場してください………)
あまりに子供っぽい無知な登場に、彼女は頭を抱える。他のギャラリーや、因縁をつけていたキバオウ派の連中も、戸惑った表情をしている。
「サブダンジョンを攻略した事を知って因縁ふっ掛けられテタ」
そして淡々と真実だけを語ってしまうケンも、充分に頭が痛い発言だ。
何気に、サヤの後ろに女の子が一人くっ付いている辺り、また新しいのを捕まえてきたのかと、問いかけたい気持ちもあったが、それは自重する。目の前で同じく聞きたそうなマサが空気を読んで黙っている辺りは共感してもいいと思えた。
「? サブダンジョンを攻略したらなんでいけないの?」
子供っぽく首を傾げるサヤに対し、むしろ好機とみたのか、男達は言い募る。
「俺達前線メンバーを蔑ろにする行為だからだよ!」
「なんで?」
「聞いてなかったのかよ!? 俺達が迷宮区で命を掛けて攻略してるのに、お前らは―――!?」
「サブダンジョンでも命の危険は一緒でしょ?」
「一緒じゃねえよ! お前らはベータテスターがいるからクエストもぼろかっただろうがな!? こっちはそうも行かなえんだぞ!?」
「タドコロ、ベータテスターだったのっ!?」
本気で驚くサヤの姿はとても演技とは思えない。ウィセは頭が痛くなるのを感じたが、既にこの程度は慣れっこだ。
「ちげえよ!?」
「違うんだって?」
「口ではなんとでも言えるだろう!?」
「え~~、それじゃあ君もベータになっちゃうよ~~~?」
「なんでそうなるんだよっ!? バカなのかっ!?」
「“口ではなんとでも言える”んでしょ? 黙ってれば誰もベータだなんて解らないし」
「う………っ!」
「それに、他の人の事を『ベータだ。ベータだ』って言い続ければ、自分って疑われないモノだし」
子供らしい、だが的を射た発言だ。今の発言でキバオウ派も僅かに動揺を見せている。
この時、マサは密かに思っていた。
(そう言えばサヤちゃん、誤ってケンに槍ぶつけちゃった時に、「タドコロがぶつけたんだよ!」って必死に言い訳してたっけ………、そしてケンも解っててタドコロさんをぶってたっけ………)
どうでも良い内容を思い出しつつ、彼も様子を窺う。
「だ、だが! お前達がサブダンジョンを独占した事は事実だぞ! 俺達前線メンバーに対して思うところが無いって言うのか!?」
「あるわけ無いよ」
その即答に、さすがに全員が凍りついた。大凡(おおよそ)、サヤと言う少女が口にしなさそうな発言に、皆我が耳を疑っている様子だった。唯一平然としていたのは、普段から同室で話しかける機会を多く持っていたウィセくらいだ。
「あるわけ無いでしょう? 僕達がサブダンジョンを攻略するのと、前線メンバーの人達が迷宮区を攻略するの、どっちも同じ行為なんだから?」
「は、はあっ!? 何が同じなもんか!? お前達はベータから知識を貰って行動しているが、俺達は―――」
「同じだよ。仮に、僕達の所にベータ出身者が居ても、命を掛けている事に変わりはないし、ダンジョンのアイテムは早い物勝ちなのは、迷宮区でも一緒でしょう?」
「お、お前らと一緒にするなよ! 俺達は前線メンバーで―――」
「僕達だって前線メンバーを目指して努力してるよ? それっていけない事なの?」
「手段の問題を言っている!」
「何も悪い事してないよ?」
子供っぽく、あどけない表情で首を傾げるサヤ。誰もが思う事だろう。この子供はなんて辛辣なんだろう。っと。
ウィセも初めて彼女の意見を聞かされた時は驚いてしまった。子供っぽくあるようで、彼女には彼女なりの考え方がしっかりと存在する。その考え方は、正に子供らしい残酷さと言っても差し支えが無い。だからウィセは慌てたのだ。
(もし、この子が本気で口論したら、大人顔負けの舌戦の元、観衆の心を徹底的に潰してしまうかもしれない………)
―――っと。
当人のサヤも、他の皆も、まだその恐ろしさには気付いていない。だが、少なくとも片鱗は見てしまった筈だ。
「それに僕、まだレベルは低いけど、第一層の攻略時、自分の持ってる少ないコルとアイテム、ディアベルさんに提供したよ? 戦えなくても、協力は出来るし。そう言う意味でも、僕達がダンジョン攻略とかでレアアイテムやレベリングの増強するのって悪い事じゃないでしょう?」
「ぬぐ………っ!?」
とっておきのカードだ。彼の名を出した時点でこの場は終結したとみてもいい。だが………、事態は大きくなり過ぎている。この騒ぎを収めるには『収め所』と言う妥協点がいる。そうでないと半端に浮いたこの状況で、相手側も抜いた矛を収められなくなっている。
「と、ともかく! お前らベータが偉そうにするなよ! 俺達ビギナーを見捨てたくせに! 安全圏から大口叩いてんじゃねえ!」
これだ。もはや状況は動きようがないが、まともな口論をするつもりの無くなった相手に論争は意味を持たない。そして、こう言うのは大きな声を張り上げている方が、大抵は信じられてしまう。つまり、どんなにサヤが的を射た発言をしても、大声で怒鳴るばかりのキバオウ派の方が有利になってしまうのだ。
それでも周囲の反応は微妙なもので、サヤの言葉が想像してたより効いているのは確かだ。
(今ここで手を打ちたいんだけど………)
この場で打つ手は幾つか思いつく。だが、それをウィセがやっては説得力が無い。そのため出あぐねている彼女の耳に、聞き慣れない男の声が届く。
「ちょっと良いだろうか?」
不意に声が割って入った。声の人物はウィセが初めて見る相手だ。
「俺はタカシと言うものだ。なんだか話がややこしくなってきてるようだが………、俺から提案してもいいか?」
声は親しげなのに、彫りの深い顔がいかめしく、皆一様に口を噤んでしまう。
初見でこそウィセも警戒心を持たされる顔の作りだが、その態度や口調などの所作で、想像する程に強面の人間ではないと判断する。
「おじさんは?」
それに、まったく物怖じした様子の無いサヤが、純粋そうな子供の態度で問いかけてくる。
タカシは一瞬だけ驚いたような表情をしていたが、すぐに優しげ(っと言ってもやっぱりニヒルな笑みに見えてしまうのだが)で、自己紹介する。
「俺は第一層で取り残されている連中の面倒を見ている者だ。とりあえず、第三者として、この場を収める方法を提案したいんだが良いだろうか?」
「うん、難しい話とか僕は良く解んないし、別に良いよ」
アレだけ辛辣な意見を言っておいて『良く解らない』とは言ってくれる。彼女と同じパーティーを組む面々は内心で苦い気持ちになった。
「ありがとう。そちらさんは良いかな? 話を聞くだけでもしてくれないか?」
「あ、ああ………、まあ、聞くだけなら………」
歯切れの悪いキバオウ一派に対し、もう一度お礼を言ったタカシは対峙する両組の間に立ち、提案を口にする。
「このまま話し合いをしてても埒が明かない。ここには政治家なんて都合の良い存在はいてくれない。善か悪かも見定められるのは己の慧眼と器量だけだ。っとなると、こう言った揉め事の判断は正直つけるのは難しい。ここは一つ、この世界、SAOらしい勝負で白黒はっきり付けるのはどうだ?」
「SAOらしい勝負だと?」
「そう、つまりは≪デュエル≫で決着を付けると言う事でどうだろう? 君達が勝てば、サブダンジョンのクエストで得たレアアイテムを提供してもらう。彼女達が勝った場合はこの場で全員が謝罪し、二度とこんな騒動を起こさないと誓う。互いに欲しいモノは賭けていると思うぞ? 『レアアイテム』と『誇り』、互いが要求している物のはずだ」
ウィセは口元に指を当てて考える。
………なるほど、これは悪くない手かもしれない。これなら、勝者は完全に場を支配できる権利を得る。敗者が何を言おうと、ギャラリーがそれを是とする事を許さないだろう。自分達が負けてしまえば大損害だが、勝てば官軍である。
(っとなると誰が戦うべきか………?)
一瞬で戦力を分析したウィセが結論を口にする前に、サヤが手を上げて叫ぶ。
「はい! それじゃあ、僕がやります! 仮とは言え、僕がこのパーティーのリーダーだから!」
この発言に慌てたのはパーティーメンバーだけではない。
正直サヤが出てくるとはまったく想像してなかったタカシ。
ついさっき、怖い思いをしている事を知っているカノン。
良く解らないが、とりあえず彼女は戦わないだろうと思っていたルナゼス。
彼等の動揺を代弁するようにマサが慌てて前に出る。
「待ってっ! ここは俺にやらせて!」
「マサ? いいよ、僕がやるから?」
「何言ってるの! ………サヤちゃん、また手が震えてるじゃない?」
「え? あ、あれ………?」
マサの言う通り、サヤの手は小刻みに震え、とても槍を上手く扱えるようには見えない。彼女が赤髪の少女に植え付けられた恐怖が戦う事を拒んでいた。
この子は守らなければならない。彼女が震える姿を見る度に、マサの中で決意が固まって行く。この小さな女の子を守るのは、自分の役目なんだ。意を決し、腰から盾を、背中から剣を抜き―――放ったところで軽く頭を殴られた。
「未だに僕にマケ越してる奴は下がってる」
言ってマサを押しのけようとするのは、マサとのデュエル勝率六割をキープしているケンだった。
「ケン!?」
「マサは強くなると思いマスヨ? デモ、まだ僕の方が強い」
言ってマサを押しのけようとするが、マサもケンの手を掴んでそれを拒む。
「いや、やっぱり俺がやるよ! 見たところ、相手にスピード重視のシーフはいない。それなら俺でも十分やれる」
「だからコソ僕でしょ? ここはスピードで撹乱して一気に決めるのが良いって?」
「いや、ここは俺に譲って―――」
「いやいや、ココハ特攻隊長の僕に任せて―――」
なおも言い合う二人を見兼ねたサヤは、頬を膨らませながら前に出る。
「二人のどっちかで決めないなら僕がやるからね!」
「「だから行くなって!?」」
「でも決まんないじゃん!」
サヤの意見に二人は苦い顔をするが、やはりどちらかに譲る気はないようだ。
それを見てとったサヤは、覚悟を決めた様に胸の前で拳を作り、タカシの立つ中央部分へと向かう。
「待ちな、さい………!」
さすがに見ていられなくなったウィセが前に出て、サヤの肩を掴んで止める。
「ヒギ………ッ!?」
「私です。私ですからハラスメントコードを探すのは止めてください」
女同士でもこの反応なのかと、ビクつく小動物少女に呆れる。
「あ、ウィセ………?」
「貴方達ではレベル的に不利です………。ここは私に任せてくれませんか? 前回、クエスト時に私は蚊帳の外でしたから、ここで挽回させてください」
もちろん本心ではなく、純粋に戦力を分析して自分が一番良いと判断してのことだ。
「おまえ………!」
キバオウ派も、ウィセの存在に気付いて色めき出す。
これ幸いと、その感情を利用して、自分との決闘に引っ張りこもうとするが―――。
「だ、だめっ! ウィセは責任感じる事無いよ! むしろ、一人になったウィセの方が怖い思いしたはずだから………、だから僕がやる!」
敏感に『気配』を感じ取ったサヤが間に入って譲らない。
「だからサヤちゃんは下がっててば! ここは俺が―――!」
「ここは切り込み隊長に任せてくれナイ? 僕の方が―――」
「そもそもレベル差があると言ってるでしょう? ですから私が―――」
「もう~~っ! 仮とは言え、僕がリーダーだよ! だから僕が―――!」
ぎゃーぎゃー言ってばかりでなかなか決まらない内輪揉め場面を見せられ、キバオウ派も唖然を通り越し、次第に苛立ちが籠り始める。
「提案良いか?」
さすがに見てられなくなったのか、それとも、ウィセと言うストッパーが居なくなってしまったせいか、観客になっていたルナゼスから声を掛けられる。
「この人誰?」っと言うメンバーの表情を尻目に、ウィセだけが冷やかにルナゼスを見つめる。
「アナタは黙っててと言ったはずですけど?」
「出しゃばらないよ。でも、提案くらい良いだろう? 俺を仲間に誘ったのはお前だぞ?」
「え? 仲間? わ~~いっ! 新しい仲間できた~~~っ! 名前なんて言うの? 役割は? 個人的な目標とかある? ある?」
「ちょっとサヤちゃん、今は黙ってようか?」
「タドコロ、ナンカ面白いこと言ってサヤの気を引いて」
「い、いきなり言われてもよ………? ―――コンドルワッ!」
「きゃははははっ!」
「「「受けたっ!?」」」
「そのままサヤの相手お願いね。さあ、話を戻しましょう」
「お前ら普通に会話できねえのかよっ!」
「正直ごめんなさい………」
何故か、提案一つ聞くのに漫才が発生してしまったが、とりあえず場を収めながらウィセが先導して話を進める。ちなみに、この謝罪に彼女の謝意は全く含まれていない。
「それで何?」
「いや、大した提案じゃないんだが………、そんなに立候補がいるなら団体戦にしたらどうだ?」
「よしっ! それで行こうよ!」
「「「「「即答っ!?」」」」」
「サヤさん、少しは仲間の意見を聞いてあげてからにしたら?」
サヤの暴走振りに、さすがに見ていられなくなったカノンまでもが口を開く。次々と新しい顔ぶれが混ざって行くのだが、誰もそれについて説明を求める暇が無い。随分と目まぐるしい状況になりつつあった。
「………、なんてカオスだ………」
ついには見ているだけだったキバオウ派からのツッコミが入ってしまう。
気を利かせたタカシが腕をぐるぐる回してサインを送る。受け取ったタドコロが親指を立ててサムズアップ。
「よぉし、お前等っ! 審判が『巻いて巻いて』って急かしてるから急ぐぞ~~!」
「なんであの指示で解るの!? タドコロすごいっ!?」
「ん? なんだ? タドコロさん、今初めて褒められたような気がするんだが………?」
ケン、マサ、サヤが同時に視線を逸らす。
「「「き、気の所為だよ………」」」
「『逸らした視線の先に答えが』っ!?」
「『巻いて』はどうしたお前ら~~~~っ!?」
ルナゼス絶叫。ウィセとカノンが頭痛そうに溜息を吐く。
「えっと………、とりあえずクジ作りますね………」
「お願いします。それからありがとうございます………」
比較的真面目なカノンとウィセだけが、一歩一歩着実に話を進めて行くが、まるで亀の行群である。
「おい………、そろそろ俺達の方から『早(はよ)せんかっ!?』くらい言っても良いか?」
「気持ちは痛いほど解る。正直俺もそう思ってるところだが、まあ、待ってやってくれ。 いや、俺もなんで弁護してるんだ? って気になってきたが………、相手には子供もいるんだから気を使ってやってくれ?」
「ああ………、そうだな。子供がリーダーのパーティーなら苦労だって………」
「ねえ! 今すぐデュエルとか抜きで、あの人達殴りに行っても良いよね?」
「とりあえずサヤはこれでも食べて大人しくしてなさい。私の食べ掛けですが………」
「はむっ、甘いっ! 何これっ!? ………ハクハクッ」
「さ、犬になった『香』が食べ終わる前に話を進めましょう」
「「犬………」」
「なんか、ケンともう一人の子が、凄いキラキラした目でサヤちゃん見てるんだけど………?」
「もう放っとけ………」
最後にタドコロが締め、何とか話に決着がついた。
とりあえず、デュエルには二人一組のタッグ戦方式で参加する事にした。SAOのデュエルでは珍しい設定だが、不可能ではない。一種のバグの様なもので、四人のプレイヤーが、ほぼ同時に対戦者A→B→C→D→Aへと対戦を申し込むと、ほぼバトルロワイヤル形式で、デュエルが出来るのだ。これはベータの知識だが、既に『攻略本』にも記載されている。
くじ引きで決まったメンバーで試してみたところ、既にこの方法は正式な物としてシステム上で成立していたらしく≪チーム戦orバトルロイヤル≫のコマンドが表示された。好都合だった四人は、迷わず≪チーム戦≫を選び、手早く定位置に付くのだが………。
「なんでこうなったっ!?」
「クジの結果です」
タドコロとウィセと言う珍妙なタッグが完成してしまった。特にタドコロは、やるつもりが無かっただけに痛恨事だ。
「今から一人だけ交代とか無理か?」
「ん………」
往生際の悪いタドコロの問いに、ウィセは無言で相手側を指差す。そこには完全に痺れを切らして、既に始まっているカウントが零になるのを憤慨した様子で待つ盾持ち片手剣使いと、両手斧使いの姿があった。
「提案してみます?」
「『引けぬ戦いが此処にあるのです』………っ!!」
かなり、意味合いの違う名言を口にし、目の幅涙を流しながら覚悟を決める。
「がんばれ~~っ! 特にタドコロ~~!」
「瞬殺ダケは間逃れろよ~~~。主にタドコロ~~っ」
「仲間の足を引っ張るのだけは避けてくださ~~~いっ! タドコロさ~~ん!」
「『心配なのは一人だけ』~~~っ!!」
サヤ、ケン、マサの声援に泣きだすタドコロに、部外者のはずのルナゼスまで「なんだこの逆の意味での信頼感………?」などと呟き、唖然としていた。
「なあ、ウィセよぉ? 正直俺ってそんなに頼りないか?」
「戦力としては、『歩』です」
「それ、将棋の一番弱い駒だろっ!?」
「ですが、『歩』は『と金』に成る事が出来ます。それに、将棋は前面に複数の『歩』が存在するから成り立っているんです。使い方一つで『歩』が王手をする事だってできます」
「おおっ!? なんか期待持てる言葉だな………! それで、具体的には何すりゃいい!?」
「では、開始と同時に突撃してくるだろう相手に、突撃して相討ちしてください。後は私がなんとかします」
「『アイツとは邪魔物抜きでサシとやりたい』っ!? 自爆要因はんた~~いっ!!」
「………、正直、特徴的な戦力を持たないタドコロは、援護に回ってくれる方が扱いに困らないんです」
「あれぇ~~? おっさんもしかして相当扱いづらい?」
「サヤと似たり寄ったりです」
「なんて暴言っ!!」
「なんて暴言っ!?」
タドコロの台詞に反応したサヤが叫んだ時、残り時間が10秒を切った。
「解りました。とりあえず、なんとかして一人引きつけてください。一対一なら何とかやれます。片手剣のを方を任せますね?」
「わ、解った!」
結局無難な選択に収まり、戦いは始まった。
ウィセが最初に予想した通り、痺れ切っていた相手は突撃系のソードスキルでスタートダッシュを始めた。ウィセにとって、この選択肢は解っていたので、本当ならカウンターを狙いたいところだったのだが、相手が二人ではさすがに危険過ぎる。仕方なくサイドステップで横に逃げて攻撃を躱す。一番近い斧使い相手に軽く剣を振るい威嚇、簡単に跳ね返されるが、この男の注意は自分に向けられたようだ。
(もう一人の方は………?)
斧使いの男の後ろにいる、盾持ち片手剣の使い手と、それと戦う槍使いのタドコロの様子を窺い―――タドコロの姿が無かった。
片手剣使いが叫ぶ。
「あの野郎っ!? まさか開始と同時に全力で後ろ向きに走り去りやがった!?」
「「「「「「「「「「逃げたんかいっ!!?」」」」」」」」」」
観客含む複数の声が一斉に重なる。
ウィセはタドコロの事は忘れて斧使いとの戦いに専念する事にした。
「は………っ!」
短い発声と同時に放つ一刀は、やはり力自慢のステータス割り振りにしているらしい斧使いには通じず、簡単に跳ね返されてしまう。
だが、斧使いが振るう攻撃は、力はあるが速度は驚くほどではない。攻略メンバーだけあって、武装の割に素早くはある。それでもしっかり見ていれば彼女の動きでも充分に躱す事が出来た。
横薙ぎに三度振るわれる猛威を、ステップで確実に躱して行く。相手の体勢を崩す為に強撃を放つが、STR値の違いか、体勢を崩す事無く受け止められてしまう。
(やっぱり、同じ前線メンバーレベル………。ソードスキル無しでは難しいですか………)
だが、ソードスキルを使えば使用後に隙が出来てしまう。二人相手においそれとソードスキルは使えない。
そう思って片手剣使いに視線を向けると………。
「ちっくしょう~~~っ! 観客の影に隠れて≪投剣スキル≫で撃ち込んできやがってぇ~~~っ!? 何処にいやがる~~~っ!!」
嫌がらせに遭っているのでしばらく大丈夫だと判断した。
(よし、『歩』は自分の役割をしっかり果たしている。この隙に斧使いの攻略法を完成させましょう)
彼女の中では“勝利するだけ”の方法は既に幾つも思い付いていた。しかし、そのどれも選ぼうとはしない。いくつか理由はある。
一つは、観衆に曝されているためだ。こんな状態で、あまり自分の手を晒す事を彼女は好んでいない。使うにしても、それはあくまで『誰にでも使える』っと言う領分を越えてはいけない。それを超えてしまうと、『アイツは特別だ』と言う認識を持たれてしまう。それは後々に動きがとり難くなって面倒だ。
二つ目は、方法の問題。彼女が頭の中で呼び出した方法の中には、相手の弱みに付け込む物が多い。使う事自体に躊躇いは無いが、使えば間違いなく反感を買う。それが使った相手だけでとどまるなら、逆に徹底的に貶め、反感すら湧かせない処まで堕ちてもらうだけだ。だが、それを見た観衆や仲間にまで反感を買うと、さすがに面倒な事になる(それでも彼女はやり過ごす方法自体は思い付いている)。それは極力避けたい。
三つ目は、情報だ。自分の取る方法は、そのまま情報となる。常に自分が優位な立場に収まるためにも、“身内、パーティーメンバーに”自分の手の内を見せたくはなかったのだ。
彼女はいつでも勝てる戦いを先延ばしにし、己の剣技だけで真っ向から勝負しているように見せかける。寧ろ彼女にとって、それで勝ってしまえる事が一番好ましい事ではある。それは誇りからではなく、あくまで都合の問題。
≪シャムシール≫を手に、ウィセは小刻みに剣檄を放つ。力で無くて数を試してみた。しかし、力を優先的に上げている斧使いには意味がないようだ。
SAOでは、攻撃を盾などで受け止めても、相手の攻撃力の方が強いと、防御の上からでもヒットポイントが削られてしまう。だが、現在適応しているデュエルの≪初撃決着モード≫のルールでは、『一撃』と見なされるダメージを受けるか、一定以上のダメージを蓄積するか次第で決着がつく様になっている。ウィセの狙いは、相手の攻撃はとことん躱し、こちらはジリ貧に追い込む―――と言う、本人にとっても面倒な手段だった。
(それでも、こちらの意図に気付かず防御している事を自慢顔で余裕を見せているこの相手なら、それほど難しくは無いです………)
もちろん、相手もダメージが蓄積すれば焦り始めるだろうが、そうなってくれればウィセも戦い易い。今はともかく、苦戦しているフリをしてダメージの蓄積に専念する。
「見つけたぞテメェッ!! 覚悟しやがれ~~~っ!!」
「おおぉ~~~~~っ!? ウチの嬢ちゃんと違って、おっさんに対人スキルはねえよっ! 追い付けるもんなら追いついてみやがれ~~~~っ!!」
「マジで逃げるしかしねえのかよテメェはっ!?」
「まさかっ!? ちゃんと付かず離れずで、お前が血迷ってウィセに攻撃仕掛けるために無防備な背中を見せてくれるのを待ってんだよ! 安全のために≪投剣スキル≫でぶっ刺す!」
「ちくしょう~~っ! なんなんだこの卑怯者~~~っ!!」
「あっ!? それはちょっと傷ついたぞ! あ~~………、でも………、ちょっと待って、もう少し考える時間くれねぇ?」
「おちょくっとんのか~~~~っ!?」
「まさかっ!? サヤじゃあるまいし!」
「どう言う意味だよ~~~っ!!」
「追手が二人に増えてるっ!?」
バカバカしい騒動が耳に届いたが、彼女の明晰な頭脳は全てを聞かなかった事にした。
10
タドコロは壁際に追い詰められ、焦り顔で槍を構える。正面に立つ片手剣使いは、怒りも頂点に、肩を上下させながら息を荒げてにじり寄ってくる。
「覚悟は良いか………?」
「おっさんついに貞操の危機かっ!?」
「「「「「ねえよっ!!」」」」」
観客まで揃った見事なツッコミが入る。
「ここが“低層”だけになっ!」
「「「「「…………ねえよ」」」」」
そして親父ギャグに対して冷たいツッコミが入る。
嘗て、これほどまで観客と当事者の心を一つにするエンターテイナーがいただろうか?
彼の名誉のために言っておくと、実際彼の実力ならまともに戦う事くらいは出来るのだ。槍スキルはどちらかと言うと援護向きではあるが、それでもソロプレイが難しい装備ではない。槍のリーチを活かし、確実に戦況を優位に持っていけば対人戦も可能な程だ。ただ、彼はウィセに気を使い過ぎている。集団戦の時も良くある彼の悪い癖だ。他人を気遣い過ぎるが故に、本来前線メンバーとして充分な実力を持っていながら、その力を発揮できずにいる。
今回も、ウィセの「一対一に持ち込んで欲しい」と言う願いを最大限に叶えるため、ともかく時間稼ぎの出来る手段を取っているのだ。
(つっても、そろそろ限界か………、いい加減腹括るか?)
程良く相手も冷静さを欠いている。今なら彼の実力で充分に撃破できる。だが、それでも彼は悩んでしまう。仲間のために、自分は行動を控えるべきなのではないか? と。なまじウィセが他人を使う事に長けているばかりに、彼は決断する事を躊躇ってしまう。
自分の意見と仲間の意見。優秀な意見は間違いなく仲間だ。だが、その仲間の意見を応える方法とは、一体どんな物が正しいのだろう?
考えを巡らし、己の取るべき行動が取れず、戸惑ってしまう。それがタドコロの悩みでもある。
実は、他人の感情に影響され易いサヤが、集団戦でミスばかりしていた理由が、このタドコロの戸惑いを無意識に読み取っていた事が少なからず原因であったりする。同時に、そんな悩みを抱えていたからこそ、彼と気が合ったマサが、再びパーティーを組んだ事も、原因の一端である。
良くも悪くも、彼は悩み過ぎるのである。
「―――っと言うわけで! 誰かここでディスティニーアドバイス!!」
「「「逃げてばかりいた奴が何当然の顔で仲間にアドバイス求めてんだよっ!?」」」
そして彼は、“悩み”はすれど、あまり“考え”はしない。
マサ、ケン、ルナゼスの三人が、絶叫し、しかし、すぐにケンが、頭を掻きながらアドバイスに入る。
「ソレじゃあ………、タドコロにダケしか使えない≪システム外スキル≫で勝負してみマスカ?」
「え? 何それ!? そんなスキルがおっさんにあるの!?」
「エンターテイナータドコロにしかないスキルだ」
「マジかよっ!? よしっ! それでいっちょ頼むぜ!」
ケンに伝えられたタドコロの表情が真剣な物へと変わる。その変化に、前線メンバーとしての勘か、片手剣使いも表情を改め身構える。
その隙を使ってケンはタドコロに指示を飛ばす。
「まずは両の手を合わせ『合掌のポーズ』」
「こうかっ!? なんか期待できるモーションだな!?」パンッ!
タドコロは槍を持ったまま合掌して見せる。
「続いて片手の指を二本立てて、その指の間から相手を見る」
「横ピースみたいなんだが、これでなんか見えんのかっ!?」ブイッ!
続いて人差し指と中指を立てたブイサイン。
「仏様とかがよくやってる人差し指と親指を合わせるOKサイン」
「おおっ! 何だか解んねえが、必殺技のモーションっぽいぞ!」マルッ!
わざわざ左手で御椀を作り、右手でOKサイン。
「最後に敬礼」
「なにこれっ!? 何かこれちょっと恰好良くないかっ!? これでどんなスキルが?」ビシッ!
軍隊張りに敬礼。
「それをもう一度、一から続けてモーションするんだ………!」
相変わらず抑揚の無い声で、だが何か期待に胸を膨らませる様にケンが叫ぶ。
それに合わせて、タドコロも気合を入れてモーションに入る。
「おっしゃっ! いくぜぇ~~~っ!」
そして、観客揃って皆さん合唱―――。
パンッ! ←(合掌)
「「「「「ぱん………」」」」」
ブイッ! ←(ブイサイン)
「「「「「ツー………」」」」」
マルッ! ←(OKサイン)
「「「「「まる………」」」」」
ビシッ! ←(敬礼)
「「「「「見え………」」」」」
「…………」
「…………」
槍使いと片手剣使いの時間が確実に止まった。
広場に、真面目に戦う曲刀使いと斧使いの剣檄の音だけが虚しく響く。
やがて時は動きだし、タドコロ、心の汗を思う存分流し、絶叫………。
「中学生の騙しネタじゃねえかよ~~~~~~~~~~~っ!!?」
「そうだ。皆昔は散々引っかかってきた。だから、大人になっても引っかかる奴はタドコロくらい。そう………、だからタドコロにしかできない≪システム外スキル:『大人になっても子供の心を忘れるな』≫」
ケンが視線を逸らしながら解説した。
マサが口元を押さえ蹲る。
ルナゼスがお腹と口を押さえ背を向ける。
カノンが顔を背け肩を振るわせる。
タカシ、我慢せずに豪快に笑い飛ばす事にした。
「対人戦中にするアドバイスじゃねえよなっ!? 少しは空気読まねえ!? てっきりスキルのモーションだと思ったから、恥じらいも無くやっちまったぞぉ~~~っ!?」
「タドコロ凄いっ!! 全部違う意味のゼスチャーなのに、皆の言ってる通りにサインしてるみたいだった………っ!! すごいすごい~~~~っ!!」
「誰か、この純粋無垢な嬢ちゃんに正確な教育をしやれよっ!? 純粋さが他人を傷つけるんだって教えてやれよっ!?」
我慢できず、何人かの観客が笑いを漏らす中、無表情を保ったケンが再び口を開く。
「まあ落ちつけよタドコロ」
「誰の所為で動揺してんだっ!?」
「でも、緊張解けただろ?」
「! お、お前まさか………!?」
「サア、次こそ本当のモーションだ。相手もすっかり白けきって油断している今がチャンス」
「へ………っ、なんだそう言う事かよ………。いいぜ! きなっ! とっておきのスキル! 今度こそかましてやるぜ!」
タドコロの気合いに応える様に、ケンも少々声のトーンを上げる。
「まずは両手を腰へ」
「おうっ!」バシッ!
腰の少し前、ちょうどベルトの上あたりに両手を当てる。
「続いて拳法ポーズ」
「こうかっ!」バシッ!
左手を腰溜めに、右手を手刀にして構える。
「ゆっくりと右手を左手の位置に引く」
何かの力を溜める様に、ゆっくりとした動作で右手を腰に固定した左腕まで引く。
すると、タドコロの脳裏にとある記憶が鮮明に思い起こされる。
「そこで掛け声だ!」
「変身ッ!!」
タドコロが叫ぶ!
………っが、もちろん何も起こる筈が無い。
「はっ! たぁ………っ!」
「ぬりゃあっ! おおう………っ!?」
広場に、真面目に戦う曲刀使いと斧使いの掛け声だけが虚しく響く。
「平成初代ライダーの変身シーンじゃねえかよこれ~~~~~っ!?」
「メンゴメンゴ~~~」
「謝ってねえよな? それぇっ!?」
ケンが視線を逸らしながら適当に謝罪。
マサが口元を押さえ地面に倒れる。
ルナゼスがお腹と口を押さえ背を向けて座り込む。
カノンが顔を背け肩を振るわせながら声を漏らす。
タカシ、我慢せずに快活に笑い飛ばす事にした。
「タドコロすっごいっ! 変身するの~~~~っ!?」
「誰かこの嬢ちゃんに、日曜朝八時の素晴らしさを教えてあげて~~~~~っ!?」
相変わらず子供の様に一人はしゃぐサヤに、タドコロも涙を振り絞りながら宣伝していた。何気にこの言葉に、大人な人達は一様に頷いていたりする。
「………おまえ、戦う気あるのか?」
当然
「違うっ! 俺はもう戦う気だ! ただアドバイスを求める相手を間違えただけだ!」
「戦う気があるならアドバイスを求めてんじゃねえっ!!」
尤もな台詞を叫びながら、片手剣士は≪スラント≫による斜め切りを放つ。
慌てながらもさすがは元ボス攻略メンバー。何とか槍の柄で受け止め、軽く下がるだけで
「ええいくそ………っ!」
お返しとばかりに、槍を横薙ぎに大振り、相手を下がらせようとするが、上手く盾に当てられ、弾き返されてしまう。
盾に弾かれ、槍が上に上がった隙を突いて、片手剣士が≪ソニック・リープ≫のモーションに入ろうとするが、タドコロは槍を巧みに操り、瞬時に臨戦体勢を整えてしまう。まるで槍自体が意思を持ち、主の手助けをしているかのような手捌きは、今までのアホな会話が嘘であるかのようだ。
「なんだお前! チート使ってんのかっ!? さっきとキャラ違うぞ!」
盾でしっかり受け止めておきながら、攻撃に転じれなかった片手剣士が叫び、周囲の観衆も一斉に頷く。
「最初っからこのキャラだっつうのっ!? お前ら勘違いしてるみたいだから言っとくけどな!? カオスなのは周囲の奴ら何だよ!!」
「失敬な」←(さっきまで煽りまくってたケン)
「酷いよそれは………」←(何もしないが止めもしないマサ)
「そうなの?」←(言うに及ばずのサヤ)
「ん………っ!」←(我関せずで戦いに興じるウィセ)
タドコロの発言に否定できない事を今知ってしまった観衆が一斉に気まずい空気に曝される。
「よしタドコロ。ソコデ槍の先を下向きに構え『ゲイ・ボルク』と叫ぶんだ」
「もうその手に乗らねえよ!?」
「バカ、ソードスキルだ」
「なにっ!? そんなソードスキルがっ!? 良し行くぜっ! 『ゲイ・ボルク』!! …………何も出ねえ」
「タドコロ、僕、タドコロに会えてマジで良かったと思ってマスヨ?」
「『こんなに嬉しい事は無い』っ!?」
そして、ケンにまた騙されるタドコロも、結局カオスの仲間なのである。
「てめえら類友じゃねえか~~~~~~~っ!!?」
「「そんなバカなっ!?」」
片手剣士の絶叫に、タドコロと、さすがに看過できなかったらしいウィセが同時に叫んだ。
「いい加減にしやがれよ! このエンターテイナー共め~~~~っ!?」
怒りと共に振るわれる刃を、タドコロは巧みな槍捌きで受け止めて行く。同じ槍使いのサヤであっても、ここまで滑らかな動きで槍を操る事はできない。これが前線メンバーとの差であった。
タドコロの槍が男の脚を弾き、地面に転ばせる。そのタイミングを狙って、タドコロは大きく槍を振り被った。
「しま………っ!?」
「おらああぁぁぁ~~~~っ!!」
渾身の力を込め、槍のリーチ一杯に薙がれた矛先は、ソードスキル≪ヘリカル・トワイス≫のエフェクト光を燈し、真直ぐ振るわれ―――バチィンッ!!
「アホォア………ッ!?」
伸ばし過ぎた槍の先が、思いっきりケンの側頭部に命中した。
「あ、わりぃ………」
謝るタドコロ、地面を無様に転がされたケンは、ゆっくりした動作で立ち上がると、腰に差した≪ダガー≫を抜く。
次の瞬間にはソードスキル≪アーマー・ピアース≫の突きが、タドコロ目がけて放たれた。何とか地面に飛び込む勢いで転がって躱したタドコロだが、ケンは武器を≪
「ま、まてっ! ケン! 今は止めろ! 今はマジでやめろっ!! たぶん、今決闘中だから、俺はダメージ受けちまうよ! 受けたら負けになっちまうから!?」
「………」
「無言で襲い掛かってくるの止めてぇ~~~~~っ!!」
ケンの投げつける≪
マサが笑いを漏らしながら地面を叩く。
ルナゼスが背を向けて座り込む、身体を震わせながら笑いを漏らす。
カノンが壁に手を付きながら、お腹を抱えて涙目で笑う。
タカシ、我慢できずに腹を抱えて笑い飛ばす事にした。
サヤは意味も解らずニコニコ笑っているだけ。
何故か彼は、いつもいつでも恵まれない………。
11
バカな奴等の戦いに構っていられるほど、彼女の性格は優しくは無い。
放たれる斧の一撃を完全に先読みし、まるでギリギリ躱したように見せかけて地面をローリングするウィセ。
彼女を追って、何度となく斧を振り回す斧使い。もちろん彼女には、彼の目を見て、次にどこを狙っているのかをしっかり把握し、肩の動きから攻撃が襲ってくる位置を特定し、タイミングを合わせて回避すると言う芸当が出来てしまうので、ヒットポイントは全く減っていない。その癖、彼女の攻撃は、しっかりと相手にダメージを蓄積させ、そろそろ危険に域近づいているところだった。
この時になって、斧使いは攻撃の手を止め、冷静に状況を分析し始めた。
観客には全然斧使いが圧倒しているように見えていたが、既にウィセの術中にはまり始めている事を、彼もようやく悟ったのだろう。
(予想通り………っと言うには少し遅いタイミングで気付きましたか。後はソードスキル一発でも当てる事が出来れば勝てますね)
ソードスキル同士で相殺されれば別だが、それでもウィセの有利は変わらない。防御したところで蓄積ダメージが限界を超え、彼の敗北が決まる。彼が負けない為には回避するしかないが、STRにステータスを割り振っている彼が、AGIに割くポイントなどある筈も無く、ウィセの素早さからは逃げ切れない。
(『王手』………の、二歩手前)
ウィセは油断無く状況を正確に分析する。
斧使いの男は、状況を理解し、自分が陥っていた原因を知ると、口の端を持ち上げて笑った。
その意味が解りかねて、彼女は訝しげに片眉を持ち上げる。
瞬間、ソードスキル≪スマッシュ≫で、無理矢理ウィセに肉薄した。
ウィセも瞬時にソードスキルを発動させて相殺しようとするが、出遅れてしまい、ダメージを打ち消しはしたものの、弾き飛ばされ、壁に激突してしまう。
そこに男が間髪入れずに襲いかかり、武器の重量を活かした打ち下ろす攻撃を何度も繰り返す。
地面を転がり、右に左にと躱すウィセを、弄る様に、しかし、絶対に壁際から逃さない様に、斧使いは何度も斧を振り降ろす。
彼女の危機に気付いたルナゼスが、何事か叫ぶが、振り下ろされる斧が地面に激突する音で聞きとれない。そもそも周囲の音を必要以上に聞く気さえ無い。
ウィセは斧の攻撃を躱しながら、男を見やり、曲刀を握り締める。
12
「ウィセ! 早くそこから逃げろ!」
ルナゼスの声がタドコロの耳に届き、彼もウィセの窮地に勘づく(ちなみにケンとの追っかけっこは対戦相手の「邪魔」発言で既に終わっている)。
(おいおい! お前がサシで何とかするって言ったんだろうが!? 何やってんだよ………!)
心中毒吐きながら、彼は一層フロアボス戦の事を思い出す。
そう言えば、彼女は曲刀と言う前衛向きの装備でありながら、ボス戦に於いてはスイッチ役が殆どだった。積極的に相手に攻撃を仕掛けるのではなく、積極的に攻撃を防ぐ側に回っていた気がする。
自分は殆ど援護役で、取り巻きの≪センチネル≫とボスの間を行ったり来たりしてチクチク攻撃していただけだ。だが、これも案外難しく、重要な役割だったので、ウィセの様に積極的なアタッカースタイルが攻撃を頻発しなかったのは、そう言う傾向があるからなのかもしれないと、判断した。
(アイツ! 実は出不精なスタイルかよっ!? 効率良く敵倒しまくってるから、気付かなかったが、実はマサと同じタイプじゃねえかっ!?)
タドコロは片手剣士を相手に槍を一突き放つ。もちろん盾で防がれるが、彼はしっかりと盾の中心点を狙い突き込む。勢いに押された片手剣士が僅かに膝を沈める。そのタイミングを逃さず、彼は大きく跳躍して後方へと下がる。
「もうちんたらやってられねえ! コイツで勝負だっ!!」
タドコロは槍を逆さに構え、大きく振り被る。明らかな槍投げの体勢に、片手剣士は足を止める。
タドコロの狙いは『初撃決着モード』のルールを利用した一撃狙い。ともかく一発当てれば自分の勝ちなら、その一発に勝負を掛ける意味はある。自分の槍は≪
対して、片手剣士は、盾を前面に構えたままゆっくりと膝を落とし、走り出す隙を窺っている。
この戦いで初めて見せる一触即発の空気は、あまりにもあっさり破られた。
タドコロが瞬時に槍を投げたのだ。
こちらの様子を窺う片手剣士に、逆に好機と判断して、斧使いに向かって槍を投じたのだ。剣士にとっては放っておいても当たらない攻撃だが、斧使いの背中は間違いなくやれる。防御に意識が回っていた剣士は、瞬時に盾を移動する事が出来ない。
(よしっ!)
タドコロが勝利を確信しかけた時、ガキィンッ! っと言う、重い鉄の音が響く。
片手剣士が、投擲された槍に向けて、盾を投げつけたのだ。
剣士の盾は間違いなく出遅れていた。だが、彼は斧使いの事を忘れていなかったのだ。だから彼はわざと盾を前面に構え、タドコロの行動を誘発させた。結果、タドコロは気付かなかったのだ。例え出遅れても、システムアシストで跳ぶ飛び道具の進路など、簡単に予想されてしまう事に。
予想進路先に盾投げつければ、いくら出遅れても矢よりも長い槍は、投げられた盾にギリギリ追いつかれてしまう。≪投剣スキル≫は飛び道具が故に、軽く何かに触れただけで、その効果をキャンセルされてしまう。槍の尻に盾が少しでも触れれば、キャンセルさせる事は出来る。剣士はそう考えたのだ。無論。実際にやってのけられるのは、彼が前線メンバーとして弛(たゆ)まぬ努力を続けてきた事と、元リンド派の仲間だった彼を密かに研究していたのが原因ではある。
「残念だったな………! あばよっ! エンターテイナーさんよっ!!」
「どわっと………っ!?」
槍を投げてしまい、無防備になったタドコロに向けて、片手剣士が単発突撃技≪ソニック・リープ≫のモーションに入る。
タドコロは慌てて新しい武器を取り出そうとウインドウを開くが、自分の敗北は解っていた。新しい武器を取り出すには、ウインドウを開いた後に幾つかの手順を踏まなければ装備する事は出来ない。最低でも10秒以上は掛る作業を短縮する事は出来ず、それだけの時間があれば、相手は悠々自分に一撃を入れられる。
(しくった………っ!!)
悔しさから目を細めながら、ゆっくりとした動作で自分に迫る様に見える片手剣士を見やる。剣に輝く青いエフェクトライトが自分を捉えるまで、もはや何の術もない………。
「タドコロ! ≪クイック≫!!」
「!」
刹那に耳に届いたのは、焦った様子のサヤの声。
その声に彼は思い出した。確か、自分はサヤのアドバイスでそのスキルを会得していた。彼女自身、とある戦闘技術を確立させるため、そのスキルを早くに必要とし、習得に至っていた。『投げ槍』と言う特性を持つ自分になら、そのスキルをこんな序盤で持っていても悪くは無いのではないか? そう言われ、半分調子に乗りながら得た武器派生系スキル。
タドコロは急いでウインドウの端に出現しているアイコンを押し、空白の左手を構える。
瞬間、彼の左手の中に、新たな槍≪ストライクランス≫がオブジェクトされる。
≪クイック・チェンジ≫。あらかじめ設定した装備を、面倒な手順をすっ飛ばし、ボタン一つで装備させる武器派生のスキル。
丸腰だと思っていた相手の手に、突然槍が現れ、剣士と観衆が驚愕の表情で凍りつく。
「うをああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
タドコロは叫び、単発突き技≪ソニック・チャージ≫を放つ。互いに突撃系の技ではあるが、剣士の方は剣による斬り付け。対するタドコロは槍による突き。リーチの差が圧倒的に違い過ぎる。
既にソードスキルを発動させてしまい、身体の制御が効かず、先程の攻防で盾を失ってしまった剣士は、敢え無く槍の先で胸を撃ち抜かれる事となった。
13
仲間の敗北は、瞬時に斧使いにも伝わった。だからこそ彼は動揺しながらも冷静に斧を振り上げる。自分の目の前に転がった少女を叩きのめし、不利な二対一になるのを避けようとした。
斧がエフェクトライトを纏い、一気に叩きつけられる。ソードスキルによる一撃を、寝転んだ状態で躱す事など出来ない。出来たとしても追い込んだ壁に身体を挟み込み、自分の放った単発縦切り≪グランド・ディストラクト≫の範囲効果によって充分ダメージを受ける。
男は勝利を確信してほくそ笑む。この瞬間を彼は待っていた。生意気に口が達者で、ボス戦では腰が引けて積極的な攻撃をせず守勢に周り、二層に来てからは新しいパーティーに加わり、自分達が迷宮区で宝箱を得られず不満を抱えている間にも、サブダンジョンを独占し、大量のレアアイテムを抱え込む女。見た目が相応の美人であった事も彼の琴線に触れた。
いたぶりたい。弄り倒したい。今も前線でボスと戦う自分の方が強いのだと、力付くで証明し、屈服させたい。そんなドス黒い欲求が、この瞬間の彼を満たしていた。
元々そこまで行きすぎた感情を持っていたわけではなかった。それでも、自分が勝てるかもしれない状況で、自分の憎んだベータテスターが、無様に地を転がっているのを見ていると、どうしても抑える事が出来なかったのだ。
「うがあああああぁぁぁぁっ!!」
斧使いは咆哮を上げて、斧を振り降ろす。
「………。やっぱり、理解できません?」
クワァンッ!!
唐突に、男の斧が真横に弾き飛ばされた。
男は困惑する。槍使いはまだこちらに駆けている最中で、追いついた様子はない。なのにどうして自分の攻撃は弾かれている? 有り得ない? 何故だ?
そんな風に混乱が頭を満たしてしまった所為で、彼の思考は一時的に停止してしまっていた。
この時、一番状況を冷静に見ていたのはサヤだった。別に、彼女が冷静な思考を持っていたと言うわけではない。ただ単に、彼女はウィセの『気配』が慌てていなかった事を感じ、自分が慌てる必要はないのだと判断していた。
そんな彼女だからこそ、サヤはウィセの姿を正しく瞳に捉えていた。
ウィセは片手を地面に付けると、そのまま有り得ない身体能力で、身体を持ち上げ、片手倒立状態で斧の側面を蹴りつけていた。
もちろん、いくら仮想世界のSAOでも、ステータスの全体が低い初期段階で、片手倒立だの、片手で身体を持ち上げるだの、そんな芸当は出来ようはずがない。なんせ、人一人を抱えるステータスが無いのだ。リアルで可能な能力を得ていたとしても、能力が『設定』されたこの世界で、あんなアクロバティックが可能なはずが無い。
それでもサヤは不思議に思わない。それはウィセが蹴った足がエフェクトライトを纏っていたからだ。
≪弦月≫以前、サヤ自身も使った体術スキル。あの技は、身体を宙返りするように回転させ、蹴りを放つと言う物。ウィセは、そのスキルによるシステムアシストを逆に利用し、不可能な片手倒立を見事に再現してみせたのだ。
もちろん、システムアシストにより、着地も見事に果たしウィセは僅かなディレイ効果を受けて、互いに見つめる形となる。
隙だらけの斧使い。だが、彼も腐っても前線組。状況を呑み込めずとも、瞬時に反応して斧を振り被る。
そんな斧使いを、ウィセはいつもの冷ややかな瞳で見つめる。
(本当に、なんであそこで笑ったのでしょう? まだ勝負はついていないし『必勝』を確信させるほどの策でも無い。それでよくもまあ、笑いが込み上げた物です)
彼女は訝しかった。男の行動は彼女の明晰な頭脳には『選択肢の一つ』としてちゃんと存在していた。故に、その対処法も、それが大した策でも無い愚策である事も看破していた。それだけに、彼女は理解できない。男がどうしてあそこで笑えたのか? どうして自分が有利になっていると“勘違い出来たのか”?
「まったく理解できない………」
口の中だけで呟き、彼女もモーションに入る。
斧使いのソードスキルより早く、曲刀のウィセのソードスキルの方が早く繰り出される。それでも男は、持ち前のステータスで力押しをしようと試みる。
≪シャムシール≫から放たれる左右からの二発の斬激。それお受け止め攻撃の位置をずらされる斧使い。それでも根性だけで斧を制御し、身体を回転させるように滑らかな動きで放たれた三激目の横薙ぎを何とか防ぐ。この瞬間、斧使いのソードスキルはキャンセルされ、僅かに安堵が横切る。
もはや二対一で勝てる可能性は無い。それでも自分はこの女には屈しなかった。最後まで抗い、一対一での戦いに負ける事はしなかった。そんな、彼の自尊心を傷つけないだけの理由を手に入れ、彼は気を抜いた。
未だウィセのソードスキルは続いていると言うのにだ。
この時初めて、ただ一人冷静だったサヤさへも驚かす光景が繰り広げられた。
本来、こんな下層段階で使えるソードスキルなど、二連撃を使えるようになれば上等。武器のカテコライズ次第では、三連撃に達する物が居てもおかしくは無い。だが、有り得ないのだ。こんな下層段階で“四連撃”を使えるなど有り得ない。ましてそれが、一連のソードスキルでありながら、くるりと曲刀を回して肩に担いだ状態で、身体を半身にずらし、“空いている左手で掌打を打つ”などと言う事が出来てしまえる筈が無い。
信じられない四連撃ソードスキルを見舞われ、斧使いのヒットポイントは一気にイエローまで達してしまう。
ウィセが曲刀を『露払い』し、腰のサヤに収めると同時、上空でデュエルの勝者を告げるウインドウが出現する。
【Winner Wise&TDKR】
14
皆が信じられない場面に絶句する中、ウィセは内心で舌打ちしたい気持ちになっていた。
今自分が使ったソードスキル≪ベア・ノック≫は、大したスキルではないと判断していたのだが、想像以上に強烈な反応を示されていた。
「すごいすごい! ウィセ~~! 今のなに~~~っ!?」
予想通り、一番空気を読まないお子様が真っ先に食いついてきた。
自分が想像した以上の満面顔を無防備に近づけてくるサヤに、ウィセは子供の相手をする気持で説明する。
「≪体術スキル≫との混成ソードスキルです。所持するスキルが増えれば、新しいソードスキルが習得可能になるんです。………この手の情報は情報屋でも安値で扱われているはずですよ?」
「嘘っ!? ………あ、僕の≪槍スキル≫も≪体術スキル≫との混成技があるっ!?」
情報屋から手に入れていた≪攻略本スキルリスト≫を確認したサヤが叫び、周囲のプレイヤーも慌てて確認し始める。
(まさか単純に見落としているなんて………)
これはさすがに計算外の埒外だ。出回っている情報を確実に入手していない。第一層時で既に≪攻略本≫が出回っていながら多くのプレイヤーが死んだ原因が、こんな所で明るみになる事になった。
ゲームの落とし穴より、まずはプレイヤーの『意識』と言う『穴』の方が多い事。その事実にウィセは呆れて溜息を吐くしかない。
「か、勝ったぜ~~~~~~~ッ!!」
まるでウィセの溜息が引き金だったかのようにタドコロが叫び、仲裁をしていたタカシがジャッジの様に改めてウィセ&タドコロペアの勝利を宣言。
一気に湧く広場で、皆が一様に声を上げて笑う物の、ウィセだけは相変わらず冷ややかな目をしていた。
(なんで笑ってるんです? この結果は、惨憺たるものなのに………)
明晰な故に、彼女はこの結果が齎す、一つの事がらに憂鬱にならざろおえなかった。
15
初デュエルで勝利したお祝いをと、宿屋で食事をしようとしていた面々は―――何故かウィセの前で全員正座させられていた。
「あの………、なんで俺達まで?」
「僕、本気で関係無いと、思うんですが………?」
そこには何故かルナゼスとカノンの姿もあった。
ウィセは黙って見降ろし、二人を黙殺する。彼女の冷ややかな瞳は、睨んでいなくても充分な迫力が存在していた。
「こうなってしまった事は仕方ありません。でも、なんで喜んでるんですか? 貴方達、自分達の目的を忘れてしまったんでしょうか?」
「え、えっと………、ウィセなんで怒ってるの?」
サヤのとんちき発言に、ウィセは怒った様に振り返る。別に勢いも付けていなかったのに、彼女の滑らかな黒髪が、ぶわりっ、と広がり、怒気の籠ったオーラが発生しているのではないかと思えた。
「『なんで?』 『なんで?』ですか? こんな事をしたらどうなってしまうのか、解っていなかったんですか?」
「え、えっと………、なんだ?」
「解んない。ごめん」
「先に謝っとく。ゴメン」
タドコロ、マサ、ケンも揃って理解しない。
さすがに怒りを通り越して呆れたのか、ウィセはさっさと事の真実を話してしまう。
「今回私達が敵対したのはフロアボス攻略を検討している前線組、キバオウ派です。そんな相手と
「「「「あ………」」」」
「出来るわけありませんよね?」
声を揃えた四人に、ウィセが疲れた様に吐き捨てる。
怒られた理由に気付いて、四人揃って俯いてしまう。
「なんだ? お前ら攻略メンバーになる予定だったのか?」
実は一緒に付いて来ていたタカシの問いに、サヤは少し考えた様子を見せる。
「えっと………、手段の一つとして、目指してた事ではあったかな? 元々、僕の目的は『少しでも早く攻略するために、攻略組を助ける』って事で、自分がボスと戦いたいわけじゃないんだ。もちろん、出来るならそうしたいよ!」
「へえ~~………? サヤちゃん、そんな事を考えてここまで来たのか? 小さいのに偉いんだなぁ?」
感心するタカシに、サヤは微妙な表情を返す。彼には何度も自分の年齢を告げているのだが、一向に子供扱いを止めてくれる気配が無い。なんだかものすごくマイペースで、サヤ自身、どうでもよくなってきてしまった。
「って事は、五人とも、三層に上がったらギルドを作るつもりなのか?」
未だに正座させられている事を不満に思いながら、ルナゼスが問う。
これにウィセが答える。
「私は、そのさらに手伝いと言ったところです。今はとりあえず一緒にパーティーを組んでいるだけで、将来的に一緒にいるかどうかは解っていません」
「「「え?」」」
ウィセの告白に、タドコロ、マサ、ケンが驚いた表情をする。
「なんで驚いてるの皆?」
サヤが不思議そうに聞くと、三人は更に驚かされた。
「いや、ウィセって、もうすっかり仲間って印象があったから………」
「ウィセは僕のお手伝いしてくれるって言っただけだよ? そりゃあ、一緒に居てくれるなら僕は嬉しいし大歓迎だけど………、って言うか皆そのつもりで僕とパーティー組んでくれたんじゃないの?」
「「「ええ?」」」
驚きの連続に、皆声が止まらない。
サヤと同室で何度も話す機会のあったウィセだけが、皆の反応に同意するように見つめていた。
サヤの『パーティー』という括りは『いつでも抜ける事の出来る、その場での仲間』と言う事らしく、皆が思っている『仲間』と言う意識は、サヤの中では『ギルド』になっている。
『パーティー』は協力関係であり、『ギルド』は組織関係と言う見方が、サヤの考え方だった。そのため、サヤは他の皆が協力してくれているのは、利害の一致(ウィセ的な意味ではなく、もっと良心的な意味)によるものだと思っていた。
考えて見ればマサとタドコロは、お詫びついでにパーティーに入って協力していただけで、既にお詫びの済んだ二人はいつ抜けても良かったのだ。
同じような意味で、ケンも、最初にサヤに言われた『面白い』と言うのが嘘だったなら、それを理由に抜ける事は出来た。だが、そんな考えなどまったく浮かばなかったのである。
「あれ………? っとなると俺の立場はどうなる?」
ウィセに誘われたルナゼスは、正しい位置として、何処にいるべきなのか? 途端に解らなくなってしまった。それを完全無視してウィセは続ける。
「こうなってしまった以上、二層ボス攻略は不可能です。三層に上がったら、サヤはギルドの設立のため、ギルドリーダーのクエストを受けるのでしょう?」
「うん。そのつもりだよ」
「なら、三層に上がったら、一度自分達の身の振り方を考えて見ても良いかもしれませんね」
っと言い、ウィセは密かにパーティーから外れる準備を整える。
いくらサヤが御し易いとは言え、こんな事を続けられてはこちらの利益が無い。ここらで一度離れ、再度検討してみる必要がある。そう判断したのだ。
皆、なんとなく空気を察し、自分達も身の振り方を考えて見ようと頷いた。
それを敏感に感じ取ったサヤが、一瞬だけ、名残惜しそうに皆を見つめた。正面に居たウィセは、それをまともに見てしまい、胸の奥で何かが疼く様な気がしたのだが、すぐに元のサヤに戻ってしまったので、それが気の所為だったのかどうかも解らなかった。
(本当に………、この子は厄介ですね………)
「身の振り方を考える。か………? それならサヤちゃん? 俺に一つだけ提案させてくれないか?」
「なに? タカシ?」
「俺は、訳合って第一層をあまり離れられない。俺にもパーティーメンバーが居てな、一層に“残らざるおえない”連中を助ける事にしてるんだ。………今回二層に上がってきたのも『子供が最前線でうろついている』なんて噂を耳にして、心配になったからなんだ」
「誰が子供!」っとはつっこまない。サヤにも空気は充分に読める。
タカシは真剣な面持ちでサヤに提案する。
「なあ、サヤちゃん? 別に子供扱いするつもりはないが………、俺達と一緒に一層に来ないか?」
「え?」
タカシは首を傾げるサヤに向かって、本当に真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「君、デュエルの時、明らかに怖がっていた。それを見たら、俺も放っておくなんてできない。これは、SAOは正真正銘のデスゲームだ。君みたいな華奢な女の子が、無理して戦う必要なんて無い。それも一つの答えだと、俺は思うんだ」
「………」
タカシの発言に、サヤは俯いてしまう。
心は既に決まっている。自分は戦うのだ。戦わなければいけない。戦う事を止めてしまっては、もう二度と立てなくなってしまう。それが一番怖い。
何より、サヤはどうしても思い出してしまうのだ。自分に足を止める権利があるのか? っと。ラッツと言う一人の少年を、自分の私利私欲のために利用し、死に至らしめた自分に、今更全てを忘れて立ち止まる権利などあるのだろうか?
それは無い。合っても受け入れてはいけない。
心は決まっている。
それでも、彼女はやはり怖いのだ。怖いから、どうしても甘い誘惑に耐えられない。全てを放り出して、逃げ出して、蹲ってしまう事を求めてしまう。誰かに頼りっきりになって、自分の全てを押しつけてしまいたいと願ってしまう。
サヤは必死に自分の弱さを押し殺そうと、体を小刻みに震わせてしまう。
「僕は………」
その先の言葉が出ない。出す事が出来ない。
そんな自分の甘さと弱さに、じんわりと涙が浮かび始める。
「あ、あの………! サヤさん! 僕は楽しみにしてます! サヤさんの作ろうと思ってるギルド!」
「………え?」
俯くサヤに話しかけたのは、ルナゼスの隣で正座させられているカノンだった。
カノンは、一度サヤを励まそうとして失敗している。その理由もちゃんと聞いている。だから、彼はサヤに助け船を出した。
「僕も、他のパーティーと組んでいますけど、こっちも一時的に集まってるだけってパーティーなんです。だから、もしサヤさんがギルドを作って、『皆のために出来る事をするギルド』にしようと言うのなら、僕もいつか、入ってみたいと思います。だから………、がんばって」
最後の言葉は、サヤの弱さに向けての言葉。それが解ったからこそ、サヤは必死に涙を押し殺し、いつもの様に笑って見せた。
「うん! ありがとうカノン!」
サヤの笑顔に、答えの予測が付いたタカシは「仕方が無い」と言いだけに肩を竦めた。だが、不思議とその表情は嬉しそうでもあった。
「アナタも、他のパーティーが居たのね?」
「え? あ、はい!」
ウィセに訪ねられ、緊張した面持ちで応えるカノン。
「じゃあ、サヤにパーティーに誘われたりしてないの?」
「え? いえ、されてません」
「ふ~~ん、そうですか………」
ウィセは、その答えに何だか胸の辺りが軽くなるような気がして、不思議と気分が良くなった。
(なによこれ?)
自分の反応に自分で当惑しながら、そっぽを向いてしまう。
「ええっと………、じゃあ、俺も発言いいか?」
今度はルナゼスが遠慮がちに手をあげる。
「さっ! 御開きだ」
「おおいっ!!」
さっそくタドコロが手を叩くと、皆一様に立ち上がって去ろうとしてしまう。
無論、半分冗談だったため、ルナゼスのツッコミ一つですぐに戻ってくる。
「えっと………っ、俺は人を探してるんだよ。アイリオンって言う女の子のプレイヤーなんだが―――」
「お疲れ~~~」
「「「お疲れ~~~」」」
タドコロの音頭に、マサとケンとタカシが応じる。
「なんでこの反応っ!?」
「「そりゃあそうですよ………」」
ウィセとカノンが声を揃えて溜息を吐く。
もちろん、サヤだけが本気でなにも解っていない。
何とか、男子勢を説得し、探しているアイリオンの詳細を語ると、サヤとカノンがビックリした表情になる。
「『赤い瞳と髪のツインテールで、片手用直剣の女性プレイヤー』………!」
瞬間、サヤの中で恐怖が蘇り、身体を抱きしめ蹲った。
あまりの反応にウィセとマサがサヤに駆け寄る。触られるのをひどく嫌う彼女に遠慮し、手を出せないながらも彼女の様子を窺う。
そんな状態のサヤに代わり、カノンがルナゼスに伝える。
「その子を僕達は見ました。この街で………」
「ほ、本当か!?」
「はい………、僕が見た時は………サヤさんを襲っているところでしたけど………」
「!?」
その言葉に今度はルナゼスが凍りつく。
思い起こされるのは過去、恋人だった彼女の凶行。
(また………! またなのか………っ!?)
拳を握り、俯きながら、それでも彼は首を振る。
(いや、アイツは………もういないんだ………。アイツとは違う………)
ルナゼスは詳しい話を、持ち直したサヤ達から聞くと、しばらくサヤと同行する事を決めた。再びアイリオンが接触してくるかもしれないからだ。彼女の目的が一体何なのか解らないが、今ルナゼスにできる事は、探す事だけなのだ。
こうして、タカシ、カノンと別れた一行は、長い一日をやっと終える事が出来たのだった。
16
カノンは、暗い街を駆け足で抜け、自分が拠点とする宿屋へと辿り着く。扉を開けると、食堂となっているフロアに入り、そこで自分のパーティーメンバーが待っていた事に気付いて、慌てて駆け寄る。
「皆待っててくれなくても良かったのに………でも、ありがとう」
声を掛けたカノンは、一同が無言で受け入れるをの心地よく感じながら、今回あった騒動を話した。
すると、一人の男、サスケと名乗る≪シミター≫使いが慌てた様子で立ち上がる。
「スキルリストの話が真なら、今頃アルゴに因縁つけてる奴等がいるやも知れんでござる! 少し調べてくるでござる!!」
サスケはあっと言う間に走り去り、止める間もなく消えてしまった。
それを見送った仲間達は、一様に溜息を吐いた。
「………あれ、なんで≪ネズミ≫に御執心なんだ?」
白髪蒼眼の男、アマヤが呟き、向かいに座るリーダーの男に視線を向ける。
自分に視線を向けられるのを確認してから、掛けているメガネを押し上げる向かいの男、ゼロは優しげな表情で答える。
「全く解りません。好きなんじゃないですか?」
「素晴らしい愛情表現ですね。ストーカー予備軍ですか?」
いきなり黒っぽい発言をしたのは、彼の隣に座る女性の物。柔らかくふんわりした黄金いろの髪に、優しげで丸みのおびた顔立ち。瞳はアクアマリンの様に澄んだ青。若干胸だけが残念な膨らみ方なのだが、それすらもスラリとした細身の身体が魅力に変える。
「スニーさん、相変わらず時々黒い………」
カノンは苦笑いを浮かべながら応じ、スニーはふんわりした笑顔で返した。
皆の姿を一様に観察したゼロは、徐に立ち上がり伝える。
「それにしても面白いパーティーが居たモノですね? 彼女がギルドを立ち上げたら、一度見て見るのも面白いかもしれません」
そう言って、話を締めた面々は、自分達の部屋へと退散してく。
その場凌ぎで寄せ集まっただけのパーティーメンバー。いずれ、
そんな彼等とサヤ達が邂逅するのは、まだまだ先の話である。
正直、仕事の合間に書いてるんでしんどかったです。
休みの日に一気に書いて、仕事の日は、みなさんの読んでもらう時間にして………そんなスケジュールのやりくりを考え、急いで出してしまったのですが………。
誤字脱字、ルビ変更などがされていないのは読みにくかったよね!? ごめんなさい! 次から自重します!
最後に、まだ未登場のキャラを一気に何人か出しましたが、別に複線のつもりじゃなかったりします。伏線になればいいかな? 程度のノリで書きました。たぶん、サヤのパーティーが、ソロの集まりばっかりになりそうだったので、その辺を避けたくて彼等はまとめてみたりしました。この先もパーティー組んでるかは解りません。
決闘システムの団体戦はオリジナル設定です。たぶんSAOで団体戦はないと思うんですよ。なんとなくSAOの世界観的に、そう思えました。でも、都合良かったので書きました。
御都合です。すみません。
わざわざタッグ戦にしたのは、投票上位の二人を戦わせたかったので、三人目を用意できていなかったんです。一発で勝負を決めてほしかったので、タッグ戦にしました。
アイリオン。
謎ですね?
一応この子にはかなり深い設定を作りました。ルナゼスとの絡みも深いキャラです。
その代り、『カオスザイン』さんの二人目のキャラだったので、ルナゼスに比べると扱い作者の都合優先です。その辺はあしからずに。
タドコロのコメディー一直線は、書いてて大変でした。でもニヤニヤが止まりませんでした。彼にはこれからもこういった方向で頑張ってもらいたいと思います。
それでは、また次の世界で………!