龍神と死の支配者   作:雑魚王

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三話 交渉の決裂

 今から来る。タイミングを図っていたわけでもあるまいが、レイアの言葉が終わると同時にそれは出現した。

 

 闇。見通すことの決して叶わない闇が、床から溢れ、屹立し、そのまま半球状となってその形を留める。扉に見えなくもない形状となったその闇からひとりの男が歩み出てきた。

 

「……レイア(使者)から色々聞かされているだろうが、俺がこの土地の本来の支配者だ。今更、名乗るのもおかしいが、改めて名乗るか……俺がグラン・ドラグニルだ」

 

 人目見た瞬間に、ランポッサ三世は己との『格』の差を思い知った。覇気、あるいは王気(オーラ)とも呼ぶべき、その身に纏ったものがあまりに濃厚すぎるのだ。しかも、その身につけた衣装と装飾品の数々は王族の使うものの遥か上をいき、歴戦の戦士のようにその体は鍛え上げられていることが遠目にもわかった。

枯れ枝のごとき肉体と心労からくる無数の皺、色の抜けた髪。そんなランポッサ三世の姿とは比べるべくもない。

 

「……では私も改めて名乗ろう。リ・エスティーゼ王国国王ランポッサ三世である」

 

 誰よりも敗北を認めておきながら、それを表に出すことはないし、できない。そんなことをすれば対立派閥の貴族たちに付け入る隙を与えることになるし、そもそも本当に土地の支配者だったか確証の持てない相手に――口からでまかせを言ってるだけかもしれない相手に頭を垂れることなど王としてできるはずがなかった。

 

「ドラグニル殿とお呼びすれば良いかな? ドラグニル殿の言うとおり、そちらにいる使者殿から話は聞いた。しかし、それが本当だという証拠はどこにもない」

 

 本当だとすれば、この発言はあまりにも危険だ。約定を真っ向から破った挙句に言い訳を重ねているのだから、怒りも一塩というものだろう。

 しかし、初めから膝を屈することもできないし、屈した場合にもどんな要求をされるのかわかったものではない。

負けを認めながらも、国を守るひとりの王としての矜持が、ランポッサ三世に危険な綱渡りをするだけの勇気となってくれていた。

 しかし、予想に反して、耳に届いたのは穏やかな声だった。

 

「証拠ならあるとも」

 

「……なに?」

 

 長らく王として活動するランポッサ三世すら知り得なかった建国の裏に隠された秘話。それを知らなかったのは、言及したものを見なかったからというのが大きいのに、まさか証拠を提示されるとなれば間抜けな声が出てしまうのも仕方ないはずだ。

 

「約定を交わした時の証文がある」

 

 虚空へと伸ばした手が、空間に飲まれるようにして消える。そうして取り出された一枚の紙をグランはランポッサ三世に向かって放り投げた。

 

「確かめてみろ」

 

 丸められていた羊皮紙を開いて目を通す。最後まで読み、何度も読み直して、見直していく。なにか勘違いがないか、偽造されたものではないか。幾度も確認するが、この羊皮紙が本物であるという認識を強めるだけだった。

 

「初代国王との約定を確かに確認……しました。度重なる不敬に関して、謝罪します」

 

 口調を改めて、頭を下げたランポッサ三世を見て、貴族たちが瞠目した。次期国王と目されるバルブロ第一王子が声を荒らげた。

 

「父上! このような者に頭を下げる必要などありませんぞ!!」

 

 主をこのような者呼ばわりされたレイアがキレかかるが、当の主に目線で諫められる。内心、バルブロへの憤怒が渦巻いているが、個人的な感情よりグランの意思のほうが遥かに重い。

 

「何を言おうと、我ら貴族に対して全く礼儀を払わない下賎な輩であることに変わりはありません。この国の頂点に立つ王族(我々)への無礼、ここで償わせるべきです!!」

 

「バルブロ、それ以上は口にするでない!!」

 

 老骨とは思えない一喝に、勢いづいていたバルブロは驚き、口を止めた。

 

「証文には初代国王の名と王家の印が刻まれていた。偽造された様子もない。王家が代々守るべき約定を違えてしまったのは事実なのだ。それに、貴族の位があるのも彼が土地の支配を任せてくれたからこそのもの。我々が彼より上ということはあり得ない」

 

 次々にバルブロを非難するようなランポッサ三世の口ぶりに、バルブロは怒りを覚えた。こうしている今も貴族たちには自身の醜態ともいえるものを見られ、こうなった原因はどこの馬の骨とも知れない男なのだから当然である。

 怒りと憎悪を隠そうともしない瞳でグランを睨みつけ、逆にレイアに睨み返され失禁しそうになりながらも、体面を取り繕って、ランポッサ三世へと意見する。

 

「お言葉ですが父上。建国に対する恩義があろうと、国を発展させたのは我々なのです!これだけ国を栄えさせることができたのは我らのちからがあったからこそのもの(いたずら)(へりくだ)る必要もありませんぞ!!」

 

 バルブロは自身がいずれ王位を次ぐと信じて疑わない。王となった暁には自分以上の上位者がいては、自身の好きにできない。それゆえ、なんとしてでもグランを排除しようと躍起になっていた。一部の賢者たちがバルブロの狂行を冷めた目で見ていることに気づかないほどに。

 

「そもそも、その約定とやらも初代国王の独断で結ばれただけのもの。当時は国もなく、力もなかったから、そんなものを結んだのかもしれませんが今は違うでしょう! 王国は近隣諸国の中でも最大を誇る国土と人口を誇る大国となった! 職業軍人の騎士を多く擁する帝国の進行を幾度となく打ち破れるほどの力を持つようになったのです!! 己の力だけでも十分に国を運営できるというのに、いつまでも過去に縛られていては未来が危ういでしょう!!」

 

「バルブロ、お前は……」

 

 何を言おうとしたのか、それはランポッサ三世にもわからなかった。だが、その胸中を落胆と失望が満たしていることだけは理解できる。

 

 建国の恩人には、王としても国民の一人としても感謝を示して当然だというのに、むしろ貶すような言い方をする様子。

 

 帝国の侵攻は、王国が退けているのではなく、向こうから退いているだけだというのに、軍事力で勝っているとの思い違い。

 

 貴族の争いに犯罪行為、犯罪組織の台頭によって王国は蝕まれているのに、国力が豊富にあると錯覚。

 

 どれを取っても王の息子として、次期国王として失格も良いところである。王族として優秀な家庭教師をつける等の措置は取ってきたはずなのに、現状がコレ(・・)だ。王国の衰退のなによりの証明となっていることに、バルブロは全く気づいていない。

 

「そちらの言い分は理解した」

 

 唐突に声を上げたグランに、玉座の間に集結していた者全ての視線が集まる。その声色は、緊張も焦りも感じさせることなく、子に話を言い聞かせる母の言葉のように心の奥まで染み込んでいく。

 

「つまりは約定など今となっては微塵も価値がなく、王国は人間の力のみによって運営していく。上位者は王侯貴族であり、グラン・ドラグニルに言葉には重みがないってことなんだろう?」

 

 憤怒もない。悲しみもない。ただただ、その声は確認された現実を告げていた。

 だから、次の言葉は王国貴族の誰にとっても予想外だった。あまりにも自然な口調からそんなものが飛び出してくるとは誰にも予想できるはずがない。

 

「――ならば、この国は滅ぼそう」

 

「な!? 待っ――」

 

 待ってほしい。そう言おうとしたランポッサ三世だったが、グランに目線で制される。

 

「たかだか二百年で番人の役目もこなせなくなる不良品なんかいらん。しかも、今回の騒動は第三者が起こしたものじゃなく、王国(お前たち)が率先して起こしたものだ」

 

眼光は鋭く、覇気も尋常ではない。だが、ここで退いては取り返しのつかないこととなる。

ランポッサ三世は己の死を覚悟して、反論する。

 

「ですが、それは王家で伝承が引き継がれていなかった事故によるものでしょう!?」

 

 しかし、それもあっさりと切って捨てられる。そもそも、グランには言い分を聞いてやるつもりは初めからなく、今までの会話は事実確認に過ぎなかった。

 

「んなことは俺が知るか」

 

 怒りがないのはグランが慈悲深いからではない。単純にこの展開を初めから予期していたからだ。

 気怠げな口調だが、そこには考えを改める余地など存在しないことは誰の耳にも明らかだった。

 

「言い訳すれば、何かやっちまっても許されると思ってんのか? じゃあ、先に謝っとくわ。悪い、これからこの国滅ぼすぜ。――これで良いだろ」

 

「王家の不手際が騒動の根本的な原因です。王家の過失は王家が責任を取るべきでしょう! ここは何卒、私一人の命でどうか許していただきたい」

 

「いや、駄目だ。当然、王家には責任がある。だが、俺の平穏を直接的に害してきたのは侵入者――この王国の民たちだ。責任の所在を問うのなら、王家だけでなく国民にも取らせなくちゃいけない。」

 

 王家と国民。その両方――つまりは王国に住まう者全てに責任を取らせる。それがグランの決定だ。

 

「それにさっき、そこのバルブロとか言ったか? そいつが随分と好き放題にこき下ろしてくれたからな。その借りも返してやらんと気が済まん」

 

 じろりとグランに睨まれたバルブロが腰を抜かす。体面云々のことはすでに頭にはなかった。ただの視線だけで、バルブロにとっては命の危機なのである。

 

「我が愚息の度重なる無礼な物言いについては申し開きの仕様もありません。ですが――」

 

「――外交で考えてもみろよ。他国の王を正面から貶しまくっておいて、謝罪だけで済むわけねえだろ。軽く戦争を始める言い分にはなるぞ」

 

 言葉の先を捕らえたグランの物言い。どうしようもない現実を次々と休む間もなく叩きつける容赦の無さに、ランポッサ三世は心を折られそうになる。しかし、それでも言わなければならないのだ。王として、愛する国民を守るためにも――

 

「――ですが、私はリ・エスティーゼ王国国王なのです。あなたが崇めるべき御方であっても、こちらに非があろうと、国民を無闇に殺させるわけにはいきません」

 

 グランの金色の瞳がランポッサ三世を見つめる。

 

 玉座の間には静寂が満ちている。

 

 絶対的な上位者を相手にしても王たらんとする、ランポッサ三世を見直す貴族がいた。

 

 僅かにでもグランの怒りを買えば殺されかねないと、息を潜める貴族がいた。

 

 王だというのに頭を垂れる父に憤慨し、好き放題に言う侵入者には恥をかかされたを怒りを覚えた王子がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の王国の王とは思えない言葉だな」

 

 静寂を破ったのは、グランの声だった。その言葉の意味がわからない者は内心で首をかしげ、聡い者はそれを強烈な皮肉だと評した。

 

「今回の騒動が起きてから、俺は配下に調査させていたが、探っていたのは騒動の原因だけじゃないんだよ。長らく引き篭っていたから、久々に色々と情報を集めるように言っておいたんだ」

 

 引きこもっている最中も情報の収集は細々としていたが、余計な騒ぎを起こさないためにも本当に最低限でしかなかった。

そんな時に、原因の調査だ。グランは物のついでとばかりに本格的な情報収集を命じておいたのだ。

 

「毎年の帝国からの侵攻でかなりの死者が出てるらしいな。物資の不足に税金の増加、国民は今も貧困に喘いでいるんだってな。他にも貴族の勢力争いに巻き込まれて死んだのも結構いるんじゃないか? 貴族は領内では犯罪行為をしたところでお咎めもないから、気に入らんやつはぶっ殺して、若い女は攫ってあれこれしてるとも聞いたぜ。他にも犯罪組織が勢力を伸ばしてきて、その被害も深刻だとか。しかも、その組織は貴族と癒着していたり」

 

 グランは調査で得られた王国の現状を挙げ連ねていく。そのたびにランポッサ三世の顔に満ちていく苦渋を見て、間違いないと確信を得た。

配下の能力を疑うわけではないが、自分がかつて土地の管理を任せた男の子孫と、この恵まれた土地でそこまで国の運営が傾くというのは信じ難かった。

 しかし、それは事実であり、かつての王国はいまやすでにないことがわかった。今の王国はグランの見た王国ではない。言うなれば、王国を素材にしたアンデッドだ。外見も中身も全てが腐りきり、あたりに腐臭を撒き散らす害悪な存在。そんなものが拠点()のそばにいる状態に何も感じないほど、グランは達観してはいなかった。

 

「ランポッサ三世。お前はさっき、国民を無闇に殺させるわけにはいかないと言ったな。王国の現状は正に国民を無闇に殺してるんじゃないのか?」

 

「……だが、それでも」

 

「別に言わなくていいぞ。最初から聞く気はねえし。ここまでの話したのだって単純に、国王の心をへし折ってやりたいってのが一番大きかったからな」

 

 あっはっはっは。と大笑いしながら、性格最悪なことを平然と口にするグラン。だが、それが、一番ランポッサ三世にとって救いがない。ここに来る前からすでに王国を滅ぼすことが決まっているのだから、なにを言おうと無駄なのだ。国が苦しむのを前に何もできなかったことに苦しみ、今度は国が滅ぶのを止めることができない。

 

 ランポッサ三世の心はズタボロだった。

 

 ランポッサ三世の心が折れたこと見て一通り楽しんだグランは踵を返して壁際まで歩いていく。

 

「この戦争――じゃなくて蹂躙のことは国民にも教えてやらないとな。なに、心配するな。お前たちの手を煩わせるようなことはしないさ。俺が直接宣伝してきてやるよ」

 

 振り返って一言だけ告げると、再び壁の方に顔を戻す。

 変化はすぐに現れた。黒のロングコートを纏ったグランの腕が、足が、動が、頭部がみるみるうちに巨大化していき、その骨格の形すらも変わっていく。歯は鋭い牙へと変わり、瞳孔は爬虫類のように縦に割れたものになっていた。背中からは二翼一対の翼が生え、全身を光沢のある漆黒の鱗が包み込んでいる。

 

 青年の面影は全く残っておらず、そこには強大なドラゴンが立っていた。

ドラゴン(本来)の姿となったグランは足元に控えるレイアへと声をかける。

 

「お前も姿を変えたらどうだ? そっちのほうが格好もつくだろ」

 

「うーん? そういうもんかなぁ。まあ、王様がそう言うならやるけど」

 

 性別の違いか、単純に個人的な趣向の差からかはわからないが、レイアはグランとは若干、意見が違うようだった。それでも、否定する理由も、拒否する動機もなく、レイアは異形種本来の姿に形態を変化させた。

 

 眩い金色の輝き。全身を覆う鱗は金貨にも勝るほどの輝きを放っている。二本の足で体を支えており、手がない代わりに大きな翼を持っていた。

 

 やはりというべきか。レイアもドラゴンであり、その姿を取り戻していた。

 

 それを見て、人間形態時のレイアに欲望に滾った視線を向けていた貴族の一部が悲鳴を上げるが、グランとレイアは全く気にも止めない。

 グランにとっては、彼らは本当にどうでもいい存在であり、いちいち反応に構ってやる気はない。

レイアにしても、視姦されるのは不愉快ではあるが、しかし愛する主によって想像された肉体に見惚れるのは仕方ないとも言えた。それに、いくら欲望を持ったところで、あの程度の雑魚ではレイア相手に何かできるはずもないので、やはりどうでもいいという気持ちが強かったのだ。

 

 体を大きく揺らして勢いをつけたグランが、壁面へと肩をぶつける。王城どころか、街にまで轟音が響いた。

 

「なかなか風通しが良くなったな」

 

あまりの衝撃に一部どころか全体の崩れた壁面から、グランは飛び立っていく。レイアもそれに続いた。

本来ならば、壁面を壊したことに抗議する場面だが、声を上げる貴族は一人としていなかった。彼らの知る『最強』とは、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ。卓越した剣技と強靭な肉体、そして王から貸与された王国の秘宝の数々。秘宝に身を包んだガゼフは正に一騎当千、一人で戦況を覆すだけの力を持っている。だが、そのガゼフでさえも、王城の巨大な壁面を一撃で木っ端微塵に吹き飛ばすことなどできはしない。空を自由に移動できる飛行能力を持っているわけでもない。ガゼフを超える怪力の持ち主が、歩兵の届かぬ空から自由に攻撃できるというのはもはや悪夢でしかなかった。

 

 

 自分たちの常識が容易く覆されるのを貴族たちは、己の内に自覚していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 商人が、衛兵が、冒険者が、空を舞う二体のドラゴンに気づいた。

 一体は長大な身体を漆黒の鱗に包んだ四足のドラゴン。もう一体は前足()の代わりに、その部分からは翼を生やした金色のドラゴン。

 

 そのドラゴンが何者であるかは誰も知らない。しかし、自分たちが決して到達し得ない高みに座す絶対強者だということは一目で理解できた。

 

「この国は大きな罪を犯した! ゆえに、本来の土地の支配者である俺が罰を下す!! 一ヶ月だ。俺は配下とともに一ヶ月にこの王都を攻め落とす! これは最後の慈悲だ、それまでに親しい者たちとの別れを済ませておけ!!」

 

 国が犯したという罪も、本来の土地の管理者も、王都に住まう者たちにとっては聞き覚えのないことだ。だが、それを気にすることはない。これほどのドラゴンが一週間後に王都を滅ぼすというのだから、現実としてそうなるのだろう。強者が口にする予測とは予言に他ならない。自分たちの余命が残り一週間だと告げられて、罪だとか土地の管理者だとか、そんなことに疑問を持つ精神的余裕は誰にもなかった。

 

「待っていただきたい!!」

 

 そんな中で、赤いローブと、仮面で全身を隠した小柄な魔法詠唱者が、かの強大なドラゴンに声をかけた。その周囲には雄々しい女戦士と顔のよく似た双子の忍者、そして黄金の全身鎧を着た美女。王国民ならば誰もが知る、アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』だ。

 

「ああ? ……インベルンだったか。なんの用だ?」

 

 ドラゴンたちは蒼の薔薇の立つ建物近くにまで降下してくる。金色のドラゴンは従者のように付き従い、漆黒のドラゴンが問いただした。

 

「約定を違えたことには申し開きのしようもございません。しかし、どうか国を滅ぼすなどということはやめていただきたいのです!」

 

「それか。今の国王にも同じことを頼まれたけどな。もちろん断ったさ。つうわけで諦めろ」

 

 諦めることができたら、そもそも龍神の前に立ちはしない。退くことができないからこそ、勇気を振り絞ってここに来たのだ。それにここには、頼もしき仲間たちがいた。

 

「私の名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。この国の貴族であり、イビルアイの仲間です。私からも頼みます、どうか怒りをお収めください。望みのものがあれば、それがなんであれ、全力で入手し献上しますから」

 

「あんたに比べりゃ、チンケなもんなんだろうけどよ。俺たちはこれでも人類最強のアダマンタイト級冒険者だ。大抵のもんは手に入れてくるぜ?」

 

「国を潰されるとたくさんの可愛い女の子が犠牲になる。それは駄目」

 

「可愛い美少年が犠牲になるのも許せない」

 

 リーダーのラキュースに、ガガーラン、ティナとティアの双子姉妹が続いた。あの恐ろしいドラゴンに真っ向から意見できる、その姿に王都の住民たちは畏敬の念を捧げ、交渉が上手くいってほしいと願った。

 

「死地に躊躇なく飛び込めるなんて随分成長したな。それに周囲も付いてくるんだから、仲間にも恵まれてる」

 

 穏やかにイビルアイとその仲間たちをドラゴンは褒め称えた。皮肉でも嫌味でもない、純粋な賞賛だけがそこにはあった。

 しかし、次の言葉で声色が変わった。

 

「――だけどな、てめえは一体いつから俺に意見できるほど偉くなった?」

 

 一段低くなった声には殺気が宿っている。

 

「皆、下がっ――!?」

 

 それにいち早く気づいたラキュースが仲間たちに指示を出すよりも、ドラゴンのほうが圧倒的に早い。

 

特殊技術(スキル)発動〈破壊の赤雷〉」

 

 大きく掲げられた前足が振り下ろされる。その速度はアダマンタイト級として大きく名を馳せたラキュースたちの目にも捉えられないほどのものであり、ドラゴンの巨大さゆえに蒼の薔薇の面々だけでなく、彼女らが立っていた建物までも粉砕した。

 数秒後には建物は瓦礫の山へと姿を変え、蒼の薔薇はそれに飲み込まれていた。そこにドラゴンが追撃を放つ。いくつもの赤い球体が瓦礫の山の上を浮遊し等間隔に並ぶと、一斉に一際強く輝いて、それぞれの球体が雷を落とした。

 

 

 

 

 

「殺したの?」

 

 それを静観していた金色のドラゴンが声をかけると、主は首を横に振った。

 

「それなりにダメージは入っただろうが、死んじゃいねえはずだ。インベルンはあの程度じゃ致命傷にはならんし、仲間のほうもアダマンタイト級って言ってたからな。武技なり、特殊技術なり、魔法でなんとか生き延びてるだろ」

 

 生きていたとしても重傷を負っている可能性は高い。調子に乗った小娘に対する仕置きにはちょうどいい、グランはそう言う。

 レイアはいっそのこと殺してしまっても構わないと思ったが、主がそう言うのならばと身を引く。どうせ、生きていたところで主に危害を加えることなどできないのだから、殺すことに拘る意味もない。

 

「〈転移門(ゲート)〉」

 

 半球状の闇に二体のドラゴンは身を沈めた。残ったものは瓦礫の山と心の内の絶望だけである。

 

 

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