龍神と死の支配者   作:雑魚王

5 / 6
遅れて申し訳ないです。私生活のほうでいろいろあったんです……。


五話 それぞれの暗躍2

 王都で宣戦布告、というよりは蹂躙の宣言をしたグランとレイア。二人は拠点である幻想郷アヴァロンに作られたシュレイド城へと戻ってきており、今は招集した主要メンバーが到着するのを会議室で待っている。

 一室は広く中央に大きな円卓が設置され、部屋の隅には棚や備品が置かれただけの会議室だが、席に着いているのが美女ばかりだと部屋全体が明るくなったような気さえしてくる。

 部屋の一番奥の席――上座だと思われる席――に着いたグラン、その両側にはグランに次ぐ地位を持つ守護者統括の二人ルーツとバルカンが座っている。

 グランの左側に座るバルカンはショートカットの紅蓮の髪が特徴的な女だ。肌が若干、褐色よりなこともあり、その髪色がより強調されている。来ているドレスは黒と紅を用いたもので、スカートは裾にいくに従って膨れ上がっている仕様だ。腰部と肩部には小さな金属製の装飾が付いており、あらかじめ聞いておかなければ、それが鎧の一種だとは誰にもわからないだろう。

 右側に侍るルーツは偶に席を立って紅茶を淹れたり、手元で別件の資料整理を行っている。文字を追う視線は猛スピードで右から左へと行ったり来たりしており、彼女の速読が尋常ではないとわかる。いくつか訂正を赤ペンで入れながら、髪をかきあげる仕草には色気がある。

 

「ひゅーひゅー。王様がルーツに見蕩れてるぅ!」

 

 もちろん、すでに席に着いている者の中には俺と一緒に帰還したレイアもいる。ころころと笑いながらはやし立ててくるのはいつものことであり、その始末もいつも通りである。

 

「レイア、少し静かにしていろ」

 

 ゴン! と岩と岩をぶつけたような音が鳴る。レイアの隣に座る銀髪の女が、レイアの頭に拳骨を落とした。

 

「痛ったぁ!? ちょっとレウス、もう少し加減ってものをしたらどうなの? レベル100クラスじゃなかったら、痛いじゃ済まないんだからね!」

 

「私に殴られるのはレイアくらいなものだから問題ない」

 

「あたし的にはむしろ問題しかないんですけど!?」

 

 こうしてぎゃーぎゃーと姦しい口論を繰り広げているのは、アヴァロンの戦域の一つ『火山』の守護者を務めるレイア・ゴールドとレウス・シルバーである。普段から口喧嘩の絶えない二人だが、その実姉妹仲は非常に良く、先日もふたり揃ってグランの夜伽の相手を努めたくらいだ。

 女子高生のような軽いノリのレイアと忠臣をイメージして創られたレウスの口論はいつものことであり、しかしほっとけば勝手に収束するので他の面子は口出しせずにそれぞれが話に花を咲かせていた。

 

「ん~? キリンちゃん。キリンちゃんが来てるのに、どうしてジョーちゃんが遅れてるのぉ?」

 

 『森林』の戦域守護者の片割れ、ナズチが独特の口調で問う。

 ウェーブがかかった紫紺の髪が首を傾げる際に流れる。ついでのように豊満すぎる二つの果実が揺れて、いくつかの舌打ちが部屋の各箇所から聞こえるのは気のせいではあるまい。

 

「なんかアヴァロンの入口周辺をちょろちょろしてる人間がいたから殺しに行ってくるって。ま、ジョーなら手間取らずにすぐに来るでしょ」

 

 答えたのは十代後半程度の外見の少女だ。ショートボブの白髪とそれに負けないくらい白い肌を持っている彼女には、まさに雪のようなという表現が合う。キリンも戦域守護者であり『雪山』を担当する二人のうちの片割れである。装備は軽戦士のものだが、胸部と腰部に腕部と脚部しか覆わない、必要最小限の部分鎧だ。しかも金属と魔獣の素材を使ってある頑丈な部分は腕部と脚部だけであり、胸部と腰部はほぼ魔獣の皮だけという軽戦士にしても軽すぎる装備という感は否めない装いである。ちなみに角付きのヘッドバンドも装備の一種であり、彼女の特殊技術(スキル)を強化する役割を持つ。

 

「へぇ~、そうなんだぁ。ジョーちゃん、楽しんでるんだろうな~」

 

「根っからの戦闘好きだからね、彼女も。王国の殲滅戦にもきっと志願するだろうさ」

 

 新たに会話に参加したのはナズチの相棒であり、もう一人の『森林』の戦域守護者であるナルガ・ルナである。胸部はベルト状のパーツ二本が交差し、腹部は鎖帷子となっている。下半身――正確には腰周り――は帯の布と腿の装備で隠れてはいるもののビキニか下着のようなものだ。足首まで覆うズボンのようなものは大きな膨らみを持つが、腿と内股のあたりには布がなく素肌が丸見えの仕様となっていた。その上で猫耳を模したようなカチューシャを付けているのだから、むしろキリンの装備よりも色気があるかもしれない。

 

「ラオはいつもかわいいですねぇ。うっかり食べたくなっちゃいますよ」

 

「ふむ、褒め言葉として受け取ってはおくが……、我を食べていいのは主君のみだ。同士とはいえ、汝に体を許すことはできんよ」

 

 別のところで話しているのはそれぞれ『霊峰』と『渓谷』を一人で守るアマツとラオだ。アマツはいかにも天真爛漫な笑みを浮かべているが、その視線の先にいるラオはすげなく断る。

 アマツの装備は巫女服を模したものだが、彼女の気性を示すように露出度はかなり高かった。腹部と肩部は完全に素肌を晒されており、腰から膝の辺りまでは大きく膨らみ、本来の巫女服からかなりアレンジされている。

 対するラオの衣装は一言で説明するのなら、いわゆるチャイナドレスだ。新緑を基調として、ところどころに金色の刺繍を施された一品である。ただし、こちらも独自にアレンジが加えられており、チャイナドレスの特徴のスリットがかなり深い。太股が見えるどころか、腰のあたりまでスリットが入っているので下着まで見えてしまいかねない代物である。

 

 

 

 火炎と爆発を操る火山の戦域守護者レイアとレウス姉妹。高い暗殺者としてのスキルを駆使して侵入者を背後から殺していく密林の戦域守護者ナルガとナズチのコンビ。特殊技術(スキル)と魔力系魔法を駆使して縦横無尽に雷を降らせる雪山の戦域守護者キリン。本来の姿の巨大さと強大ささゆえに一人での戦域守護を任されるラオとアマツ。

 ここにキリンと共に雪山を守護するジョー・タイラント、ラオやアマツと同様に一人での戦域守護を命じられた、『海原』を統べるナバルと『砂海』を支配するジエンを加えてアヴァロンの主戦力である戦域守護者の全てとなる。

 平時はそれぞれのアレな一面が出たりもするが、彼女らの能力は凶悪にして強力だ。そんな守護者たちの主として、自身は相応しいのかと悩む時期もあったが、それはとうの昔のこと。今はただ、このかけがえのない配下たちと勝利を掴むのみだ。

 

 

 

 

 その後も雑談を楽しみ、会議の集合時間ギリギリのところでジョー、ナバル、ジエンの三名が室内に入ってきた。

 

「うーい。任務達成と会議出席の報告だぜ」

 

 ジョー・タイラント。笑みを浮かべているが、それは快活と呼ぶには獰猛すぎた。深い密林を思わせる陰りのある深緑色の長髪は不気味さを、暴走と暴力を象徴するような表情はジョーが戦闘狂だということを一目でわからせてくれる。

 胸にはサラシを巻いて乳房を固定し、その上から『喧嘩上等』とでかでかと書かれた白い長ランを羽織っている。金属製の棒状の武器を威嚇するように担ぐ様は、まさにスケバンの女番長である。

 

「グラン様との約定を破る王国の連中なんて許せないの」

 

 ジョーに次いで現れたのは白髪をツインテールにしてまとめた少女であり、『海原』の戦域守護者を務めるナバルだ。ひらひらと歩くたびに舞う装飾品を用いられた衣服は、一般にやはりどこか個性的――独特なものだった。インディアン、もしくは海遊民族の伝統衣装というのが第一印象である。

 

「……そういうこともある。……許せないのは同じだけど」

 

そして最後に姿を見せたのが、『砂海』の戦域守護者のジエン。髪は砂色をしているのだが、砂漠の民族のするような全身を覆い隠す増備のために全く見えない。わかるのは背丈くらいなものであり、目視できるのも顔だけなので、体格うんぬんについては服の上からではさっぱりわからない。声が小さく途切れ途切れの話し方は感情を読み取り難いが、この場にいるメンバーの全てが数百年来の付き合いだ。声にわずかに乗る、ジエンの濃厚な憤怒を誰もが感じ取っていた。

 

 三人がそれぞれの決められた位置に着席したことを確認してから、グランは全員に向けて言葉を投げかけた。

 

「予定時刻から会議を始められそうでなによりだ。……さて、早速始めるとするか。今回の議題はそれぞれがすでに耳にしている通り、協定を破った王国についてだ。ま、基本的な方針は蹂躙と決まっているわけだが……、それについて何か異議のあるやつはいるか?」

 

 返されたのは沈黙。ジエンは声に憤怒を乗せていたが、この場にいる他の守護者たちも内心怒りを感じているのだ。敬愛する王への反逆とも言える行為を取った王国(愚者)を生かしておく道理がない。

 仮に、王国に生かすだけの価値があったとすれば、正面から軍隊を粉砕した後に完全なる支配下に置くことも極小さな可能性ではあるがあり得たかもしれない。しかし現実では王国の貴族は腐敗しきり、王はそれを裁くこともできない。貴族たちの権力争いと犯罪組織の跋扈により国力は衰退の一途を辿っている。端的に言って、生かすだけの価値が感じられない。支配下に置いたとしてもここまで疲弊しきった国を立て直すのは並大抵の労力ではないはずだ。平穏を愛するグランがわざわざそれを妨げる面倒ごとを引き受けることなどありえない。これらが王国を『助けない』理由である。

 

「異議は無いようだな。じゃあ、王国側の戦力の確認に移る。連中の最高戦力は王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ。こいつは近隣諸国最強の戦士と言われてるが……見たところ、人間だった頃のレギンレイヴより二回り以上弱いから警戒する必要もない」

 

 グランは、かつては人間の戦士だった配下の名を挙げる。今でこそ異形種だが、彼女の人間だった頃のことも、この場にいる面々は知っているために、それぞれが軽く頷いている。

 

「今の時代は昔ほど戦いが多いわけじゃないみたいでな、全体的に戦闘者の実力が低い傾向にある。……まあ、あの時代の戦士や魔法詠唱者もお前らの敵じゃなかったんだが」

 

 ガゼフのレベルは推定で三十台前半だが、かつて戦乱の絶えない時代の戦士の中にはレベル五十の大台を超える猛者もいた。その中の一人が後にグランの配下となるレギンレイヴなのだが、その猛者たちでさえ守護者たちには傷一つ付けることもできずに敗走しているのだ。ガゼフ程度がグランとその配下たちに太刀打ちできるはずがない。ガゼフ程度を最強とする王国に負けるはずがない。グランと守護者たちの認識は、他者から見れば傲慢そのものだろう。しかし、それが事実であり、真実なのだ。

 

「他にはボウロロープ侯の精強な軍隊やレエブン侯の抱える元高位冒険者たちと軍師とかがいるが、これも大したことない。精強ってのは連中の基準であって俺らの基準じゃ弱卒だし、軍師がいくら優れていようと兵士に圧倒的な力の差があればどうしようもないんだからな」

 

 指揮者が同等の能力を持っていたとしても肝心の楽団がプロと幼稚園児ほどの差があってはどうすることもできないだろう。王国の軍など、所詮はここにいる面子が完全異形形態となって歩き回るだけで文字通りに踏み潰せる。

 

「――要するに王国軍は雑魚ってわけだ。連中を潰すのに相性だとかを考える必要はない」

 

 ――()りたいやつは名乗り出ろ。

 

 守護者たちは一様に顔を喜色に染め上げた。久々に大々的に暴れることができるという高揚感、そして重罪人に裁きの鉄槌を下すという使命感に燃え上がる。

 しかし、それは同時に一つの問題の発生を意味する。当たり前のことだが、この場にいる守護者たちは幻想郷アヴァロンを代表すると言っても過言ではない幹部たちだ。そんな彼女らが揃って拠点を留守にできるわけがない。拠点防衛のためにも、手札を残しておくという意味でも、それなりの人数がアヴァロンで留守を預かることとなる。

 それに気づいた守護者たちが互いに睨みを利かせ始めた。

 

「やっぱ、破壊と言やァ、オレの仕事だろ」

 

「ジョーちゃんは~、さっきまで外で遊んでたでしょぉ? それはちょぉっとずるいんじゃなぁい?」

 

破壊の暴竜の主張を霞に紛れる古の龍が潰す。おっとりとした口調は変わらないが、その目は一歩たりとも譲らないと語っている。

 

「ここは僕がいくべきだろう。姿を見せることなく次々と敵の首を飛ばしていけば戦線を崩壊させることも容易いはずだからね」

 

 不可視の迅竜はその特性もさることながら、敏捷性にも優れている。姿を見えないようにしつつ、その素早さと攻撃力で暴れ回るだけで戦線を崩壊させることができる。

 

「ナズチもそうだけど、暗殺者のナルガが戦場に出るのはどうかと思うわよ」

 

 しかし、それも数多の雷を降らす龍には通用しない。暗殺者の本分として人前に姿を現せるわけないことを突いてライバルを蹴落とした。

 

「キリンの言う通りだ。ただ、視覚的な威圧ということも考えれば我が適任であろうがな」

 

 『山』とも呼ばれるほどに巨大な肉体を持つ龍が言えば、彼女に及ばないまでも肉体の巨大さには定評のある海原の支配者と破壊と豊穣の象徴たる龍が反論した。

 

「体の大きさなら私たちも負けてないの」

 

「……ラオばかり……ずるい」

 

「汝らはあの辺りでは上手く戦えまい。ナバルは水中戦、ジエンは砂漠での戦いに秀でているのだからな」

 

 収まる気配を見せない喧騒を前に、グランは腹心のバルカンへと視線を向けた。その意思を汲み取り、バルカンは柏手を幾度か鳴らして場を鎮める。

 

「それぞれ退けん思いはあるじゃろう。しかし、これではいつまで経っても決められん。ゆえに、ここはグラン様に決定していただくということで良いかの?」

 

 守護者一同が頷くことを確認したバルカンは、グランへ話を譲る。一様に強い決意を滲ませる彼女らの中から選ぶのは心苦しいが、それもまたリーダーの務めだ。選ばれなかった者には、何か別の場面・形での埋め合わせをすることで許してもらおう。

 

「じゃあ連れていくメンバーは――」

 

 グランの言葉に守護者は音一つ立てることなく耳を傾け、運命の瞬間を待ち望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日経った、ある日の夜。グランは執務室において日々の拠点意地の書類について目を通していた。A4ほどの紙の束だが、グランはわずか数秒目を通しただけで紙をめくっていく。100レベルの肉体を手に入れたことで筋力や反射神経、さらには感覚器官までもが人間だった頃に比べて飛躍的に向上していることに起因する。

 グランは種族レベルと職業レベルを4:6ほどの割合でとっているが、職業レベルは前衛と魔法職を半々ほどに取っている。ソロプレイヤ―として活動するために最高の割合で作られたビルド構成であり、前衛と後衛のどちらであろうともこなすことができる。

 そんなグランの行う近接戦闘は派手の一言に尽きる。踏み込みで地面に罅を入れ、拳で巨岩を砕く。そこにスキルと魔法を混ぜ込むのだから、もはや嵐と言っても過言ではない。

 しかし、人間離れした戦闘を可能にしたのは魔法と身体能力だけではない。高速軌道を把握できるだけの動体視力や、死角から迫る敵すら察知する鋭敏な聴覚があってこそのものである。

 つまり、グランは強靭な肉体を手に入れるのと同時に、優れた五感まで手に入れていたということだ。

 

 そして話は戻る。

 今、こうしてグランが流し読みをするかのようにして、ぱらぱらと紙の束をめくっているのは、その優れた視力を用いての超高速読なのだ。A4サイズの紙一枚にかける時間は僅か二秒~三秒、その間にグランはその全てに目を通し尚且つ頭の中に叩き込む。資料に目を通しながらも、以前までの情報・記録と照らし合わせることを可能とするのは、数百年にわたってこの地を治めてきた経験によるものだ。

 

「……これで終わりだな」

 

 最後の一枚にまで目を通し、問題がないと判断するまでに要した時間は一時間にも満たない。異世界に来てから百年ほど経つ頃から徐々にペースの伸びが緩み、今では全く変わらなくなってしまっている。ちなみに、タイムアタックと称して速読の鍛錬を積むという馬鹿なことをしていた時期もあったのは、グランのちょっとした黒歴史と言えるだろう。

 

「何かあったのでございますか?」

 

 グランの傍に侍るのは100レベルNPCガブリエル、とある事情によりアヴァロンの中で最も羨ましがられているNPCだ。一日の業務を終えたというのに、浮かない表情の主を心配していた。

 

「まあ、そうだな。少しラナー第三王女ことが気になってな」

 

 ギィ、と音を立ててグランは深く椅子に背中を預ける。視線は天井を向いているが、実際にはそこを見てはいない。『黄金』と呼ばれる王女と、かつて配下に加わるはずだった少女、その二人を見ていた。

 

「なあ、ガブリエル。お前はラナーが彼女だと思うか?」

 

 一瞬考える素振りを見せたものの、それはきっと確認していたに過ぎない。彼女の中では元から答えは出ていたのだ。

 

(わたくし)は違うと思います。黄金と称される美貌と叡智は彼女と相違ないように思えますが……、政策のいくつかを潰されるなど彼女ならばあり得ない、行動の杜撰さが随所に見受けられますので。それに、もし彼女だとするならグラン様に自ら接触してくるはずです」

 

 グランとガブリエル、両名の脳裏に浮かぶ一人の少女。その性格の悪さとずば抜けた頭脳が原因で婿がいないと、父親に嘆かせたほどの彼女ならば、政策を潰されることなどあり得ない。むしろ、自身の邪魔をしようと思った貴族を事故死させるか、派閥を内部崩壊させるか、その程度のことは容易くやってのけるだろう。

 

「だが、あの時使った魔法は実験を全くしていなかったものだからな。何かしらの異常があったってことも考えられる。……どちらにしても確かめてみるしかないな。ガブリエル、ナズチを呼んで来い。三人で確かめに行くぞ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りの一日だった。ラナーは心の中でそう断じる。正確にはここ最近の通りの一日であり――それ以前の日々とは僅かに違っているのだが――それに気づくことができる者はラナーの周りにはいなかった。故に、どちらでもいいことだ。

 

 全裸で這いつくばり首輪を付けられた少年と、その首輪から伸びる鎖を掴む、同じく全裸のラナーの絵画。以前は、一人になった時に軽い絶頂を味わうくらいには愉しめたのだが、今ではそんなことをする気は全く起こらない。絵画を眺める時間は徐々に減っていき、反比例するようにグランについて考える時間が増えてきていた。そして今では前者の時間は完全に消え、一人になれば後者に全ての時間を費やしている。それがラナーの現状だ。

 

「ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ第三王女だな」

 

 突然、背後からかけられた声に反応して振り返る。そこにいたのは傍付きの騎士から又聞きした情報と相違ない容姿の、そしてラナーが考え続けていた黒髪金眼の男と銀色の髪をボブカットにして整えた美しいメイドの二人組だった。

 

「……グラン・ドラグニル」

 

 僅かに眉を動かしたメイドをグランは手で制す。視線が射抜くように全身へと向けられ、微かに身が強張る。貴族の馬鹿どもが向けてくる肉欲に滾ったものとはまるで違う、心の奥底まで見定めるような強い眼光だった。

 

「変な質問をするようだがな……。俺に見覚えはないか?」

 

 ラナーは首を横に振った。身の強張りがまだ取れていないために、その動作は極小さなものでしかなかったが、それを見届けたグランはどこか腑に落ちない様な顔をした。

 

「飛び抜けた頭脳。それに見れば見るほどにあいつに似た容姿。これがただの偶然か?」

 

 ぶつぶつと呟かれる言葉の意味がラナーにはわからない。記憶もない頃にグランと会っていたという推測をしていたが、グランの言う『あいつ』には全く心当たりがない。

 

 だが、ラナーは確信する。グランと自身には何らかのつながりがあるのだと。それには『あいつ』と呼ばれる人物も関わっているのだと。明確な答えがあるのに、大事なピースが欠けているがために、グランとラナーが答えに辿りつけていないのだと。

 

 そうでなければ、この胸の高鳴りは何だと言うのだろうか。今にも駆けだしてあの懐に飛び込み、逞しい腕で抱きしめられたい。燃え上がるような熱い渇望に説明がつかない。

 

「だが、『あいつ』が俺を呼び捨てにするとも思えんし……。結局、わからねえな。ガブリエル、予定通りにあの魔法を使え」

 

 グランの斜め後方に待機していた銀髪のメイドが歩み出る。掲げられた手がラナーの目の前で止まり、艶やかな唇が動く。

 

「――〈輪廻回帰(リターン・オブ・サーキュラー)〉」

 

 ガブリエルと呼ばれたメイドの指先から、温かな緑色の光が放たれる。それに当たり、包み込まれた瞬間、ラナーの脳裏にはいくつもの情景が浮かんだ。

 

 建国へと導いた偉大なる先駆者にして、一流の戦士でもある父の背中。国一番の美貌と讃えられ、いつも見守ってくれていた母の顔。父を支え、そしていつかは父の跡を継ぐことができるだけの人物となるために、日々の研鑽を怠ることのない兄たちの姿。ちょこちょこと背中を追いかけてきて、いつも何かを教えてほしいとせがむ可愛い妹。

 

 畏敬の念を抱いて接してくる数多の貴族と、婿候補に選ばれたものの、格の違いから気後れする彼らの息子たち。いつだって感謝の言葉と笑顔を向けてくれる町の人々。

 

『俺のところに来い』

 

 そして自身へと手を差し伸べる、グラン・ドラグニル。

 

 

 

 

 それはラナーが歩んだもう一つの人生だった。ラナーとなる前の『彼女』の人生だ。愛情に溢れる家庭に生まれ、そして死に行くまでの一生をラナーは思い出した。

 

「ああっ! グラン様、グラン様。(わたくし)たちの愛するグラン様」

 

 自然と瞳から涙が零れた。愛する男とあり得ないはずの再会を果たしたからだ。記憶を失い、グランのことを忘れてしまったのに、こうして迎えに来てくれたからだ。昔と変わらず、手を差し伸べてくれるからだ。

 

――誰かを愛するのにたいそうな理由はいらない。

 

 まさにその言葉のとおりである。ただ己を認めてくれたから。それだけで誰かを愛してもいいではないか。変わらずに迎えに来てくれただけで、また愛を誓ってもいいではないか(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「本来ならば私のほうから御身の前へと参上するべきでした。しかしながら、かつての記憶を失っていたためにできなかったのです。許しを請うつもりはありません。どのような罰でも甘んじて受け入れましょう。……ですが、どうかもう一度! あなたの配下に加えていただきたいのです!!」

 

 ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。彼女の人生はこの日を再開に大きく変容する。あるいは、それが運命だったのかもしれないが、それこそ神のみぞ知ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラナーとガブリエル、そしてグランの三名によるラナーの記憶喪失に関する考察が終わり、グラン達は拠点へと転移していく。いっそのこと、このままラナーを連れて行っ(拉致し)ても構わないのだが、別にそうしなければならない理由があるわけでもない。王国を滅ぼした後に、悠々と連れ去ればいいだろう。

 その決定にガブリエルは元より、ラナーも賛同した。戦争を間近に控えるこの場面で、第三王女が姿を消すというのは大きな騒ぎを起こすというデメリットがあるためだ。民衆が騒ぐだけならばいいが、愚かすぎる貴族の動きが読めなくなってしまう。元から天才であるラナーたちには理解できない行動を取る貴族たちだが、ラナーが消えることでさらに妙なことをしかねない。何をしたところでグラン率いるアヴァロンの勢力に僅かたりとも打撃を加えることはできないだろうが、グランの気を損ねる馬鹿な真似をする可能性は拭いきれないのだ。

 グランを愛する女としても、忠誠を捧げる配下としても、ラナーにその可能性を見過ごせるはずがなく、グランの傍にすぐにでも駆け付けたい思いを押さえつけて、ラナーは王宮に残ることを選択した。そして王国を滅ぼす(主の望みを叶える)ために内部から動くことを決意する。

 

 

 

 

 

「ラキュース、災難だったわね。怪我はもういいの?」

 

 対面に座っているのはアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のリーダーを務める女傑である。ラキュースは最高位冒険者という肩書だけでなく、生粋の貴族の家系に生まれたので、こうして王族のラナーとも関係を持ち得るのだ。

 

「ええ、何とかね。ガガーランたちも無事に完治したわ」

 

 王国で唯一蘇生魔法を使えるという高位の信仰系魔法詠唱者でもあるラキュースならば、重傷程度容易く治せても不思議ではない。こっぴどくやられたのにこうして歩き回れるのは精神的強さのなせる業だろうが。

 

「それで? ここに来たのにはもちろん理由があるんでしょ? 国の存亡をかけたときにあなたが無為に時間を使うわけないもの」

 

 王国なぞ滅びてしまえばいい。そんな内心を一切晒すことなく、ラナーはいけしゃーしゃーと言った。

 

「さすがね。ここに来た目的は二つあるの。一つ目は私があなたに頼みたいことがあったから。二つ目はイビルアイがあなたと話したいと言ったからよ」

 

 そこで視線をラキュースから少しだけずらした。ラキュースの背後には蒼の薔薇のフルメンバー、ティナ、ティア、ガガーラン、そして件のイビルアイがいる。

 ラナーもとより、拾い集めた情報からイビルアイの正体が『国堕とし』と呼ばれた吸血鬼であることを知っていたし、記憶を取り戻したことによって、それが間違いのないことであることもわかっている。

 

「一つ目の頼みは……、王国を存続させるための方法を考えてほしい。それで合ってるかしら、ラキュース?」

 

「ええ」

 

 この局面で愛国心の強いラキュースがラナーにする頼みなどそれ以外にはありえない。それに、仮に国がどうなろうと興味がなく自分が生き残りたいだけなら、アダマンタイト級冒険者の肩書を使って帝国か竜王国辺りに亡命すればいいだけだ。わざわざラナーに相談に来る必要はまるでない。

 

「イビルアイさんが私に会いたがったわけは……本人から教えてもらっても?」

 

「ああ。それが筋というものだろうしな」

 

ラナーから見て右斜め前方。円卓の空いていた席にイビルアイが着いた。仮面で顔が隠されているが、きっと希望や疑問、幾多の感情が綯い交ぜになっていることだろう。それを見ることができないのが少し残念だ。

 

「アリシア・クォーリオ・ゲイズ・ライル・ヴァイセルフ。この名に聞き覚えはないか?」

 

 ラキュースは首を傾げた。イビルアイが珍しくラナーに訊きたいことがあると言って王宮まできたのに、突然出された名が全く聞き覚えのないものだからだ。しかもそれが性からして王族のものだとわかり、困惑は尚深まるばかりだ。

 対してラナーは微塵も動揺せず、むしろ納得の色を内心で色濃くしていた。つい先日まで記憶を失ってはいたが、容姿と頭脳はほとんど変わっていないのだから、当時を知る者ならばラナーからアリシアを連想するのも無理はない。実際、アリシアがラナーとなったのだから大きな関わりを持っていると言える。が、それを馬鹿正直に話すはずがない。

 

「ええ、知っていますよ。初代国王であらせられるアドルフ陛下のご息女の一人、ですね。王家の血筋を証明する家系図にも名前は載っていますよ」

 

 数年前に一度見ただけだが、ラナーからしてみればそれで十分。イビルアイが裏を取るために家系図を見たところで、ラナーの言葉を証明することになるだけだ。アリシアと瓜二つのラナー。イビルアイはそこに疑問と希望を見出しているのだろうが、それを示す葉子はラナーの記憶以外には何もないのだ。しらばっくれてしまえば、いかにアダマンタイト級冒険者といえど追及のしようがない。

 

「それだけか?」

 

 祭儀の色濃いイビルアイに微笑みを返す。アリシアの記憶を取り戻したが、それはラナーが死んだというわけではない。ラナーとして生きた十八年の記憶も抱いた感情も確かに残っている。ラナーはアリシアの記憶を引き継いだだけであり、アリシアの意識にラナーの意識が押しつぶされたわけではないのだ。人としての心が壊れ、それでもなお人に化け続けた演技力は微塵も失われていない。

 

「はい。それだけですよ?」

 

 ラナーには武力と呼べるものが全くない。それでもグランの配下に入ることを許されたのは類稀な頭脳を持っていたからだ。あの偉大なる王に認めていただいた頭脳ならば、この程度の心理戦に勝てないわけにはいかない。二百年以上の月日を生きる吸血鬼さえ騙してみせる。

 

 イビルアイは、事情を前もって仲間たちに説明してはこなかったのだろう。ラキュースたち蒼の薔薇の面々は困惑気にしている。表情の乏しい暗殺姉妹ですら、小首を傾げているのだから間違いない。

 

 仮面越しにイビルアイと交わる視線。それを手元のティーカップに一度落として、そのまま一瞬だけラキュースへと向けた。言葉はいらない。イビルアイの出す尋常ではない空気と、室内を支配する静寂が自然とラキュースの口を動かすのを待つ。

 

 

 

「ねえ、イビルアイ。そのアリシアって人のこと教えてもらえないかしら? 王族だろうってことくらいはわかるけど、それ以上は全然だし、わざわざラナーに訊いた意味についても教えてちょうだいね」

 

 鈴の音のような声が聞こえてきたことで、ラナーは勝利を確信した。ここまで来てしまえば、自分に都合の良い着地点まで導くことは容易い。

 内心では笑みを浮かべるが、外面は紅茶の香りを楽しむお姫様だ。最後の最後でボロを出して失敗したら目も当てられないため、勝利を確信しながらも一切気を緩めたりしない。

 

「アリシアとはさきほどラナー王女が言ったように、王国の建国者アドルフの娘の一人だ。ラナー同様にその美貌と叡智から国民の羨望の的になっていたな。彼女の頭脳はかの龍神の目にも留まり、配下として召し抱えられることになった……噂では配下としてだけでなく、花嫁としても迎え入れられるはずだったとの話もあったが真相はわからん。しかし、龍神の元へと向かう直前に彼女は殺されてしまったんだ。犯人は当時の国王アドルフと龍神の手によって捕らえられ処刑されたが、死人は蘇らん。アリシアはそれまでの活躍が嘘だったかのように呆気なくこの世を去ってしまった」

 

 まるで当時を知っていたかの物言いのイビルアイだが、実際に吸血鬼として生きてきた年月を考えると当事者の一人なのだろう。グランとは僅かに交流があったようだが、王族のアリシアとはツテがないために関係を持っていなかったはずだ。だから、取り戻した記憶の中にもイビルアイは登場してこない。

 しかし、そんな語り口では自分が当事者だと語ってしまっているのと同じことだ。イビルアイ――というよりも蒼の薔薇は彼女の正体を隠したがっているのだから、気づかない振りをするべきか。グランの宣戦布告等によっての精神的動揺が引き起こしたミスだが、当人がそれに気づいていないのだから、やはり突っつくべきではない。彼女らが短絡的な行動に出るとは思わないが、わざわざもめ事に発展させる必要もないのだ。むしろ、後で弱みとして使うために、ここでは取っておくべきである。

 

「そのアリシアとラナーが瓜二つなんだ。美貌に頭脳、これがただの偶然だとは思えなくてな……」

 

 イビルアイの話を聞き終わった蒼の薔薇の面々が向けてくる視線に、困ったような笑顔を返す。

 

「そのようなことを言われましても、私には覚えがありませんし……。それにこの世には似た顔を持つ人が三人いると言います。頭脳がその三人のうちの一人に宿ったとすれば、あり得ない話でもないですよね」

 

「……うむ、そうだが。それは確率が低すぎないか」

 

「しかし、偶然以外では説明のしようがありませんもの」

 

 紅茶を口に運んで、くすりと微笑む。不思議なこともあるのですね、という表側の意味と都合の良い結末に愉悦を感じる二重の笑みだ。

 

「まあ、でも……、イビルアイさんの思惑はわかりました。龍神様と深い関わりのあったアリシア王女。彼女と私になにかしらの繋がりがあれば、それを利用して交渉なさるおつもりだったんですね」

 

「その通りだ。かの神は敵には一切の容赦がないが、身内には甘い節があるからな」

 

 王国ではすでに失われてしまったが、グラン・ドラグニルの逸話の中には配下が傷つけられたことにより、森を焼き尽くし山すら吹き飛ばしたというものもあるくらいだ。いつの頃からか腐敗してしまった王国の貴族たちは龍神の存在を信じなくなり伝承も消えてしまったが、それは事実に他ならない。人間では決して到達し得ない高みにいる存在だからこそ、グラン・ドラグニルは神と称されているのだ。

 初めて彼の話を聞いたラキュースたちは驚きのあまり口が開いて塞がらない。敬愛するグランの凄さはそれだけに留まらないが、少しでも伝わったことにラナーは小さくない喜びを感じていた。

 

「とはいえ、私はただのそっくりさんですから……、その策は上手くいきませんね。それ以外の方法で王国を存続させる方法を考えないといけませんね」

 

 グランが滅ぼすと言った以上、ラナーに王国を助けるつもりは全くないのだが、これまで演じてきた『純真無垢なお姫様』のイメージに反しないように言葉を選ぶ。

ちなみにありえない仮定の話ではあるが、もしラナーがグランに王国を滅ぼさないでほしいと懇願すれば彼はそれを飲んでくれるだろう。今の支配体制では貴族間の対立など大きな問題が数多くあるため、大々的な革新が各所にて行われるだろうが、それだけだ。他国にまで名を轟かす王国の腐敗は完全に消え去り、王とその側近たちによる完璧な統治が敷かれる可能性すらある。

 だが、ラナーは王国の存続など望んでいない。グランが滅ぼすといったからではなく、元からラナーにとって王国は生かすだけの価値が無いからだ。

 アリシアだった頃、彼女には誰にも負けないと自負するだけの愛国心があった。その頭脳を認める父から多くの権力を与えられ、様々な政策を推し進めて国の発展に尽力できたのもそのためだ。

 

しかし、今やその王国はない。

 

アリシアが生きた王国は貴族が皆、王に付き従い、民のために腕を振るっていた。

断じて己が権力のために国益を損なったり、欲望を満たすために村娘を攫ったり、私腹を肥やすために民衆が飢えるほどの多額の税を課すことはなかった。

 

 人望が溢れる王は能力も優れていた。現代で言えば、戦闘力は近隣諸国最強と言われるガゼフ・ストロノーフ級であり、頭脳は六大貴族最大の勢力を誇るレエブン侯並だった。 

 威厳を欠片ほども感じさせない、やせ細った枯れ木のような男が王ではなかった。

 

国の未来を担う二人の王子は才気に溢れていたが、努力を怠ることはなかった。兄が王位を継ぐのならば、弟は兄を貴族の一人として兄を支える。国を思うがゆえに自然と、そうした判断のできる王子たちがいた。

国が衰退の一途を辿る最中においても、愚物の第一王子とそこそこに優秀な第二皇子が王位をめぐって権力押送を繰り広げることなど決してあり得なかった。

 

 リ・エスティーゼ王国。

 アリシアの愛した国と名前こそ同じだが、その実態はまるで違う。アリシアの知る王国はすでにどこかへと消えてしまっていた。

 現在もある王国は、アリシアの知る王国を元にして創られたアンデッドのようなものだ。やせ細るあまり骨が露出し、肉からは腐敗臭が絶えることが無い。そのような醜悪な存在が名を語るのならば、いっそのこと滅んでしまえばいい。偉大な先人たちと栄華を轟かせたかつての王国の名をこれ以上辱めないためにも、早々に現在の王国を潰すことに躊躇はいらない。

 誰よりも国を愛したアリシアの記憶と感情を引き継いでいても、いや、引き継いでいるからこその想いだ。

 

 

 そして、アリシアのことを抜きにしたラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフとしても、やはり王国は滅んで良いと思っている。

 なぜなら王国はラナーに希望も幸福も与えてくれなかったからだ。幼少期、周りに自信を理解してくれる者が誰一人としていないストレスから起きた体調不良。王宮に入った貴族の男とすれ違うたびに向けられる薄汚い視線。己の権力維持のための政略結婚の前段階として男の欲望を刺激するドレスを着せる国王。恨みつらみは上げればキリがない。そんな国を助けたいと思えないというのも当然の帰結だろう。むしろ、これまでの屈辱の数々をこの機に返済してやりたいくらいだ。

 

 

 

「私も王族の一員ですから、どうにか王国を滅亡から救いたいです」

 

 ラキュースもイビルアイもガガーランもティアもティナも、ラナーの物憂げな表情の下にあるものには気づけない。

 

暗い愉悦を感じた微笑みに気づけない。

 

 それが幸福か不幸は人によって変わるのかもしれない。だとしても、王国の未来が変わることはあり得ないのだが。

 

 

 




 幻想郷アヴァロン

 数多のユグドラシルのダンジョンの中でも最大の広さを誇る超広域ダンジョンであり、現在はグラン・ドラグニルのプレイヤーホーム。課金やら何やらで幾度となく行われた拡張により、拠点として確保した当初の倍以上の敷地面積となっており、それは現在でもグランの保有するワールドアイテムの効果によって日々拡大し続けている。

 メイドに限らず、戦域守護者や領域守護者、執事に至るまで人間形態をとれるNPCの全てが女性タイプである理由はグランのロールプレイの一環である。グランのロールプレイは『龍の魔王』をコンセプトとしているので、ドラゴンの女好きや魔王的なイメージによるところが大きい。また、同様の理由により、他プレイヤーやギルド拠点を襲撃して宝物(アイテム)を日常的に簒奪していたため、個人としては破格の量のアイテム保有数を誇ってもいる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。