やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。 作:Maverick
前話が雪乃編となっており、そこの前書きにちょっとした謝罪が載ってます。先にこっちを読んでる結衣推しの方には先に謝っておきます、すみません。詳しい話は前話を…。
では、いろはと八幡のクリスマスをご覧下さい!(こっちも砂糖多めにしたかったのに途中ちょい真面目に…)
今日はクリスマス。どの番組を付けてもまだ昼なのにクリスマス特番しかしていない。そんなリア充感たっぷりな番組は俺には合わないのでテレビの電源を切って、勉強しようと自室へ向かう。
「せーんぱい。こんにちは!」
「…色々言いたいんだけど、お前いつもどうやって入ってくんの?」
物音とか全くしなかったんだけど、怖すぎない?
自室の扉を開けた先にいたのは、腰に手を当ててこれでもかと言わんばかりに胸を張って仁王立ちしている後輩、一色いろはだった。
この急襲も既に十数回はされているので、最早諦めている。そもそも、俺とこいつは今年の秋、文化祭の時から付き合っている。しかしデートらしいデートも出来ず、受験のために頑張って勉強している横で今日みたいに家に来た一色が勉強するのが毎週の恒例になっていたりする。
今日はクリスマスなのだが、一色が俺に気をつかって勉強に専念してください!とか言ってたのに部屋にいるとはこれ如何に。いやまあ、嬉しいかどうかと聞かれれば間違いなく嬉しいんですけどね。
「先輩、ごめんなさい。どうしても我慢出来ず来ちゃいました」
「……まあ、あれだ。なに、今日1日くらい勉強サボっても大丈夫だろ」
今日サボったぶんは年末年始にライバル共がウェイウェイしてる間にすればいいか。折角の恋人関係になって初めてのクリスマスなのだから、一色のために何かしてやりたいとは思っていたし。
「そ、そうですか…は、もしかして今のプロポーズでしたかごめんなさい正直先輩以外の人とか今は絶対ありえませんし今後も考えるつもりはありませんがお互いに色々安定し始める25歳くらいになってからもう1回してください手間かけさせてごめんなさい」
「…付き合ってんのに振られるってどうよ」
まだ扉を開けたままでいたことに気づき、部屋に入って扉を閉める。いつも勉強している定位置…ではなく俺があぐらをした足の上に一色が乗ってくる。勿論向かい合わせではない、多分そうなったら速攻押し倒す。一色の手が俺の腕を掴み俺が一色を抱いている格好になる。普通に女子らしい体つきをしている一色を抱いているのはいい気分になる。べ、別にイヤラシイ意味なんかじゃないんだからね!!
「それで、まだ昼だがどうする?」
「そうですね…とりあえずしばらくこのままでいいですか?」
「ずっと座ってるのはちと辛い」
実際下に何かを敷いていても尻が痛くなったり、いくら一色が軽いとはいえしばらく乗っているなら話は別だ。足が痺れてしまう。
「でしたらベッドで一緒にお昼寝しませんか?」
「昼寝だと、早速するぞ。早く暖房切ってカーテン閉めて電気消して入れ」
そう聞いた瞬間俺は一色を持ち上げて足から下ろし、ベッドへダイブする。一色?ため息ついてる。
「どれか一つでもやってくれませんかね?」
そう言いながらもやってくれる一色は将来は良妻になるのだろうと確信する。すべて終えた一色はお邪魔しますと言いながら入ってくる。今は向かい合わせだ。一色の顔が近く顔が赤くなるが、それは一色も同じだった。
「わあ、先輩の顔近いです」
「当たり前だろ。逆にこの距離で遠いとか言われたら勘違いするわ」
「ええ。流石に今はしようとは思ってませんから」
今は、思ってないんですか。ちょっと今日の夜は攻めてみようかな。ちなみに俺たちはまだキスすらした事ない。なんて清廉潔白由緒正しいお付き合いをしているのだろう!!…なんか意味が若干違うな。俺もテンパっているということで。
「ねえ、先輩」
「どした?」
「私のことそろそろいろはって呼べませんか?」
約半月前から言われ続けているこの要求。正直なところ俺もそろそろ変えないとなとは思っていたのだが、それを切り出すタイミングを上手く掴めなかった。
「そうだな…そろそろ頑張ってみるわ。慣れるには時間かかりそうだけどな」
「そ、そうですか。ありがとうございます!」
俺の返事がよほど嬉しかったのか暗い中でもわかるほど顔を赤くし、顔を綻ばす。そんな一色…いろはの顔を見て、これで間違ってなかったことを確信した。
「それじゃ、おやすみ」
「はい!おやすみなさい」
そう言って俺達は目を瞑る。いっ……いろはが抱きついてくるが気にせず寝る。
……いろはが俺の胸に顔を埋めるが気に、気にせず寝る。
……いろはが俺の胸で『うにゅー』って言いながら寝ているが気にせず寝る。
………………。寝れる訳がないんだよなぁ、今の状況で。なんで寝れるのかいろはに聴きたいまである。が、しかしベッドで横になっていると眠くなるのが人であり、俺も人であるのでいつの間にか寝ていた。
いろはめっちゃいい匂いしてました、ご馳走さまです!
ふと目が覚める。今は何時だろうと部屋に掛かっている時計を見ると、短針は3を指していた…まあ、そんなもんか。
いろははまだ俺にくっついて寝て…
「くんくん、くんくん。すーはー」
なかったわ。こいつ俺の匂い嗅いでる。
「よう、いろは。いつ起きたんだ?」
「あ、おはようございます。そうですね…ほんの10分前くらいです」
「なんで俺を起こさなかったんだ?」
こいつなら起きた後すぐに俺を起こして何かしたいとか言い出すと思っていたんだが。
「いえ、一度起こそうと思ったんですがとりあえず先輩の匂いを嗅いでからと思って嗅いでたらそのまま時間が経ってまして」
なにそれすごく恥ずかしいんだけど。俺どんだけいい匂いなんですか、いろはさん。この人自分で言って自分で照れてるし。
「とりあえず離せ。話ができん」
「あ、はい」
そう言ってとても名残惜しそうに離れるいろは。手くらい握ってやろうと離れていくいろはの手を捕まえる。驚くいろはに気づかないフリをして話を続ける。
「そ、それで今からどうする?どこか出掛けるには微妙な時間だが」
「ですね…今日泊まってもいいですか?」
「…小町に聞いてみないとな」
その小町は友達とクリスマスの街を闊歩しているらしい。俺はいろはにスマホを取ってもらい、メールを打つ。スマホはベッド横の机に置いてあるのだが、俺は壁際にいたからいろはに取ってもらった。
「…こんなもんか」
「ふふっ」
「…いきなりどした?」
俺が小町へ『一色が泊まりたいとか言ってるんだがいいか?』とだけ送った後、いろはが突然笑い出す。頭がおかしくなったのん?
「いえ、先輩まだメール打つの慣れてないんだなと思いまして」
「俺がメールを打つのに慣れるのは社会人になってからだと思うぞ」
社会人になると嫌でも連絡する時とかメール多用することになるだろうからな。
しかし、いろはは俺の言葉を聞いて固まっている。
「せ、先輩。働くつもりですか…」
「ちょっと。あなた俺のことバカにしすぎよ」
いろはが本気で驚いてる。いや、ほんと、まじで悲しいんだけど。流石に結婚したい奴がいるのに働かないってのは相手に悪いと思うし、その辺しっかりしてるつもりなんだがな。
「いえ、そういう訳じゃなくてですね」
「じゃあなんだよ」
「先輩を養ってくれそうな人ならいるじゃないですか。陽乃さんとか」
まあ、確かにあの人なら養ってくれそうだよな。あの人俺のこと好きすぎだし。平塚先生と言い陽乃さんと言いこんなやつのどこがいいんだろうか、俺年上に好かれすぎじゃない?
「つーかお前がそんなこと言うなんてな」
「私なんて可愛いだけで何にも持ってないですし」
「自分で可愛いって言うあたり流石だと思うわ」
しかしいろはが何も持ってないとな。今日はクリスマス。これに紛れてクサいセリフを言っても、聖夜だから許される…よな?まだ昼だけど。
つまるところいろはのいい所をこいつに教えてやろうと思う。
「なあ、いろは」
「……なんですか?」
こういうの初めてだからちょっと一角の鬼さんパクらせて頂きます。
「俺はいろはの声が好きだ。あざとい仕草する時の甘い声も真面目な話をする時の少し低い声も」
「い、いきなりどうしたんですか」
「まあ、黙って聞いてろ。言ってる方も恥ずかしいんだ」
確かに恥ずかしいが1個言ってしまった以上後に引けない。なんて背水の陣だっつーの。
「いろは、俺はお前の髪が好きだ。亜麻色のセミロングでさらさらしてて撫でるとこっちも気が安らぐ」
まだあるぞ。いろはは黙って聞くことにしたのかこっちを見ている。
「いろは、俺はお前の手が好きだ。女子らしい華奢な手だけどいざ握ると何かに包まれているように感じてとても安心する」
「いろは、俺はお前の歩き方が好きだ。いつも2人で歩いている時勝手に先に行った後に俺がいるか不安になって、それで俺の方を見た後笑顔になって俺の横に戻ってくる」
「いろは、お前が何も持ってないわけないだろ。俺にとって今一番必要なのはお金でも、安定した生活でも、包容力のあるお姉さんキャラの知り合いでもない」
ここまでかなり喋りっぱなしだったから、ちょっと辛い。が、最後はカッコよく締めたい。
「俺が必要なのは、いろは、お前だけだ」
「……先輩。らしくないですね」
「全くだよ」
そういういろはの顔はどこか吹っ切れていて、憑き物がなくなったような表情をしていた。ほんのりと頬が赤い。
…これでよかったんだよな。間違ってないはずだ。
「すこししんみりし過ぎましたね。改めて先輩。今からどうしましょう?」
「…そういや昨日の夜にやってた洋画を録画してたかもな」
「ああ、先輩。アローンって言葉に共感したんですか」
昨夜していたのはあのとても有名な、家でぼっちの男の子が泥棒退治するあれだ。ちなみにちょっとだけ共感したし、なんなら親近感を抱いたまである。
「どうする?それ見るか?」
「ですね。他にすること思いつきませんし」
そう言って俺達はベッドを下りリビングへ向かった。リビングで録画の再生の準備をしている時に俺の携帯が鳴った。
「先輩。小町ちゃんからですよ」
「…お前が出ろ。めんどくさい」
正直なところ、何を聞かれるか分かったもんじゃないから電話したくない。現に電話してるいろはの顔は笑ったり照れてたり怒ってたり色々だ。
「先輩、小町ちゃん泊まってもいいって言ってくれましたよ」
「そうか」
「あ、後小町ちゃん今日友達の家でクリぼっちパーティしてそのまま泊まってくるーとも」
「…やっぱりそうなるよな。まあ、男子がいなけりゃいいか」
こうなることはある程度読めていたので諦める。だって小町可愛いし、高校最初のクリスマスくらいお兄ちゃんから離れていたいよね。うんうん、分かりたくなかった。
「飯とかは後々考えるとしてとりあえず見るか」
「ですね。何度も見たことありますけど」
「俺もだよ」
「いやあ、何回見ても笑ってしまいますね」
「ああ。俺らしくない笑い方めっちゃした」
見終わった頃には外は暗く、家々の明かりが確かに灯る時間となっていた。
今から飯をつくるってのは少し時間がかかりすぎそうだな…。
「どうする?晩飯」
「折角ですからピザ頼みませんか?ピザが着く前に先輩がコンビニでチキン買えばそれだけでクリスマス感ありますし」
あ、そこは俺が行くの決定してるんだ。いやまあ、いいんだけどね。いろは1人を夜の街で歩かせるとか絶対しないし。かと言ってピザがいつ来るかわかんないし。
「じゃ、何買うか決めちまうか」
「ですね」
俺のスマホで宅配ピザのホームページを開き、二人で何を買うか決める。そのページを見ながらいろはがそこへ電話をかける。こういう時にこいつのコミュ力役に立つよな。
「それじゃ、先輩いってらっしゃーい!!」
「ああ、行ってくるわ」
財布とスマホを持って最寄りのコンビニへ足を運ぶ。途中、俺の携帯が鳴った。画面を見ると、そこには小町と書かれていた。
「次は何」
『あ、今度はお兄ちゃんだ!』
「今コンビニ向かってんだが、どうかしたのか」
『いやー、小町普通に今日家に帰るつもりでお兄ちゃんの分のケーキ買ってたんだけどどうしようかなーって』
なんだ、この妹。出来すぎてて少し怖くなるまである。にしてもケーキか…コンビニに売ってるもんかね。
「なあ、小町。ケーキはいくつある?」
『えっとね、お兄ちゃんと小町と、あと小町の友達の分で4つだよ』
どうやら小町の友達とやらは二人いるらしい。仲が良いのは良きことかな。ひとつ余るようなら俺が取りに行っていろはと食べようと思ったが…仕方ない。
「そのケーキ食べていいぞ。俺に金出させる気だったなら明日渡す」
『ありがとー!お兄ちゃん愛してるよー』
「最後の部分が棒読みだったのが気になる」
小町は、にゃははーと笑うだけで何も言わなかった。
『それじゃあね。お兄ちゃん!メリークリスマス!』
「おう、メリクリ」
そう言ってどちらからか電話を切る。ケーキどうしようか、近くにあったか?…そうだ、いろはに少し悪いが作ってもらおうか。手に握ったスマホを操作していろはに電話をかける。
「なあ、いろは」
『はいはい、なんでしょう』
「ケーキどうする?」
『…あー、コンビニに売ってませんよね。私としたことがすっかり忘れてました』
どうやらいろはも忘れていたらしい。暫く考えてるのが電話越しでもわかった。そこで俺はいろはに提案する。
「材料なら俺が買うから作ってくれないか?すぐそこにスーパーあるし」
『……仕方ないですね。いいですよ』
そのまま買ってきて欲しいものを言われて、俺はそれを覚える。一応メールにして送ってくれるらしいから、やはり俺の彼女は優しい。
『では、先輩お願いしますね!ピザはまだ来てませんし、ゆっくりでいいですからね。気をつけてくださいね』
「おう。出来るだけ早く帰るようにする、勿論気をつけながら」
そうして俺は電話を切る。チキンはスーパーにも売ってそうだよな…先にスーパーに行っていいのが無かったらコンビニに行こう。俺は目的地を変更して体の向きも変え、また歩き出した。
「ただいまー。悪い、遅くなった」
「あ、おかえりなさい。あなた」
「……っ!?!?」
帰って玄関のドアを開け、中に入るとリビングからいろはが出てきたんだが…なんだそのセリフ。
「ほ、ほら先輩。どうせ今日は誰も帰ってこないんですよね?少しくらい乗ってくれても良くないですか?」
「わ、わかった」
「じゃあ、最初からです!」
いろはは1度咳払いし、喉の調子を確かめて口を開いた。
「おかえり、あなた。もうピザが届いてますから買ってきたもの冷蔵庫に入れて、まだあったかいうちに食べましょう?」
「お、おう。そうだな」
靴を脱ぎ下駄箱に入れて上がる。横にあるスリッパを履こうとする前にしゃがんだいろはが、それを取って俺の前に置いてきた。なんつー良妻だ。
「あ、ありがとう、いろは」
「いいえ、荷物持ちますか?」
「いや、これくらい俺が持ってく。お お前は飲み物とかの準備をしてくれないか?」
「そうですね」
いつの間にか自然に会話をしていた。まるで俺達が本当に夫婦であるかのように、とても気が安らぐほど自然だ。何も違和感を感じないことが不思議で、刹那俺は解った。これが『本物』の一つではないか、と。いろはのことは好きだ、だけどそれが『本物』なのか俺は自分に問い続けていた。これをきっと死ぬまで続けるのだろうと思っていた。でも解ってしまった。いろはは俺にとって紛れもなく『本物』の一つだった。
「いろは」
リビングに戻ろうと俺に背を向けていたいろはが振り返り、首を傾げる。その仕草が今まで以上に愛しかった。俺の体はいつの間にかいろはを捕まえていた。腕の中にいろはを捕らえ、このまま世界が終わるまでこうしたいと、俺の意識に主張してきた。
「いろは、好きだ。大好きだ」
「…どうしたんですか。今日は先輩が先輩じゃないみたいですよ」
「そうだな。ほんと、俺はどうかしたみたいだ」
自嘲するかのように言ったあと、いろはを放し頭を撫でる。
「いろは。間違いなくお前は俺の『本物』だ。婚約…しといてくれないか?」
「…当たり前じゃないですか。私、先輩を逃がす気、元からないです」
そのまま俺達の顔は近づいて…唇は重なった。ずっと夢見たことが、今こうして叶っている。とても興奮するはずなのに、不思議と落ち着いてる。そろそろお互い息が続かないことを察して離れる。いろはは俺を見て微笑み、何も言わずリビングへ入っていった。それ続いて俺もリビングに入る。窓から見える外にはぽつぽつと白い斑点があった。
ホワイトクリスマスだ。
「先輩!早く持ってきてくださいよ!」
「あ、悪い。今行く」
ある少年は本物を求めた。少女は少年の言葉を聞き、顔を見て何かを決意し、そして少年より先に『本物』を見つけていた。暫くして少年は、自分の『本物』を見つけた。
こうして自分は変わっているつもりがなくても人は変わり続ける。10年後の俺達は今と変わらずにいられるだろうか。いや、そんなわけがないのだ。色んなことが変化するに違いない。それにはきっといろはへのこの気持ちも含まれていて、けれども今の俺にはこの気持ちは悪い方向に変化することはないと確信していた。毎日いろはがさらに好きになって、気持ちの更新が行われるんだろうと、なんとなく解った。
「ねえ、あなた」
「なに、どした」
「あの子達が心配です。帰りましょう!」
「…ええ、折角予約したのに?もう帰るの?」
「先輩が帰りたがらないなんて明日は世界が滅びそうですね」
「スケールでかすぎんだろ…今までお疲れ。これからもよろしくな、いろは」
「…もちろんです。私からお願いするまでありますから!」