ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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 また遅くなっちゃいました。最初はクリスマスイブ。それがダメでクリスマス。それもダメで26日。結局今日になりました。創作意欲がないわけじゃないのですが、どうしてなんでしょうね?週一ぐらいで投稿出来る作者様は本当に尊敬しています。

 今話は少し長めの約8300文字です。時間がかかったのも、つい書いてて楽しくなってしまったからです。戦闘描写は苦手ですが、こういう戦闘関係ない回はつい書き過ぎてしまいます。

 今回は久々のレットの一人称だけです。ですが、レット自身のセリフは少なめで、領主2人やキリト、リーファのセリフが多いかと。原作の話にオリキャラを入れている以上仕方ないですが、オリキャラの出番を増やすか、原作キャラの出番を奪わないようにするかですごく迷います。他の作者様は一体どうしているのでしょうか?

 領主会談編?は今回でラストです。それではどうぞ。


15.結末

 ユージーンのリメインライトを回収し、俺は地面に降りる。そして、シルフ族の領主であるサクヤさんの蘇生魔法で、彼を復活させてもらった。

 

「──見事な腕だ。貴様、一体何者だ」

「俺の名はスカーレット。別に何者でもないさ」

「そうか。スカーレット、貴様は今まで見た中で最強のプレイヤーだ。どうして貴様のようなプレイヤーが、今まで無名だったのか俺には分からない」

「俺には勿体ない言葉ですね」

 

 勝負の決着がつき、出まくっていたアドレナリンが抑まったのか、俺の口調は敬語になる。そんな俺の謙遜した態度に対し、ユージーンは静かな声で言った。

 

「この俺を倒しておきながら、随分謙虚な男だな。言っておくが、同じサラマンダーに負けたのは貴様が初めてだ。十分誇っていい」

「そんな事ないですよ。俺より強い奴を、少なくとも2人は知ってます。後ろにいるキリトさんも、その内の1人ですよ」

 

 謙虚でも何でもない。本当に俺の周りには、俺なんかよりもずっと強い奴が沢山いる。もちろん、アクアさんやレモンさん、クラインさんだって強い。状況によっては、俺が敵わない事だってあるのだ。

 

「だから、俺があなたから奪った〝最強〟の称号なんて、すぐに奪われちゃいますよ」

「──ほう、貴様よりも強いのか。世界はまだまだ広いな」

 

 そうだ。世界はまだまだ広い。俺はそれを、アインクラッドで嫌という程味わった。自分の剣の腕に対する自信なんて、もう何度無くした事か。両手では数え切れない程はあるだろう。

 

「俺達の話、信じてくれますか?」

「…………」

 

 俺がそう訊くと、目を細めてこちらを伺うような表情になった。もしかしなくても、これはバレてるのではないだろうか?

 

「ジンさん、ちょっといいか」

 

 その時、どこかで聞き覚えのある声がした。

 

「カゲムネか、何だ?」

 

 思い出した。ルグルーで襲って来たメイジ隊の生き残りが話していたシルフ狩りの名人だ。つまり彼は、俺がログイン初日に調子に乗ってやり過ぎた相手という事だ。

 よって、俺が昨日の時点では初期装備に身を包んだ新規プレイヤーで、決して大使の護衛を任されるようなプレイヤーでない事がバレてしまう。俺が護衛でないのなら、キリトさんが大使であるという証明は何もなくなる。

 まあ、そんな証明は最初から出来ないのだが。

 

「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのは知ってると思うが……。その相手がこのサラマンダーだ。そこのスプリガンと……あとウンディーネを守るように戦っていたよ」

 

 どうやって誤魔化そうかとあれこれ考えていたが、カゲムネの口から語られたのは、早くも黒歴史になりつつある昨日の出来事ではなかった。それどころか、キリトさんと存在するはずのないウンディーネ大使の2人を、俺が守っていたという嘘。

 そもそも、俺がキリトさんを守るという事自体がありえない。そして、ウンディーネの大使はおろか、ウンディーネは最初の種族選択の時に見たっきりだ。

 

「……そうか。そういう事にしておこう。それに俺はスカーレットに負けた。今更、貴様らを大使と認めないというのは話が違うからな」

 

 そして、ユージーンは仲間達のいる高さまで上昇する。

 

「スカーレット。貴様にはいずれ、リベンジを申し込む。その時はキリトよ、貴様にも勝負を挑むからそのつもりでいろ」

 

 去り際の突然の宣戦布告。俺はもちろん、キリトさんもまともな返事は出来なかった。

 

 そして奴は最後に「貴様の椅子を空けておく。全てが終われば必ず来い」などと付け加えやがった。やはりこの男、ナイトとは別ベクトルで俺の天敵らしい。

 

 

 

 ユージーン率いるサラマンダー軍がいなくなり、俺はようやく肩の力を抜いた。

 

「レット君!」

「……リーファ」

 

 リーファが嬉しそうな顔でこちらに駆け寄って来る。

 

「ありがとう、レット君。君に頼って、本当に良かった」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。戦いの中、リーファの声が聞こえたんだ。おかげで俺はあいつに勝てた」

「そっか。えへへ、なんかそう言われると照れるね」

 

 そんな可愛らしく照れるリーファを見て、急に俺も恥ずかしくなり、目を逸らしてしまう。もしかして今俺って、すごく恥ずかしい事を言ってしまったのではないだろうか。さっきまでの高揚感が何か別のものに変わり、突然体温が上がった気がする。

 

 そんな時、一つの咳払いが聞こえた。それはサクヤさんのもので、少し申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。

 

「すまんが、状況を説明してくれると助かる」

「えっ……、ああ、ごめんサクヤ。えっと、何から話していいかな…………」

 

 顔の熱を冷ますかのように、左手でパタパタやった後、リーファはそう早口で言った。そして、「一部は憶測なんだけど」と断りを入れてから、事の成り行きを説明した。

 サクヤさんも、ケットシーの領主──アリシャ・ルーさんも、両種族の幹部達も、物音一つ立てずにリーファの話を聞く。リーファが全てを話し終えると、サクヤさんが少し考え込むような仕草をした。そして両手を組み、眉をひそめながら「……なるほどな」と呟く。

 

 サクヤさんによると、シグルドはサラマンダーに負けている今の状況が耐えられなかったらしい。そんな心の隙をサラマンダーに突かれ、彼らのスパイとなってしまったようだ。

 キリトさんは、プレイヤーにそのような考えを抱かせてしまうこのALOを「プレイヤーの欲を試す陰険なゲーム」と称し、そのデザイナーの性格の悪さを指摘した。

 結局、シグルドはサクヤさんによってシルフから追放された。そして、キヤーナと同じく、俺達に対して脅迫紛いの捨て台詞を吐いたのは言うまでもない。

 

 彼はこれから、レネゲイドとしてこのALOを彷徨うだろう。だが、手段はともかくとして、プレイヤーとして強さを求めるのは、同じゲーマーとして俺も理解出来る。いつか彼が心を入れ替えて、純粋にゲームを楽しみ、強くなってくれる事を願う。

 

「……私の判断が間違っていたのかどうかは、次の領主投票で問われるだろう。ともかく──礼を言うよ、リーファ。執政部への参加を頑なに拒み続けた君が駆けつけてくれたのはとても嬉しい。それにアリシャ、すまなかった」

「生きてれば結果おーらいだヨ!」

 

 アリシャさんが呑気にそう言い、リーファはぶんぶんと首を振る。

 

「あたしは何もしてないもの。お礼なら、この2人に言って」

「そうだ、そう言えば……、君達は一体……」

 

 美人領主2人に交互に見つめられ、俺は少し顔が赤くなる。対してキリトさんは、どこか誇らしげな様子ですらある。一体何なのだろう、この差は。

 

「ねェ、キミ達、スプリガンとウンディーネの大使団っていうのは、ホントなの?」

 

 アリシャさんが尻尾をゆらゆらさせながら、好奇心に満ちた目で言った。俺は何と返したらいいか分からず、デタラメを言ったキリトさんの方を見る。

 すると、キリトさんは右手を腰に当て、胸を張って言い放った。

 

「もちろん大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

「な──……」

 

 先程まで、領主としての威厳も感じさせていた2人が、口をガクンと開けて絶句する。俺はキリトさんを呆れたように見つめ、リーファも彼のやり口が分かってきたのか、聞こえるように溜息を吐いた。

 

「……無茶な男だ。あの状況でそんな大ボラを吹くとは……」

「手札がショボい時は、とりあえず掛け金をレイズする主義なんだ。まあ、9割方損するんだが、今回はそこにこいつがいたからな」

 

 最後は俺の方を見ながら、キリトさんはそう言った。

 

「お願いですから、もうやめてくださいよ。これじゃあ、心臓がいくつあっても足りません」

「分かったよ。善処する」

 

 全く悪いと思っている様子はない。これは二度目がある、俺はそう確信した。

 

「──おー嘘つき君にも興味あるけど、今はキミの方が知りたいなー」

 

 俺がキリトさんに追加で小言を1つ、2つ、3つ……、と言おうとすると、アリシャさんがネコ科めいた悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらに近づいて来た。数歩進み出て、俺の顔を至近距離から覗き込んで来る。

 

「──っ。えっ、えっと……あ、アリシャさん?」

「ん? なーにっかな?」

「ち、近くないです、かね?」

 

 このやり取りの間にも、彼女はどんどん距離を詰めて来る。そしてついに、

 

「──っ! あ、アリシャさん⁉︎」

「にゃはははは。可愛いねー、キミ。さっきの迫力が嘘みたいだヨ」

 

 彼女は俺の腕を取り、全身を使って抱き着いて来た。彼女の香りやら感触やらは、思春期男子には効果が抜群なものばかりで、俺の顔が真っ赤になっているのは間違いない。もちろん脈も早くなってるはずだし、その音をアリシャさんに聞かれていてもおかしくない。

 

「ねェ、ユージーン将軍と戦ったって事は、今はフリーの用心棒って事かな?」

「はっ、はい。そ、そんな感じ……かと……」

「じゃあ、キミ──ケットシー専属で傭兵やらない? もちろん報酬も弾むけど、三食おやつに昼寝つきも魅力的だヨ」

 

 耳元で囁かれ、くすぐったさに肩がビクッと上がる。それをまた指摘されて恥ずかしくなり、俺は出来る限りアリシャさんを見ないように首を回す。

 しかし、

 

「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ」

 

 アリシャさんのまだ幼さが残る声とは対照的な、大人っぽい艶のある声が聞こえた。もちろんそれはサクヤさんなのだが、その表情を見る限り嫌な予感しかしない。

 

「彼はもともと、我々シルフの救援に来たんだから、交渉はこちらが優先だろ」

 

 そう言いながら、彼女もやはり俺の腕を取る。アリシャさんとは違う、絡みつくような抱き方で。

 〝両手に華〟には憧れた事はあるが、もう二度と憧れたりはしない。僅かな心地良さと、かなりの恥ずかしさでどうかしてしまいそうだ。

 

「リーファに倣って、私も〝レット君〟と呼ばせてもらってもいいかな?」

「へっ? べ、別に……構いませんけど……」

「そうか。ではレット君、どうかな、個人的興味もあるので、礼を兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」

「あーっ、ずるいヨ、サクヤちゃん。色仕掛けはんたーい」

「人の事言えた義理か! 密着し過ぎだお前は!」

 

 両手は掴まれて身動きは取れない。突然過ぎる出来事に頭はオーバーヒート寸前。もう俺1人の力では何も出来ない。だが、頼みの綱のキリトさんはニヤニヤしており、面白がって助けようとはしてくれない。

 誰でもいい。誰でもいいから、助けてくれ──

 

「ダメです! レット君はあたしの……」

 

 そう思った時、リーファが服を引っ張りながら突然声を上げた。サクヤさんとアリシャさんも、揃って彼女の方を見る。

 

「ええと……あ、あたしの……」

 

 俺の救世主は、どうやらその場の勢いだけで叫んだらしく、続く言葉が出て来ない。

 未だフリーズ中の俺と、しどろもどろになっているリーファを助けたのは、意外にもキリトさんだった。

 

「すいません。仲間の腕を高く評価してくれるのは大変ありがたいんですが……、俺の目的のためには、まだこいつの力が必要なんです。リーファにも、それで中央まで連れて行ってもらう約束をしてまして」

 

 このままではいつまで経っても出発出来ないと考えたかどうかは分からないが、キリトさんがそう助け船を出してくれた。

 

「ほう……そうか、それは残念だ。レット君の後で、君にも交渉しようかと考えていたのだが……」

 

 そう言うと、サクヤさんは「……仕方ないか」と呟き俺を解放してくれた。アリシャさんは最後まで名残惜しそうな表情だったが、離れるサクヤさんを見て、自分もやめてくれる。

 

「アルンに行くのか、リーファ。物見遊山か? それとも……」

「領地を出る──つもりだったけどね。でも、きっとスイルベーンに帰るわ」

「そうか。ほっとしたよ。必ず戻ってきてくれよ──彼らと一緒にな」

「途中でウチにも寄ってね、大歓迎するヨ!」

 

 すると、2人の領主はそれぞれ仕草は違うものの、俺達に一礼をする。

 

「──今回は本当にありがとう、リーファ、レット君、キリト君。私達が討たれていたら、サラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。何か礼をしたいが……」

「いや、そんな……」

 

 困ったように頭をかくキリトさんだが、それも仕方ないだろう。彼がALOに来た理由は、アスナさんを助けるため。その先の事は何も考えていないのだ。何かアイテムを貰っても、無駄にしてしまう場合が多い。後は単純に、こういうのに慣れていないだけだ。

 

 すると、リーファが何か思いついたような表情をし、一歩前に進み出た。

 

「ねえ、サクヤ──アリシャさん。今度の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?」

「ああ、まあ──究極的にはな。二種族共同で挑み、双方共にアルフとなれればそれで良し、片方だけなら次の機会も共にやる……というものだが」

「その攻略に、あたし達も同行させて欲しいの。それも、出来る限り早く」

 

 リーファの発言に、領主2人は顔を見合わせる。

 

「……同行は構わない、むしろこちらから頼みたいほどだよ。時期的な事はまだ何も言えないが……しかし、なぜ?」

「…………」

 

 リーファがちらりと俺達を見る。俺はアイコンタクトで、キリトさんに任せると伝える。キリトさんが頷き、一瞬瞳を伏せてから言った。

 

「俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれない、ある人に会うために……」

「人? それは妖精王オベイロンの事か?」

「いや、違う──と思う。リアルで連絡が取れないんだ。俺はその人と、どうしても会わなくちゃいけない」

「へえェ、世界樹の上って事は運営サイドの人? 何だかミステリアスな話だネ?」

 

 キリトさんのどこか小説のような話に、アリシャさんは興味を持ったらしい。大きな目を輝かせ、尻尾はゆらゆら揺れている。だが、すぐに尻尾と耳が力なく垂れた。

 

「でも、攻略メンバーの装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ……。1日2日じゃとても……」

「そうか……そうだよな。いや、俺もとりあえず根元まで行くのが目的でその先は何も。……後は俺達で何とかするよ」

 

 キリトさんは小さく笑うと、「あ、そうだ」と言って左手を振ってウィンドウを出す。それを操作し、かなり大き目の革袋をオブジェクト化した。

 

「これ、資金の足しにしてくれよ」

 

 そう言って、キリトさんはそれを差し出す。じゃらりと重そうな音から、ユルドがその袋いっぱいに詰まっているのだろう。アリシャさんがそれを受け取ると、そのあまりの重さにフラつき、慌てて両手で抱え直す。そして、恐る恐るといった風に、袋の中を覗く。

 

「さ、サクヤちゃん、これ……」

「ん……?」

 

 目を丸くしながら、アリシャさんがサクヤさんを呼ぶ。呼ばれたサクヤさんは中から一枚のコインを摘まみ出す。

 

「うぁっ……」

 

 それを見たリーファがそう声を漏らし、領主2人は絶句、背後の幹部達はざわつく。

 

 キリトさんがこれだけ渡した以上、俺もあまりケチるのは良くないだろう。俺も同じように操作し、キリトさんよりも僅かに余裕のある袋を出す。そしてそれを2人の間に置く。その時の弾みで袋のそのが開き、中のコインが見える。

 

「……レット君まで……」

「2人の分を合わせたら、とんでもない額になるヨ…………」

 

 キリトさんの場合は、アスナさんと所持金が一緒になったからあれだけ出せたが、俺はそんなに出せない。それでも、キリトさんほど無駄遣いはしていないので、彼の3分の2ほど、彼女達に寄付させてもらった。それでもまだ所持金は半分ぐらい残っている。

 

 それを見て、2人は呆れを通り越して恐怖すら感じていそうな表情をしている。

 

「いいのか? これだけあれば、一等地に城を建てた上で、最高級の家具を揃えられるぞ」

「構わない。俺にはもう必要ない」

「俺も大丈夫です。それなりに稼いでましたから」

 

 それを聞き、再び2人は袋を覗き込む。そして、深く息を吐いてから顔を上げた。

 

「……これだけあれば、目標金額はもう届いたもの同然だヨー」

「大至急装備を揃えて、準備が出来たら連絡させてもらう」

 

 そう言うと、サクヤさんとアリシャさんはストレージに革袋をしまった。そして少し話すと、幹部達に指示を出し、彼らはテキパキと簡易会談場を片付ける。

 

「何から何まで世話になったな。君達の希望に添えるよう、最大限努力する事を約束するよ、キリト君、レット君、リーファ」

「役に立てたなら嬉しいよ」

「その言葉だけで十分ですよ」

「連絡、待ってるわ」

 

 俺達は、それぞれ固い握手を交わした。

 アリシャさんが別れ際、リーファの耳元で何かを囁いた。すると、白い肌がたちまち赤く染まった。

 

「──そ、そんなんじゃないですってばッ!」

「にゃはははっ。レット君もだけど、リーファちゃんも面白いネー」

 

 そして、彼女がこちらを向いて再び悪戯っぽく笑った。嫌な予感がする。

 

「レット君っ」

「な、何でしょうか……」

 

 アリシャさんは、自身の尻尾を器用に動かし、俺の体を引き寄せる。そして頰にちょんと唇を触れさせた。

 

「「──な……っ」」

 

 アリシャさんの悪戯を受けた俺、それを一番近くで見ていたリーファは、全く同じ反応をする。キリトさんは少し遠くから眺め、ニヤニヤ笑っており、サクヤさんはアリシャさんを呆れた目で見ている。

 

「レット君、さっきの事、ちゃんと考えておいてネー」

 

 そう言いながら、アリシャさんはサクヤさんと共に一直線に上昇する。そして、美しい隊列を保ちながら、西の方角に向かって飛んで行った。

 

 やはり、俺はアリシャさんの事が苦手だ。口調や雰囲気が、知り合いのとある2人に似ているからだ。厄介な人に気に入られたな、俺は心の底からそう思った。

 

 

 

 空は夕焼けで赤く染まり、その中に入った彼女達の姿が見えなくなった。冷たい風が頰を撫で、軽く身震いする。

 

「……行っちゃったね」

「ああ──終わったな……」

 

 キリトさんに続き、リーファがそう言った。俺も2人と全く同じ意見だ。

 今回の騒動の発端となった、シグルドとの揉め事や、ルグルー回廊でのキヤーナとの戦い、ユージーンと戦った事に、……その後のあれこれ……。それらが全てずっと昔の事のようだ。だが、それも仕方ないだろう。なんせ、この僅か数時間に起きた出来事はどれも濃密で刺激的な事だったのだから。

 うん、濃密で……刺激的……。

 

「──っ!」

 

 これは完全に自爆だ。顔は真っ赤になっているに違いない。

 

「なんだか……」

 

 羞恥心と必死に戦っていると、不意に近くでそう呟く声が聞こえた。リーファだ。そのまま、彼女は俺に身体を預けるように寄り掛かって来た。

 

 そういえば、さっきリーファか何か言おうとして……、

 

「あれ? どうしてリーファさんはレットさんにくっついてるんですか?」

「わっ!」

「──っ」

 

 キリトさんの胸ポケットから顔を出したユイちゃんが、俺達の方まで聞こえる声でキリトさんに訊いた。もちろん、こちらまで聞こえていたので、リーファはビックリして耳元で声を上げて距離を取った。俺はそれに驚き、肩がビクッと上がる。

 

「こ、コラ、ユイ! 邪魔しちゃダメじゃないか」

「そ、そんなんじゃないですから! な、リーファ、そうだろ」

「え、ええ、そうよ……。ちょっと肌寒かったから……、ただ、それだけだから!」

 

 キリトさんはそれを聞いてもニヤニヤしており、ユイちゃんは首を傾げている。

 

「パパ、そうなんですか? 私、レットさんの顔が赤くなっていたので、てっきりそうなのかと……」

「んー、どうだろうなー。まあでも、2人がそう言ってるんだからそうなんじゃないか?」

 

 キリトさんは実に楽しそうにしている。ユイちゃんもまだちゃんと納得は出来ていないらしく、半信半疑でこちらを見ている。

 

「き、キリトさん! もう今日は遅いですし、早くアルンに行ってログアウトしましょうよ! 俺、先に行ってますからねッ!」

 

 そう早口でまくし立てると、俺は翅で空気を思いっ切り叩き飛び上がる。そのまま、アルンがある方角に向けて全速力で飛んで行く。

 

「あっ、おいレット!」

「──えっ、レット君、キリト君⁉︎ 待ってよっ!」

 

 俺に遅れる事僅か数秒、リーファは俺の隣に、キリトさんは俺達を追い越して前に来た。

 

 リーファがチラリと背後を振り返った。おそらく、彼女の愛する街──スイルベーンを探しているのだろう。だが、ここからは山脈に遮られて見る事は出来なかったようだ。

 

「リーファ。全部が終わったら、必ず行こうな」

「……うんっ。まだ案内し切れてないたくさんあるんだ。今度は全部、教えてあげるよ」

「それは楽しみだな」

 

 前を飛ぶキリトさんがこちらを向いて言った。

 

「さあ、アルンまでもうすぐだ。もうちょっと頑張ろう!」

「はいっ!」

「うんっ!」




 時間がかかったのは、領主2人が積極的なアプローチをするシーンをどうするか迷ったからです。最初は今回とは違うパターンで書いたのですが、それではレットが思いっ切り空気だったのでこちらに変えました。

 トンキーの話はやりません。理由はやはり、レットが空気になるか、キリト出番を奪うだけなので。エクスキャリバー編をやる時に、軽く説明を挟むと思います。なので、次回は現実に戻ります。

 余談ですが、本当は前回レットに、「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る」的な事を言わせてみたいとか思ってました。キャラが若干違うので、諦めましたが。

 それではっ!

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