やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。 作:Maverick
原作のヒロインももちろんあとあとからやっていきますよ?もちろんです。
高校を卒業して早2年。無事にとある私立大学の3年生となった俺の目の前には大学唯一の友人と呼べると思うやつを中心とした修羅場が出来上がっていた。
「おいおい、佳奈ちゃんは俺と約束してたんだぜ」
「いや、佳奈は私と約束していたはずだ。貴様とではない、私とだ」
場所は通っている私立大学の最寄りのコンビニの前。授業は今から4限が始まるところだろう。もっとも、毎日3限と5限と時々6限に授業を入れてる俺からしてみれば、少し長い休み時間の始まった時間だ。
「え、えーっとあたしは比企谷くんとお喋りしたいんだけどなぁ…あはは」
そう困っている様子で男2人に告げる彼女の名前は、雨宮佳奈。学部が同じで、俺の大学唯一の友人だ。
男の友達は…察しろ。高校時代が高校時代だから、男よりも女と喋ってる方が落ち着く。ナニコレ、ぼっちなのか違うのか分からん。
「いやいや、こいつと?目は腐ってるし猫背だし顔もそこそこじゃねーか」
「遺憾ながら同感だ。こんな奴より私とお出掛けしませんか?奢りますよ」
「お、奢ってくれるの…?」
いや、揺れないでよ、雨宮。八幡ちょっと悲しくなるよ?
俺の気持ちが届いたのかどうか知らんが、雨宮ははっとして首を横に振り、謝罪をするように礼をして言い放った。
「2人ともごめんなさい!私、5限に授業あるしそれまで比企谷くんと過ごすって決めてたから!」
「……雨宮」
そう言われ、更に頭を下げられた2人は流石に参ったのか深いため息をついてそれぞれどこかに行ってしまった。ざまぁ。
頭を上げ、雨宮の後方で一部始終を見守っていた俺の方に振り返り笑顔を浮かべて言った。
「それじゃ、行こっか。比企谷くん」
もう1度詳しい説明をしておくと、ここは都内の私立大学。俺はここからチャリで20分程度の場所に一人暮らしをしている。なぜ愛する千葉から離れたのか、なぜ愛する小町と一時的にながらも離れることになってしまったのか。そこにはやむを得ない事情があるのだが、そこには触れないで欲しい。
彼女、雨宮佳奈は俺が大学に入った頃からの知り合いであり、今では戸塚や小町と同レベルの俺の心の癒しとなっている。
少し茶色っぽいポニーテール、大きすぎない程よいたれ目、さくら色の綺麗な唇、そしてメロンとまでいかないが平均少し上の胸。何より、周りに気を配れる優しさを持つ。何故彼女のような人と友人となったのか、話はそのまま2年前に遡る。
大学に通い始めて1週間経ち、変わった環境にもなれ始めていたあの頃、確か大学が終わって秋葉原に行くために駅に行った時だった。突然、後ろから話しかけられたのだ。
「あ、あの…」
まあ、高校を卒業してすぐだった事もあり捻くれ具合が53万くらいだったので、どうせ俺のことではないのだろうと高を括っていたのだが、その後に肩を叩かれ流石に人違いでないだろうと思い振り返った。そこにいたのは、俯きつつもこちらを伺うように上目遣いしている雨宮だった。この時点で、俺は当たり前だが、雨宮の名前を知らない。君の名は…。と、脱線してしまった。
「え、えっと…何か?」
かろうじて声を出した俺のセリフに帰ってきた答えは予想を裏切るものだった。というか、何も予想してなかった。しょうがないよね、初対面の人を前に緊張してあたまがまっしろになってたんだから。
「は、ハンカチ落としましたよ」
雨宮の手の中には、確かに俺がその日の朝カバンに入れていたはずのハンカチがあった。なんで落ちたのかわからんが、多分トイレのあとに急いでたから軽くポケットに入れたとかだろう。
「あ、ありがとうございます」
素早くお礼を言ってハンカチを貰い、電車に急いだ。その後はなんとか電車に間に合って秋葉に行き、帰った後は家事をひととおりやってアニメ見て寝た。
つぎの日に大学に行くと、俺の前に仁王立ちしている女の人が…。勿論雨宮なんだが、当時の俺は誰この人状態なのだから狼狽えてしまう。
「あ、あの…通してくれませんかね」
「通してあげません」
なんだこの女と思ってしまい少し顔を歪めてしまった。すると面白いほどに慌てた雨宮が慌ただしく言い訳をした。
「ほ、ほら覚えてません?昨日の駅でハンカチ拾ってあげたじゃないですか」
「あ?…ああ、あの時はありがとうございました。では」
一応もう1度お礼を言って横を通り過ぎようとする。が、雨宮はそれを許してくれなかった。俺の進行方向に幾度も立ち塞がるのだ。迷惑極まりなかった。
埒が明かないので、こちらから話しかけることにした。
「まだ何かあります?」
「ぶーっ、折角同じ大学なんだから仲良くしようよ」
「なんですか、その理論。それそのまま適用するならこの大学の人みんなお友達(笑)ですか」
年上である可能性を捨てきれなかったので敬語のまま話を進める。というか進めずに話切って授業行きたいんすけど…。そんなこと思いつつ恨めしそうに睨む。
「えー、目指してなくはないけど流石に無理だよ」
ダメだ、こいつ、早く通り過ぎないと…。あまり気が乗らないけど走るしかないと思ったあの日の俺は走ったんだが…。
つぎの日もそのつぎの日もずっと話しかけてくるのだ。その度に俺は逃げた。そんな日が1ヶ月続いて流石に諦めをつけるかと思っていた頃に雨宮はぱたりと俺の前に現れなくなった。やっとかと思う反面どこか虚しく感じる面もあった。
頭の隅を雨宮に居座られてしまった俺は、無意識のうちに雨宮を探していた。
雨宮が現れなくなって1週間、俺は雨宮を見つけたのだが彼女は俺が受ける授業を最後列で受けようとしていた。以前は輝いていた目は淀んでいて、眩しかった笑顔はくすんでしまっていた。何故そうなったのか、すぐ知ることになるがその時の俺はもちろん知らない。
静かに彼女の隣、ひと席分空けて座った。音に反応してこちらを向く彼女。しかし、まるで別人のように俺に興味を示さない。そのまま一言も喋らず授業が終わる。
高校を出て1ヶ月と半分、奉仕部を出て一年経ってなかった俺はそれらの名残りで声をかけてしまった。
「あんた、この間まで話しかけてくれた人だよな?」
「え。う、うん。そうだけど…」
声にも覇気がなかった。なんと話しかけるのがベストなのか…そこで俺は自虐を入れつつ自己紹介をしようと思った。適度に自虐を挟んで、笑わせてやる、そんなことを考えていた気がする。
「名前、教えてなかったよな。俺は比企谷八幡、大学に通い始めて未だぼっちだ」
「そ、そうなんだ…」
「お、おう…」
それで会話は切れる。まあ相手をよく見れば会話をする気ないの、わかるはずだったんだけどな。なんとか話を繋げようと話題をみつけようとした。
「あんた、この授業受けてるって事は学部は…」
「うん、きみと…比企谷くんと同じ。あと、あたしは雨宮佳奈」
「そうか。なあ、雨宮なんで俺に何度も話しかけてきたんだ?」
我ながら雑な話し方だと思うが、しょうがない。憔悴していても雨宮は美人なのだ。緊張していたんだ。
「比企谷くん、あたしに全然興味示さなかったじゃん。そういうの珍しくて、仲良くなりたいなーって」
理由としては、陽乃さんにしているかもしれない。あの人とは仲良くしたくなかったからあっちから来た。雨宮も同じ感じだったのだろう。
「いや、なんでそうなるんだよ。俺と仲良くとか無理だぜ?ぼっちのATフィールド舐めんなよ」
「強度で言えば今の私の方がすごいよ、今は誰とも話したくないから」
「…だったら、俺と話さないか?俺とお前は赤の他人だ。赤の他人にこそ話せることってあるだろ」
なぜ俺はこんなこと提案したのか。今になればその理由がいともたやすく浮かぶ。
俺は高校時代の俺の心理状況と雨宮の心理状況を重ねてみていた。文化祭の時、修学旅行の時、生徒会選挙の時、俺はぼっちでいながら心の奥底で救いを求めていた。無償の救済なんて絶対ないのに、俺を助ける他人なんて絶対いないのに。
ひとりで抱え込むのは辛く、苦しいのだ。誰でもいい…いや、遠い誰かにこそ愚痴をこぼしたくなったのも何度もあった。話を聞いて貰って、安い同情をされたかった。結局俺も人間だったのだ。理性の化物だなんて上っ面だけだ。
雨宮は俺の言葉に驚いたのか、目を見開く。
「ありがとう。今から…聞いて…くれる?」
「…次の次、授業入れてるからそれまでな」
そう言うと雨宮は、暫く見せてなかった笑顔を浮かべた。と言っても、力のない微笑みだったが。
俺達はキャンパス内の喫茶室に向かった。話を聞くところによると、どうやら高校から付き合っていた彼氏に浮気をされてたらしい。しかも、愛人役は自分だったと。
よくある話だが、実際にそれをされるとぐさりと刺さるのだろう。雨宮は嗚咽を何度も漏らしながら俺に話してくれた。雨宮は話し終わったあと暫く泣いていた。
外に吐き出すのはいいことだと思う。人間には誰でも心に許容範囲を持つ。それはまるでコップにストレスという名の濁った水を注ぐようで、その水が溢れる事はとても危険なのだ。定期的にどこかに移すなり、誰かに飲んでもらわなければいつか壊れる。人間とは脆いのだ。
泣き止んだ雨宮は涙目のままこちらを見据えた。ちょっとドキッとしたのは墓まで持っていくことに決めてます。
「ありがとうね、比企谷くん。おかげですっきりしたよ」
「気にするな。俺も高校時代やってもらったことをお前にやってるだけだから」
「ふふっ…あ、もう授業始まるよ?」
そう言われ時計を見るとちょうど前の授業が終わる時間だった。移動を始めないと、間に合わなくなる時間だったので急いで移動の準備をした。
「ああ、そろそろ行くわ。ストレス溜まったら運動とかしてリフレッシュしたらどうだ?」
「無理だよ。あたし、運動神経ないから…だから…」
そこまで言って雨宮は俯いた。
「また、話聞いてくれるかな?」
「…まあ、たまにならな」
ここでこう答えたのが、正答だったのか誤答だったのかわからない。しかし、そう答えたことでその後も雨宮は俺に話しかけるようになった。そうして2年経って、今はこんな仲だ。
さっきの男達は雨宮と同じサークルらしく、どうやらLINEでの会話を都合よく解釈したらしい。そんなやつが大学にもいるのね。
「ごめんね、比企谷くん」
「ああ、まあ、もう慣れた」
そう答えると雨宮はあはは…と何かを誤魔化すように笑う。
なんだかんだで一色より長い時間の付き合いがあるんだ。いろんなことに慣れるのに、時間はたくさんありすぎた。
「ねえ、比企谷くん」
そう雨宮が話しかけてくる。なんだ、と思いそちらを向く。雨宮は満面の笑みを浮かべている。その顔に照れながらも言葉を待つ。
「今から聞いてくれる?」
「…次、授業入ってるんだけど」
「…知ってる!」
「はあ、それも慣れたわ」
「えへへ♪」